中井英夫『虚無への供物』
~講談社文庫、 1974
年~
初出は 1964
年、講談社から塔晶夫名義で刊行された、三大ミステリー(奇書)の一つと呼ばれる有名な長編です。出口裕弘先生の解説によれば、「アンチミステリー」ですが、その言葉にも納得です。
物語は、 1954
年 12
月~ 1955
年にかけて起こる、氷沼家にまつわる呪いのような事件を描きます。
アイヌの呪いなのか、原爆、そして洞爺丸沈没により、一族は次々と亡くなり、若き氷沼蒼司が当主となっていました。その従兄弟、藍司と知り合った光田亜利夫(アリョーシャ)と奈々村久生は、久生の婚約者、牟礼田から、氷沼家で事件が起こる可能性があると聞き、過去の経緯を聞いていきます。
蒼司の兄弟、紅司が考案した、まだ書かれていない物語には、4つの密室殺人が起こるとのことですが、その物語に倣うかのように、氷沼家にまつわる人々が密室状況の中で死んでいきます。
亜利夫たちは推理比べを何度もするものの、なかなか真相にたどり着けません。
牟礼田が帰国し、様々な事実が明らかになっていく中、ついに意外な真相が明かされます。
文庫で本編約 640
頁という大著です。繰り返される密室の事件、推理合戦、そして新たな展開と、静と動が繰り返されるような、そして何が正しいのか翻弄されるような、不思議な感覚に陥りそうになります。
上でアンチミステリーと書きましたが、たしかにノックスの十戒や江戸川乱歩の密室トリック分類への言及や、同じく三大ミステリー(奇書)に数えられる 小栗虫太郎『黒死館殺人事件』
、 夢野久作『ドグラ・マグラ』
があげられ、またややメタな描写もあるといったところで、それはうかがえます。ただ、不可思議な事件が起こり、論理的にそれを解決しようという流れは、もちろんミステリとして楽しめます。また、洞爺丸事件(これが、本書執筆のきっかけとなったそうです)や当時の様々な事件など、世相を反映した描写も興味深いです。
だいぶ以前に一度は読んだはずですが、記事をかけていなかったので、あらためて再読しました。
分量に圧倒されながらも、良い読書体験でした。
(2021.09.19 読了 )
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