齊藤寛海/山辺規子/藤内哲也編『イタリア都市社会史入門― 12
世紀から 16
世紀まで―』
~昭和堂、 2008 年~
中近世イタリア史を専門とする 16 名の研究者による、イタリア都市社会史の入門書です。入門書ですので、注は付されていませんが、参考文献は充実しています。
本書の構成は次のとおりです。
―――
序章 歴史の中のイタリア都市社会(藤内哲也)
第I部 都市のかたちとしくみ
第 1 章 都市の成立環境(城戸照子)
第 2 章 都市の景観と環境(徳橋曜)
第 3 章 支配のかたち(髙田京比子)
第 4 章 商業の発展と商業技術(齊藤寛海)
第 5 章 海のかなたのイタリア(亀長洋子/高田良太)
第 II 部 都市のくらしと文化
第 6 章 大学の誕生と都市(山辺規子)
第 7 章 夫婦と親子(高橋友子)
第 8 章 生活文化(山辺規子/伊藤亜紀)
第 9 章 教会と聖人崇敬(三森のぞみ)
第 10 章 説教と民衆(大黒俊二/木村容子)
第 11 章 人びとのきずなと祭り(藤内哲也)
第 12 章 都市の文化と芸術(松本典昭/和栗珠里)
第 13 章 イタリアの宮廷社会(北田葉子)
終章 イタリアの歴史、日本におけるその研究(齊藤寛海)
参考文献
あとがき(山辺規子)
地図
人名索引/事項索引
年表
―――
序章、終章含めると全 15
章、内容も多岐にわたるため、印象的だった点のみメモしておきます。
序章では、第2節「イタリア都市社会をみる視角」の中で、アナール学派に代表される社会史研究の重要性、日本でイタリアを研究する意義として「異文化」をみる視角の重要性が指摘されます。本書の問題意識を示す重要な部分となっていると思います。
第2章では塔に関する議論を興味深く読みました。有力家門は一族の防衛拠点でありまた誇りとして高い塔を建てようと躍起になりますが、商人層を中心とする勢力が対抗する時代になると、塔の高さが規制され、上部がそぎ落とされた塔が住居などに転用される事例もありました。一方、市庁舎の塔や鐘は都市のランドマークとなり、コムーネの一体性の象徴となり得たことも指摘されます。第2章では都市景観についての議論もあり、ドイツの状況について論じた相澤隆「ドイツ中世都市における街並みの形成と建築条令」( 樺山紘一編『西洋中世像の革新』刀水書房、1995年
所収)を連想しながら読みました。
第6章は、法学研究で有名なボローニャ大学についての紹介をはじめとして、いくつかのイタリアの大学や大学制度についてふれます。ここでは、ナポリ大学が初の国立官僚養成大学としてされ、教師主体のパリ大学型、学生主体のボローニャ大学型とも異なる第三の君主設立の大学として位置づけられてきたという、大学の3類型が簡明に整理されている部分があらためて勉強になりました。
家族について論じる第7章では、中下層・農家の子供たちが奉公に出され、本来は契約期間の終わりに礼金を得るはずが、親方がさまざまな口実のもとに礼金を支払わなかったこともあったことなど、「このような階層の子どもたちは、幼い頃から働いていて、今日の子どもに対して当然とされるような心身の保護や配慮は、受けていなかった」 (146
頁 )こと
を指摘します。
第9章では、ローマ時代の名残で、司教区が古代のキヴィタス(都市)の範囲を受け継いだため、イタリアの司教区はアルプス以北の司教区と比べるとはるかに規模が小さく数が多いことが指摘されます。具体的には、 15 世紀末のイタリアには約 270 の司教区があった一方、同時代のフランスでは 130 程度だったそうです。「相対的に面積の広いアルプス以北の司教区には複数の都市が包含され、結果として司教座のない都市も多かったのに対し、イタリアでは、都市とは司教座の所在地を意味」し、新興の居住地はどれだけ規模が大きくなっても「司教座がなければ、都市とはみなされなかった」 (169 頁 ) といいます。
中世イタリア説教の研究を進めている2名の研究者による第 10
章では、深刻なテーマであればこそ、恐れだけでなく笑いが聞き手の注意力を喚起するため有効だと認識した説教師が、効果的に笑いを用いていたこと、説教師たちは党派争いの罪を説くときも現実の具体的な党派の名称には言及しなかったことなど、興味深い事例が紹介されます。醵金(きょきん。金銭を集めて飲食すること。単に金銭をつのること)という言葉をはじめて知りました。
幅広いテーマについて、最新の研究をふまえた概要を示してくれているだけでなく、冒頭記載のとおり欧語文献も含めた参考文献目録も充実しており、有意義な入門書だと思います。
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