東方見雲録

東方見雲録

2024.11.01
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カテゴリ: まちづくり




山極壽一氏:

人間の本質って僕は共感力だと思う。人間以外の動物の集団というのは、ゴリラもチンパンジーもそうなんだけど、自分の利益を高めるために群に属している。だから、自分の利益が落ち始めたら、その集団を離れるわけです。

ところが人間って自分の利益を落としてでも、その集団に尽くそうとするんです。これが人間の持っている共感力の成せる技だね。それは相手の気持ちがわかって、相手が困っていることがわかって、何とか相手を助けたい、自分が犠牲を払ってでも相手が喜ぶ姿を見たいっていう気持ちから発しているんだけど。

ひょっとしたら将来自分も相手の立場に立って困ることがあるかもしれない。そのときに助けてもらいたいなと思うだろう。そこまで人間は考えるわけ。それが人間の社会力に繋がるわけだよね。

みんなが自己犠牲を払ってでも集団のために尽くしたいと思うから、集団の力が生まれる。そのおかげで、人間はゴリラやチンパンジーと他の動物にはできない、社会力を持つことができるようになった。

――人間の欠点も見えるんですか。

山極壽一氏:

欠点はいっぱいあるわけだよ。例えば言葉。言葉を持つことによって人間が他の動物と区別されるって誰もが思っているわけだよね。でも、言葉って一体何のために現れたのか。何のために現れたと思う?

――共感力をわかりやすくするため?気持ちを伝えるため?



間違い。相手の気持ちを知るために、言葉だけを手がかりにしていますか。

――違いますね。

山極壽一氏:

顔の表情とか、接触とか、匂いとか、いろんな材料で相手の気持ちを知るわけじゃない。言葉ってそれを裏切ることが多いよね。言葉で喋られちゃうと本当にそう思ってるの?みたいな。

僕は言葉を喋れないゴリラとずっと付き合ってきたけど、全然問題なく気持ちはわかり合えていますよ。言葉なんか喋らなくていいわけ。

山極壽一氏:

言葉って情報なんだよ。情報を伝えるために現れた。ゴリラってずっと一日中みんなまとまって顔を合わせて動いているから、情報を伝え合う必要がないわけ。

人間はゴリラが住んでいるアフリカの熱帯雨林をずっと古い昔に出て、サバンナで暮らし始めたわけだよね。サバンナって怖い肉食獣がウヨウヨしているから、弱い人たち、つまり身重の女性とか、幼い子どもたちは安全な隔離場所に隠れていて、屈強な者が遠くまで出かけていって、食糧を採集して帰ってこなくちゃいけなかったわけだよね。

そうすると情報交換する必要が出てくるわけ。持ち帰ってきた食物をどこでどのようにして捉えたのかっていうことを何かによって示さなくちゃいけないわけじゃない。情報が必要になってくるのは、人間が離れたり、くっつきあったりということが頻繁に行われるようになってから。

言葉って、どこにでも持ち運びできる。遠くにあって見えないものを言葉によって伝えることができる。過去に起こってしまって自分が体験できなかったことを、それを体験した誰かが言葉によって伝えてくれることはあるんです。それによって知識や世界が広がるわけ。言葉ってそういうものなの。情報なんですよ。

・・・・



山極壽一氏:

それぞれが違っているってことを尊重し合いながら、違う意見を出し合うのが本来の話し合いであって、自分が気がつかなかった新しい解決策が出てきたり、発想ができたり、新しい未来が描けたりするわけでしょ。

人間がそれぞれ違っているということが、人間社会が発展してきた大きな力なんです。今あらゆるものがAIに依存するようになって、均質な世界になっているわけです。みんなが同じ方向に誘導されていって、同じような結果に満足するようになってしまう。そうすると、それはすごく弱い体制なんですね。

みんなが違うのが当たり前で、みんなが違うからこそ面白いことができるっていうふうにならないと本来いけないんじゃないかと思う。

ゴリラとともに暮らすことで自然の中で生きることの大切さを身をもって感じてきた山極氏の、現代社会に対しての提言とは。



山極壽一氏:

都市が駄目なんですよ。みんな箱物じゃないですか。長方形の箱がくっついたようなものが家じゃないですか。そこにみんないるから、同じような暮らしのデザインになっちゃうわけです。

地域に行けば、箱物じゃないものがいっぱいあるわけですよ、人間の暮らしの中にね。そういう中に接しているといろんなものに対処できるようになる。世界中の人口の半分以上が都市に暮らしています。地方はどんどん貧しくなっていく。それは都市の価値がどんどん地方に委譲されて、都市の価値で地域が測られる。しかも都市の下請けを地方に引き受けさせるようになっているわけです。逆に、地域の価値を都市に持ってくるようにしないといけない。

そのためには、都市の人が自分の住んでいるところだけじゃなくて、地域にもう1か所、2か所、居住先を作る。多地域居住というのをこれから推奨すべきだと思っているんだよね。地域の人たちが異質の人を受け入れながら、その地域の発展をデザインしていくことができれば。特に若い人たちにどんどん行ってほしいと思うわけ。

関連日記:2024.09.08の日記  こちら





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Last updated  2024.11.01 08:00:12
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