7月
8月
9月
10月
11月
12月
全2件 (2件中 1-2件目)
1
合格発表の朝7時30分、駅の改札で待ち合せた。自動改札に残高で不足で入れない君に「ほら」とお金を渡し、チャージさせた。「残高なくても、入る時は入れると思ってさ」「そんなわけ、あるか」とこつきながら、君の顔を見たら左眼が充血していた。眠れなかったんだろう。僕も眠れなかった。自分の受験で、眠れなかった記憶が無いのに。こうして隣り通し、電車に揺られていると一緒にポケモン・スタンプラリーしたあの夏の事が想い出された。君はもう、覚えていないかもしれないけど電車の見える踏切近くのスーパーでベンチに座り、過ぎ去っていく電車を一緒に、ずーっと見ていた。時々、君が「バイバイ」って手を振ると中から、おばさんが手を振り返してくれたりね。目に入れても痛くないほど君を溺愛してた頃のことさ。その面影を発表の日、君の中に見つけたんだ。随分と早く到着(つ)きそうだったから「歩いていくか?高校まで」というと「そうだね、ちょうどいいかも」と君が先頭で、学校までの長い道のりを二人で話しながら歩いた。「なあ、どうしてこの学校なんだ?」「だって、サッカー部そこそこだし偏差値高くて大学も狙えるし . . .」そんな君の言葉を聞いていると答えが分かっていて、訊いたにも関わらず更に問いかける。「そうか、偏差値は大事か」「うん、部活と勉強で大変だとは思うけど」「高校はな、楽しまなきゃって、俺は思うぞ。停学になるは、さぼって出席ギリギリで卒業した身だけど、俺の高校生活は楽しかったよ、間違いなく」「え、さぼってたの?」「ああ、勉強も、間違いなくしなかった。だけどな、英語だけは出来たんだよ。」「そうなの?」「学校で教える勉強、何のために使うかは教えてくれないだろ?三角関数は建築現場では必須だし数列は、システムエンジニアには欠かせないしそう、使う場所では、使ってるんだよ。」「だけどな、受験勉強だけはいただけない。友達と語り合う時間を奪ってしまうくせに受験が終わればすぐに忘れてしまう。あの貴重な、尊い、珠玉の時間を奪うんだぞ。」それでも長い時間をかけ、有名大学に行くことを洗脳されている君には僕の言葉は届かないだろう。それは、僕の責任だ。この世は、色々な価値観で溢れているっていうのにね。それを教えてあげられないでいる。別居しているから、仕方ないというのは、僕の言い訳でしかないこと僕が一番分かっている。確かに有名大学を出れば入口は開いている、色々なところで。だけど、重要なのは扉が開いているかではなくて、扉の向こうにある世界でどう生きるか、なんだ。国立大学を出た、優秀な若者が社会の荒波にさらわれて心を病んでいく姿を現在(いま)僕は、目にしている。彼らは、あまりにも打たれ弱く、傷つきやすい。社会に出たら、自分の身は自分で守らないと。それには、受験勉強よりももっと大切なことがあることを君に伝えたかったんだ。「よく考えてみろよ。勉強ばっかりしてるヤツと友達になりたいと思うか?バランス悪すぎだろ」「うん、確かに」と君は笑ってたけどポリシーを変えていないのは分かった。僕が、レベルの高い学校の受験賛成だったのは頑張れば、達成できるという成功体験を積ませたかっただけ。逆に、失敗しても良いと思ったのはこれ以上君を優等生にしておきたくなかったから。一緒に合格発表を見に行ったのは失敗することを予想していなかった君の心が、落胆する深さを少しでも浅くしてやれたらと思ったから。その夜、僕は君にメールを送った。「今日は、楽しいことだけ想像して眠るんだ。 パパは、君が元気に高校へ行ってくれるだけで 嬉しいんだから」と。それは、嘘でもなんでもなく本当に、心からそう思う。 そして君は「うん、わかった」と返してきた。 大丈夫、君の扉は開かれている。
2014.03.03
コメント(0)
一度閉じた目を、ゆっくりと、もう一度開く。そして、はり出された合格発表のボードを上から下へと、視線を動かした。「30,32 ... 31が無い」「どう?」君は不安そうに言う。言葉が出ない。「だめだった... 」僕は返す。君もボードを見る。でも、やっぱり君の受験番号がそこには無い。「気持ちを切り替えよう!」と僕は、君を促し、早々に立ち去った。もう二度と来ることは無いだろう君が学ぶことを望んだ、この高校には。「バスで帰るか?」「ううん、歩いてく」「私立の手続きしないとな」「うん」君が、ぐっと堪えているのが分かる。数分間、他愛のない会話をしながら歩き君のママにメールした。そして、携帯を渡して「電話しな」というと君は、少し逡巡して受け取った。君は言う「ダメだった . . .」「残念だったね、でも一生懸命頑張ったの よく知ってるから」と声が漏れ聞こえる。君は、堪えていたモノが決壊し涙が頬を伝う。いいんだ、泣けばいい。悔しさは、洗い流せないけどきっと、これから進むの君の道に糧(かて)を与えてくれるから。僕は、君の数歩前を歩き泣きたいだけ、泣けばいいと無言で歩いた。君が、このレベルの高い高校を選んだことを僕にメールしてきた日そのフレーズを読んだとき僕は、決めていた合格発表は、一緒に見に行くと。「併願の私立は、お金かかるけど心配しないで、絶対都立受かるから」別居して、君の苦労を知らないこんな駄目な父親に . . .。枯れたと思っていた瞳に滴(しずく)が浮かんでは、流れ落ちた。でも、こうなることなんとなく分かっていたんだ。だから、発表を見に行くまでの長い道のりの30分君と一緒に歩いた、あの時間僕が君に話したことひょっとしたら、君は気づいているかな僕の言いたかったこと「大丈夫、心配ない。これから歩む、君の道は」あの時の話は、そうまた後で、ここに書こう。
2014.03.01
コメント(0)
全2件 (2件中 1-2件目)
1


