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2024.01.13
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西洋中世学会『西洋中世研究』 15
~知泉書館、 2023 年~

 西洋中世学会が毎年刊行する雑誌です。
 今号の構成は次の通りです。
―――

【特集】西洋中世の感情
<序文>
山内志朗「西洋中世の感情をめぐって」
<論文>
赤江雄一「「感情の共同体」としての学識ある聖職者― 14 世紀の説教の聴衆―」
山本潤「「怒り zorn 」と「敵意 haz 」―中世叙事文学に見る感情の表象するもの―」
辻内宣博「意志の感情という視点―オッカムのウィリアムにおける感情の理論―」
宮崎晴代「 14 世紀末の記譜法の変化に見られる「感情の表現」―コローナ記号の登場とその意味について―」
木川弘美「涙を描く―初期ネーデルラント絵画における情念・情動の図像表現―」


【論文】
阿部晃平「知識をいかに体系づけるか?―『ソロモンの哲学の書』に見る初期中世における学問区分の再編成―」
宮野裕「中世ルーシのサモジェルジェツ(専制君主)概念」
福田智美「エリザベス1世の枢密顧問官の特徴」

【特別寄稿】
松本涼・有信真美菜・城戸照子「 2021 年度若手セミナー「頭と舌で味わう中世の食文化:レクチャー編」より」

【新刊紹介】

【彙報】
坂田奈々絵「西洋中世学会第 15 回大会シンポジウム報告「中世世界の人と動物」」
森下園「「第 11 回日韓西洋中世史研究集会」報告記」

―――

 特集は、感情の歴史について。 2020 年にはアラン・コルバン他監修(片木智年監訳)『感情の歴史 I 古代から啓蒙の時代まで』(藤原書店)、ヤン・プランパー(森田直子監訳)『感情史の始まり』(みすず書房)が、 2021 年にはバーバラ・H・ローゼンワイン/リッカルド・クリスティアーニ(伊東剛史他訳)『感情史とは何か』(岩波書店)が刊行されているように、近年、我が国でも関心が高まっている領域です(以上3冊はいずれも未見。 2024 年中には読んでみたいです)。
 もともと、 2020 年6月に開催された第 12 回西洋中世学会のシンポジウムのテーマが「中世における感情」で、本誌には、シンポジウム発表者による論考に加え、赤江先生の論文が新たに追加された形となっています。
 前置きが長くなりましたが、序文は感情史研究の動向概観と、シンポジウムの概要紹介。
 赤江論文はトマス・ウェイリーズの説教術書の分析を通じて、説教の構築方法いかんによっては笑いものになってしまうという興味深い事例と、説教者に適した説教方法の提示を指摘し、「感情の共同体」としての「学識ある聖職者」の存在を明らかにする興味深い論考。
 山本論文は中世盛期叙事文学における「怒り」と「敵意」概念の考察。特に、『イーヴェイン』という作品の中で、「敵意」と「怒り」が異なる感情として描かれている点を説得的に論じている箇所( 23 頁)を興味深く読みました。
 辻内論文は思想史・哲学史の観点からの感情についての考察。不勉強な領域のため十分に理解できませんでしたが、具体的な例(ラテン語の勉強過程や苦手な上司との向き合い方)は面白く、またありがたかったです。
 宮崎論文は現在のフェルマータの前進とも考えられるコローナ記号(フェルマータと同じ形)について、その解釈と意義を論じます。研究史上の議論も分かりやすく整理されていて、馴染みのない分野ですが興味深く読みました。
 木川論文は主に 15 世紀ネーデルラントで展開した涙の表現に関する考察。涙を描く前提として、透明な水の作例(とそれを可能にした油彩技法の意義)を紹介した後、聖母マリアとキリストの涙について具体的な作例を分析します。

 阿部論文は『ソロモンの哲学の書』という史料の写本系統と、その具体的な分析を通じて、宗教的学問を世俗的学問体系に組み込む試みがなされていることを指摘する大変興味深い論考。
 宮野論文は先行研究が十分に吟味していない時代の史料も丹念に読み解き、一般に「専制君主」と訳されるサモジェルジェツという言葉の多義性を明らかにします。
 福田論文は枢密顧問官の年齢構成、出席状況などを丹念に分析し、エリザベス1世期の枢密院の特徴を指摘します。

 特別寄稿は 2022 年2月に開催されたレクチャー報告について、活字化の要望も多かったため2本が掲載されたもの。なおレクチャー編は You Yube で視聴可能です。

 新刊紹介では 55 冊の研究書が紹介されます。中でも、栗原健先生による、夫婦墓像を分析した著作 (J. Barker, Stone Fidelity: Marriage and Emotion in Medieval Tomb Sculpture , Woodbridge, 2020) や、高名康文先生によるウェールズ大学出版の「中世動物叢書」について(ここでは K. L. Smithies, Introducing the Medieval Ass , Cardiff, 2020 )の紹介が興味深かったです。栗原先生はいつも面白そうな文献を紹介されていて、どれも気になっています。

 彙報は2本。第 15 回大会シンポジウムには Zoom で参加しましたが、大変興味深い内容でした。

 本誌末尾には、第1号から第 15 号までの総目次も掲載されていて便利です。

(2024.01.03 読了 )

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Last updated  2024.01.13 22:49:55
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