東方見雲録

東方見雲録

2023.08.18
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カテゴリ: 郷土




追放されたスサノオは…
そんなことで、いやがられ、出て行けと言われた須佐之男命(スサノオノミコト)は高天原を出て、出雲国の、肥河(ひのかわ)という川の上流、地名で言うと鳥髪(とりかみ)というところに降ってきた。

須佐之男命は、

「いやあ、川だなあ。川があるとどうしても、この、川の流れというものを見つめてしまうな。なぜだろうな」

と言って川の流れを見つめた。暫く見つめて須佐之男命は言った。
「別にただ水が流れているだけだ。もう見るのをやめようかな。いや、でももう少しだけ見ようかな」

そう言って須佐之男命がなおも川を見つめていると川上から箸のようなものが流れてきた。

「お、なんだ」



やはり箸であった。

「ううむ。箸か。ってことは。この川上に人が住んでいるということだな。おもろ。行って笑かしたろかな」

そう言って須佐之男命は川上に向かって歩いていった。

そうしたところ言わんこっちゃない、川上に家があって人が住んでいた。

「家、おもろ」

と須佐之男命は思ったが、家の中ではおもろくないことが展開していた。おっさんとおばはんが、間に女の子をはそんで愁嘆に泣いていたのである。

「陰気くさいじゃないですか。汝ら何者ですか」

須佐之男命が問うと、おっさんが答えて言った。

「僕は、此の国の神さん、大山津見神(オオヤマツミノカミ)の子なんです」

「あー、知ってますよ。大山津見神」

「よかったです。で、僕の名前は足名椎(アシナヅチ)ちいます。これは私の妻で手名椎(テナヅチ)、へてからに此処におりますのが娘でございまして、櫛名田比売(クシナダヒメ)ちいます」



「そうなんです」

「わかりました。わかってよかったです」

超巨大蛇が年一で来て…
「ええ、そいで、あの、質問はそれだけですか」

「ええ」

「いや、あの私らが泣いてる理由は聞かへんのでしょうか」



「なんで?」

「興味ないんで」

「聞いてくださいよ」

「では聞きます。あなたはなぜ泣いてるんですか」

「よう、聞いてくれはった。実はね、私には元々、娘が八人、おったんです」

「仰山、おったんですね」

「ええ。ところがあんた、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)、ちゅう、超巨大蛇が年一で来て、娘、食うてまいよって、とうとうこの娘だけになってもうたんです。その最後の一人になった娘をあんた、今年もまた食いにきやがりまんね。ほれで泣いてまんね」

「なるほど。凄い蛇ですね。ど、ど、どんな形してますの?」

「興味、出てきましたね。そらもう、あんた、おとろしですわ。まず、目ェがもの凄いですわ。目ェが」

「どんななんです」

「目ェがまっ赤いけなんです。赤目なんです。酸漿(ほおずき)みたいな色の目ェです」

「ああ。それはちょっと気色悪いですね」

「それからですね、胴体は一本なんですけど、頭が八個あって、尾ォも八本あるんです」

「それはかなり気色悪いですね」

「それから、身体中に、草、生えてるんです」

「草? なんの草?」

「日陰蔓(ひかげかずら)です」

「なるほどね」

「それから木ぃも生えてるんです。杉と檜なんですけどね」

「ちょっと理解できないんですが、小さい杉と檜ですか?」

「普通のやつです」

「どういうことでしょうか」

「それくらいに大きいんですよ、身体が」

「マジですか。どれくらい大きい」

「長さで言うと、谷が八つ、山が八つ分です」

「マジですか」

「マジです。腹は常に爛れて、常に血がダラダラ流れてます」

「それ、嫌ですねぇ。痛くないんですかねぇ」

「わかりませんが、気にしてる感じはないですねぇ」

娘は櫛になった
八岐大蛇のことを一通り聞いた須佐之男命は言った。

「ちょっと尋ねますけど」

「なんでしょうか」

「この汝の娘さん、吾に奉りません?」

「どういうことでしょうか」

「吾に献上しませんか」

「どういうことでしょうか」

「吾の妻にしたいのですが」

「どういうことでしょうか」

「妻、わかりませんか。もし汝がおちょくっているのであれば殺しますが」

「すみません。おちょくってました。わかりました。こんな地方の娘をご所望というのは畏れ多いことですが、ただ、まだお名前もうかがっておりません。名前も知らぬ方に献上っていうのはどうなんでしょうか? 可能なんでしょうか? なんか躊躇します」

「それは理解できる。それでは私の名前を言おう。私は天照大御神(アマテラスオオミカミ)の弟。いま天から降ってきたのである」

須佐之男命がそう言うのを聞いて足名椎は七尺飛び上がった。手名椎は八尺めりこんだ。櫛名田比売はそのままだった。彼らは声を揃えて言った。

「其れであるなれば畏れ多いことでございます。娘を奉ります」

「よかったです。それならば貰います」

そう言って須佐之男命は手を伸ばし、その娘を片手で持ち上げた。そうしたところ、その娘は神聖な櫛になった。

「こ、これは、どういうことでしょうか」

そう言って心配する足名椎と手名椎に須佐之男命は、

「大事ない」

と言ってこれを自分の髪の毛の横のふくれた形に結ったところ(之をみずらと謂ふ)に挿した。

「こうしておけば八岐大蛇に気がつかれない」

「なるほど。しかし」

「しかし、なんですか」

「後でまた、元の感じに戻して貰えますのでしょうか。もしかして娘は一生、櫛……」

「大丈夫、大丈夫」

「本当でしょうか。その軽い感じが気になるんですけど」

酒を用意してください
「大丈夫ですよ。それより、頼みがいくつかあります」

「なんでしょうか」

「酒をね、醸造して欲しいんです」

「よろしおます。あんた、飲みなはる?」

「違う。吾が飲むのではなく、蛇に飲ませるのだ。だからね、普通の酒じゃ、あかんぜ。何回も、そう、八回、今回はなんでも八っていう数が鍵になっているから八回、八回醸してください。所謂八塩折(やしおおり)の酒、というやつです。それから、この家を取り囲む、壁を作ってください。その壁の八箇所に門を作ってください。その八箇所の門に八つの台を置いてください。その台の上に、酒船、置いて、作った八塩折の酒、いっぱいいっぱい入れて、そいで蛇、来るの待ってください」

「えらい、手間かかりまんな。それでどうなります」

「つべこべ言わず、言われた通りにしろ」

「了解です」

足名椎は近所に住む土民を集め、言われた通りのことをして、立派な垣と門ができ、門には酒船が置かれ、酒船には八塩折の酒が満たされ、あたりにいい香りが漂った。

「あんたえらい顔赤いな」

「人聞きの悪いこと言うな。そんなこと言うたら俺が酒、盗み飲みしたみたいやんけ」

「疑ってすまん」

「ほんまやで。気いつけや。さっ、ほんなら、八岐大蛇が来る前に、もう一杯だけよばれて帰ろ」

「飲んでんのんかーい」

そんなことを言いながら土民は蛇が来る前に各々の家に帰っていった。みな、赤い顔をしてフラフラであった。

ヤマタノオロチがやって来た
そうこうするうちに、山の彼方から、ずさっ、ずさっ、という音が響いて、地面が揺れた。

本当に八岐大蛇がやって来たのである。

「さ、おたくらも、危ないから家の中入ってください」

そう言って須佐之男は足名椎と手名椎を門のなかに入らせ、自分は少し離れたところに隠れて様子を窺った。そうしたところ、ついに八岐大蛇がすぐ近くまでやって来た。

足名椎の言ったことは噓ではなく、その様はまるで山が動いてくるようで、さすがの須佐之男もこれには度肝を抜かれたようだった。

そして足名椎の家の近くまで来て、八岐大蛇は不思議そうな顔で、あたりを見回していた。なんとなれば年に一度の楽しみの、娘が見当たらなかったからである。

「あれ、おっかしいなあ」

そう言い、八個の頭を彼方此方に動かしたが、やはり娘の姿がない。しかしそのうちに鼻をスンスンさせはじめたかと思うと、「気のせいかしら、いい匂いがする」と言って首を傾げ、そして、八つ門のところ、八つ台の上に八つの酒船が置いてあるのを見つけ、

「わーい。おいしそー」

と言ってこれに八つの頭を同時に突っ込んで、ガブガブ飲んだが、これがいけなかった。

というのは、これが普通の酒ならそんなこともないのかも知れないが、なにしろ八回も醸した、八塩折の酒。アルコール度数がきわめて高い。しかも八つの口で一本の胴体目がけて飲んだものだから、いっぺんに酔いが回り、一言、

「ああ、酔うた」

と言うたかと思ったら、ずさっ、とその場に倒れて、グウグウ寝てしまった。

スサノオは十拳の剣を抜いた
少し離れたところから様子を窺っていた須佐之男は、もう大丈夫やろう、というので門のところまで来ると、「ははは。アホや」と言いながら、腰に帯びた十拳の剣を抜き放ち、これを振りかざすと、「えいっ」気合いとともに、振り下ろした。

ぼそっ。

と八岐大蛇の頭が落ちた。といって安心できないのは、まだ後、七個、頭があるからで、須佐之男は門をめぐって、次々と頭を切り落としていった。

「えいっ」

ぼそっ。

「えいっ」

ぼそっ。

「えいっ」

ぼそっ。

「けっこう疲れるなあ、えいっ」

ぼそっ。

「えいっ」

ぼそっ。

「後、二個かあ、えいっ」

ぼそっ。

「これでしまいじゃ、えいっ」

ぼそっ。

と、そうして須佐之男が八岐大蛇の頸を切ったので、夥しい量の血が、まるで鉄砲水のように噴出、近所を流れる肥の河に流れ込み、肥の河は水ではなく血が流れる川に変じた。

どんだけ大きい蛇やねん、凄いなあ、という話であるが、それを一刀のもとに斬った須佐之男命は実際の話、もっと凄い。

そのように八つの頭をすべて切り落とされた八岐大蛇は、くたっ、となったが、しかしなお胴体がビクビク動いていて、万が一、復活したら面倒くさい、と思った須佐之男は、一応、念の為、というので十拳の剣を振りかぶると、「えいっ」気合いとともに振り下ろした。

そのときなぜか、カチン、という音がした。不思議に思った須佐之男が剣を調べると、なんということであろうか、刃こぼれがしている。

「おっかしいなあ。なんぼ大蛇とはいえ、こんな蛇の骨ごときで刃こぼれするような剣ではないのだが。もしかしてなかに固い石かなにかが入っていたのかな」

須佐之男はぶつぶついいながら、切っ先で死んだ大蛇の尾を割いた。そうしたところ尾の中に、いい感じの、ムチャクチャに切れそうな刀が入っていた。

須佐之男はこれを取り出すと、たいへんに貴重なもの、ということで、天照大御神に献上、天照大御神はこれを受け取った。これ即ち、草那芸剣(くさなぎのつるぎ)である。これを献上したことによって須佐之男命の罪は許され、穢れが祓(はら)われたのである。

引用サイト: こちら

関連日記:2023.08.13の日記  保育園で「石見神楽」  こちら

関連日記:2023.08.15の日記  島根県の妖怪・伝説 ヤマタノオロチ  こちら

ちょっと道草:ヤマタノオロチと「ひの川」
前回紹介した金持は、鳥取県日野郡日野町にある。日本神話で有名なスサノオノミコトの話は出雲が舞台だが、この地方も、関係がないわけではない。

天上界から出雲の鳥髪山(現在の船通山)へ降ったスサノオは、その地を荒らしていたヤマタノオロチを退治し、その尾の中から出てきた天叢雲剣を天照大神に献上した。
船通山は島根県と鳥取県の県境にある山で、ここを島根県側に降りるたところが、たたら製鉄で巨富を築いたことで知られる、桜井家や絲原家のある奥出雲町である。

天照大神に献上した天叢雲剣はヤマタノオロチの尾の中から出てくるが、その際、スサノオの持っていた剣は当たって欠けてしまった。これは、スサノオの使っていた青銅製の剣が、出雲の鉄製の剣に敗れ、その強力な鉄製の剣を持った出雲の一族が天照大神=大和政権のもとに従ったと考えられる。つまり、大和朝廷が、たたら製鉄文化圏を支配下においたことを意味しているのだ。

ヤマタノオロチの住んでいた「肥の川」(簸の川)は、島根県の斐伊川とするのが通説だが、実は同じ船通山付近を源にして東側の鳥取県に流れ出る川に、「日野川」という川がある。そして、発音の同じこの川を少しくだったところが日野町で、近代まではたたら製鉄の本場として知られていた。古代においては、奥出雲と同じ製鉄文化圏に属していた、と考えるのが妥当だろう。
引用サイト:森岡浩 人名・地名コラム  こちら
・・・・追記
関連日記:2024.02.10の日記  日野川流域 たたら  製錬関連まとめ日記   こちら
関連日記:2026.01.18の日記  雲伯地域 日野川、斐伊川流域交流   こちら
関連日記:2025.04.21の日記  船通山   こちら





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Last updated  2026.09.10 09:04:39
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