櫻井康人『十字軍国家の研究―エルサレム王国の構造―』
~名古屋大学出版会、 2020
年~
わが国で十字軍研究を牽引する櫻井先生による重厚な研究です。多くの章は過去に発表された論文から構成されますが、全体的な統一がなされており、論文集という印象はありません。
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凡 例
全体地図
序
第I部 祈る人―教会人たち
第1章 教会形成と王権
第2章 国王戴冠と司教任命
第3章 国政面における王権と教会
第4章 13
世紀の聖地周辺域における托鉢修道会士の活動
第 II
部 戦う人―騎士修道会、およびフランク人に仕えた現地人たち
第5章 聖ヨハネ修道会の「軍事化」に見る国制構造の変化
第6章 騎士修道会と国王宮廷会議
第7章 騎士修道会の発展
第8章 フランク人に仕えた現地人たち
第 III
部 働く人(1)―ブルジョワと都市社会
第9章 前期エルサレム王国における都市統治構造―都市エルサレムのブルジョワを中心に
第 10
章 十字軍国家における都市統治構造
第 11
章 「医者」から見る都市社会の構造
第 12
章 ヨーロッパ商業都市と十字軍国家
第Ⅳ部 働く人(2)―フランク人と農村社会
第 13
章 「ナブルス逃亡事件」とその背景
第 14
章 十字軍国家における農村支配
第 15
章 フランク人による農村支配の変容とほころび
第 16
章 フランク人による農村支配の限界
結
あとがき
家系図・付表
注
参考文献
図表一覧
索 引
―――
本論が 16
章構成、全体で 700
頁程度もある大著ですので、ごく簡単にメモしておきます。
まず、「序」では、十字軍国家に関する主要な研究史が丁寧に整理されており、有用です。
また本書では、膨大な史料・研究文献をもとに作成された、いくつもの表が提示されます。関連する章の中に含まれる表もありますが、圧巻なのは 484-615
頁までの、 130
頁にも及ぶ付表です。本論を読む中で適宜参照する程度にしか現時点では見られていませんが、非常に貴重な成果と思われます。
特に第 II
部の議論の中で強調されているのは、先行研究で重視されてきた法書史料の意義を相対化し、証書史料を丹念に分析することで得られる知見の重要性です。
先行研究への批判という観点からいえば、本書はタイトルにもある「構造」についての研究ですが、一方で時間の流れにおける変化にも丁寧に目配りされていることが挙げられると思います。(先行研究は必ずしも変化の観点への目配りができているわけではない、というのですね。)
私の力不足もあり、各章について要約しコメントすることはできず、全体を通して感じたことのメモのみとなりましたが、貴重な知見も得られる一冊でした。
(2021.03.10 読了 )
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