まったり万日記

まったり万日記

PR

×

バックナンバー

2026年10月
2026年09月
2026年08月
2026年07月
2026年06月
2026年05月
2026年04月
2026年03月
2026年02月
2026年01月

フリーページ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

購入履歴

お買いものレビューがまだ書かれていません。
2005年10月13日
XML
テーマ: 小説日記(233)
 それからはバタバタと、本当に慌ただしかった。まずぼくは二階の仕事部屋で、何冊もの本を机の上に積み上げて、今回の依頼の内容に合うようなレシピが書いて無いか、探す事にした。
 この本たちは、歴代のこの森の番人が、研究の成果として書き残していたものだ。いつかはぼくも、自分の研究した雨のレシピを、ここに加えていけたらいいのだけれど。
「ええと…植物が元気になるような……」
 パラパラとページを捲る。本はどれも使い込まれていて古く、ともすればページがバラバラになってしまいそうなものもある。中に一冊、特に使い込まれた本があった。赤い地に古風な金色の模様が彫り込まれたもので、それはもう、古いというよりボロボロに近い。
 手に取ってみると、その本には、驚く程役立つ事柄がぎっしりと詰まっていた。きちんとした綺麗な字で書かれたそれはとても読みやすく、丁寧に図解までついている。
 その中から、ぼくは「銀声花の為の雨」という、依頼の雨に近そうなレシピを見つけた。銀声花というのは、風の森に多く分布する花らしく、南風が吹くと、綺麗な声で歌う花らしい。その花の為の雨は、風を好む他の草花たちにも有効らしい事が書いてあった。
「よし、これにしよう」
 ぼくは、必要な材料をメモに書き出した。本当は、もっとじっくり研究をしてから作りたいのだけれど、生憎今回は時間が無い。
 仕事と聞いて、ポストの上からすぐに飛んで来たチビは、ぼくが調べものをしている間、まだかまだかと言った風に、机の上を行ったり来たり。とても張り切っているのは分かったけれど、チビは小さな小鳥だから、仕事と言っても、きっと出来る事は限られてる。だからこの時、ぼくはチビにあまり多くの期待はしていなかった。

 チビはぼくの頭の上に乗ると、そこでもソワソワと跳ね回っている。ぼくはそんなチビを乗せたまま、材料を書き出した紙を持って、地下室へ向かった。地下室と言ってもその部屋は狭く、入り口の扉以外は全部棚になっていて、そこに雨の材料となる色々なものが所狭しと保管されている。
 ランプに灯を入れて、ぼくはそこに並べられた瓶やガラス箱のラベルを、一つ一つ手元のメモと照らし合わせた。暫くすると、部屋の真ん中の小さなテーブルには、いくつかの瓶や箱が並んだ。
「一応はこれで全部なんだけど…やっぱりちょっと足りないなぁ」
 何種類か、必要な分量に足りないものがある。
「ソソギの実と…シラネの根っこ…それに、紅木の実かぁ…」
 ソソギの実とシラネの根っこは割と簡単に手に入る。けれど、紅木の実はとても高い木のてっぺんになる実で、そう簡単には採れやしない。しかも悪い事に、この実が一番数が足りなかった。
「チビ?」
 ぼくは、頭の上のチビに声をかけた。チビは、ぼくの言いたい事が分かったようで、紅木の実の瓶の蓋に飛び下りると、まかせろとばかりに胸を張って元気良く鳴いた。
「じゃあ、紅木の実はチビにお願いするね。この実と同じやつだよ」
 ガラスの瓶の底に、ほんの少し残っていた、赤い小さな実を、ぼくは指差した。
「チチッ!」

「ホントに大丈夫かなぁ…」
 言葉が通じないので、チビが本当にぼくの言ってる事を分かっているのか、ちょっと不安だ。でも、今はチビを信頼するしかない。ぼくも残りの材料を、急いで採りに行かなくちゃ。
 地下室から、スコップやハサミ、それにいくつかの空き瓶を取り出すと、それをぼくは大きな布のカバンに詰めた。
 居間に戻ると、やっぱりもうチビの姿は無かった。ぼくもさっき取って来たレインコートを羽織ると、雨降る森の中、材料探しへと出かけて行った。

 サワサワと葉を叩く雨の音の中、ぼくはあちこちの茂みに顔を突っ込んでいた。

 ソソギの実は、わっさりと茂った葉の根元に成る茶色の実だ。土の色と良く似ているので分かりにくいけど、一ケ所見つけてしまえば、まとまって成っているので、採るのは簡単だ。
 ぼくはその実を瓶いっぱいに詰め込むと、大切に蓋をした。
「あとは…」
 シラネの根っこは、ちょっと探すのにコツがいる。葉っぱがとても小さいので、そのまま歩いているだけでは見つける事が出来ないんだ。ぼくは草むらをガサガサと手で分けながら、銀色の小さな葉を探した。顔も手も、泥だらけになりながら漸く見つけた小さな葉は、まるで作り物の銀細工のように、硬質の光を放っていた。
 その葉っぱの根元に慎重にスコップを差し込む。乱暴にすると、途中で根っこが切れてしまうので、そっとそっと気をつけて掘り起こさなくちゃならない。
 暫くそんな風にして、あちこちの草むらの中にしゃがみ込んでは、ぼくは残りの瓶も、シラネの根っこで一杯にした。
 思ったより、時間がかかってしまったけど、チビの方はどうだったろう。ちゃんとお使いが出来たかな。チビが運べる実の量は、ほんの少しづつだろうから、もしかしたら、まだいくらも採れてないかもしれないな。
 そんな風に考えながら、アトリエに戻ったぼくは、その光景に思わず目を丸くした。
 アトリエの入り口の扉の所には、紅木の実の枝がちゃんと置かれていた。でも、その枝と言ったら、ぼくが力を込めてやっと折れるような太さのもので、小さなチビが折って来れるようなものじゃない。
「チビ…これ、どうしたの。誰かに手伝って貰ったの」
 枝には、真っ赤な実がこれ以上は無いくらいたわわに実っている。そして、その枝の上では、ぼくの帰りを待ちわびたチビが得意げにさえずっていたけれど、ぼくの言葉にそれまで上機嫌だったチビの声は、不服そうなそれに変わった。
 だって、どう考えても無理だ。持ち上げてみたその枝はずしりと重たくて、たとえ折れていた枝を運んだとしたって、こんな重いもの、チビひとりで運んで来れるはずがない。
 その時、ドアに挟まっていた白い紙に、ぼくは気がついた。
 留守の間に、誰かがここへ来たようだった。そのメモを開くと、そこには見覚えのある字。そのメモに記された名前に、ぼくの心臓はぴょくんと飛び跳ねた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年10月13日 12時42分21秒
コメント(0) | コメントを書く
[[ものかきさんに100のお題。]] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: