実録・サラリーマン時代

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October 19, 2006
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Vol.46「引継ぎ」

 だんだんと退職公約の3月も迫ってきた2月に役員面接なるものがあった。
うちの会社は2月と8月になると半期の総括的な意味を込めて役員、
つまり社長、専務との三者面談をすることになっている。
専務とは結構頻繁に接触はあるものの、社長と実際にしっかり話し合うみたいな時間は、
半年に一度のこのときだけである。
 専務から「赤澤さんに関しては一点だけです。来期もやってくれるのかどうかということだけです。」という、いきなり単刀直入で直球で来たので、俺も「今期をもって退職する気持ちに変わりはありません。ただ、引継ぎが今難航しているのもわかってますので、3月いっぱいでというよりはもう少し柔軟性をもって退職日等は部長とも相談の上決めさせていただきたいと思います。」と言った。
間で板ばさみとなっている部長や甲府のエリアマネージャーは、
これで引きとめる労はなくなったというか、

ダラダラ引き延びることもなく何にせよ退職は認められた。

 富士吉田の次期室長は完全な新人ではなく、大月教室も統括する山梨郡内のエリアマネージャーである必要があるらしいので、比較的すぐに決定した。
甲府里吉教室というところの室長で、俺もこの人なら安心っていう人だった。
しかし問題はその甲府里吉教室の空いた穴を埋める室長がいないということで、とにかくバンバン求人をかけ、面接もしていた。俺自身も甲府に行ってよく社員面接をした。
こうなると困ると思って一年前から辞意表明してんのに・・・という気持ちはグッと押し込み、
なんとか甲府里吉の室長が決定したことにより、俺は退職日のすり合わせを部長とした。

富士吉田の新教室長は海藤さんという女性で、それまで不振にあえいでいた甲府里吉教室を昨年比150%超の生徒数増加を成し遂げた優秀な女性社員である。
 海藤さんには、俺は個人的な恩も感じていて、この夏初めて行った本格的な富士吉田教室のレクリェーションイベント(バーベキュー大会!?)の時に、完全に友情参加してくれて、何十個ものおにぎりを作って来てくれたり、景品争奪のイントロ当てクイズの際にCDラジカセの具合が悪くなり、どうしようもなくなり、
苦肉の策として、海藤さんの車の周りに生徒達を集めて、
カーステレオから爆音でかける、ということで難を逃れたわけだが、
あの時車の中からCDを流しつづけた海藤さん、うるさくてしょうがなかったはずである(笑)。

後を濁す形で去ることだけはしたくなかった。
室長が変わるということで少なからず不協和音も生じることは必至だったとは思うが、
講師の綿貫先生じゃないけど、生徒から目をそむけず、
ひたすら誠意と愛情を持って接すれば時間の問題で不協和音は消えるはずだということはわかっていたから、海藤さんには安心して後を託すことが出来た。
 以前この場で、俺個人の考えとして、仕事の出来る人の二大原則は「真面目であること」と「自分のためにやっていること」と述べたことがあったかと思うが、

いや、おそらく既に自分の生きがいとしてやっている域には入っていると思うのだが、これも以前ここで述べたように、真面目・熱血・素直ゆえに会社からの教えを一点の曇りもなく励行するタイプであった。
 でもまぁ本人が既に心底これでいいと思っているはずなので、こっちが異を唱える筋合いもないし、
とにかくまぁわけのわかんない不誠実な人間が来なかったことがまず嬉しいし、実際これは本音だが、山梨の全教室長の中では一番海藤さんに来てもらいたかった。残された生徒や講師のために。

 引継ぎをやってるといろいろな弊害も出てきたが、甲府里吉の引継ぎほどではないのは確かである。
甲府里吉の新人室長は本当に新卒のピカピカの新人ということもあり、わからないことだらけである。
頻繁に富士吉田に電話がかかってきて、海藤さんに質問やアドバイスを仰いでいた。
 一方俺が海藤さんにしたアドバイスといえば、以前俺が内藤さんに言われた最高の一言、「富士吉田教室をよくするためなら何をやってもいいんだ」ということを、本気で本心から伝えた。
そして3月は(意外にも)比較的暇であり、例えばこういうときに頑張って何か仕事を見つけて常に全力投球するのもいいけど、抜くときは抜いてどうしたって五月あたりから死ぬほど忙しくなるんだから、自分自身の力を蓄えることや、生徒や講師とどうでもいい話をたくさんしてコミュニケーションを深めたりしたほうがいいよ、みたいな、なんだか手を抜くことばっかりアドバイスしてたような気がする(笑)が、あくまでもこれは相手が超真面目人の海藤さんだったからである。

 海藤さんも今までの自分のやり方との違いに面食らったことも多かったはずである。
もちろん海藤さんのやり方のほうが会社で推奨している理想的なやり方なのであるのは言うまでもない(笑)。
 例えば授業前後に行う講師とのミーティング、これが海藤さんからしてみれば恐ろしく短い時間、いやほとんど「それやってるうちに入んないんじゃん?」っていうレベルだったし、
授業中に室長が教室内を巡回する「机間巡視」というものがあるのだが、
これに関しては俺のポリシーとして、実はあまりやらないようにしていた。
「机間巡視」という意味の中には講師の授業が正しく行われているか、っていうこともあり、
それもわかるんだが、実際俺自身が講師だった時代に当時の室長がやはり巡視しにきて、
ただ巡視するだけならまだしも、会話に参加してきたりして正直ウザイ(笑)って思ったものだし、
巡視されることで講師がのびのびと個性を発揮できなくなったらその教室は暗くなる。
それが一番良くないことだと思った。
教室内で一番明るく輝いているのは講師であるべきだと思っているし、
もちろんカッチリ管理するメリットだってあるとは思うが、いろいろ差し引きしたら、結局は伸び伸びとやってもらったほうがいい、というのが俺なりの結論だった。
 でもこの俺の考えを海藤さんに植え付けたら、その時点で海藤さんに「好き勝手やっていい」といったことと矛盾するわけだし、自分のやり方はこうだ、とは言わなかった。
 ただし、講師はおそらく面食らうことが今後出てくるだろうから、予め講師達には海藤さんがまだ来る前から、海藤さん就任後はだいたいこんな感じになるっていうことを伝え、いろいろと細かいことも言われるかもしれないけど、真面目で誠実な人なことは俺が保証するから、最初はいろいろと違和感あるかもしれないけど、
みんなで協力しあってほしい、ということだけは伝えた。

 結局退職の日付は4月15日付となった。
4年4ヶ月、無遅刻無欠勤で有休消化ゼロだったので、4月いっぱい扱いでも全然ありだったとは思うが、
まぁいろいろなこと含めて良しとしたい。会社には感謝しているのは事実だ。

いよいよ富士吉田を離れ、横浜に引っ越したのが5月末だったので、
離れる直前に最後にもう一度教室に遊びに行った。
退職後一ヶ月が経過した教室に、生徒一人一人の顔がポラロイドカメラで写したものが貼ってあり、
その写真の下にはそれぞれの誕生日が書いてあった。
そして生徒の誕生日には簡単なプレゼントをあげるのだという。
これ凄いね!って俺が誉めると、「実はこうすることで生徒の顔を早く覚えられるっていう狙いがあるんです」と海藤さんは小声で俺に言った。
この企画は会社のマニュアルや方針には一切なく、完全に海藤さん独自のアイディアである。
俺は「よしよし、この教室はこれで安泰だ」と確信した。

 退社以降もお盆の連休に差し掛かった頃ということで、軽井沢から「祝バケーション!」っていう軽~いタッチのメールを海藤さんにしたら、物凄い丁寧な、生徒の近況だとか問題点とか、嬉しかったこととかが克明に書かれてあり、「まだまだいっぱいお話したいことがたくさんあります」とあった。
確かにこの仕事っていうのは同僚というものがいないというか、室長以外は現場にいるのは講師なわけで、
やはり立場的に孤独であり、他教室長とたまに電話や会議の帰りなどで話す共通の話題で、気分を発散することも少なくなく、しかし同じ教室で、生徒や講師の状況に加え保護者のキャラまで委細承知してるっていうのは今の俺と海藤さんみたいなシチュエーションしかありえないので、海藤さんがいろいろ話したいという気持ちはよーくわかる。
 店の開店の前に、しかも教室が殺人的に忙しくなる11月になる前に、ぜひ一度、フラッと遊びにいきたいとは思っている。

(つづく)





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Last updated  October 19, 2006 07:57:26 PM
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