プレリュード

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2010年06月21日
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スメタナ作曲 交響詩「わが祖国」

クラシック音楽には強烈に母国・祖国を誇り高く謳いあげた作品が数多く遺されています。フィンランドの作曲家シベリウスが書いた交響詩「フィンランディア」がもっとも有名曲の一つでしょう。またスペインのグラナドスが書いている「スペイン舞曲」やチェコのドヴォルザーク作曲の交響曲などもその例にもれません。

そのチェコでももう一人有名な作曲家で作品名がそのものずばりの「わが祖国」という連作交響詩が遺されています。

現在世界中で様々な音楽祭が催されていますが、開幕日と開幕のコンサート・プログラムが発足以来変わることのない音楽祭があります。 それはチェコの「プラハの春」と呼ばれるフェスティバルです。

第2次世界大戦後すぐに催された音楽祭で、開幕日は5月12日でオープニング・プログラムはペドルジーハ・スメタナ(1824-1884)作曲のその連作交響詩「わが祖国」が、初めての音楽祭以来変わることなく続けられています。それはこの5月12日は「チェコ音楽の父」とチェコ国民から呼ばれているスメタナの命日になるからです。

チェコスロヴァキアは長い年月オーストリア帝政時代の占領統治下にあり、その圧政に国民が疲労困憊の状態でした。 ヨーロッパ全体が帝国主義国によって支配されていた国が多かったのですが、スメタナの時代になって欧州に民族主義運動が広がっており、政治・文化の両面で大きな運動の波が押し寄せており、スメタナが生まれたボヘミアでも民族主義運動が高まっていた時代でした。

スメタナは熱烈な愛国者であり「民族自立」へ熱い志を持っていて、オペラ「売られた花嫁」によって見事に民族音楽への基礎を確立したあと、この連作交響詩「わが祖国」がスメタナの祖国愛の迸りから生まれていて、祖国の大自然や歴史的英雄の回顧や土地などを題材にしており、6曲の交響詩から構成されています。 これらの音楽には、チェコスロヴァキアの豊かな緑に恵まれた自然をスメタナの限りない祖国への愛情で音楽として表現されています。

オーストリア圧政の時代にも、1968年の旧ソ連の軍事介入による悲劇の時代にも、チェコの人々に勇気を与え続けた音楽で、「プラハの春」音楽祭開幕をスメタナの命日にあたる5月12日として、そのオープニング・プログラムがこの「わが祖国」でチェコフィルハーモニー管弦楽団によって演奏されると決められたのでした。

スメタナはベートーベンと同じく難聴で苦しんだ作曲家でした。 この「わが祖国」の第1曲「高い城」の作曲に取りかかった時にはスメタナ50歳で、もう難聴はかなりひどい状況で、第2曲「モルダウ」が作曲された頃には、完全に耳が聞こえないという何とも痛ましい病状だったそうです。

作曲家・音楽家にとって痛恨の病状のなかで、スメタナは5年の歳月をかけて6曲の音楽を完成して1882年に全曲が初演されたのですが、その時には自分の書いた音楽を「音」として自分の耳で聴くことが出来ない状態だったそうです。 



第1曲「高い城」

ハープによって憧憬に満ちたような美しい主題が冒頭から奏でられます。 モルダウ河のほとりには中世ボヘミア王国の古城ヴィシュフラッドが現在でも建っており、そこには伝説の吟遊詩人ルミールが住んでいたとされており、英雄の歌や愛の歌を歌っていたのです。

このハープによる主題はルミールの竪琴を表していて、この旋律は第1曲の主題だけでなく、全曲を通じての重要な主題となっています。

この主題が変奏されてかつての栄光の祖国への回想と、ボヘミアの栄枯盛衰の歴史をつぶさに眺めてきた「高い城」によって祖国愛を語っていると思います。

第2曲「モルダウ」

「わが祖国」中で最も有名な曲で単独で演奏会や録音などで採り上げられています。 「モルダウ」とはチェコ中央部を流れる大河モルダウ河のことで、その河の景観を描いています。

曲冒頭ではボヘミア南部の森の水源から湧き出す水を表現しているような旋律によって河の起こりを表しており、次第に水かさを増し川幅を広げてやがて大河となってボヘミアの森と野を流れプラハに至る様を、美しく、とうとうとした旋律で表現されており、全曲中最も美しい部分でこの作品の白眉となっています。

そして河の周囲に住む農民たちの踊りや、静かな月光の夜の水の精や、河の急流や、高い城が描かれていき、まるで河を船で下るかのような音の絵巻物のような音楽にあふれた、メンデルスゾーンも脱帽の「音の風景画家」といった、あらゆる交響詩の中でも最高の名作かと思います。

第3曲「シャルカ」

チェコの伝説に「シャルカ」という伝説の女王がいたそうです。 スメタナは彼女の伝説を採り上げて、祖国の栄光の歴史を偲んでいるようです。

伝説では、シャルカは恋人に裏切られ男への復讐を誓うのですが、シャルカを討つために派遣された騎士ツティラートは、彼女を捕らえますが、木に縛られて苦しむシャルカの美しさに魅かれて彼女を彼女を解放します。



この曲はこういう伝説を音で描いています。

第4曲「ボヘミアの牧場と森から」

「モルダウ」に次いで親しまれている曲です。 輝く陽光が降り注ぐボヘミアの草原、収穫に感謝する農民の歌と踊り、森を吹き渡っていく風、小鳥たちのさえずり。 ここにはボヘミアの自然と森への感謝を込めた「自然賛歌」があります。 親しみやすい美しい旋律の曲です。

第5曲「ターボル」

「ターボル」とはチェコ民族主義運動の一つの象徴で、チェコの「フス戦争」時代に最も急進的で独立政権が樹立されたこともある町のことです。



15世紀初頭、フス教徒たちが宗教改革運動がボヘミアに広がるのを機に、カトリック教と対立するのですが、逆に弾圧によってフス教徒は火炙りの刑に処されてしまいます。これによって「フス戦争」という民族独立戦争にまで発展してゆきます。

この曲はフス教徒のコラールが主題で、チェコ民族主義運動への強い決意と意志の力を表現しているかのようです。

第6曲「プラニーク」

「プラニーク」はボヘミアにある山の名前で、プラニーク山には騎士たちが永遠の眠りについており、祖国に危機が訪れると眠りから起きて祖国を救うために現れるというボヘミア伝説を採り上げて、スメタナは祖国の自主独立を願ったのでしょう。

第5曲「ターボル」で奏でられたフス教徒のコラールが、この曲で主要な旋律として再び使われています。 スメタナにはプラニーク山に眠る伝説の騎士はフス教徒であったのかも知れません。

スメタナは、全曲を締めくくるこの第6曲で民族独立の賛歌を高らかに歌い上げ、第1曲「高い城」の主題が再現されてを高らかに誇るかのように「わが祖国」を閉じています。

愛聴盤 ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団

ORFEO115841 1984年ミュンヘン・ライブ
( OREFEOレーベル ORFEO115841  1984年ミュンヘンライブ録音)

クーベリックが祖国チェコへアメリカから帰国後「わが祖国」を、チェコフィルを振って感動的な祖国復帰を成し遂げた後に、そのチェコフィルを伴って来日を果たしてくれました。その公演の際に東京で行われた「わが祖国」の演奏はまさに感動的でした。わたしはあれほどの演奏をいまだ聴いたことはありません。公演ではなくてNHKの「芸術劇場」で放映された番組を観ただけなのですが、今でも録画画面でその感動を繰り返し味わっています。

このCDも手兵だったバイエルン放送交響楽団を振って、東京公演と変わらぬスメタナと祖国への想いを切々と訴えかけてくるかのようなリズム処理、旋律線の際立った美しいラインなど、いつ聴いても惚れ惚れとする演奏です。

ヴァツラフ・ノイマン指揮 チェコフィルハーモニー管弦楽団

COCO70624 1982年東京公演ライブ
(DENON CREST1000シリーズ COCO70604 1982年11月5日 東京ライブ録音)

「わが祖国」初演100年を記念して行われた東京公演ライブ録音で、ここでもノイマンの卓越した民族色豊かな表現を味わうことが出来ます。

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今日の一花 」        アマリリス


アマリリス
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最終更新日  2010年06月21日 00時06分04秒 コメントを書く


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