存生記

存生記

2011年01月02日
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「ノルウェイの森」を新宿で観る。ケータイもパソコンもない時代だからか、やけに古風でゆったりとした映画に仕上がっている。まったりした男女の情景から聞こえてくる鳥のさえずりや雨音が余韻に残る静かな映画である。監督が小津の映画をリスペクトしてそうな、折り目正しい「日本映画」にみえる。昭和の鬱陶しい生活臭を感じさせない若者たちが恋人に手紙を書き、寮や実家の固定電話で連絡を取り合う。LPレコードに岩波文庫に学生運動。原作小説はベストセラーになったので、当時なんとなく読んだのだが、21世紀の今、学生運動のシーンなど見ていると、こういう雰囲気の小説だったのかと思い返す。

正月から自殺者が三人も出る話など見たい人は少ないのか、比較的空いていたので、なおさらゆったりできた。茫洋としたマツケン演じる主人公も田舎から出てきた木訥な青年風で妙に和む。ミドリ役の女優も可憐で妖艶な魅力がある。小説と違和感があるのは菊池凛子の演じるナオコぐらいだ。本来なら彼女が性と死と狂気の渦に主人公を巻き込む役回りだが、怖いばかりで引き込まれない。自殺した親友の恋人だったという過去はあるにせよ、主人公がそこまでこだわる存在には映らないのだ。

この主人公にはあまりガツガツとしたところがない。女たちに何かを頼まれれば「もちろん」と答えて応じるあたりが、アッシーやメッシーと揶揄されたバブル時代の便利な男たちのようだ。学生運動に熱狂できない彼にとっては、恋愛が蜃気楼のように魅惑的にみえたのだろう。ただこちらにはそんなに魅惑的なものには見えなかった。これは映画のせいなのか、私が年をとったせいなのかはわからない。その両方かもしれない。





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最終更新日  2011年01月05日 00時53分38秒


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