1. 序章:急成長の光と、見え始めた影
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、人々の生活様式を一変させ、「巣ごもり需要」という形で模型業界に特大の追い風をもたらしました。おうち時間の充実を求めるユーザーによって、市場は急激に拡大。多くのメーカーや小売店がその恩恵を受け、活況を呈しました。
しかし、その光の裏側には、すでに影が差し始めています。
2. コロナ禍特有の「買い急ぎ」と「積み疲れ」
需要が急増する中で、ユーザーの行動にも変化が見られました。それは、**「買い急ぎ」**です。
限定品や人気商品の品薄状態が続き、「次いつ手に入るかわからない」「買える時に買っておかなければ」という心理が働き、結果としてキャパシティを超える購入が加速しました。その結果、今、多くのユーザーの間で**「積み疲れ」**という現象が顕著になっています。
「購入したキットを製作する時間が追いつかない」「積み上がったプラモデルを見るたびに、モチベーションよりもプレッシャーを感じる」――市場は拡大した一方で、ユーザー側は一時的な飽和状態を迎えつつあるように見受けられます。これは、急激な需要増に対する、自然な揺り戻しのサインかもしれません。
3. 当店の悩み:見えない「真の実力」
当店のような、コロナ禍の直前に開業し、一年も経たずに特需に突入した店舗にとって、この状況は特に切実な問題を投げかけます。
• 「本当に今の売上は、店舗の魅力や努力によるものなのか?」
• 「コロナ禍がなかった場合の、本来の実力値はどこにあるのか?」
特需という"ボーナス期間"をベースに収益モデルを構築してしまった新規参入の企業や小売店は、市場の揺り戻しが起きた時、経営の根幹を揺るがされかねません。これはメーカー側にも言えることで、特需を見越して参入した企業や、生産体制を大幅に拡大したメーカーも、今後の需要の減速にどう対応するのかが問われます。
4. 未知数な未来:急ブレーキか、ソフトランディングか
この急激な需要増の反動は、業界全体にどのような形で現れるのでしょうか。
1. 「急激なブレーキ」:売上の急減、過剰在庫、新規参入組の撤退。
2. 「ソフトランディング」:市場は一旦落ち着きを取り戻すが、特需前のレベルよりは高い水準で安定化。
どちらになるかは、まさに未知数です。しかし、この不安定な状況下で、私たちが問われているのは「いかに特需前の水準に戻すかを回避するか」ではなく、「この揺り戻しを、真の顧客基盤を築くための機会と捉えられるか」ではないでしょうか。
5. 小売店として、今、何をすべきか
私たち小売店も、まだ明確な答えを見出せてはいません。しかし、この「積み疲れ」の時代に、単に商品を陳列するだけでは生き残れないことは明白です。
私たちは、次の時代を生き抜くために、「モノを売る店」から「体験を売る店」「コミュニティを提供する店」へと進化する必要があると考えています。
• 「積み疲れ」を「作る喜び」へ転換する提案:
• 完成品の展示や製作代行サービスの充実
• 特定のテーマに絞ったワークショップや製作会の開催
• ユーザーが気軽に作品を見せ合えるコミュニティスペースの提供
• 「買い急ぎ」ではなく「納得の買い物」を促す接客:
• 商品の背景や使い方を深く伝え、ユーザーの製作意欲を刺激する
• 単なる新製品の入荷情報だけでなく、「どう楽しむか」に焦点を当てた情報発信
コロナ禍が終わり、人々の生活が外へと向かい始めた今だからこそ、私たちは**「模型製作」という趣味が持つ、本質的な楽しさ**を改めてユーザーに思い出してもらい、サポートしていくことが使命だと感じています。
この揺れ動く市場で、当店がどう立ち回り、「真価」を発揮できるか。それは、お客様と共に、模型の未来をどう形作っていくかにかかっていると信じています。