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辻村深月の日常ホラー短編集を読んだ。○ストーリー子供が出来て,出産のために長いこと田舎の実家に帰っている私を,東京から複数の会社の編集者が定期的に訪ねてくる。何もない田舎の家に巡礼するような人々から,この町には占い師がいるのではないかという噂が流れ始める。笑いごとだと片付けていた私だが,自分の町には実際に占い師がいることを知り,ついにその人物に出会う。----------------リアルとフィクションの狭間にありながら,見事にホラーとして成立している。そのプロとしてのスタンスに感心した。デビュー作から,ほぼライブで作品を追ってきた辻村深月だが,まさか直木賞を受賞して,その後も安定した作品を発表し続けるとは予想していなかった。狭い世界の作品を,頑張って描いているという作家だったのに,あっという間に大家の器を感じさせる状況だ。人は変わるものだ。----------------僕が大好きな女性作家も,純文学風のSFやホラーを発表し続けて長い。たぶんこの人も直木賞が欲しくて仕方がないと思うのだけれど,今回はノミネートさえしなかった。当初は僕も,なんでこの人じゃなくて辻村深月なんだ?,と憤慨したけれど,冷静に見てみると,作品世界の幅がいつの間にか大きく逆転している。自分の周りの世界をベースに作品を描く,というスキルは,本人が成長すれば作品も大きくスケールアップするのだと,改めて感じさせられた作品だった。----------------各編について簡単に感想を述べる。「十円参り」:消したい人の名前を書き,十円玉と一緒に十日間賽銭箱に入れると願いが叶う,そんな噂があった神社の賽銭箱を暴いてみると・・・昭和の香りがする物語から,二重にぞっとする結末まで,非の打ち所がない短編だ。何の情報が無いまま,この作品を手にすると,若干戸惑うけれど。「手紙の主」:作家宛てに届く奇妙なファンレター。支離滅裂な部分がありつつも,作家への執着を見せる手紙は,複数の作家宛てに届いていた。そしてその送り主は,徐々に近付いており・・・エッセイなのか?作品なのか?と迷わせるが,ちょっとしたディテールがありそのリアリティがひじょうに有効だ。この短編はありがちな都市伝説の亜流なので,途中からちょっと興ざめした。「丘の上」:私たちの町は濁流に呑まれてしまった。丘の上からそこに戻ろうとした私たちは・・・ひじょうに短いので,読んでもらいたい。夢のようだが,東日本大震災のイメージもある。「殺したもの」:大学のゼミの合宿で海沿いのリゾート地を訪れた私は,不思議な生き物を目にして・・・白い壁への汚れのビジュアルイメージが鮮烈だ。「スイッチ」:山手線の中で,ゴシックファッションの女性に話しかけられてしまったオレは・・・ホラーのようで,ネットの書き込みを信じれば,リアルにこうした体験はあるようだ。ここまで引っ張らなくても良かったように思うが?「私の町の占い師」:出産のために田舎の実家に戻っている作家の私を,東京から複数の編集者が訪問した。それによりこの町には占い師がいる,という噂が立つ。困った勘違いと同時に,私の町には他にも占い師が存在することを知り・・・エッセイっぽく始まり,それで一度は落ち着いたと思わせて,さらなる謎へと導く。見事だ。「やみあかご」:夜泣きで起きた赤子を,夫を起こさないためにリビングで遊ばせる。大人しくなった赤子を抱いて寝室に戻ると・・・うわー,うわー,新しいホラーだ。「だまだまマーク」:幼稚園に通う息子が〈だまだまマーク〉とつぶやきだした。子供のちょっとした造語だと面白がっていた私だが,その言葉の起源を知ることになり・・・前の短編に続き,現代のホラーとして十分な破壊力がある。怖い。「マルとバツ」:会社帰りのスーパーの前に座っていた小学校ぐらいの少女。私は彼女を数回見かけることになり・・・悪夢系の短い短編。「ナマハゲと私」:大学の〈民俗学入門〉の講義の関係で,同級生たちを秋田の実家に連れて来た私は,ナマハゲに騒ぐ友人たちがどこか恥ずかしくて,1人で自分の部屋でテレビを観ていた。そこに電話がかかって来て・・・良く出来ている。まるでお手本があったのかと疑ってしまうほどだ。逆に辻村深月らしさは薄いかな?「タイムリミット」:1年に1度残酷な隠れんぼゲームが起きる町で,姉妹は学校に閉じ込められる。・・・悪夢系の短編なのだけれど,姉妹を設定したことで切なさが増している。「噂地図」:小学校の時と同じように〈噂地図〉を作成し,噂の元を辿ろうとした女子高生たち。だが彼女たちは〈ルール〉を守らなかった。そのため・・・相手が質問に素直に答える保証はないし,今の時代は噂はネットを通じて広がるし,長さの割りに薄い印象の短編だ。東直己の作品にもっと深い考察がある。「七つのカップ」:私たちの通学路に,その危険な横断歩道はあった。かつてここで娘を亡くした女性が,周辺に現れていた。そして私と友人が体験したことは・・・ホラーに分類されるのだろうけれど,こうした流れの物語があるとは。感心した。
2016.01.05
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二宮敦人という作家のホラーを読んだ。○ストーリー僕は自分を裏切り,ホストまがいの男と結婚をしようとした恋人のリエを殺した。血まみれのナイフを持ったまま,ホテルを一夜を明かした僕のところに,警官が訪れる。彼に連れて行かれた会議室では,僕を含めた7人の男女が,リエを殺したことを告白するのだった。果たして真犯人は?そして本当のリエとは?-----------リエの恋人の大学生,幼なじみの少女,先輩の女子高生,親しくしていた少年,借金だらけの母親,ストーカーの警官,ホストまがいの男。7人の男女が,ある会議室に閉じ込められ,自分たちの罪を告白する。だがそれにより徐々にそれぞれが信じていたリエとは別の姿が見え,彼らは自分たちの誤解に気付き始める。この辺りのストーリーテリングは見事で,1つの現実からコインの裏と表のような別の解釈を取り出すようなトリックがいくつも展開される。またこの7人とは別に,リエの弟が謎の施設を目指す旅をする短い文章が挿入される。7人と弟が出会うクライマックスが予想され,わくわくする。中盤まではホントに面白かった。-----------だが・・・集められた殺人者たち,施錠された快適な施設,謎の主催者,徐々に明かされるリエの真の姿・・・と,これだけ魅力的な設定を用意しておいて,最後は○○の○○ということでまとめてしまう。まあ,文庫で出版されているのだから仕方がないと言われればそれまでだが,ここまで散々仕掛けで引っ張っておいて,このオチは本当に肩透かし。比較するのも失礼な気がするけど,初期の西澤保彦ならば,この結末からでもなんらかロジカルな説明をひねり出したと思う。中期の西澤保彦だと同じ結末かも知れないけど・・・笑まあ,でも見事にだまされました。-----------人々の評価が悪女から聖女へと変貌していくリエだが,彼女の行っていたことの多くは誤解され,多くは見透かされていて,結局はやはりイヤな奴で,ひどく迷惑な奴だったんじゃないかと思う。
2012.07.17
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久々に道尾秀介の作品を読んだ。「光媒の花」とゆるやかにシリーズを形成するらしい。○ストーリー小学2年生の章也は,姉と一緒に,自分が生まれる前に両親が暮らしていていた家を訪ねる。そこには妻に先立たれ,息子は独立し,1人暮らしとなった老人・瀬下が住んでいた。章也はこの家であることを突き止めようとしていた。そして章也と翔子が抱えていた秘密とは?------------6つの短編で構成された連作作品だ。それぞれの短編で語り手が抱えている悩みがあり,それがあるきっかけで解かれるという展開を基本として進む日常ミステリだ。けれども3つ目の短編くらいから,露骨な違和感がゴロリと示されていて,それがまた別のミステリ要素として読者を引っ張る。その謎解きは,「光媒の花」から続く異界からのメッセンジャーとしての白い蝶,そして第六章で語られる物語で解かれることとなる。------------いろいろな作家の作品を読む僕だが,道尾秀介の文章には毎回感心する。自然な会話文,ごく普通の地方都市の情景の描写や,老若男女の心情の描写の的確さ,読者の想像を掻き立てるために一歩手前で筆を止める巧みさ,どれを取っても高いレベルで,最近は本当に全方位にスキが無いという印象だ。この作品では,似たような短編が続くので,どうしても終盤にかけて「またかよ・・・」みたいな中だるみが来てしまう。それも第六章で語られる別展開に向けての伏線となっているので,ゆるせてしまう,というのが,これまたこの作者の恐ろしさだ。もっとも,道尾秀介ならば,もっと面白く緊迫感のある作品があるので,この繰り返しの多い作品は,個人的にはオススメ出来ない。------------各編について,ネタバレの無い範囲で簡単に感想を述べる。第一章「やさしい風の道」:自分の家族がかつて住んでいた家を突き止めた章也は,姉とともにある目的を持ってその家を訪ねる。そこで出会った老人から,聞かされた話とは?・・・バスの乗客,姉弟の微妙な交流,家庭菜園の作物,どの描写も巧い。意外な結末も含め,楽しめる短編だ。第二章「消えない花の声」:栄恵は息子とともに,かつて暮らした海辺の街に一泊をする。そこで彼女は否応無く夫が死んだ事故を思い出すが,意外な事実を知る。・・・この章では一気に老境に達した主人公となり,それに合わせた作風となっているのが見事だ。花の描写も見事。第三章「たゆたう海の月」:瀬下夫婦は1人息子が転落死をしたという報せを聞き,その町へと急ぐ。果たして息子は何かを悩んでいたのか?不思議な蝶の葉書に誘われ,2人がたどり着いた結論とは?・・・この章は重いし,主人公が老人なのでひじょうに陰鬱だ。前の章の内容と合わせると,いろいろと考えてしまう。第四章「つめたい夏の針」:翔子は友人・真恵美の弟・直哉と隠れて仲良くなったために,彼女と気まずくなる。そんな中,2人は夏のオリオン座を見に出掛けるが・・・主人公が若い人だと,感情の振幅があるものの,全体的に透明で明るい物語になる。第五章「かけそき星の影」:妊娠中の葎(りつ)は,母の見舞いの帰りに出会った姉弟と,プラネタリウムに行く。姉弟はある秘密を抱えていて・・・ここまで来ると,「ほう,そう来ましたか?」という気持ちになる。で,どうなの?とも思うけど。第六章「鏡の花」:幼い頃の事故で顔に怪我をしてしまった美代の家は,民宿を経営している。そこに2つのグループが泊まりに来た。その夜,美代は蝶に誘われて,ある所を目指して行ってしまう。美代の家族と,宿泊客たちは,彼女を捜して不思議な体験をする。・・・ここに来て新キャラですか?!と思ったら,やはり原因は旧キャラにある?後半はいろいろ気になって,1つ1つの短編に集中や感動出来ないのが,この作品の欠点だと思う。
2014.03.25
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「さよならドビュッシー」から連なる中山七里の音楽ミステリーを読んだ。○ストーリー山の中に新設された岐阜県の加茂北高校には珍しく音楽科クラスがあった。たいした競争もなくのんびりと暮らしていた彼らの前に現れたのは,天才的なピアノの才能を持つ転校生・岬洋介だった。羨望と嫉妬,クラスメートから様々な気持ちを受けつつも,岬は天然の無頓着さを示す。そして音楽科だけが校内に残っていた日,豪雨により土砂崩れが起き,自分の身を省みず濁流を渡って助けを呼びに行ったのは岬だった。だが岬はヒーローとなるどころか,死体で発見されたクラスメートの容疑者となってしまう。岬洋介は,自分と周りの人を守るために,初めて事件の捜査を行うこととなる。それはやがて・・・-----------数回に渡り岬洋介が弾く楽聖ベートーヴェンの作品の描写がある。まるで目の前にピアニストがいて,演奏をしているような,言葉の奔流と強弱をつけた表現に圧倒される。中山七里の作品はほぼ全部読んでいるが,やはり楽曲を描写していている部分に,いちばんこの人らしさを感じる。「さよならドビュッシー」の世界に帰ってきたんだな,とじーんと感じることが出来るのは,文章で音楽の中に浸るという,独特の体験をした時だと思う。中山七里は多くの魅力がある作家だと思うが,この才能は他の人にはない,稀有なものだと思う。-----------この作品は,プロローグとエピローグは現代であり,本編は10年前,岬洋介と〈僕〉が高校2年生だった頃の物語だ。いきなり「いつまでもショパン」のネタバレがあるのは感心しない。僕も含めて,必ずしもシリーズを順番に読むとは限りらないからだ。さて,10年前に彼らが通った加茂北高校には音楽科クラスがあるとは言え,音大に進学することも危うい中途半端なレベルだった。そこに全国レベルの岬洋介が転校したことで,ぬるま湯のようだったクラスは一変する。・・・というところまでは納得が行った。音楽,芸術,スポーツと言った,努力も必要だが,一定数の天才が努力家を軽々と超えてしまう世界の残酷さは,悲しいけれど現実だ。けれども,それを地方とは言え,高校2年生が岬洋介の一回のピアノ演奏によって初めて気付く,というのは設定としておかしいだろう。-----------さらに物語がおかしくなるのは,才能の差を見せる事で現実を気付かせてしまった岬のことを,音楽科クラスのメンバーほとんどが恨み,いじめまでするようになるということだ。中山七里の作品では,”その他”の登場人物がひじょうに偏った行動を採るパターンがあるが,今回もそれが顕著だった。あるレベルまでは説明が付くのだけれど,どんどんとエスカレートするので,どうしてもストーリーの流れに合わせるための無理を感じてしまう。このレベルの学校の生徒に,きついことを言ってへこませる棚橋教諭は性格が悪いと思う。-----------ミステリーとして考えた場合でも,この作品には複数の欠点があると思う。容疑者として挙げられた岬洋介が,自分の潔白を晴らすために捜査を始めた,という最初の流れは良いのだが,もう数日でその行動は行き詰まりを見せる。せっかくのミステリー部分は短くて,あまり奥行きの感じられない学校生活のギクシャクとした部分ばかりが語られる。岬洋介と〈僕〉の捜査は,どれだけ意味があったのか,多いに疑問だ。ミステリーのところはまるで付け足しのような印象さえ受ける。-----------岬洋介が陰りが無かった頃,そして発病した瞬間を描く,ということでは意義があるのかも知れない。けれども典型的な〈孤立した別荘〉パターンのミステリーなのに,それがほとんど活かされないのも残念だし,上に述べたように捜査の流れが無駄になっているのも残念だ。せっかくの音楽ミステリーシリーズだし,楽聖ベートーヴェンの名前を題名に使っているのに,いろいろ物足りない。ぜひ,この続編の「もう一度ベートーヴェン」で汚名返上してもらいたい。シリーズファンにはやはりオススメだ。読まない訳には行かないでしょう。
2016.11.24
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イヤミスの旗手・真梨幸子の連作短編集を読んだ。○ストーリー熱海の連続殺人事件の容疑者〈稀代の悪女〉佐竹純子に騙された男には,まだ表沙汰になっていない人物・守川がいた。八王子に住む守川の妹・守川美香は,失踪してしまった兄の代わりにきちんと土地建物を管理する必要があった。そのために,所有している土地に立つスナックに乗り込んだ美香は,とんでもない事実に直面することになる。そして?!-------------5つの短編にジュンコという名前の重要なキャラクターが登場する,という連作短編集だ。基本的にはそれぞれの短編で事件らしきものは発生する。また短編同士で一部の登場人物が重なり,通して読むと,前の短編の後日談などが分かる。さらに最後まで読むと,さらなる驚きが待っている,という趣向だ。-------------冒頭の短編で,現実の毒婦・木嶋佳苗に酷似した佐竹純子の事件が紹介される。それに続く4つ,合計5つの短編で,ジュンコという名前の別の女性が登場し,それぞれで事件らしきものが発生する。結果的には,ジュンコという女性はあちこちに存在し,また高い確率で人が死ぬほどの事件に関わっているか,近しい人が関わっている。さらにジュンコや別の女性は,その存在を長年耐え忍んでいるイヤな相手というものが存在する。それがふっとしたきっかけで・・・佐竹純子は〈稀代の毒婦〉として人々の話題となり,畏れられ,嘲笑される存在なのだが,他のジュンコの周りでも,あるいは誰の周りであっても,すれ違い・苦手意識・嫉妬などから,恐ろしい事件は始まる可能性がある,ということを赤裸々に描写しているのがこの作品だ。たまたま女性ばかりが主人公だが,これを男性に置き換えても性差が希薄になった現代では充分に物語として成り立つと思う。一番怖いのは,人間だ。-------------キレイにまとめようとしている作品だが,前作の「人生相談」同様に今回も人間の深い所までグッサリと来ないのが残念だ。イヤミスではあるのだけれど,そのイライラの要因が現実で知人や同僚から聞いたことがあるような身近でリアルで,逆に言うと2chで読むような大したことがないものが多い。そうした状況なので,読んでいても物語の流れがぼんやりしてしまい,最後の最後で「これがどんでん返しです」という情報が来ても,「え?それ誰だっけ」的な鈍い反応になってしまう。短編同士のリンクや,全編を読むと見えてくるストーリーを,作者が一所懸命に構築しているのは分かる。でもそれが理由で話がブツギリで終わったり,情報が明らかに隠されたり,無駄な回り道をしたり,というのは,もういい加減要らないんじゃないかと思う。最近は,きちんとまとまっているイヤミスならば読む必要が無い気がしてきた。この作者,どうしちゃったんだろう?と思わせるほどの,無軌道になるイヤミスならば,どんなに悪寒がしても鳥肌が立っても読むと思う。-------------各編について簡単に感想を述べる。「エピソード1 淳子」:損害保険会社に勤める篠田淳子は,苦手な同僚・ヤスカワとのランチに辟易する。ヤスカワは食べ方が汚く,必要以上に距離が近い。またその頃世の中を賑わしていた連続殺人の容疑者・佐竹純子は淳子の中学の同級生で,一時期は親友のように行動していた。それをヤスカワに知られてしまった淳子は?・・・まだまだ情報は少ないのだけれど,辞めた派遣社員の同僚や,ヤスカワへの反感には同情できるし,そして何しろ犯罪者・佐竹純子に翻弄されたという過去は読んでいて引き込まれる。この短編にはチカラがある。「エピソード2 絢子」:久保田芽依オフィスのアシスタント・田辺絢子は,〈稀代の悪女〉佐竹純子の調査を進める。絢子は,子供が産まれてから仕事に切れ味が無くなった芽依と,またヒモのような生活をしている自分の夫にも不満を持ち,フラストレーションを貯めている。それは今にも限界を超えそうで・・・篠田淳子に取材をした記者が主人公の短編だ。見事にワンクッション置くための,久保田芽依というボスが存在しており,またそれが理由で絢子の不満が爆発してしまいそうだ。この夫の選択肢は無いでしょ?「エピソード3 諄子」:〈稀代の悪女〉佐竹純子に騙された男には,まだ表沙汰になっていない人物・守川がいた。守川の妹・守川美香は,田辺諄子の取材に全てを答えてしまう。そこから見えてきた,もう1つの事件とは?・・・守川美香も面倒くさそうなキャラで,笑ってしまう。佐竹純子とは別の事件が始まっていて,どうまとめるのかわくわくだ。「エピソード4 順子」:夫のポストによって妻の地位も決まってしまう社宅暮らしを耐え忍んでいる福留順子は,新しく暮らし始めた部長の若い後妻・理穂子をうとましく思っていた。そんな中,順子の息子で小学生5年生の健人が事件に巻き込まれる。・・・リアリティはあるけれど,世界が小さくてゲッソリする。相変わらず男性キャラは無能ばかりだ。「エピソード5 純子」:久保田芽依オフィスの新人・鵜飼優子は,オフィスで起きた事件とは別に,〈稀代の悪女〉佐竹純子についての調査を続けている。また最近起きた〈八王子連続殺人事件〉の調査も行っている。さらに彼女は佐竹純子本人に面会に行くのだが・・・久保田オフィスの別のアシスタントが主人公で,調査員としてこれまでの複数の事件の後日談を語ってくれる。だが,5人目のジュンコの短編でも物語は解決しない。「エピソード0」:1人のジュンコの元に脅迫めいたメールが届く。彼女をそれを読んで決心したこととは?・・・事件が起きる前の状況とは?そしてそこから読み取れる驚きの真相とは?
2016.07.07
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文庫版「ソロモンの偽証」6巻に収録されている中編を読んだ。○ストーリー私立の進学校・精華学院の中等部3年生は,夏休みに〈避難所生活体験キャンプ〉を開催していた。本来それは,限られた食料と水だけで学校にて一晩過ごすだけのゆるいイベントのはずだった。だがその年,そこに参加した生徒たちが担任の教師・火野からあることを強要されたと言う。これは問題となり火野は糾弾されるが,彼はそれが生徒たちが口裏を合わせた芝居だったと主張する。両者の意見は食い違い,やがて学院から解雇された火野はある弁護士事務所に相談する。一方で,生徒の親の1人は探偵を雇う。弁護士の名前は,藤野涼子と言い,探偵の名前は,杉村三郎と言った。-------------日本の作家の作品は,一定の人気がある人のものはハードカバーで刊行され,あまり売り上げが期待されない人のものは最初から文庫版で刊行される。人気作家となると,ハードカバー,新書版,文庫版と3回も同じ作品が刊行されることもある。ファンは早く読みたいからハードカバーを買い,そうでもない人は安くなった新書版や文庫版を待つ。それなのに日本の出版業界は,文庫版を改訂改良版としたり,追加短編を入れたりする。安いバージョンの方が内容が濃いという不思議な逆転現象が生まれてしまう。どう考えても,自分で自分の首を絞めているとしか思えないが,超一流人気作家の話題作「ソロモンの偽証」でも,文庫版で番外編が追加されるという,逆転現象が起きた。-------------その上,20年後の藤野涼子の捜査に協力するのは,「だれか」「名も無き毒」「ペテロの葬列」で主人公だった杉野三郎だ。本編の後日談が語られるだけでなく,別の人気シリーズとのコラボ作品という,無類の豪華さだ。宮部みゆきファンだったら,泣く泣くこれを買って,結局文庫版「ソロモンの偽証」全巻を揃えるんだろうなあ。ファンの足元を見た商法で,あざと過ぎて呆れてしまう。-------------さて肝心の物語だが,「ソロモンの偽証」同様に中学3年の教室を舞台に事件が起きており,それぞれの主張が食い違っており,真実が見えないため,多くの混乱を起こしている。藤野涼子と杉野三郎の調査により,大筋の流れは見えてきたところ,さらにある不自然なことが起き,2人は行動を起こす。多少は世間ズレしてきたとは言え,相変わらずお人好しの杉野三郎に対し,理知的な外面の中に熱い正義感を持った藤野涼子はぐいぐいと物語を進めてくれる。最後に残った叫びは,20年前のそれとよく似ていた。-------------立ち読みには長過ぎるし,内容が豪華すぎるサービス中編。認めたくないけれど,オススメだ。
2016.02.24
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〈東京バンドワゴン〉の小路幸也の〈花咲小路シリーズ〉の第3巻を読んだ。〇ストーリー17才の少女・めいは,高校を中退し親元を離れ,従姉たちが経営する〈花の店 にらやま〉に移り住む。彼女は,花を使って人を明るくし,助けることの出来る従姉・花乃子たちと,〈花咲小路〉でチカラ強く暮らし始める。----------ちょっと児童書のような独特の装幀の〈花咲小路シリーズ〉だ。第3巻だが舞台は二丁目だ。この巻の主人公は,いじめが原因で不登校,そして高校中退となってしまった17才の少女・井筒めいだ。彼女は従姉たちが3人で経営している商店街二丁目の〈花の店 にらやま〉に越してきて,店を手伝う。学校を辞めて,新しい町でお花屋さんで働く,というところも児童書っぽい。----------「四丁目の聖人」「一丁目の刑事」に続き「二丁目の~」となっており,時系列も順番なので,前の巻の登場人物たちも現れてとても楽しい。〈花咲小路〉に越してきた少女の視点で描かれるので,新鮮な視点で商店街が描写されるのも面白い。さらに主人公の従姉の花乃子には不思議なチカラがあり,依頼された仕事にネガティブな感情が秘められているとそれを察知する。そしてそれを解消するために,適した花言葉の花束や鉢植えを作って贈る。まるでちょっとした白い魔女だ。前巻でも登場した謎の美女・ミケも花乃子の依頼で調査を行い,何がこじれた感情の原因なのかを探ってくる。仕事人か?----------第1巻が商店街存亡の危機を聖人が救う話,第2巻は非番の若手刑事がよろず相談を片付ける話,だったが,第3巻は心にしこりを抱えている人々を花のチカラであと一歩を踏み出させる話だった。どんどんとスケールダウンしている印象だ。それ自体は許容範囲なのだけれど,今回の従兄のチャラ男・柾,人見知り・柊の兄弟とか,花乃子の元婚約者・信哉とか,人間の掘り下げが足りないし,ラストは急ぎ足だし,読み終えても物足りなさを感じてしまった。ただでさえ児童書か少女マンガ的な設定なので,もうちょっと少しずつエピソードを重ねて,丁寧に進めた方が良かったと思う。
2018.02.09
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