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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2011/04/26
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カテゴリ: 生活

 2月の、ある週末。
 食堂兼居間に渾然(こんぜん)たる風景があった。ひとりはノートパソコンを睨んで仕事らしきことをし、ひとりは音楽を聴きながら裏紙を切りそろえてメモ用紙をつくり、ひとりは期末試験前の勉強をしている。 見慣れた光景だ。子どもたちは自分の部屋をもっているが、そこではストーブは使わない約束だから、日射しのある時間を過ぎると、なんとはなしに居間兼食堂にやってきて、それぞれの作業と勉強のつづきをする。見慣れた風景というのは、いいものだ。先先(さきざき)、なつかしさと結ぶ約束ができている、というふうでもある。
 が、ときに、そんな見慣れた風景にふっと息を吹きかけ、目あたらしいものへと変化させてみたくなる。



 一方、こちらは2階のわたしの机のある部屋。
 食堂兼居間のある2階にある、もうひとつの部屋である。
 ここは書斎にはちがいないが、ちょっと書架の下段に目をやると、ピクルスやらママレードやら、何ものかになるのを待っている梅酒を漬けたあとの梅の実やらが、瓶におさまってじっとしている。この部屋が書斎なんだか、作業場なんだか、保存食置き場なんだかはっきりしないというふうになったらいいなあと、常日ごろ考えている。ここで働くわたしというひとが、雑多な、はっきりしない存在であるのだし。
 さてこの部屋は板の間で、畳に換算すると6畳間の広さだが、その面積に加えて北側と東側に出窓が張りだしている。面積と書いて、ちょっと鼻がふくらんだ。初めてこのことばと出合った小学生の時分から今日にいたるまで、少しも親しくなれなかった相手を、なんということもなくひっぱり出していることがこそばゆく、また密かに得意なのだ。面積。面積。面積。ひっぱり出せたということは、わたしの脳に面積という概念が棲んでいた証拠だもの。面積。面積。面積。もう一生分書いてしまったような気もするが。
 ところで、何の面積のはなしだったか。
 そう、わたしの部屋の面積——また書いた——だったな。
 いまこうして向かっている机からふり返ったそこには、部屋の床面積の半分以上があいて、ひろがっている。あいている、というのはわたしの気に入りだ。「がらん」と、殺風景が好みだから。
 この「がらん」を見て、ひらめく。
 ひらめいたわたしは、とっとと納戸へ入りこみ、奥のほうからキャンプのときに使う折りたたみ式の簡易テーブルを出して、わたしの部屋の「がらん」にひろげる。食卓から椅子1脚と、背もたれのない丸椅子1脚を借りてきて、置く。それらしさが足らないような気がして、国語辞典、漢和辞典、広辞苑をならべる。これだけで、たいそうそれらしくなった。
 それらしいという、それとは何か。ついさっき、居間にひろがっていた見慣れた風景を目あたらしいものにするためのそれ。わたしはここへ、自習コーナーをこしらえたつもりなのだ。だから、それらしいとは、自習コーナーらしさを指している。
 居間で仕事をひろげたり、手仕事したり、勉強するのもよかろうと思うけれども、もう少し神妙な、図書館の自習室のような場があってもいいような気がして。



「わたしの部屋に、皆さんが使える自習コーナーを設けました。どうぞ使ってください」
 一同、「何それ」という表情で立ちあがり、見学にやってくる。
「もう、きてもかまわない?」と、ひとりが云う。
「決まりはあるんですか?」と、もうひとりが云う。
「椅子、ふたつだね」と、またひとりが云う。
「どうぞ、いつでもいらしてください。決まりはですね……、音楽なし。食べもの? そうですね、飲みものは持ってきてもいいことにします。3人めになったひとは、椅子を持ってきてくださいな」



 目あたらしい風景は、こんなだ。
 宿題をする者が「ペン習字」をする者にそっと質問したり、書類をつくっていたはずの者がわたしの書架の本を読んでいたり。ときどき、「パソコン貸して」と机を追われてわたしが学習コーナーで手紙書きをするようなこともあった。
 困るのは、それぞれの荷物や帖面を置いたままにすることで、途中で「明窓浄几 置き勉禁止」(※)と書いた紙を貼りだした。



 開設時から、このコーナーは期間限定にしようと決めていた。このちょっと愉快なコーナーが見慣れたものに変わり、もとめていたはずの目あたらしさが消えてしまうのでは、つまらないと思えたからだ。
 春休みがおわる4月はじめには閉じるつもりだった。けれども、3月に東日本大震災が起こり、この特設自習コーナーがとつぜん切実な場となった。家にいるときはここにあつまり、作業や勉強をすることが多くなっていた。被災地を思う気持ち、余震への不安感を抱えている者同士、身を寄せあってそこにある、という風景だった。
 このテーブルをたたんで納戸にしまったのは、桜花もすっかり散った4月も後半のことである。



※明窓浄几(めいそうじょうき)
 明るい窓ときよらかな机。明るく、きよらかな(整理整頓された)机、書斎を指して云う。
※置き勉
 教室に教科書(その他の資料)を置くこと。学校からのプリントにも「置き勉はだめ。置いてよいことになっているもの以外は、家に持ち帰ろう」などと記されている。

Photo



わたしの机から、ふり返って見た
「特設自習コーナー」です。
夏休みになったら、またこれを設けようかと
考えています。







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最終更新日  2011/04/26 10:00:00 AM
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