東方見雲録

東方見雲録

2025.10.15
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カテゴリ: 文化
81年前の夏には、政府や軍の機関が「対米開戦は不可」という予想がいくつも出されていた。にもかかわらずなぜ日本は破滅への道を選んだのか。

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有沢広巳監修『昭和経済史(上)』より。有沢は「秋丸機関」中核メンバーだった
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対米戦争は米国など連合国が石油や 屑くず 鉄などの対日輸出を止め、米国が日本に中国からの撤退などを突き付けたことが引き金になった。開戦すれば負ける確率が非常に高いが、資源が豊富な蘭印(オランダ領インドネシア)を占領すれば重要物資は手に入る。独ソ戦でドイツが勝って英国を屈服させ、緒戦で米軍をたたけば米国は戦う意欲を失い、日本有利の講和に応じる可能性も皆無とはいえない。一方で開戦しなければ石油禁輸による国力の消耗は止まらず、日本は戦わずして2~3年で間違いなく米国に屈服する。

 行動経済学のプロスペクト理論では、「合理的に考えれば無謀とわかっていても、現状維持よりはわずかながら可能性がある」時に、不合理な選択が行われることがあるという。これに加えて、抜きんでた指導者がいない「集団意志決定」の状態下では極端で明確な意見が好まれ、集団の構成員がリスクを冒す方向に流れてしまう「リスキーシフト」が起きやすいことが社会心理学の研究でわかっている。当時の日本は無謀な開戦を選ぶ「空気」が二重に覆っていたことになる。

ボルネオ・サンガサンガ油田の新油井から自噴した石油とされる写真。占領した蘭印での石油生産は順調だった(『大東亞戰爭海軍作戰寫眞記録2』国立国会図書館蔵)
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総力戦研究所の模擬内閣が「日本必敗」を予想した最大の理由は、広大な占領地をつなぐシーレーンが確保できないとみたからだった。戦争遂行に必要な資源を日本に運ぶには、昭和16年の商船保有量300万トンの維持が不可欠だが、現状では米英の攻撃で年間120万トンの輸送船の消耗は避けられない。日本の造船能力は多く見積もって年60万トンだから、差し引き年間60万トンずつ減ってしまう。
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だが、政府は「開戦当初の作戦が終われば軍が兵員輸送用に民間から借り上げていた 徴ちょう傭よう 船が民間に戻されるため、多少の消耗があっても300万トンは維持できる」という企画院の楽観的な見通しにすがった。企画院総裁だった鈴木貞一(1888~1989)は後に「(戦争を)やるかやらんかといえば、もうやることに決まっていたようなものだった。やるためにつじつまを合わせるようになっていた」と述懐している。
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 開戦直後に日本は南方油田の占領に成功し、昭和17年の産油量はインドネシアのパレンバン油田だけで戦争遂行に必要な500万トンに達した。しかし、態勢を立て直した米軍は潜水艦や爆撃機で商船を攻撃する「通商破壊」を強化し、徴傭船を含む民間船の船舶消耗量は昭和17年度(1942年度)に早くも100万トンを超え、船舶不足で石油が運べなくなる。護衛を求める商船隊の暗号無電は傍受・解読され、米軍の餌食となるために位置を知らせるようなものだった。油田地帯では一向に来ない輸送船に業を煮やし、生ゴムの袋に石油を詰め、海流に乗せて日本に届けようとしたという
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海軍が「海上護衛総司令部」を置いてシーレーン防衛に本腰を入れたのはようやく昭和18年(1943年)11月になってから。総司令部発足にあたって挨拶した軍令部総長の永野 修おさ身み (1880~1947)が「ここに至って海上護衛総司令部ができるということは、病が危篤状態に陥って医者を呼ぶようなものであるかもしれない」と嘆いた通り、時すでに遅かった。旧式艦をかき集めた護衛で米国の攻撃を止められるはずもなく、18年度(43年度)には235万トン、19年度(44年度)には340万トンが沈められて日本の商船隊は壊滅する。
 太平洋戦争で失われた日本の船舶は約2500隻、840万トンを超え、死者・行方不明となった船員は6万人を超えるとされる。欧米をアジアから追い出して日本を盟主とする大東亜共栄圏を築き、資源、食料、労働力を調達して総力戦で負けない国力をつけるというもくろみも、シーレーンが寸断されて画餅に帰し、77年前、日本は焦土と化した。


安達宏昭『大東亜共栄圏』などを参考に筆者作成。構想ではインドとオーストラリアも共栄圏に含まれていた
引用サイト:​ こちら ​


関連日記:2025.10.10の日記 石破茂首相 所感「戦後80年に寄せて」   こちら





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Last updated  2025.10.15 08:00:05
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