八木健治『羊皮紙のすべて』
~青土社、 2021
年~
著者は羊皮紙工房を経営し、羊皮紙の販売やワークショップなどを手掛けていらっしゃいます。西洋中世学会でも何度か羊皮紙の展示をなさっていますし、 2014
年に開催された西洋中世学会第6回大会でのシンポジウム「西洋中世写本の裏と表―写本のマテリアリティと西洋中世研究―」でのご発表「羊皮紙から見る中世写本」も非常に興味深く拝聴したのを覚えています。
本書は、我が国の羊皮紙研究の第一人者であり世界でも活躍なさっている著者による、羊皮紙の様々な性質、歴史、作成方法、利用法などを論じた一冊です。
本書の構成は次のとおりです。
―――
はじめに
基礎編
1 羊皮紙とは
2 羊皮紙の歴史
3 羊皮紙の作り方
4 羊皮紙職人
5 羊皮紙の特徴
6 写本の作り方
7 文学・ポップカルチャーなどにおける羊皮紙
8 魔術(護符)
実践編
9 羊皮紙を使ってみよう
10
書く・消す・接着する
11
絵を描く
12
印刷する
13
その他の工芸(装丁、染色、立体)
14
修復する
15
羊皮紙の化学分析
16
おわりに―羊皮紙の魅力
引用・参考文献、画像出典
あとがき
索引
―――
口絵 16
頁+本体 507
頁という大著ですが、語り口は平易で、ユーモアもあり、また著者の実践例など具体的なエピソードも多く、とても読みやすいです。(第9章以下の実践編には、かなり専門的な内容もあり、やや難しい部分もありましたが。)
上の構成のとおり、内容は多岐にわたり、1章ずつ紹介するのは困難なので、面白かったり印象に残ったりした部分のみメモしておきます。
第1章では、紙と羊皮紙の見分け方についての記述が面白かったです。羊皮紙風の紙も売られており、ぱっと見分かりにくいこともあるそうですが、決定的なのは値段。羊皮紙はA4一枚で三千円くらいするそうです。
第2章では、 13
世紀の「情報革命」ともいえる出来事が紹介されます。それまで、羊皮紙の厚さは大体 0.2
~ 0.3
ミリ(千円札2~3枚分の厚さ)だったのが、 0.04
ミリクラスの極薄羊皮紙が登場したとか。これにより、それまで数冊の分冊にしなければならなかった聖書も、1冊で作れるようになった、といいます( 68
頁)。
第3章では、中世の羊皮紙作りのレシピも紹介されます。中には、羊皮紙を削るのに、ガラスの粉を混ぜて焼いたパンを利用したという記録もあるそうで、著者も同様の方法を試したところ、親指に刺さって痛かったとか…。こういう実践例や面白エピソードが多く紹介されているのが本書の魅力です。
第4章は、世界にほとんどいない現代の羊皮紙職人(や企業)の紹介があり、興味深いです。
第7章では、ゲーム制作用に羊皮紙の発注があるという記述があり、なるほどと思った次第です。
第 10
章では、ひつじ、山羊、仔牛ごとに、様々な筆記用具での書き具合を比較した表も掲げられています。この事例だけでも、「実践編」という見出しをよく示していると思います。
…と、面白い記述が満載の一冊でした。
(2021.05.16 読了 )
・西洋史関連(邦語文献)一覧 へルイス・J・レッカイ(朝倉文市/函館トラ… 2024.09.21
ミシェル・ヴォヴェル『死の歴史』 2024.08.31
後藤里菜『沈黙の中世史―感情史から見るヨ… 2024.08.12
Keyword Search
Comments