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2022.11.19
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2022 年~


 以前紹介した​ 『世界歴史 08
 本書の構成は次のとおりです。

―――
<展望>
大黒俊二・林佳世子「中世ヨーロッパ・西アジアの国家形成と文化変容」
(コラム)井谷鋼造「セルジューク朝からオスマン朝へ―アナトリアとイスタンブルの刻銘文資料から」
<問題群>
鶴島博和「中世ブリテンにおける魚眼的グローバル・ヒストリー論」
藤井真生「帝国領チェコにみる中世「民族」の形成と変容」
(コラム)図師宣忠「史実とフィクションのあわいを探る―歴史解釈としての映画の可能性」
五十嵐大介「西アジアの軍人奴隷政権」
<焦点>
小澤実「異文化の交差点としての北欧」
黒田祐我「レコンキスタの実像―征服後の都市空間にみる文化的融合」
(コラム)高橋英海「西アジアのキリスト教をめぐる環境の変容―バルヘブラエウスの生涯を例に」
三浦徹「宗教寄進のストラテジー―ワクフの比較研究」
(コラム)甚野尚志「朝河貫一とグレッチェン・ウォレン」
久木田直江「「女性の医学」―西洋中世の身体とジェンダーを読み解く」
辻明日香「イスラーム支配下のコプト教会」
(コラム)大稔哲也「子を喪ったイスラーム教徒にいかなる慰めがあり得たのか」
佐々木博光「中世のユダヤ人―ともに生きるとは」
―――

 展望論文では、西洋史の立場から大黒先生が西欧各国の 11-15 世紀を概観しつつ、本書収録の論考をその中に位置づけ、西アジアの立場から林先生が西アジアを二つの時期に分けて通史的に概観したのち、ビザンツ帝国との関連を見ます。展望論文では、冒頭に置かれた「トランスカルチュラルな絡み合い」という概念が重要で、これは「文化はゆるやかな統一体として存在しながら流動と変性を繰り返し、そうした動きはとくに他文化との境において顕著な姿を示すとみる」立場です。この見方には、従来の歴史叙述に見られた「目的論ないし直線的発展」を排する特徴があると指摘されます。
 問題群はヨーロッパ関連2本、西アジア関連1本の論考です。
 鶴島論文は魚≒漁業に着目し、その周期性が軍事的戦略にも用いられたことや、干潟の領有権をめぐる問題、船の技術や製塩業など様々な側面も含め、ブリテン諸島の「グローバル・ヒストリー」を描きます。
 藤井論文はチェコの「民族」意識をめぐる論考。神聖ローマ帝国との関係性や、フス派運動をチェコ人固有の信仰・思想とする従来の見方への批判などが興味深いです。 『世界歴史 08 』所収の三佐川亮宏「ヨーロッパにおける帝国観念と民族意識―中世ドイツ人のアイデンティティ問題」もあわせて読むと、中世の「民族」意識に関する議論への理解がさらに深まるように思われました。
 五十嵐論文は、マムルークと呼ばれる奴隷出身軍人が将軍であった王朝・マムルーク朝の位置づけを論じます。その王朝名から、奴隷出身軍人が将軍をつとめたと考えられますが、実際には非マムルークの人物が一部家系の中から将軍が輩出される時期もあり、後期に「マムルーク化」していったことが指摘されます。
 焦点として6本の論考が収録されています。
 小澤論文は「辺境」とされた北欧の人々が、大陸などに積極的にかかわっており(ヴァイキングの侵攻が有名ですがそれだけでなく交易も含めて)、辺境としての見方への修正を促します。
 黒田論文はレコンキスタ期に、モスクが教会として転用された事例に着目し、それは必ずしも従来言われたような「寛容」ではなく、キリスト教の勝利と優位を示す側面があったことを強調します。
 三浦論文は、ワクフと呼ばれる主にマドラサ(学院)などへの寄付(寄進)行為について論じます。本稿で最も興味深いのは、比較研究として、ヨーロッパ、中東・イスラーム、中国、日本の寄付(寄進)の在り方が比較・整理されている点です。
 久木田論文は「女性の医学」として、中世ヨーロッパにおける女性の身体や産科の位置づけに着目し、ジェンダー論的な観点から論じます。
 辻論文はエジプトでのコプト教会とイスラームとのかかわりを論じます。興味深い事例として、 1301 年、イスラーム側からキリスト教徒は青色の、ユダヤ教徒は黄色のターバンの着用を義務付けられますが、やがて 14 世紀後半にはこれらの色のターバンはキリスト教徒などである証として誇りをもって受け入れられるようになり、 14 世紀後半の聖人伝では再改宗を望む元キリスト教徒たちが青色のターバンを再び着用する描写がみられる、とのことです (253-254 )
 佐々木論文は、「寛容」「不寛容」、「迫害」「共生」の2項対立的な観点から論じられてきたユダヤ人の在り方について、説教史料と聖史劇を主要史料とした分析により、たしかに共生はあった、しかしそれは差別的なまなざしも同時にあったものだったとして、より多角的な、慎重な見方を提唱します。
 以上、興味深い諸論考の収録された1冊です。

(2022.10.12 読了 )

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Last updated  2022.11.23 15:24:20
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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