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2021.08.12
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秋山聰『聖遺物崇敬の心性史―西洋中世の聖性と造形―』
~講談社選書メチエ、 2009 年~


 著者の秋山先生は東京大学人文社会系研究科教授。美術史を専攻とされており、主著に『デューラーと名声』(中央公論美術出版、 2001 年)などがあります(私は未見)。

 本書も西洋中世史の勉強をしていると、いろいろな文献に引かれており、有名な一冊。現在は講談社学術文庫にもなっているようです。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに
第1章 聖遺物の力
第2章 トランスラティオ(聖遺物奉遷)と教会構造
第3章 黄金のシュライン―聖遺物を納める容器
第4章 聖遺物容器の様々な形態
第5章 聖なる見世物―聖遺物/聖遺物容器の人々への呈示
第6章 聖なるカタログ
終章 聖性の移転


参考文献
図版典拠一覧
―――

「はじめに」では、大学受験からの逃避としてホイジンガやブルクハルトの著作を読んでいた、というエピソードから始まり、衝撃を受けました。私は横溝正史や京極夏彦を読んでいました…。
 第1章は、標題どおり聖遺物がもつとされた力についての概観です。まず、キリスト教では神のみが崇拝の対象であり、聖人や聖遺物は崇敬の対象になりえても崇拝してはならない、という指摘がなされます。この指摘については別の文献でも目にした覚えがありますが、どこで見たか全く思い出せないので、あらためて勉強になりました。また、聖遺物の治癒能力は非常に高く、治癒されては商売にならないと逃げようとした乞食が治癒してしまった、というジャック・ド・ヴィトリの語るエピソードも紹介されています。さらに、一人の聖者の遺体が無数に分割されてしまうことになりますが(各地の教会や修道院が聖遺物として持つため)、復活の際には復元されるとされていたこと (27-28 ) 、至るところの教会に安置された様子から現在のATMになぞらえられる( 37 頁)など、興味深い記載が豊富です。
 第2章は、聖遺物の奉遷について、その具体的な手順などが紹介されます。ブローカーの存在を語る史料についての詳しい紹介もあり、興味深いです。
 第3章は聖遺物を納める容器、とりわけ三角破風の屋根を有する箱型のシュラインという容器を取り上げます。金銀で飾られたシュラインは、使用されなくなると、その金銀が必要に応じて売却され貧者の救済や教会の改築にあてられるなど、「教会や修道院にとって、富の貯蔵庫、非常時への担保といった役割をも果たしていた」 (91-92 ) という指摘がなされます。
 第4章は、箱型、筒型、身体的部位(手、足、頭など)の形態を有する「しゃべる」聖遺物容器など、様々な形態の容器について論じます。聖人をかたどった聖遺物容器には、ローマ時代の皇帝像を再利用したものもあるなど、不勉強にして知らなかった指摘も豊富です。
 第5章は、主に中世後期に行われた、聖遺物の展覧会についての議論。詳細な式次第の紹介もなされます。
 第6章は、聖遺物を見に行った人々のための「聖遺物バッジ」や、現在のカタログに近い聖遺物版画や聖遺物書の紹介です。神社仏閣をめぐっておみやげを買って帰ったり、美術館に行ってカタログを買って帰ったりするような、そんな様子を思い描きながら読みました。また聖遺物の数により贖宥の日数が伸びるという教皇のお墨付きから、莫大な聖遺物をコレクションした王のエピソード、そして後にルターによる批判につながっていくという流れも興味深いです。
 以上、簡単なメモになりましたが、全体的に興味深く読みました。本書もずっと気になっていた文献の一つなので、この度通読できて良かったです。

(2021.04.28 読了 )

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Last updated  2021.08.12 22:26:32
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