ごめんね、にゃあ君　　　　　　　

バットマンは跳ぶ

この日はリードを付けていなかった。

バットマン、じゃなくて、にゃあ実ちゃんを膝の上にのせ、しばらく日に当たったら、

すぐまた室内に入るつもりだった。

胴を軽く持ちながら撫でていると、突然にゃあ実ちゃんがジャンプした。

あっと思ったときには、もうにゃあ実ちゃんは小さな庭を3メートルほど走っていた。

慌てて追い掛けては却って逃げ回るので、落ち着くのを待つことにした。

にゃあ実ちゃんは枯れ芝や草花の根元をクンクン嗅ぎまわっている。

こちらにお尻を向けたので1歩踏み出すと、にゃあ実ちゃんがまた跳んだ。

そのままの勢いで、柵の切れ目から西隣の庭に入り込んでしまった。

柵の切れ目はその先にもあって、2室先へ行ってしまうと厄介だが、

そちらはワンちゃんがいるお家で、

隣室との境目が塞がれているので、更に先まで行く心配はない。

そうは言っても、1室目のお隣さんは動物好きではないようだ。

見つからないうちに何とか呼び戻したい。

小声でにゃあ実ちゃんの名前を呼び続けるが、

お隣さんの庭を歩き回り、テラスに上がって嗅ぎまわっている。

いつ、お隣のお母さんが顔を出すかと冷や冷やしながら様子を見守る。

そのうちにゃあ実ちゃんはエアコンの室外機の上に飛び乗ってしまった。

早く何とかしなければ。

にゃあ実ちゃんの大好物の柔らかご飯を持って来て、柵の境目に置いてみた。

１度近寄って来たものの、柵のこちらに戻って来るつもりはないようだ。

今は食い気より、隣のお庭の方に興味がいってしまっている。

にゃあ実ちゃんが入り込んでから、結構時間が経ってしまった。

こうなったら早くお隣さんに謝ったほうがいい。

そして戸を開けるとか、何か音を出してもらえば、怖がって戻って来るに違いない。

意を決して隣室の呼び鈴を押す。

幸か不幸か、応答なし。

お留守ということは、にゃあ実ちゃんを呼び戻すまでに、たっぷり時間があるということだ。

再び庭に戻って覗くと、

にゃあ実ちゃんはお隣さんのテラスからまた芝に下りて、クンクンやっている。

にゃあ実ちゃんの気を引くものって何だろう。

室内に戻って最初に目に入ったのはパタパタとんぼだった。

元気のいい方のパタパタとんぼを手にして庭に戻る。

柵のこちらから向こう側にパタパタとんぼを入れて動かしてみた。

にゃあ実ちゃんが近付いて来る。

パタパタやると、にゃあ実ちゃんは２本足になってアタックし始めた。

よしよし。

そのまま柵の端まで誘い出し、庭のこちら側でパタパタやると、

にゃあ実ちゃんが柵の隙間から戻って来た。

ようやく抱き上げたときには30分ばかり過ぎていた。

その後、にゃあ実ちゃんは悪びれた様子もなく、私の後をついて回っていた。

どうかお隣さんの室外機の上に、足跡がついていませんように！

また芝生に下りたいにゃ

にゃあ実ちゃんの脱走履歴