ホイジンガ(里見元一郎訳)『文化史の課題』
~東海大学出版会、 1965
年~
『中世の秋』『ホモ・ルーデンス』などの著作であまりにも有名なヨハン・ホイジンガ (Johan Huizinga, 1872-1945)
訳者の里見元一郎先生( 1928-2019
)は東海大学助教授、清泉女子大学助教授・教授を歴任し、『ホモ・ルーデンス』の翻訳も手掛けた研究者です(里見先生の略歴・業績については、桑野聡「二人のヨーロッパ中世史家の思い出:柴田忠作先生と里見元一郎先生の研究を振り返って」『郡山女子大学紀要』 57
、 2021
、 169-179
頁を参照)。
さて、本書の構成は次のとおりです。
―――
「文化史の課題」
「歴史的生活理想について」
「前ゴシック精神の人、ソールズベリのジョン」
「アベラール」
「ルネサンスの問題」
解説
―――
1926
年ユトレヒトでの歴史協会総会での講演などを基にした第1論文は、ホイジンガの「文化史」への立場を表明します。何点か、興味深かった点をメモしておきます。まず、「文化史が政治史及び経済史から区別されるのは、より深淵なもの、より普遍的なものへの指向を意識しつづけているからこそ、その限りにおいて文化史の名にふさわしい、という理由からだ」 (15
頁 )
と述べ、よって、文化史の細目は民俗学や古物蒐集などに属し、「いともやすやすと骨董学になってしまう」 (
同 )
とします。その前提として、「健全な歴史探求の出発点は、常に、何かある特定のものを正しく知りたい、という衝動でなければならぬ」 (14
頁 )
とも述べ、問題設定の重要性を指摘します。
文化史の対象は、「民族の歴史、社会集団の歴史から読みとれる限りの多様な文化形式及び機能」 (63
頁 )
とし、その例として「虚栄の歴史」を挙げたり、「七つの大罪はそのまま執筆者を待つばかりの文化史の七つの章だ」 (63-64
頁 )
と述べたりしており、このあたり、興味深く読みました。最終節での時代区分に関する議論も同じく興味深いです。
1915
年ライデン大学教授としての就任演説である第2論文では、「歴史的観念が文化や国家、あるいは個人の発展にどのように影響を与え、時にはまたどうしてこれを支配するにいたるのか」「この歴史的観念がどうして時に模倣の直接の対象となるのか」 (84
頁 )
について論じます。
ホイジンガの掲げる理想をレジュメ的にメモしておくと、
(1)一般的人間理想
①牧歌的理想…使徒的理想など
②騎士的理想 …騎士的生活
③古代的理想…ギリシア・ローマの理想
(2)国民的歴史理想
①神話的理想… 例)ローマのアエネアス伝説
②ロマン的理想…例)大セルビア主義、大ギリシア主義など
③現代と民俗の歴史の調和…例)ドイツ、フランス(ジャンヌ・ダルク)
といった図式になります。
12
世紀のアラン・ド・リール、ソールズベリのジョン、アベラールの3名を取り上げた講演のうち、アラン・ド・リールを除く2名に関する講演が第3・第4論文です。個人的にはアランに興味がありますが、本訳書で取り上げられなかったのは他2名と比べるとマイナだからでしょうか…。
1920
年に発表された第5論文は、ルネサンスの位置づけを論じます。中世との関係、近代との関係などを見たのち、ホイジンガは「ルネサンスをその錯綜複雑性において、異質混合の中で、対立性を考えて把握するよう、また設定した問題に複数主義的取り扱いをするよう、心掛けるべきだ」 (235
頁 )
との立場を示します。
以上、ごく簡単なメモとなってしまいましたが、特に第1論文が勉強になりました。
(2025.09.26 読了 )
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