現在のスマートフォンの動向を見ると、iPhoneが大きなシェアを占めており、それに、XperiaをはじめとしたAndroidを搭載した端末が続い ている。iPhoneは、国内ではソフトバンクモバイルが独占的に提供しているのに対し、Androidは、他キャリアからもさまざまな端末が提供されよ うとしている。それゆえ今後は、Androidの勢力が大きくなっていく可能性が高い。
また、現在、日本で販売されているスマートフォンの多くは、XperiaやGALAXY Sなどグローバルで販売されているモデルに、日本向けの変更を若干施す程度の形で提供されている。だが、この傾向にも変化が見られつつあり、“日本仕様” のスマートフォンを投入する動きも増えてきている。
その代表例がauだ。auはIS01で、ワンセグや赤外線通信など日本の携帯電話に多く搭載されている機能を盛り込んでいるのに加え、IS03では、 FeliCaも搭載し、おサイフケータイ機能を実現するに至っている。ソフト面でも、携帯メールのアドレスが最初から扱えるほか、QRコード読み取り機能 も“標準で”搭載、さらにLISMOやEZナビウォークなど携帯電話で馴染みのある機能も盛り込んでいる。
auだけでなくNTTドコモも9月に「spモード」の提供を開始している。これによって日本のユーザーが多く利用する携帯メールアドレスが利用しやすくなっただけでなく、デコメールやデコメ絵文字も簡単に扱えるようになった。
現在のスマートフォン利用者の中心はPCに馴染みの深いITリテラシーの高い層であり、こうした機能はそれほど重視しない傾向が強かった。 だがユーザーの裾野が広がり、スマートフォンを1台目として使いたいという人が増えるに従って、今後、日本独自の機能を搭載した機種が増えていくと考えられる。
IS03のように、スマートフォンに赤外線通信や携帯メール、ワンセグ、おサイフケータイなどの機能が取り込まれたことで、フルタッチというデバイスに対 する嗜好の問題はあるだろうが、「日本国内向けの機能は十分満たされた」という声も出ている。だが、それでもなお、真の“1台目”になるには決定的な要素 が欠けているということが見落とされているように思えてならない。
それは、iモードやEZwebに代表される「携帯サイト」だ。スマートフォンにはこれらのブラウザや枠組みが移植されていない。そのため、Webブラウザから一部のサイトなどは閲覧できるものの、多くの携帯サイトや、そこで流通しているコンテンツは利用できない。
しかもキャリア各社の取り組みを見る限り、携帯サイトの枠組みをスマートフォンに移植することに関しては、消極的に見える。例えばNTTドコモの各種発表 などでは、iコンシェルやiチャネルといったiモードの機能をスマートフォンに移植する取り組みは発表されているものの、iモードそのものを移植するとい う発表はされていない。
一方で、spモードに決済機能を用意し、スマートフォン向けの「ドコモマーケット」を別途用意するなど、iモードとは別の枠組みを作ろうという動きも見ら れる。auも同様に、EZwebを主体として提供されていたサービスはアプリケーションに変化しており、EZwebそのものの提供は実現していない。
スマートフォンではiモードやEZwebの搭載に消極的な一方、「ドコモマーケット」「au one Market」など従来とは別の軸でマーケットを用意する傾向が見られる
これには、それなりの理由が考えられる。iモードブラウザに搭載されている機能の多くは、技術的にいえば、スマートフォンに搭載されているWebブラウザ の枠組みで実現できるものだ。またアプリケーションにしても、スマートフォンの方が制約が少ないというメリットがある。さらに言えば、可能な限りスマート フォンの枠組みをそのまま活用した方が、手間やコストの削減につながる。
だが、スマートフォンのブラウザやアプリケーションは、最初からオープンであるがゆえに、ユーザーに与えられる自由度が高く、分かりづらさ、扱いにくさを 招く要因になってしまっている。世界中のアプリケーションが一堂に並んでしまう、AppStoreやAndroidマーケットといったスマートフォン向け アプリケーション・マーケットがその典型的な例で、各社は別のマーケットを用意するなど対策に追われている。
また、携帯サイトは、過去から現在に至るまで、女性や若者、地方在住者といった、どちらかといえば、PCに馴染みの薄い層が積極的に利用している傾向が強 い。PCが取り込めなかった層を携帯電話が取り込めたのには、全国どこでも、誰でもが使えるデバイスということに加え、インターネットを、「なんでもでき る広大な世界」としてではなく、携帯電話の1サービスとして、使いやすい導線を作りながら提供し、成長してきたことが大きい。
現在、携帯電話によるインターネットの利用者数は、PCにほぼ匹敵する規模となっており、その上で流通するコンテンツやコマースなどの市場も、1兆 5000億を超える規模となっている。ITリテラシーを意識させることなくコンテンツを利用させる仕組みを築いたことが、インターネット利用者の裾野を広 げ、市場を創出した大きな要因となっているのだ。
さらに言えば、PCと携帯電話のインターネットは、その環境や利用者層が全く異なることから、それぞれが独自の文化を作り上げており、単純に融合できるも のではない。典型的な例が、“ケータイ小説”で、これが流行した2007年頃、PCのインターネット文化圏では各種作品に対する批判が溢れ、その年のネッ ト流行語大賞で、ケータイ小説の主な読者層である若い女性を批判するスラング「スイーツ(笑)」が2位になったという経緯もある。
現在のスマートフォンが持つ枠組みは、携帯サイトをあまり利用しておらず、PCのインターネットに馴染んでいた層に対して満足な環境を与えている。 iPhone利用者に関する調査の傾向を見ても、PCインターネットの利用傾向が強い首都圏・30代前後の男性に集中していることなどが、それを裏付けて いる。
だが本格的にスマートフォンを1台目として広めていくのであれば、こうした層を相手にするだけではいずれ限界がくる。携帯サイトを積極的に利用するような 層を本格的に取り込んでいくのであれば、彼らが利用しやすい環境を整えていく必要があるだろうし、それは、現在、注目を集めている「オープン、グローバ ル、PCのインターネット」というスマートフォンのスタイルとは、対峙するものだと感じている。
極端な言い方をすれば、そうした環境を整えぬまま、スマートフォンの移行を進めてしまうことは、既存の携帯サイト利用者の“ネット離れ”を起こしかねず、 通話とメールしか使用しなくなってしまうということも十分考えられる。それによって、今なお成長を遂げている携帯コンテンツ市場が、急速に縮小する可能性 も否定はできないだろう。
iモードやEZwebなどの仕組みをスマートフォンにそのまま移行するのか、別の形として展開していくのかは分からない。だが、mixiやグリー、モバ ゲータウンといったSNSが、携帯電話からの利用が中心となったことで、それぞれ2000万会員を抱える日本最大級のネットサービスとなったように、携帯 サイトとその利用者が現在もたらしている価値は、決して無視できないものだ。スマートフォンを真の1台目として普及させていくのであれば、彼らが求める枠 組みや要素を十分理解し、価値を提供していく取り組みが必要となってくるのではないだろうか。
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