杉崎泰一郎『沈黙すればするほど人は豊かになる―ラ・グランド・シャルトルーズ修道院の奇跡―』
~幻冬舎新書、 2016 年~
著者の杉崎先生は中央大学文学部教授で、修道院の歴史を専門にされています。
先生の著作として、手元には次の文献があります。
・杉崎泰一郎『 12
世紀の修道院と社会』原書房、 1999
年
杉崎泰一郎『欧州百鬼夜行抄 「幻想」と「理性」のはざまの中世ヨーロッパ』原書房、 2002
年
・ 杉崎泰一郎『修道院の歴史―聖アントニオスからイエズス会まで―』創元社、 2015
年
本書は、 900 年前の創立時とほぼ変わらずに厳しい修行を行っているラ・グランド・シャルトルーズ修道院が、はじめて撮影を許可して実現した、フィリップ・グレーニング監督の『大いなる沈黙へ』という映画をふまえながら、その修道院の創設時の背景や現在までの生活を、平易な語り口で描きます。
本書の構成は次のとおりです。
―――
はじめに
第一章 修道院とはどのようなところか
第二章 ヨーロッパの修道院の歴史
第三章 ラ・グランド・シャルトルーズ修道院のあゆみ
第四章 孤独と沈黙の生活
第五章 共同生活と修道院の管理運営
主要参考文献
―――
第一章と第二章は、そもそも修道院とはどういうところか、どういう歴史をもっているのかの概説です。第一章では、日本にある有名なトラピスト修道院や、修道院を舞台にした有名な映画や小説が紹介され、イメージがわきやすくなるよう(また関心を深められるよう)配慮されています。
第二章は、3世紀後半にはじまる初期の修道生活から現在までの修道院をめぐる歴史を簡潔に描きます。
第三章から、本題になります。まず第三章は、創立者ケルンのブルノの略歴から、現在までのラ・グランド・シャルトルーズ修道院の歴史を描きます。
第四章は、修道士個人の生活に焦点をあて、第五章は集団生活の面に焦点をあてます。
修道士たちは、個室で祈りや労働を行いながら生活します。たまにミサなどで集まることもありますが、沈黙が原則とされます。なお、毎年 40 ~ 50 人が修道院に入る応募をするそうですが、実際に受け入れられるのは 10 人ほど、しかも2年たって仮誓願を行い、さらに5年たって正式な誓願を行うことで、一人前の修道士として迎えられるということで、受け入れられるのは非常に厳しいそうです。孤独での生活に耐えられず、最速 10 分で逃げ出した方もいるとか。( 106-109 頁参照。)
一方で、たまに集団で山に散歩したりする際には、談笑することもあるようで、雪山ですべって遊んでは笑いあっているシーンも映画にはあります。
私は、 2019 年1月 11 日に岡山大学で開催された公開講演会「ラ・グランド・シャルトルーズ修道院を訪ねて~静寂と祈りの生活に現代へのメッセージを探る~」に参加し、杉崎先生の講演を拝聴する機会がありました。その際、映画『大いなる沈黙へ』の主要な場面も見ることができましたが、叙述の雪山のシーンは印象的でした。
この映画は日本でもDVDになっていますので、またいつか挑戦できればと思っています。
とまれ、本書は新書ということもあり、たいへん平易な語り口で、ラ・グランド・シャルトルーズ修道院の歴史と生活を描いている良書です。
( 2019.11.14 読了)
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