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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2011/05/02
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カテゴリ: 生活

 里の、古い家だ。
 雨戸を開けようとすると、「その仕事は、あとからやってくるおひとのためにとっておきましょう」といくぼーやさんが云う。
「いくぼーや」——そのことばを、最初に音で聞いたとき、漢字と結ぶことができなかった。それが「育暮家」だと知って、おおいに感心した。そうして、「育」、「暮」、「家」とならんだ3つの漢字をならべ替えても、「いくぼーや」の意味を思うことができるのだという説明に、わたしはもう一度感心する。いまでは、「育暮家」というのほど、組み合わせがよく、だんだんに深まってゆくことばはほかにはなあと思うまでになっている。



 育暮家さんは、この、里の古い家の守り人である。
「ガラスも拭いてもらいたいし、そうだ、薪割りも……」と云いながら、育暮家さんは、そわそわしている。あとからやってくるおひとに、あれもしてもらおう、これもしてもらおうと、そわそわしているのだ。おもしろいひとだなあ。あとからやってくるおひとというのは、お客さんなのにね。そのお客さんに、雨戸をあけてもらい、ガラス拭きやら、薪割りやら。その上、竃(かまど)でお昼ごはんのたけのこご飯を炊いてもらい、味噌汁もつくってもらうのだそうだ。どうなることやら。
 最初のお客さんがやってきた。やってきた順番に、まず雨戸を開けてもらい、つぎに女のひとふたりを廚(くりや)に案内し、育暮家さんは、ふたりのうち片方のだんなさんに、「薪割りと、囲炉裏の火のことを、どうか……」とたのんでいる。お客さんたちはうれしそうに「それじゃ、そうさせてもらいます」なんかと云って、ひと息入れることもせず、持ち場に散ってゆく。これまた、おもしろいお客さんだなあ。
 竃の煙突から細い煙が上がりはじめたころ、つぎつぎとほかのお客さんたちがやってきて、古い家のなかは18人の大人、2人の子ども、1人の赤ちゃんでいっぱいになった。
 わたしは、お膳の仕度をすることにして、棚から人数分の茶碗、お椀、小皿を出して、それを洗って拭く仕事にとりかかる。その仕事をしながら目を上げるたび、箒(ほうき)で座敷を掃いたり、拭き掃除をしたり、育暮家さん期待のガラス拭きをしているお客さんの姿が目に飛びこんでくる。2人の子どもは1人の大人と、庭の奥でたけのこを掘っている。
 廚から、ご飯の炊けるにおいが漂ってきた。



 そのうち、育暮家さんの奥さん——このひとも育暮家なのだけれど、区別をするために「みちこさん」と呼んでいる——が、何人かのお客さんに、上新粉と大きなボウル、木杓子をわたして団子づくりをはじめた。上新粉に熱湯を加えてこね、ちっちゃくまるめる。これは、午後のお茶菓子になるのだそうだ。若い夫婦のお客さんが、前の晩から水につけてあった小豆を鍋ごとわたされて、「あんこ係」になった。
「あんこづくりは初めてなんですけれど」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」というみちこさんの声が聞こえる。



〈昼ごはん〉
  たけのこご飯
 わかめ、玉ねぎ、油揚げの味噌汁
 かつおの角煮
 エシャロット(味噌を添えて)
 はじかみ(金山寺味噌を添えて)
 小さくて黄色いみかん



 質素で見事な昼ごはんのあと、また、みんなで片づけをし、午後1時過ぎ、卓を囲んでふたたび坐る。
〈話のひととき〉 ものがたりの朗読に耳を傾けたり。代わる代わる自分のことを話したり。……ひとの話を聞く。
 ときどきあんこを心配するひと、囲炉裏の火を気にかけているひとが、席を立つ。



〈お三時〉
 ちっちゃい団子6つ(あんこをまぶして)
 新茶(前の日、育暮家さんとわたしが摘んだお茶の葉を手もみにしたもの)



 話のひとときのなかで、聞いたものがたりのさいごのところを、皆で聞く。そして、なんて不思議な話だろうと、ため息をつく。
 誰も彼もため息をつきながら、でも……と思うのだった。でも、わたしたちのきょうも、たいそう不思議だったな、と。初めてのひと同士が出会うなり、一緒に働いたり、となり合って昼ごはんを食べたり。育暮家さんがつくった約束のなかに、この家にやってくるひとは等しく働き、この家を大事に使うというのがある。それがいかに大事で、なおかつ自然なことであるかを、たしかめ合った日。暮らしというのは、家というのは、あらゆる不思議とともにあるものと、思いだすことのできた日。
 子どもたちが掘り上げた、でっかいたけのこを抱えての記念撮影ののち、夕方4時半、さよならをする。



 ものがたりに登場のひとりひとりが、自分のものがたりへとそっと帰ってゆく。



 育暮家さんは、このあと2時間、里にのこった。消した火がほんとうに消えたことをたしかめるため。



                                   *



 以上、4月29日(金)、静岡県藤枝市にある里でひらいていただいた会の、報告です。企画してくださったハイホームス(建設会社)代表の杉村喜美雄さんこそが、「育暮家」の正体です。
 またいつか、あのうつくしい古民家で皆さんにお会いできたら、どんなにうれしいだろうか、と思っています。
 参加してくださった皆さんに、こころを寄せてくださった皆さんに、御礼を申し上げます。杉村さんをはじめ、育暮家・ハイホームスの皆さんにも。




Photo



4月28日。
茶摘みをしながら、のぞむ里の風景です。



Photo_2



4月29日。
「『足りないくらいがおもしろい』サロン」が
ひらかれた「青野さんっち」です。
「青野さんっち」は、主に、
子どもたちの里山体験、竃でのご飯炊き、
民家の知恵を学ぶ家づくり・暮らしづくりの勉強会などに
使われています。
「青野さんっち」のある大沢は、葉梨川の上流にあたり、
上大沢と下大沢の二地区があります。
大沢の家家は、「がけ地近接危険住宅移転事業(藤枝市)」に
指定されています。
そのため、かつては70戸あった住戸が、現在は10数戸に
なってしまいました。
下大沢の一画に移築可能な土地を確保し、
壊す予定の家を譲ってもらってできたのが「青野さんっち」です。
育暮家さんは、古い家を再生にむけて解体し、移築し、よみがえら
せました。
その仕事には、多くの職人さんの志と技が結集しています。

育暮家さんたちが、祭事やしきたりを学びながら、
里の一員として「青野さんっち」を運営している様子に、
訪ねるたび感動させられます。
(撮影は、ハイホームスの太田順子さん)







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最終更新日  2011/05/02 10:21:33 AM
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