ORANGEVERT

ORANGEVERT

2005.03.05
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 ショーウィンドウの中での
「憧れ」でしかなかったものが
 現実になる魔法。

 それを恵が手に入れた、と言えば、
 みんな笑うだろうか。

 もちろん恵は誰にも言うつもりはなかった。

 着ている冬物にしては生地が薄い安物の紺色のジャケットの
 ポケットの奥にあるカードを指で確かめる。

 カードは恵のものではない。


 「借りた」というのが一番ちかいのかもしれないが厳密にいえば、
 それもちがう。

 現にカードには他の誰でもない恵の名前がフルネームで刻まれている。


 恵は、ある相手を取引をした。
 そして、その交換条件としてオールマイティーの、このカードが
 貸与された。

 会社員が勤務先から、社員証やノートパソコンなどを貸与されるのと
 似たようなものだ。

 一見するとクレジットカードに似ているが、どこの会社名も記載されていない。

 どこの国の言葉かわからない文字と16桁の数字が並んでいるだけだ。


 だが、このカードで、どんな店のどんな品物でも、

 ことができる、と恵にカードを渡した相手は言った。

 話がうますぎる。

 と、内心思ったのだが恵は相手の話にのることにした。


 どのみち選択の余地はあまりなかった。



 貯金もなかったので2週間のブランクは痛い。

 来週からの生活やローンの支払いをどうしよう、と考えていた矢先だったのだ。

■※□※■※□※■※□※■※□


 「イチかバチかやってみるしか仕方ないわ」


 恵は、と、あるブティックに勇気を出して足を踏み入れる。
 犯罪者のように、心臓がどきどきしている。

 「これ、いただくわ」



 結果は。。。。。
 あっけないくらい簡単だった。
 ショーウィンドウに飾られている高価そうな、春物らしい
 華やいだ色合いでコーディネイトされたジャケット、ブラウス、
 スカートを手に入れて、店員にうやうやしく見送られながら
 恵は、さっそうと店を出た。


 店員は、怪しみもせずカードを受け取るとレジスターに
 数字を打ち込み、恵はサインするだけでよかった。


 今、手に入れたばかりの服はブティックのロゴの入った白い紙袋の
 中で羽のような軽さで収まっている。


 サーモンピンクのスカートとジャケット、スタンドカラーの真っ白い
 ブラウスもかすかに蛍光色を帯びていて垢抜けたデザインだった。
 今までならば、一瞬、足を止めてもため息とともに忘れ去らなければ
 ならないものが自分のものになる。


 あたまの中に虹がかかったように、ぼうっとなる。

 2月のまだ寒い風が吹きつけるのを感じて、われに返り
 恵は自分の今着ている紺色のジャケットが、いかに
 みすぼらしく見えるか、ということに初めて気がついた。


■※□※■※□※■※□※■※□

それから、というもの、恵は買い物に明け暮れた。
目についたものを服といわず、靴、香水、アクセサリー、
小型の室内犬まで買った。

そうしていけないワケはない。

彼女に魔法のカードを預けた男も限度額など気にする
必要はない、このカードはオールマイティーだから、と
言っていたではないか。

そればかりか、カードで銀行から金を下ろせることがわかった。
ほんのイタズラ心で試してみたらATMの機会に、打ち込んだとおりの
金額が出てきた。

アパートは引っ越した。
選択の余地があるのに好き好んで
街道沿いの車の騒音でうるさい、狭い収納のない
部屋に押し込められている理由はない。

買い物三昧の生活に飽きた恵はアルバイトを始めた。

表参道の近くにある画廊で受付をする仕事だ。
時給は安かったが気にならなかった。


不思議なことに、というか当然のこと、というか
恵はモテはじめた。

出会った人間は男女を問わず、みな彼女に好意を持ち
彼女のために何かしたくなるようだった。

プレゼントも山のようにもらった。
魔法のカードで何でも手に入れられる恵にとっても、
やはりプレゼントされるのは、また別で
気持ちのいいものだった。

自尊心が満足させられるし、プレゼントは自分では
思いがけないような品物も多かった。

やがて、受け取ることが、あたりまえになった
恵の心の中に、本人も気づかないほど微かにだが
別のかたちの欲望が芽生えはじめていた。

■※□※■※□※■※□※■※□

雅彦に、もう一度会いたい。
会って確かめたい。

雅彦は、かつて恵をフッた男だ。
そのことでずいぶん恨んだこともある。

傷が癒えたあとでも思い出すと、
彼のやりかたは、ずいぶんひどかった、と思う。

その頃の恵は、今の用ではなく、生活を切り詰めなければ
ならなかったし、適性のない仕事をこなさなければならず、
何に対しても自信がもてず、どこかオドオドしていた。

そこに付け込まれるような形で別れを切り出された。


まだ、削除することができないでいた
彼の携帯の番号を押す。番号は変わっていなかったので
彼はすぐに出た。

興味本位なのか、彼は恵に再び会うことを簡単に承知した。


駅前の喫茶店で、会った彼は、その頃と変わって見えた。
こんなに猫背の男だったかしら。
それに、不摂生がたたっているのか肌もザラザラに荒れて
毛穴が開いているのが見える。

彼が変わったのではなく、自分が変わったのだ、ということに
やがて恵は気づく。
彼に対してもっていた感情的なフィルターが消滅していた。
だから、ありのままに見えるのだ。

「見返してやりたい」
という気持ちはなくなった。
恵は柔らかく微笑んで、付き合っていた頃の思い出話をして
そのまま彼とどこかに行くこともなく別れた。

恵は現在、付き合っている男性がいた。
ある一点をのぞけば申し分のない相手だったし
裏切るつもりはなかった。

雅彦は終始、まぶしそうな目つきで恵を眺めているだけだった。


■※□※■※□※■※□※■※□

恵が部屋に帰ると、そこには彼女にカードを渡し、
取引しよう、と持ちかけた男が静かに座っていた。

「交換条件を出しにきたのね。
 あなたが、どんな人だとしても、たとえ悪魔だとしてもかまわないわ。」

恵は相手の目を見ながら言った。

「交換条件ではありませんよ。あなたは見事にやり遂げた。
 十分に力をつけ、資格は十分だ。」

男はゆっくりといった。

「カードをお返しください。」

「なんですって?? いまさら困るわ。」

「どうしてですか? あなたはカードを使って欲しいものを
 すべてではないにしろタダで手に入れた。
 あなたにとっても悪い話ではなかった、と思うが。」

「だって、家賃だって、18万円はかかるし、今さら、生活を落とせないわ。
 それなのに私は時給900円で一日6時間しか働いていないわ。
 今さら、もとの生活に戻ることなんか、できない! それに・・・」


彼女のお腹には、愛する相手の赤ん坊が宿っていた。
だが、相手には家庭があった。
金や生活の心配をする必要がないので、彼女は簡単に考えていた。
彼の子供が欲しかったのだ。
彼に似た男の子を可愛がりたい、と思った。

「もとの生活に戻るのか、どうかは、それは、あなた次第だ。」

「私に何をさせようっていうの?」
「何も」

恵は混乱する。男は言葉を続ける。

「私たちは、ひそかにあなたのすること、あなたの変化を見ていた。
 あなたは金で買うことのできるものを手に入れながら、金では買えないものまで
 手に入れている。資格は十分過ぎるくらいにある。」

「私から、すべてを奪っておいて、何の資格だというの。」

「私たちは、あなたから、すべてを奪ったりはしません。
 奪われるのも、奪われないのも、あなた次第です。」

「何がいいたいのか、全然わからないわ」

男は名刺を取り出した。
そこには、上品は字体で、こう印刷されていた。

「365日で強運美女になる魔法」

「365日なんて期限、聞いていないわ! それに、まだ半年よ。」

「期限を先に教えると、みな萎縮してしまうのです。自分の欲することを
 しなくなるのです。」

男は続ける。

「私たちはまず、あなたに金で買えるものを与え、生活の心配を取り除くことで
 あなた本来の持っている自信や魅力、といったものを引き出しました。
 あなたは、すべてを奪われたわけでは、ありません。あとはどうやって
 魔法なしで、あなたの望むものを手に入れていくか、ということだけです。
 そう難しいことではないはずだ。健闘を祈りますよ。」

「ああ、私はやはり悪魔と契約したのね、そうでなければこんな・・・」

「私たちのことをチャンスの神、という者もあり、あなたのように悪魔、という
 者もあり。けれど、そのどちらでもありません。
 あえて人間にわかりやすく言えば「運命」とでも言ったらいいんでしょうか
 私たちがあなたにとって神になるか、悪魔になるか、それは
 あなた次第なんです。」

男はウィンクすると、どこへともなく消えた。












お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2005.03.06 20:12:33
コメント(2) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:365日で強運美女になる魔法(03/05)  
wa!ひろ  さん
面白い発想で私の好きなジャンルです!
これをシナリオに書き直せないかしら~~~。
ねこの木さんにシナリオの書き方を伝授したいです。
これだけで1話完結の1時間のテレビ番組のシナリオがかけます。
是非シナリオの書き方を覚えて一度テレビ局の公募に応募される事をお薦めします。
今度お会いした時にでもノートもって来て下さい。ぜひ覚えて書いてもらいたいです。勿体無いです。
今はご自分の手法でどんどん暖めている作品があれば書き貯めておくといいと思います。拍手!!! (2005.03.06 21:26:42)

Re:  
ねこの木  さん
ぜひぜひ、教えていただきたい!
ただで、とはいいません。 といっても
ビンボーなので、お茶をご馳走するとか、
その位しかできないのですが^^;

自己啓発の本などを読んで日ごろ感じている
ことを、ショートショートにまとめてみました。
主人公が自分の力で、もっと×2
欲しいものを、どんどん手に入れていけるのを
願ってやみません。 (2005.03.08 18:35:32)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Favorite Blog

まだ登録されていません

Comments

ゆう@ とうとう出ちゃったね うわさは本当だったよ。 http://himitsu.…
ねこの木 @ Re: ぜひぜひ、教えていただきたい! ただで…
wa!ひろ @ Re:365日で強運美女になる魔法(03/05) 面白い発想で私の好きなジャンルです! …
ねこの木 @ どうも、ありがとう! お久しぶりです。 最近、携帯で楽に読…
wa!ひろ @ Re:アンドロイドと電気猫(02/26) すごい。 ねこの木さんの文章力にはまり…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: