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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2008/04/01
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カテゴリ: 生活

 近しいひとにうれしいことが訪れると、すぐ「お祝い、お祝い」という気持ちになる。世知辛いこの世にあって、そうたびたび訪れるわけではないよろこびごとを、きっちり祝っておかなくては、という思いもある。



 季節の行事や、家の者たちや友だちの誕生日、就職のほか、「逆上がり記念」とか「一輪車記念」、「おじいちゃん、おばあちゃん、いらっしゃい」という祝いもある。 自分の分だけでなく、身近なよろこびごとをかき集めるかのような勢いで、祝おうとしている。おっつけ、うちの食卓で祝うことになるのだから、たいしたことではないが、ひとの慶事のお相伴にあずかるときのうれしさは、格別なものがある。



「今週末、リョウヘイの壮行会やるから」
 と発表する。
「今晩、アイバチャンのお誕生日会します。7時までには帰ってきてください」
 と貼り紙をする。
 そういうとき、手の空いている者たちが、「じゃ、つくっちゃいますか」と言いながら食卓に集まってくる。
 紙、鉛筆、色鉛筆(DERMATOGRAPH)をとり出して、食卓にならべる。
 誰かが、紙1枚ずつに、「遼」「平」「、」「板」「前」「修」「業」「が」「ん」「ば」「れ」「!」と鉛筆で下書きをする。
 誰かが、それをなぞりながら、マジックインクで太字に仕上げていく。
 そうして文字とバックの色塗りがはじまる。
 これをするあいだ、「何て書こう?」と相談するほか、ほとんど打ち合わせもなく、作業はどんどんすすむ。この作業風景、すごく好きだ。
 お祝い=たれ幕つくり。いつの頃からこうしてきたかは忘れたが、誰かのお祝いをする、というとき、掃除や料理にとりかかる前に、家の者たちはいきなり「たれ幕屋」になる。
 これができてしまえば、お祝いの会の準備の半分はできたようなものだ。
「遼平、板前修業がんばれ!」
「アイバチャン お誕生日おめでとう」
 これさえできていれば、料理なんかはふだん食べているものに、飾り気と面白みを少し加えればいい、という気持ちになる。



 さて、きょうは長女23歳の誕生日。
 3月30日という、年度のどん詰まりに生まれたので、本人はどこかで苦労をしたかもしれないが、芯のあるいい女になった。と、思う。
 娘ではありながら、姉さんみたいでもあり、友だちでもあるひとが、すぐ近くで育ったことを、しみじみありがたく想いながら、「たれ幕屋」になる。このたびは、末娘とふたりの「たれ幕屋」。



 みんなで食卓を囲む。
 たれ幕の前で、記念写真を撮る。
 ——そういうのが、わたしが考える、祝い。 




Photo
こんな感じに、がしがし色を塗ります。
DERMATOGRAPHは、
大好きな文房具のひとつです。




2
「たれ幕」といっても、小さな看板(?)の連なり……。
こういう仕事だけは、みんな、すごく早いです。
がーっとはじめて、ばーっと描いて、すっと終わる感じ。
どの仕事(勉強)も、そうだといいんですが。







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最終更新日  2008/04/01 10:00:00 AM
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