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ところが先輩は、酒臭い口を横になっている俺の耳元に寄せ、背筋の寒くなるような口調で、「昨日の猫が何か見たか?」 覗いてたんじゃないかと思うくらい、痛いところを突いてくる。思わず「何でわかるんですか!?」と起き上がってしまい、俺は墓穴を掘った。 先輩は、やっぱりなと言って、当然のように何があったか訊いてきた。「ま、だいたい見当はつくけどな」 訳知り顔で、ニヤリとする。 だったら聞く必要もないだろうに。 しかし、こうなったら言っても言わなくても結果は同じだ。言わなければ、憶測でこんなとこかなと不気味な話を聞かされ、ビビッているところを笑われるのがオチ。それくらいならブチまけて楽になろうと、俺は全部話すことにした。 「それでうちに逃げ込んできたわけか」 先輩はニヤニヤしながら聞いていたが、俺が話し終えると煙草に火をつけて、馬鹿だねぇと呟いた。「この寒いのに蚊なんて飛んでるわけないし、朝になって押入れの中見てみても、ネズミ一匹いた形跡すらなかったんですよ!? 幽霊じゃなくても気味悪いじゃないですか!」 不気味なことに遭遇すると怖がるよりも喜びそうな先輩に、こんなことを言ったところで理解してもらえるなんて馬鹿なことは思ってはいなかったが、笑うならまだしも、バカにするとは何事か。俺は憤慨して訴えた。 すると先輩は、口から煙を吐きながら、別に信じてないわけではないと言う。「誰も、枯れ尾花だと言ってるわけじゃないさ。猫はよく視るって言うからな」「じゃあ、なんで……」「バカにするのかって?」 先輩はビールの空き缶に煙草の灰を落とすと、俺に視線を合わせてニヤリとした。右に比べ、左の口角を異様に吊り上げた嫌な笑みだ。何を言われるかと身構える俺に、先輩は思わせぶりな溜めを作ってから、口を開いた。「おまえの部屋の押入れの向こうって、何がある?」「押入れの向こう?」 俺の部屋はこのアパートの東端で、押入れは部屋の西側についているから……。「……この部屋、ですか」「そういうこと」 蒼白になった俺を見て、先輩は満足そうに紫煙を吹き上げた。9.5.猫 終'08.4.3(?)
2010.06.11
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その夜、俺は晩飯を終えると、さっさとこたつのスイッチを切って布団に入った。こたつが冷えると、わらわらと猫が布団に移動してくる。上に乗られるのには重くてまいったが、二匹布団に入ってきたのは嬉しかった。 ゴロゴロと喉で四重奏をやられるのはうるさいけれど、かわいいし暖かい。俺はホクホクしながら目を瞑った。 しかし、重いせいか、はたまた興奮しているせいか、なかなか寝付けない。しかも、両脇を猫が固めているので、寝返りも打てない。そんな、ある意味拷問のような状態で、やっとうつらうつらし始めた頃、身体がふっと軽くなった。猫が上から下りたのだ。それに感応するように、俺の脇に顔を埋めていた奴らもピクリとして、ゴソゴソ出て行く。 やがて四匹は、申し合わせたように押入れの前に一列に並んだ。そしてそのまま、獲物を狙うかのように頭を低めると、一斉に、 ウゥーーーーーーー 押入れに向かって唸り始めた。白など、早くも身を起こして、シャーッ! と威嚇している。 俺は、ネズミでもいるのだろうかと起き上がり、電気を点けてみた。猫たちの所へ行き、視線の先を追う。 そしてゾッとした。 猫たちは押入れの隙間ではなく、何故か中空を睨んでいた。黄ばんだ襖の真ん中辺りだ。もちろん、そんなところにネズミが浮いているわけもなく……。「な、何にそんな怒ってるんだよ? 何かの冗談だよな? な?」 俺は一匹一匹の背中を撫で、さすり、宥めて回った。けれど猫たちは俺を完全無視。変わらず中空を睨んでうなりを上げている。そこに敵がいるのだといわんばかりの形相で。みんな目が据わっていて怖い。そして、全員同じとこを見ているのが、そこに何かがいることを証明しているようで、もっと怖い。 俺はソローッと猫たちから離れると、頭から布団を被り、震えながら朝が来るのを待った。猫たちは十分くらいで諦めたように布団に戻ってきたが、連中に暖められても、もう俺の背筋は凍ったままだった。 翌晩、友人が猫を連れて帰ると、俺は礼に貰った六缶パックのビールを持って、隣の部屋の戸を叩いた。猫を食ってみたいと言った隣人の部屋だ。この隣人、俺は先輩と呼んでいるが、別に学校やバイトが同じわけではなく、このアパートの先輩というだけの人である。 その先輩と酒盛りをし、そのままそこで眠ろうとした深夜二時。先輩が突然言った。「帰んないわけ?」「帰るの寒いし面倒。も、このまま寝かせてくださいよ」 帰るなんて冗談じゃない。何もない空間を猫が威嚇するような、あんな怖い所に一人でいられるか。 しかし、正直にそんなことを言えば、バカにされる上、よけい怖いことを吹き込まれるに違いない。俺は酔い潰れた振りをして、目を瞑った。つづく
2010.06.10
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友人の猫を預かることになった。昔飼っていたことがあるので、気軽に引き受けたのだが。「四匹もかよ」「言ってなかったっけ?」「聞いてねーよ」「ま、ひと晩だけだから、頼むわ」「頼むわってなぁ……」 俺に向かって手を合わせるこの友人、なんと今晩、彼女を部屋に呼ぶために、猫をみてくれというのである。ヒトデナシと言ってやりたいところだが、彼女が猫アレルギーで、猫を飼い始めたのは付き合い始めるよりも前だったというのだから仕方がない。 それに、いざ猫を前にすると、俺の気持ちもあっさり動いた。自分で考えていたよりも、俺は猫好きだったらしい。飼うのはとても無理だが、ひと晩愛でていられると思うと胸が躍った。猫アレルギーの彼女に感謝したいくらいだ。「萌えって、こいつらのためにあるような言葉だな」 四匹を抱えてそう言うと、友人にはとても嫌な顔をされたが。 猫の毛色はそれぞれ、白、黒、トラ、三毛だった。ついでに名前もそのまんま。いずれも野良出身ということだが、人懐こくて可愛らしい。猫同士ケンカもしないし、トイレの躾もばっちりで、困るようなことはなかった。 部屋を一通り点検し、こたつの中で仲良く身を寄せ合う猫たちを見て、俺はあることを思いついた。せっかくこんなに猫がいるのだから、今話題のネコ鍋をしてみたい。四匹いれば、特盛ができる。 しかし、この案には問題があった。ネコ鍋は、箱などに入りたがる猫の習性を利用して土鍋を置き、猫がそれに入り込んで眠るのを見て楽しむというものだが、うちには土鍋なんて高価な代物はない。ダメ元で隣人に尋ねてみたが、やはり持っていないとのことだった。それどころか、こんなことを言う。「どっかで鍋借りれたら呼んで。俺も猫食ってみたい」 絶対呼ぶか。 他の友人にもあたってみたが、ほとんど持っている者はなく、持っていたとしても、用途を話すと断られた。食べ物を入れる中に、猫なんか入れるなというのだ。みんなロマンがなさすぎる。 まぁ、今夜は猫にまみれて眠れるのだから、それで我慢するか。 そう自分を宥めて、ガッカリしつつもワクワクしながら夜を待った。今日は暖かく眠れそうだ。つづくぼっつぇさんのリク用に書いてたやつのお蔵出し。どうやら二年以上も前に書いていたもののようです。やっぱり前回のやつって、文体が変わってるような気がします……。
2010.06.09
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