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東野圭吾の大長編「幻夜」を読み終えた。今回,この作品と「白夜行」の比較をしたいと思う。僕にしてはネタバレをしているので,両方の作品を未読の方はパスをお願いする。----------この作品と比較されることの多い「白夜行」は3年前に読んだ。その頃は東野圭吾を系統的に読むつもりは無かったのだが,中山七里の「嗤う淑女」を読んだことで,似たような悪女のピカレスクロマンがあることを聞き付け,この作品にも手を出した。東野圭吾を読み進めている現在としては,「こんな逆の理由で大傑作を手に取り,東野圭吾ファン,ごめんなさい」という気分だ。----------「白夜行」を読んだ際に,「幻夜」という姉妹編があることは知った。だが,前者が文庫版で900ページ,後者も700ページと知り,”もうお腹一杯”状態だったのでパスをしてそのままとなっていた。東野圭吾を読破することと決意して,とうとう「幻夜」も読み終えた。割と事前情報を入れない主義の僕なので,これが「白夜行」の姉妹編で,同じテーマを描いたパラレルな別作品だと思ったまま読んでいた。ラストが近づくと,どうやらこの2つの作品にはリンクがあり,続編としても読むことが出来るという仕掛けが分かってくる。この是非については,東野圭吾があいまいにしているので,僕としてはそのまま読者が自分の解釈をする,ということで良いと思う。作品を読んだ限りでは,決定的なことは何も描かれていなかった。----------それより気になったのは,2つの作品の相似形と差異だ。男女が関西で出会って,東京へと移り住み,女が社会的に成功を収め成り上がる。だがその裏では,男が彼女のために障害を排除し,ライバルを傷付け,非合法な手段で彼女を支え続けていた・・・という部分は姉妹編と言われるように完全に相似形だ。----------だが「白夜行」の男女は幼馴染で,2人とも貧しく品性の低い親の家で,虐待を受けており,互いをかばい合い,助け合って生きていくという姿が,ピカレスクロマンとして成立をさせていた。それに比べて「幻夜」の男女は,阪神淡路大震災の際に出会い,身寄りを喪った2人が,ある事件から逃げるように東京へと出ていくのだが,ここにあるトリックがあったことが後々分かってきて,ひじょうにイヤな展開となる。「白夜行」の女性・西本雪穂は美しく,さらに冷静で賢い。一方の男性・桐原亮司も売春のあっせんする一方でソフト開発をするなど,なかなか多才だ。2人の関係は雪穂と亮司で五分五分ではなくても,せいぜい六分四分だろう。それが「幻夜」では,女性・新海冬美は大人しそうだがどんどん美しくなり,男たちを手玉に取る。男性・水原雅也は機械加工,金属仕上げの技術は素晴らしいが,それ以外は何もしない人物だ。2人の関係は,七分三分と大きく冬美が支配的で,それだけでなく・・・という設定だ。----------「白夜行」では2人の幼馴染が世界に対して挑んだ戦いの記録と解釈が出来る。「幻夜」ではミステリー要素はより楽しめると思うが,肝心の主人公たちの行動原理が冷え切っていて,中盤以降読んでいるのがツラくなってしまう。海外旅行から帰ってきた冬美が夫と交わす会話などは,もう正気とは思えない。中山七里の「嗤う淑女」に対しては,非現実的で上手く行き過ぎるという批判を述べたが,「白夜行」はともかく「幻夜」に関しては同じような匂いを感じてしまった。ミステリー要素以外はあらゆる部分で「白夜行」の方がレベルが上だと思う。----------さらなる続編で3部作を構成という構想もあるらしいが,またまたレベルを下げるだけならば,止めておいた方がいいと思う。
2018.02.28
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東野圭吾のユーモア短編集を読んだ○ストーリー〈私〉からすべてを奪った矢口育美。彼女を殺害するために,〈私〉は『殺意取扱説明書』を手にする。『取扱説明書』に従い,着々と準備を進める〈私〉が到達したのは?-----------東野圭吾のユーモア短編集〈○笑小説シリーズ〉の3作目だ。これまで「怪笑小説」「黒笑小説」を読んできて,ちっとも評価をしていなかったのだが,なぜか今回は違った。面白い,そしてアイディアに満ちている。サスペンス長編に使えるのじゃないの?という題材を惜しげもなくユーモア短編に使用している。この作品が刊行されたのは1996年だが,書評で「東野圭吾が変わったのは1990年代後半」ということを読んだことがあり,その影響がここにも出ているのではないか?と思ってしまった。-----------具体的なことを1つ述べると,短編の内容,あるいは主人公の行動がこれまでよりぶっ飛んでいて,極端な方向に振り切れている。これによりブラックやシュールな味わいがきちんと出ていて,小説として破壊力が増している。作家としての自信の表れなのだろうか?一皮むけた,という印象だ。-----------各編について簡単に感想を述べる。「誘拐天国」:福富財閥の福富豊作は,勉強・塾・習い事と超多忙な孫・健太と触れ合う時間を持つために,健太を誘拐し,極秘で建造した遊園地で遊ばせようとする。さらに寂しがる健太のために,クラス全員を誘拐し,同じ場所に連れて来る。福富と仲間たちは警察を翻弄し続けるのだが,子供たちは?・・・展開はワリと読めてしまうが,大人側の行動が極端で楽しめる。「エンジェル」:南太平洋で新しい水棲生物が発見され,それはその姿から〈エンジェル〉と呼ばれた。可愛らしい容姿で大人気となった〈エンジェル〉だが,プラスチックおよびオイルを食べて,爆発的に増殖し始めた。野生化し陸生化した〈エンジェル〉は都市にまで生息域を増やし・・・〈エンジェル〉のイメージは,ウーパールーパーやクリオネだろうか?全体の流れは文明批判SFっぽく平凡なのだが,途中でこの生物を食べてしまう,という場面があり,これがブラック。「手作りマダム」:夫の会社の付近のニュータウンで一戸建てを手に入れた安西家だったが,毎月招待される会社重役の富岡氏の夫人主催のティーパーティーには閉口していた。富岡夫人は料理,手芸品など様々なものを手作りし,参加者に食べさせ,また手土産として持たせるのだが,そのすべてに致命的な欠陥があるのだった。さらに・・・うーん,なんだかリアルだなあ。富岡夫人なかなか破壊力がある。「マニュアル警察」:〈俺〉はカッとなって妻を殺してしまった。しばらくして冷静になり最寄りの警察署に行った〈俺〉は,自首をしに来たことを述べる。だが,そこでは意外なことに?・・・なかなかブラックだが,立派に社会批判作品となっている。「ホームアローンじいさん」:祖父の伸太郎は,息子夫婦と孫が景品で当たったフランス料理を食べに出かけることを知り,うきうきする。彼は孫が隠し持っている〇〇ビデオを以前から観たいと思っていたのだった。ビデオを探し出し,デッキに入れるまで,伸太郎はあちこちを荒らしてしまうのだが,そこに泥棒が押し入り・・・ワンアイディアの作品だ。「花婿人形」:御茶之小路家の一子・茂秋が結婚を迎える。だが彼は母親・要子の言いなりの人間だった。そして忙しい母と会話が出来ず・・・うーん,これはパスだ。「女流作家」:女流ベストセラー作家・宮岸玲子は妊娠を理由に,ミステリーの連載小説の休載を申し入れてきた。半年後,宮岸は執筆を再開し,連載もきちんと書き続け,以前通りの人気を博す。だが不審なのは,彼女が人前に出なくなったことだった。担当編集の〈俺〉は,彼女の庭に忍び込み,そこで見たものとは?・・・平凡な滑り出しから意外な展開となり,徐々に怖くなる。素晴らしい。「殺意取扱説明書」:〈私〉は神田の古書店で『殺意取扱説明書』という不思議な本を手に取り夢中になる。実は〈私〉からすべてを奪った女がいて,〈私〉は彼女を殺したいほど憎んでいたのだ。〈私〉は『取扱説明書』に従って,彼女を殺害しようとするのだが?・・・これは「殺人の門」の女性版なのだろうか?コミカルなのだが結構説得力があり,少し表現を変えればそのままサスペンスになりそうだ。上手い!「つぐない」:ピアノ講師・藤井美穂に栗林家でもピアノを教えてもらいたいという依頼が来る。そこを訪れた美穂は,生徒がそこの1人娘ではなく,これまで全くピアノの経験のない50才の父親であることを知り驚く。不器用な栗林がどうしてもピアノを聞かせたかった相手とは?・・・「秘密」「変身」「分身」などのタイプの東野圭吾らしい作品だ。見えてくる光景は少しコミカルで,短編にしたのは正解だと思うが,なかなか引き込まれた。「栄光の証言」:正木は職場からの帰宅途中に,路地で争っている2人の男を見かける。だが翌日,その一方がそこで刺殺死体で発見された。正木の証言からある男が逮捕されるのだが,そこには大きな錯誤があったのだった。・・・本格ミステリーっぽい流れがあり,あまり笑えないのだが,最後の1行で救われた。「本格推理関連グッズ鑑定ショー」:山田鉄吉は息子に1メートルほどの木の棒を2本遺す。彼の遺言に従い,鑑定番組に棒を出品した息子が聞かされた評価額とは?だがそこには更なる秘密が?・・・「名探偵の掟」の天下一大五郎シリーズのスピンオフだ。しかも意外な形での続編というサービスっぷり。こんなところに収録でいいのだろうか?「誘拐電話網」:〈俺〉にかかってきた電話は,子どもを誘拐したというものだったが,〈俺〉には家族がいなかった。だが電話の主はしつこく〈俺〉に対してその子どもの命の責任を取れと迫ってくる。窮した〈俺〉が思いついたアイディアとは?・・・間違いなく長編ミステリーに出来るアイディアだ。全体に流れるブラックな空気が良い。
2018.01.13
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米澤穂信の地方再生連作ミステリーを読んだ。 ○ストーリー 町や村が合併して生まれた田舎の自治体・南はかま市、そのまたはずれの簑石地区は、過疎化と高齢化が進み、残った住人たちも立ち退き、無人となってしまった。市長の肝いりで、ここに移住者たちをIターンで呼び、地域を再生しようというプロジェクトが始まった。市役所に《甦り課》が新設され、課長の西野、課員の万願寺、新人の観山(ミヤマ)の3人が赴任する。市のホームページへの応募、書類審査、面談を終え、12組の人々が簑石地区に移住をしてきた。だが・・・ ーーーーーーーーー この作者は、学生たちを主人公にしたシリーズは除いて、真面目な作風が目立つ。そんな作家なのでどんな《悲劇》かと身構えていたら、ライトな連作ミステリーだった。 主人公は真面目な市役所職員の万願寺だ。《甦り課》に来たことで出世からは出遅れてしまったようだが、それでも腐らずに仕事は着々とこなす。 課長の西野は定時には、あるいは定時より前に帰ってしまう。同僚のミヤマは学生気分が抜けきれておらず、移住者にフレンドリー過ぎる。いきおい万願寺が様々なトラブルを解決しなければならないのだった。 ーーーーーーーーー 個性的な移住者たちは、どうしても軋轢を起こし、小さな事故や事件が起き始める。その結果、1組また1組と彼らは脱落してしまう。 簑石地区の未来はどうなるのか? ーーーーーーーーー ミステリーの短編集として楽しめるが、それ以外にも連作を通したカラクリがあり、さらには地方自治体の問題を問いかけるという部分もあり、何重にも楽しめる作品となっている。 冒頭にも書いたけれど、あまり米澤作品ぽくない。どちらかというと中山七里の雰囲気がある。あっちはもっと血生臭くなりそうだけどね。「ワルツを踊ろう」があるけど。
2020.09.22
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匠千暁シリーズの第1作となる「解体諸因」を再読した。このシリーズを読み進めてきて,また「猟死の果て」を読んでみて,ひょっとしたら読み落としている内容があるのではないか?という気がしたからだ。○ストーリー相思相愛の美大の2人は,親同士がかつて恋敵だったことが理由で,結婚を許されなかった。ところが,2人が合宿に行っている間に,片方の母親がバラバラ死体で発見された。死因が青酸カリ中毒であり,画材で青酸ソーダを使う美大の人間が疑われるのだが・・・----------------------匠千暁シリーズは,この作品が第1作で短編集だ。第2作からは,長編かつ主人公たちの学生時代に戻っており,第6作まで順に「彼女が死んだ夜」「麦酒の家の冒険」「仔羊たちの聖夜」「スコッチゲーム」「依存」へと続く。第7作は「謎亭論処(めいていロンド)」であり,第1作と同じように,短編集で,また主人公たちが社会人だ。今回,第1作目を再読してみたのは,ぐるーっと戻ってきた感のある第7作と比較をしてみて,シリーズとしての整合性を確認してみたかった,というのもある。----------------------まず作品としての評価だが,「猟死の果て」と同じように,1つのミッシングリンクで最後に大きな謎が明らかになる,ということを目指している様子がうかがえる。最終作品で,千暁と中越との対話で,それまでの短編で見落とされていた真相が明らかになる,という展開は面白い。ただし,全体のボリュームが大きく,そこでどんでん返しとなる短編も半分程度だ。残りの半分は,最初のストーリーのままなので,なんとなく”天地が逆転”というまでのオドロキがない。そういう意味では,ミッシングリンクは作品全体を補完してくれず,スッキリ感が不足している。まあ,でもチャレンジとしては大胆だよなあ。----------------------さて,匠千暁シリーズとしての再読で気付いたポイントを述べる。これはいつもの作品への感想とはちょっと視点が違うので注意!第1編「解体迅速」:匠千暁(タック)は,大学卒業後も定職に就いておらず,仙人のように暮らしているという設定だ。どうやら現代詩の研究で大学院,助手,そして研究者というルートは選択しなかったらしい。第2編「解体信条」:辺見祐輔(ボアン先輩)が,女子高教師で登場だ。しっかりと面倒見の良い感じの教師をキチンと務めているので驚きだ。しかも既に2年程度は勤務しているらしい。容疑者たちが合宿に行くT高原は,「麦酒の家の冒険」のR高原とは関係ない・・・当たり前か。第3編「解体昇降」:平塚刑事と中越警部が登場だ。2人とも,後に匠千暁と知り合いになり,そしてシリーズキャラクターになるらしい。第4編「解体譲渡」:女子高教師・辺見祐輔が,お見合いをする。祐輔の回想のフレーズとして,「若気の至りで同棲までしたことがある」とあるが,これは「新・麦酒の家の謎」で明らかになった事件のことだ。祐輔が身を固めたいと思っていることが述べられ,お見合いの相手の美女・藤岡圭子とも,そこそこいい雰囲気。第5編「解体守護」:この短編集で1編だけ,千暁たちが学生時代の作品だ。高瀬千帆(タカチ)が登場して,事件の相談を千暁に持ちかける。2人の雰囲気から言って,大学2年生の頃?「彼女が死んだ夜」の頃かと思われる。この作品で,千帆の肩で千暁が居眠りをして,ヨダレでジャケットを台無しにする,というシーンがある。第6編「解体出途」:匠千暁の叔母と従妹,しかも母方側が登場する。妖艶な感じは,美也子さんの妹かとも思わせるが,「依存」での設定から考えると,義母の妹だと思われる。しかし千暁の父親の,女性の趣味って,なんだか良くないような。第7編「殺人肖像」:第2編で女子高生だった双子姉妹が,大学生として登場して,喫茶店のバイトのお兄さん・匠千暁に相談事をする。第2編から3年は経っているのだから,千暁たちの卒業後5年くらいか?千暁が友人として,「女子高教師」と「東京で広告代理店に勤めている」2名を挙げている。前者は祐輔が確定だが,後者は千帆ということだろうか?第8編「解体照応:スライド殺人」:作品内作品なので,シリーズキャラと関連は無い。第9編「解体順路」:第1,第4,第7,第8の各編が,この最終編で関連し,大きな謎が解かれる。いつの間にか,平塚刑事と中越警部と知り合いになっている千暁が,全ての謎を解く。----------------------やっぱり,シリーズの時間で,大学卒業周辺がごっそり抜け落ちている。匠千暁が,事件解決のために,誰かの身代わりを演じる,という作品は,いつ読めるんだろうか?
2006.11.04
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金曜日に放映された恒例の『ルパン三世』スペシャルを観た。○ストーリーヨーロッパ山岳地帯にある小国家シャハルタは,10数年前に革命が起き民主国家となっていた。だが旧王族が残したという〈シャハルタの宝〉をめぐり,元近衛兵の空賊,多国籍企業,そしてルパン一味が争奪戦を繰り広げる。シャハルタに眠る〈空中都市〉に最初にたどり着くのは誰か?------------放映前から話題になっていたけど,ルパンの瞳が反射キラキラウルウルになっていて,最後まで馴染めなかった。ルパンが預かることになり,しょっちゅう背負っている赤ん坊の顔が,逆にリアル系のブチャ顔なので,ウルウルルパンとリアル赤ん坊が並んでいる絵が多くて,違和感が強かったという影響も大きい。ちなみに,適当に観ていたから,この赤ん坊が何なのか,最後まで理解出来なかった。(爆)------------この物語,「空中都市のお宝」「空賊」「王の娘」って,まるで『ラピュタ』だが,あまり期待しない方がいい。なにしろ飛行船で戦闘ヘリと戦うのだから,トンデモっぷりが分る。山岳地帯で道路が整備できなかったから,飛行船が発達した,って歴史,どっか無理がないか?この飛行船やルパンのベンツなど,乗り物チェイスの多くは3DCGで描かれる。今どきのCGなのに急に質感が変わるから,なんだかガッカリ。------------絵柄の変化でもっとひどいのはキャラクターだろう。『ルパン三世』は長寿シリーズなので,様々な絵柄がある。次元大介,石川五右衛門などはどの作品でも安定した絵柄だが,今回のルパンそして銭型警部の絵柄の違和感は,かつてないものだった。またレギュラーキャラクターでさえ,「おや?」と思ってしまうのに,今回だけ登場する単発キャラクターが,レギュラーからさらに遠い絵柄の人々なので,なんかのコラボかと思ってしまう。これを「新しいスタンダード」と呼んでしまうテレビ局って,何考えているんだろう?・・・いや,そうとしか呼べなかったのか・・・ナットク。------------来月に同じ日本テレビ系キャラの『名探偵コナン』とのカップリング映画が封切りされるけど,あちらの少年マンガ全開の絵柄と,今回の「新しいスタンダード」がぶつからないことを願うばかりだ。
2013.11.17
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「新本格ミステリー」の夜明けに向けて島田荘司が書いた重層的なミステリーを読んだ。○ストーリー東京郊外の高級住宅のマンションを毎日うかがう老人,都心の地下街を徘徊するピエロの足跡をたどる老人,江戸川乱歩の友人が住んでいた古いアパートの前に立つ老人,それらが同じ人物であることを知ったとき,東京から遥かはなれた網走で,その真相を告げる第4の事件が起きる。---------------技巧的な「御手洗潔シリーズ」でも,地道な「吉敷刑事シリーズ」でもない,シリーズに属さない作品だ。この作品の特徴は,連作短編が最後の1編によって新たな姿を見せるということだ。この方式を『連鎖式』と呼ぶこともある。もっとも短編ア,イ,ウが,Aという姿を見せるということではなく,それぞれの短編で少しずつほのめかされていた"ワ"という過去の因縁が明らかになるというものなので,意外は少なく,驚きには欠ける。ただし,当初バラバラだと思われていた3つの事件が,最後の事件で1つにつながるという爽快感は確かに『連鎖式』ならではのものだと思う。--------------残念なのは各短編の語り手が異なるために,事件がつながった時に,知性では快感を味わえても,情緒にうったえる部分がないことだろう。語り手たちが,それなりに事件を引き起こす側にいるので,短編をまたいで彼らをつなぐことは困難なのは分かるのだが・・・。また各短編に登場する老人なのだけど,印象がだいぶ異なる。とくに第1編では心象が悪いので,その後,”裏主人公”として浮上して来てもどうも気持ちが入っていかない。歴史の重みを持たせ,構成には凝っているのに,読者がどこに共感を抱くか,という部分で失敗しているような気がする作品だ。---------------各編について簡単に述べる。「丘の上」:事業に失敗した夫婦がうらやむ丘の上の高級住宅街。そこのマンションの子どもを拉致した時,彼らの心に浮かんだこととは?・・・謎の老人が薄汚い変質者まがいの人物として登場する。ウツなトーンでいろどられた作品だ。「化石の街」:東京の街を練り歩くピエロ,同じ道のりを歩く女性,老人,謎の男たち。果たして財宝は誰の手に?・・・プロットはともかく,ピエロに翻弄される人々というイメージが,乱歩色が強く,大正の香りがする。「乱歩の幻影」:ある女性の手元にある写真には,古いアパートと江戸川乱歩が写っていた。果たしてこの写真の持ち主は,このアパートで乱歩に・・・乱歩作品へのオマージュをこめて,月光のもとで正気を失っていく人々が描かれる。ここまで異常なシチュエーションが,最後にきちんと説明されるのにはオドロキだ。「網走発遥かなり」:父親の死の謎を解くために北海道に赴いた男が経験したのは,父の事件とそっくりの状況だった。果たして全ての謎は北の荒野で解けるのか?・・・驚愕の消失トリックなのだけど,種明かしをされると,ちょっと疑問がわいてしまう。それにしても最後の事件の犯人は???
2008.09.15
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道尾秀介のホラー短編集を読んだ。○ストーリー掘り起こされた死体がきっかけで取調べを受けている男。彼が隠そうとしている罪は何なのか?鈴虫だけが,その全てを見ていた。------------久々に道尾秀介を読んでみて,感服した。まずはどの短編も,手に取れるような実体感のある”不安感”に満ちている。それは登場人物が感じていたりもするが,間違いなく読者の中に満ちてくる。次は見事なストーリーテリングだ。各短編の始まりはスッと無防備に入ってきてしまって,あっと言う間に読めてしまう。それなのに少しずつ違和感が発生し始めて,そして恐怖の結末へと向かう。なんだか妙にクヤシイけど,とにかく巧い。------------作品の空気は,僕が最初に読んで絶句をしてしまった道尾秀介作品「向日葵の咲かない夏」に近い。どの短編もチリチリとした不安感に満ちていて,S君という友人が登場し,少年か少女が物語に関わり,カラスが悲劇の予兆を告げる。そうした共通のパーツを持ちながら,各短編は驚くほどタイプの異なる構成,ジャンル,そしてロジックとなっている。これは道尾秀介の最初の短編集らしいが,若い作家らしく,まだまだ書き足りない,とでも言いたいようにチカラに満ちている。さすが道尾秀介,他人を不快にさせるテクニックは天下一品だ。------------「鈴虫」:10年ぶりに発見された友人の遺体のそばから,私の所持品が見つかった。私が警察に語った不思議な物語とは・・・ヘンだなと思いつつも,最後に納得させられてしまう。ミステリー的には設定的にはひじょうに凡庸なのに,作品としてはよく出来ている。「ケモノ」:静かな僕の家で,過去からのメッセージが発見された。僕はそれが指し示していると思われる,20年前の事件の舞台へ足を運ぶが・・・真相に近付いても,誰も幸せになれない,という特殊な物語。「よいぎつね」:祭りの夜,女性を襲った僕は,20年後に訪れた祭りで,若い男に遭遇する。・・・タイムスリップモノなのか?人間に対する天罰を語っているのか?不思議な作品だ。「箱詰めの文字」:作家となった僕には秘密があった。それをあばきに来た男を,僕は・・・これまたミステリーとしては,かなりありふれた設定だ。アパートを人々が行き来する,不思議な道尾ワールドだ。「冬の鬼」:彼と暮らし始めてから数日を語る日記文。だがそこには驚愕の事実が隠されていた。・・・1月8日から1日ずつ過去へとさかのぼる形式の短編だ。ありえないほどキツイ条件なのに,見事にホラー&ミステリーとして成立させていて,びしりと割れてしまいそうな緊張感に満ちている。「悪意の顔」:全てを呑み込んでくれる絵画。そこに自分の恐怖を吸い込ませ,クラスのS君とうまく付き合っていこうと考える僕だったが,事件は意外な方向へと動き始める。・・・これだよ!これ!少年のファンタジー世界と,現実の事件がシンクロしていて,同じ場面で違う恐怖感を味わうことが出来る。複数の解釈が出来る短編でもある。
2011.04.26
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小学校の卓球部を舞台にしたシリーズの第1作を読んだ。○ストーリー小学校6年生の大地の通う東小のエリアでは,卓球の市の大会は11月にしかない。6年生にとっては引退試合となる重要な大会だ。この大会でベスト8,できればもっと上を目指していた大地だが,6年生が3人しかいなかったため,5年生の大人しい純とダブルスを組むように指示をされる。不満に思っていた大地を,意外な事件が襲う。果たして大地は大会に出場できるのか?-------------主人公の大地は,卓球の才能もあり,行動力もあるキャプテンとして登場する。児童文学のスポーツ物としては,やや変わった設定だ。だがある意味で「すでに完成されてしまった主人公」として登場した大地に,いくつもの試練が訪れる。まずは希望する相手とダブルスのペアになれず,チカラの劣る5年生とペアとなってしまう。次に同じ小学校の女子卓球部で内紛が起きていることを知るが,解決ができない。そして極めつけは大地の家庭を襲う事件だ。大地は現代の子どもらしく,「他人が自分に何を期待しているか」を敏感に感じて,なるべくそれに応えようとする。だから感情に任せて怒ったりしないし,仮に多少感情に流されてしまうと後悔もする。家庭で問題が起これば,それを解消するために手伝おうともする。だがそれにより見えてくるのが,大地や,ひょっとしたら読者が思っている「正しい行動」というものが,必ずしも「他人が期待している行動」とは異なるということだ。この経験を通じて,大地は自分自身で設けていた枠を超えて成長したのだと思う。-------------タイトルの「チームふたり」は,もちろん大地と純のダブルスのペアのことも指しているが,物語の中では大地の父と母の夫婦のきずなを表す言葉としても登場する。この物語の中軸は間違いなく,スポーツ物だ。だがかつてのスポーツ物で,チームメートたちが目指すものは試合で勝つことに統一されていたように思うが,現代で重要なのは多様な価値観だ。学校のスポーツクラブなので,大会を目指す人もいれば,その時間楽しくスポーツをできればいいだけの人もいる。そうしたことをハッキリと口にできるか?そしてそうした他人の考え方を容認できるか?それが多様性だ。ラストシーンで,主人公の大地が立っている場所は,冒頭に想像した場所と同じかも知れない。けれども大地は,いろいろな悩みを乗り越え,他の人の考え方知ってから,そこに立っている。こうして見ると,作者の吉野万理子って,なかなかポイントを押さえた巧みな作家なのかも知れない。残りのシリーズも楽しみだ。-------------イラストは宮尾和孝だ。130ページはなかなかの迫力。
2010.05.21
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最近お気に入りの伊坂幸太郎のデビュー作を読んだ。○ストーリーコンビニ強盗をして警察に追われていた伊藤が意識を失い,目覚めたのは150年間鎖国をしているという仙台沖合いの孤島だった。その島の精神的な支えとなっていたのは,未来を見ることの出来るしゃべるカカシだった。しかしカカシは,翌朝バラバラになって”殺されて”いた。果たして,未来を予知する存在を殺すことが出来るのは誰なのか?そしてこの島に欠けているものとは?-----------------ようやく伊坂幸太郎のデビュー作を読んだ。不条理(シュール)ながら,ミステリーのツボも忘れておらず,一方で文明批判の視点も盛り込んでおり,とにかく圧倒的に伊坂ワールドだった。才能のある人は,最初から開花していて,自分のスタイルを確立しているんだなあ,とつくづく感心した。ちょっと似ているのは,一部の村上春樹作品かもしれない。でも彼が20年をかけて到達した領域に,さらりとデビュー作品から近付いていて見せるというのは,伊坂幸太郎の才能なのか?それとも時代のチカラなのだろうか?純文学を底辺にして,青春小説,ハードボイルド,冒険小説を書いてみせる村上春樹と,ミステリーを底辺とし,ファンタジー,ピカレスクロマン,青春小説を書く伊坂幸太郎とは,アプローチが異なるのだけど,描こうとしている世界そものもは重なっているような気がする。-----------------さてこの作品の特徴は,なんと言っても未来を予知するカカシ・ユーゴの存在だろう。実はそれ以外もフシギな人物は・・・というか,謎の島の住人はほとんど変人だったりするのだけど,”しゃべるカカシ”の前ではどうしてもかすんでしまう。しゃべるだけでなく未来を予知できるユーゴの突飛な存在により,この物語はミステリーの枠組みを逸脱するかと思いきや,ミステリーとしての犯人探し,細かい謎解き,そして物語としての結末まできっちりと描いてみせる。多くの作家がミステリーの新しいあり方を模索する中,あっさりといわゆる”メタミステリー”を選択する。メタミステリーは竹本健治の「匣の中の失楽」で完成してしまっているような気がするし,ミステリーとして行き詰ったので安易にメタに逃げているのが見え透いているのがイヤだ。そんな中に登場してきたこの作品が見せてくれるミステリーへの可能性は,まさにこの作品の舞台となっている孤島のように,見慣れた部品を用いながら見たことのない,懐かしいのに新しい世界だ。村上春樹の作品のように,翻訳されて海外でヒットしたりしそうな気がする。-----------------この作品で忘れていけないのが,描かれているのが優しいだけの世界じゃないということだろう。島の人々の中にも欲望は犯罪はあるし,主人公の伊藤を追ってくる警官の城山に至っては悪意の固まりのようだ。そういうものの存在を踏まえた上で構築される世界だからこそ,僕らにきちんと迫ってくるのだと思う。
2008.01.10
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東野圭吾のメタ・ミステリー連作短編集を読んだ。○ストーリー離島・凸凹島では,長いこと対立していた旧家が結ばれるための祝言が予定され,親族や島民たちが帰り,お祭り状態になっていた。そんな中,口に饅頭を詰められた死体が発見される。これは島の童謡になぞらえた〈見立て殺人〉だった。〈名探偵〉天下一と〈警部〉大河原の捜査をあざ笑うように,連続殺人が始まる。------------〈名探偵〉の天下一と〈警部〉の大河原のコンビが繰り広げる連作ミステリーだ。通常のミステリーと異なるのは,彼らが自分たちがミステリー作品の登場人物であることを自覚しており,時々〈作者〉のことを心配しながら,ミステリー作品のお約束事を守りつつストーリーを進めるというところだ。「また密室殺人かよ」といったセリフを,ミステリーの登場人物が語ってしまうのだからかなり画期的だ。学生の同人作品ではなくプロの作家がこれを雑誌に発表し,好評だったのでシリーズ化がされ,そして単行本まで刊行されてしまったから驚きだ。------------語り手の大河原〈警部〉は,さまざまな事件に次々と遭遇するが,なぜかその都度天下一〈名探偵〉もそれに首を突っ込んでくる。〈警部〉は的外れな捜査と推理を続け,事件は進み,そして〈名探偵〉が真相を暴く。大河原たち警察の者はある程度真相には気付いているものの,おとぼけ〈警部〉の役柄を守るために,ひたすら間違った捜査を続けなければならない。さらに天下一〈名探偵〉も,時々やる気をなくすので,大河原は彼にカツを入れるのも仕事だ。勘違い〈名探偵〉に周りの人が振り回される,という作品は読んだことがあったが,〈名探偵〉も〈警部〉も〈作者〉の与えられた役回りを〈読者〉のために演じ続ける,というパターンは初めてだった。まさにメタフィクションだ。------------密室モノ,ダイイングメッセージ,時刻表トリック,見立て殺人,と次々とミステリーのお約束事の必然性に容赦なく斬り込んでいくので,ハラハラした。連作短編集1冊であれば楽しめたのだけれど,続編もあるという。そちらはよほど工夫がないとキビシイのではないかな?------------各編について簡単に感想を述べる。「プロローグ」・・・〈警部〉大河原のつらい役回りが語られる。「密室宣言-トリックの王様」:雪深い奈落村の閉ざされた家で死体は見つかった。さらに家の周りの雪には足跡が無かったという。不可能殺人に挑むのは〈名探偵〉天下一だ。・・・最初から飛ばしてくれる。ミステリーと言えば密室モノという認識もあるくらいだけれど,それを痛烈に批判。森博嗣も似たようなこと書いていたなあ。「意外な犯人-フーダニット」:資産家の画家・牛神貞治が殺害された。5人の容疑者の中から〈名探偵〉が真犯人としたのは?・・・〈名探偵〉がわざわざ意外な犯人を捜す,というのには笑ってしまった。「屋敷を孤立させる理由-閉ざされた空間」:資産家・矢加田の屋敷でパーティーが開催された。彼に親しいものは屋敷に残り,さらに飲み続ける。手洗いのために中座したものが戻らず,彼は屋敷の裏の山頂で死体となって発見された。この不可能殺人の真相は?・・・孤立した山荘モノで,例によってそれへの批判も語られるのだが,短編が違う方向に行っている?「最後の一言-ダイイングメッセージ」:王沢物産の社長は殺されており,死体の近くには謎のダイイングメッセージが残されていた。これが指し示す犯人とは?・・・日本語の場合,アルファベットと数字以外にも,漢字・ひらがな・カタカナがあるので,ダイイングメッセージの幅が広がってミステリー作家にとってはラッキーだろう。この短編でも語られているが,ほとんどの場合,納得できないことが多い。「アリバイ宣言-時刻表トリック」:容疑者・蟻場には完璧なアリバイがあった。天下一は鉄壁の守りを強力なロジックで打ち砕く。・・・ロジックじゃないか。時刻表ミステリーが人気なのは,ミステリー読者と鉄道ファンの層が重なるからだと思うけどなあ。「『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論-二時間ドラマ」:〈女子大生探偵〉天下一と〈警部〉大河原のコンビは,旅行先の旅館で殺人事件に遭遇する。・・・いきなり女子大生になってしまった天下一が,2時間サスペンスドラマのお約束事に苦労しながら短編を進める。今ではほとんどの作品が映像化されている人気作家も,この頃は〈2サス〉にアンビバレントな気持ちを抱いていたとは。「切断の理由-バラバラ殺人」:登山者が山中で女性の死体を発見した。容疑者は絞り込めたのだが,彼が死体をバラバラに切断した理由は?・・・バラバラ殺人の理由がきちんと語られて感心したら,やはりあの伏線が襲ってきた。上手い!「トリックの正体-???」:資産家の遺産相続を議論するために別荘に集められた一族と新たに現れた隠し子。その最中に隠し子が銃殺されるのだが,逃げた犯人は別荘の中で消えてしまう。・・・パロディにもなっていない脱力系だ。「殺すなら今-童謡殺人」:離れ小島で起きた連続殺人事件は,島の童謡に沿って起きていた。〈名探偵〉天下一は最後に真犯人を止めたのだが?・・・僕も大好きな〈見立て殺人〉系作品のパロディだ。最後まで犯人を捕まえない〈名探偵〉など突っ込みもエグいが,ラストが良い。「アンフェアの見本-ミステリのルール」:社長・大黒が毒殺され,状況から一緒に食事をしていた身内が疑われる。・・・アンフェアと大きく書かれると感想も書きづらい。このシリーズも手馴れてきて,二重の終わり方が増えてきた。「禁句-首なし死体」:タワーの展望台で首なし死体が発見される。だがタワーに上ったのは彼だけだった。・・・一見パロディのようだが,この手の謎解きって,メフィスト賞の作家には多い気がする。「凶器の話-殺人手段」:資産家・町田の死体が建物の中庭で発見される。死体には3つの刺し傷があったが,凶器は発見されなかった。〈名探偵〉天下一が見抜いた真相とは?・・・謎解きの後の真相の方が気になる。そんなのあるんだろうか?「エピローグ」:真犯人は?・・・これは以外だった。「最後の選択-名探偵のその後」:別荘に集められたのは10人の〈名探偵〉だった。だが彼らは1人,また1人と命を落とす。最後に残ったのは?・・・〈名探偵〉の設定も面白かったが,短編も徐々に緊張感を見せてくれた。とは言え,なんだか疲れた。
2017.09.04
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梶尾真治の超人気シリーズ〈エマノン〉の第1短編集を読んだ。〇ストーリー失恋旅行のフェリーの中で僕はエマノンと名乗る女性にちょっとした親切を働く。それで親しくなった2人は語り続け,僕は彼女に告白をしようと決心する。だが翌朝彼女は船内から姿を消していた。そして僕が彼女と再会出来たのはずっと先の?ーーーーーーーーーーー梶尾真治の代表作は数多あるが,人気作品と言えば〈エマノン・シリーズ〉だろう・・・たぶん。個人的には何も予備知識もない状態で,理由もなく苦手な気がして敬遠していたが,梶尾真治を読み進むのならば避けられないということで,シリーズ第1短編集を手に取った。ーーーーーーーーーーー最初の感想は,SFなんだということだ。執筆された1980年代頃はSFというジャンルが輝いていたので,それを思えば当たり前だ。ただ,今の時代はSF,ファンタジー,ミステリーとしてのジャンルに属していても,作家の作風あるいは登場するキャラクターの個性だけで流してしまうことが許されているので,ついついそうしたヌルイ作品を想像してしまっていた。まあ,最初に読んだ作品がSFとしては設定がゆるかったからなんだと思う。ーーーーーーーーーーー〈エマノン・シリーズ〉ファンには申し訳ないが,僕の印象は毎回似たようなパターンで進むのか,という落胆だ。最初の短編での主人公と不思議な女性・エマノンとの出会い,そして後日の再会は印象的だ。そしてエマノンが語った秘密もひじょうに魅力的だ。けれどもその秘密がどの短編でも語られ続けると,どんどんとその重要性が薄れるような気がして残念だ。短編の中には,エマノンが自分の秘密を明かさなくても成立するものもあると思うし,例えばエマノン自身が登場しない短編があっても良いと思う。最初の短編(ただし2013年の徳間版)を読んで思ったのは,なんで工夫をこらしていないのに,このシリーズは人気があるのだろう?という疑問だ。まあ,読み進めながら解読するしかないか?ーーーーーーーーーーー各編について簡単に感想を述べる。「おもいでエマノン」:フェリー旅行で僕が出会った女性はエマノンと名乗った。だが翌朝彼女は船内から姿を消していて,再会出来たのは・・・シリーズ第1作短編で,確かに主人公とエマノンが出会い,距離を縮めていく状況はひじょうに上手いし,驚きの再会もSFミステリーとしてはいいオチだ。だがミステリーファンとしては,なぜ翌朝エマノンが発見出来なかったのかという説明が無かったのが残念。「さかしまエングラム」:エマノンから輸血を受けた少年・晶一は強引な後退催眠をかけられ,歴史をさかのぼる。・・・この短編の途中で一度この本を読むのを止めた。いろんな意味でダメだろう。「ゆきずりアムネジア」:文筆家の私は,偶然エマという女性を助け,その後一緒に住むことになる。素晴らしい日々を過ごし彼女と結婚した私は,産まれた娘がエマを引き継いだことに気付く。・・・この後のシリーズの基本となる短編だが,同時に短編間の整合性を潔く諦めたものでもある。もっと深い短編かと思ったのに。「とまどいマクトゥーヴ」:女子高生のエマノンの前に同い年の少年J.Kが現れる。歴史の記憶を持つエマノンに対して,J.Kは未来の記憶を持っていた。・・・うーん,せっかく整合性を無視してパラレルな展開となっているのに,実につまらない。一気にエマノンの価値も下がってしまった。「うらぎりガリオン」:夫と別れて父親が隠居した砂漠の中の研究所を目指すサンディと息子のトミーは,途中でエマノンという女性を助ける。父親の研究所に着いた彼女たちが出会ったのは,父親の代わりに・・・こうしたエマノンが脇役という短編を待っていたのに,話をイチイチ大きくしてしまうのはSF作家だからか?「たそがれコンタクト」:未来の記憶を持っているヒデノブは,過去の記憶を持つエマノンとの出会いを読み取る。空港でエマノンを待っている間に・・・またまたすべての未来をしっている男が登場してしまった。何人いるんだろう?エマノンが出てこないパターンは評価する。「しおかぜエヴォリューション」:熊本の地方テレビキャスターの英子は,70秒だけの”全国の話題”のために真剣に地方の情報を届けようと悩む。彼女が出向いた天草地方では原油備蓄基地を巡って地方自治体を二分する社会問題となっていた。そしてそこで彼女は,植物の記憶と語り合う不思議な女性と出会う。英子が伝えることを選んだのは?・・・主人公が女性という新しいパターンということもあるし,個人的には完成度の高い短編だと思う。主人公の大人としての悩み,踏み出すきっかけ,体験してしまった驚愕の事件,そしてその後に彼女が選んだ情報発信。ベストの短編じゃないかな?「あしびきデイドリーム」:布川は大学生活最後の半年一緒に暮らした女性がいたはずだった。だが,彼女がいたという記憶は周りの人にはなく,布川は全てが自分のファンタジーだったと納得して卒業し社会人になった。6年後会社を退職した彼は,もう一度彼女を探そうとする・・・エマノンでしょ?と思ったら違う展開で楽しめる。けれども同じような人が複数いるの?山の中で暮らすのいやだなあ。
2018.02.20
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ベストセラー作家,大沢在昌の短編集を読んだ。○ストーリー彼の名前はジョーカー。東京の真ん中で人探しを請け負っている。ある女性を探すことを頼まれ,ジョーカーがたどり着いたのは,六本木の外人向けアスレチックだった。そこで彼は外国情報局部員たちの争いに巻き込まれる。-------------------------僕自身は,あまり大沢在昌の良い読者ではない。誰でも知っているあのシリーズは,さすがにすべて読んでいるが,それ以外はヒトケタしか読んでいない。9編が収められたこの短編集で,大沢在昌の魅力を探ろう,という意図もあった。9編とも,それなりにハードボイルドのジャンルには入ると思う。もう少し分類してみると,2編がリアリティのある現代ハードボイルド,2編が冒険スパイ小説風味,3編が連作シリーズモノのSFハードボイルド,そして2編が作者自身が出てくるスペシャル小説といったカンジだ。読後の大沢在昌への印象だが,確かに現代ハードボイルドは行間を読ませる部分もあり,なかなかうならせる。主人公の生き様はなかなか渋い。あのシリーズ以外にも,こうした魅力のある主人公が活躍する作品があるならば,読む価値は充分あると思った。-------------------------短く感想を述べておく。「冬の保安官」:作品集のタイトルにもなっている短編。別荘地の警備を担当している元警官の静かな毎日の中におとずれた事件を描いている。たった数時間の出来事なのだけど,登場人物たちは強い印象を残す。「ジョーカーの選択」:ストーリー紹介で扱ったとおりのサスペンス仕立ての作品だ。ちょっとイキナリそりゃないでしょ,ってところがある。「湯の町オプ」:タイトルのひどさと比べて,内容はピカイチで,この短編集で一番優れた作品だと思った。温泉町の便利屋の主人公が,そこを守ろうとしている様子,そして過去とのしがらみが,しっかりと描かれている。こういう作品もありか!と思わせる。「カモ」:作者が登場する街の奇妙な話。「ローズ」シリーズ:歓楽惑星の中心にあるカジノホテルの警備を担当するローズが主人公の,SFハードボイルドだ。面白いんだけど,新鮮味が足りないかな?「ナイト・オン・ファイア」:同名の写真集のコンセプト小説だ。大沢在昌の女性ヒロイン作品の特徴どおり,主人公よりも脇役の方が魅力があったりする。内容はぶっ飛んでいてお話にならないんだけど,写真を思い出しながら楽しめる(人もいる)。「再会の街角」:作者が登場し,ある事件に巻き込まれる。それを助けたのは,鮫島,佐久間,冴木という3人の男だった・・・という大沢キャラ大集合の特別編だ。いわゆる読者サービスだけど,いつもと違う描写をされるシリーズキャラが面白い。
2005.09.03
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久々に鯨統一郎の歴史ミステリーを読んだ。○ストーリー京の貴族・橘逸勢(たちばな はやなり)は,旅先の讃岐の国で,不思議な修行僧に出会う。身体が大きく,ボロをまとい,大きなことを語る僧・真魚に,逸勢は反感を覚えるが,徐々にこの僧が,人々を救うために奇蹟を起こしていることに気付く。真魚は徐々に悟りに近付き,やがて空海となる。-------------鯨統一郎には,既に「いろは歌に暗号 まんだら探偵空海」という作品があるので,空海への思いは並々ならぬものを感じる。「いろは歌に暗号」では,唐より帰り,京都で有名となっている空海と,ライバル最澄が語られたが,この作品ではまだキチンと解脱しておらず,四国の村々を放浪する若い空海が描かれる。あまり記録が残っていない時期の物語なので,鯨統一郎も自由に描いている。余計なエロシーンも寒いギャグも皆無なので,雑念(あるんかい!)に惑わされずに楽しめる。-------------欠点としては,短編の構成が淡々とし過ぎていていることだ。構成は:「奇蹟のシーン」→時間を少しさかのぼり「空海と橘逸勢が村に到着する」→「村の問題を空海たちが聞く」→「空海奇蹟を起こす」→「奇蹟により村の問題が解決される」→「空海と橘逸勢去っていく」・・・となっており,毎回スッと終わってしまって,あまり残るところがない。空海が起こす奇蹟は,基本的に伝承があるものだと思うのだが,それに対して「こうしたネタを仕込めば現実に可能だった」という,ある意味面白味の無い謎解き解説となってしまっている。もちろん村の問題が解決することで,空海の奇蹟のありがたみは残るのだが,問題が小さかったりして,ワザワザ奇蹟起こすほどのこともねーんじゃね?と思ってしまうものもある。-------------各編に奇蹟以外の空海に関するウンチクをプラスアルファ要素として入れるとか(饂飩が良い例),全体で長編となるような仕掛けを入れるとか,そうしたヒネリを加えないと,どうしても作品としての存在感が薄い気がする。鯨統一郎なんだから,ファンとしては,もう少しサービス精神を発揮してもらいたいと思ってしまう。
2011.06.29
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たまたまだと思うけれど,秋のシーズンで出版社の地味な部署を題材にした番組が2つ放映されているので観てみた。------------『校閲ガール』(日本テレビのドラマ)○ストーリー河野悦子(こうの えつこ)は女性ファッション誌〈Lassy〉の編集者を夢見て,なんとか大手出版社に就職するものの,配属されたのは地下にある地味な校閲部だった。ファッション誌以外は読んだことがなかった河野悦子・通称〈コウエツ〉は,問題を起こしつつも持ち前のバイタリティで仕事をこなしていく。・・・石原さとみの振り切れたコメディ演技が魅力だ。逆に言うと,ここが耐えられなければ嫌いになるだろう。校閲としてはすぐに仕事をこなしていることとか,異常なほどオシャレなこととかは,突っ込んじゃダメなんだろうなあ。いろいろあるけれどドラマとしては楽しく出来ていると思う。------------『舟を編む』(フジテレビのアニメーション)○ストーリー伝統ある玄武書房では辞書〈大渡海〉の編纂をじっくりと行っていた。そこに新メンバーとして加わったのが,営業部ではお荷物とされていた馬締(まじめ)だった。まるで学者のような馬締は〈大渡海〉を完成させるため,人生を賭けることとなる。・・・いわずと知れた三浦しをんの大ヒット小説だが,なんとこれは女性ファッション誌〈Classy〉に連載されていたという!なんだか運命を感じるなあ。------------本を読んだり,学生時代には知り合いの雑誌編集を手伝ったりしていたので,少しはこう言った世界を知っているので,こうした裏方的な人々に光があたるのはうれしい気持ちになる。がんばれ~~~
2016.10.27
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新しい施設での打合せでほぼ1日工事現場にいた。ちょうど躯体工事が終わり,仕上げ工事に移ろうとしている最中なので,現場ではいろいろな作業が進行している。アスファルト防水が行われていて独特のゴムの匂いがしていた。デッキ下の耐火被覆材吹付けが行われていて,細かいチリのような材料が舞っていた。外壁の塗装が行われていて溶剤の匂いがしていた。どこかで溶接が行われていて,火花が散っていた。まあどこの現場でも見られる日常風景だったのだけれど,立場が変わった今ではお客様として気楽に見ることが出来る。一方で,今の現場の人にも信用してもらえて,勝手にふらふらすることも許してもらえている。けれどもさすがに半袖で現場にいたのであちこちチクチクしている。
2015.05.26
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正月はやっぱり華やかなものを,という事で,前から気になっていた女流作家の大家のこの作品を読んだ。○ストーリー新潟の豪農で蔵元の田乃内家にたった一人育った娘,烈,は美しい娘だったが,生まれつき視力が弱かった。祖母,母が倒れ,烈はさらに視力までを失う。田乃内家に様々な事がおとずれる中,烈は叔母の佐穂とひっそりと育っていく。ついに父・意造までが気力を失ってしまった時,烈が決心したことは・・・------------------------華やかさはない,けれども正月にふさわしい静かな美しさはたっぷりあった。新潟の旧家を舞台にした作品に,華やかさを期待してはいけなかったのだろうか?一言で言うとNHK連続テレビ小説の小説版を読んでいるような気持ちになった。明治,大正,昭和と続く田乃内家の歴史が続く中,まあ,とにかく不幸の連続だ。烈の父親の意造は,なかなかの人物で,当主としておおむね立派に振舞う。しかしなんと言っても,この作品の主人公は女性たちだ。祖母,母,叔母,継母,烈と田乃内家の女性たちが,ある時は激しく,ある時は我慢強くドラマを進める。------------------------明治以来の”旧家”というものが,リアリティを失って久しい。なにしろ現代の資産家は,同じ会社員だけど,たまたま”あっち側”にいる人,ってカンジだ。最近”旧家”という設定は,少女マンガか,推理小説の中でしか,お目にかかれないが,どれも薄っぺらくて安っぽい。「蔵」では全編みっちりと,”旧家”が描かれている。そこの人々の考え方・生き方,家の間取りや風習,どこを取っても,リアルな重みを持って描かれている。------------------------もう一つ,この作品に厚みと温かみを与えているのが新潟の方言だろう。宮尾登美子作品としては読みやすい方だということで,全編を通じて会話が主体となっている。当然,そのほぼ全てが新潟の言葉なんだけど,それによって登場人物たちに血肉が通うようになっている。翻訳小説ではまずこの肌触りは出すことはできないと思う。------------------------さて,「蔵」のタイトル通り,田乃内家では,日本酒「冬麗」を醸造している。最後に蔵のさまざまな工程がもっと前面に出るかと思っていたんだけど,もう一つ,というところで別の悲劇が起きてしまって,それはお預けのままとなる。ま,それでもこの作品を読了した時は,日本酒でお祝いをしたくなった。でも正月の街では酒屋は閉まっていた。その先のコンビニでは焼酎しか売っていなかった。おーい,日本の正月だろ!伝統はどこ行った?
2005.01.03
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歌野晶午の問題作「密室殺人ゲーム」の続編を読んだ。○ストーリー恐怖の殺人ゲームは続いていた。おなじみの5人がネットで繋がり,殺人事件の推理ゲームをしている。彼らはリアルな殺人者で,メンバーに自分の犯罪の謎解きに挑ませているのだった。ゲームの果てに起きた衝撃の事件とは?------------前作「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」は,〈頭狂人〉ら5人のネット住民による殺人推理ゲームだった。だが出題者=殺人者が順番に進む中で,意外な展開が起き,彼らはリアルでも協力をして・・・というところで終わっていた。この作品では,〈頭狂人〉を始め5人の語り手は復活しており,殺人ゲームは再開される。この時点で,前作を読んだ者は「おや?」と疑問を抱くのだが,作者はきちんと状況を説明し,今回の「2.0」がどのように前作とつながっているかを説明してくれる。前作同様に刺激的なミステリーが連続して提示され,それも面白いのだが,前作と「2.0」のつながり方にはなかなかの衝撃を受けた。こんな形の続編ってこれまで読んだことがなかった。その点だけでも驚きだ。------------今回はさらにページ数は増え,文庫で600ページを超える。相変わらず残酷な事件が語られるが,主人公たちがゲーム感覚なので,その陰惨さは良くも悪くも薄められている。リアリティなんて議論するのも野暮だと思う。ミステリーの新しいフォーマットだと思う。------------各編について簡単に感想を述べる。「Q1 次は誰が殺しますか?」:偶然容疑者となった男は,恐怖の殺人ゲームを行っていた。〈頭狂人〉たちは,他のチームが行っていたマンション連続殺人事件にチャレンジする。・・・男が捕まったことで,連続殺人ゲームが明らかになる。部外者としてそのゲームの法則を解き明かそうと,おなじみのメンバーが語り合っていて,ひじょうに懐かしいのだが,一方で前作のラストはどうなった?と気になり続ける。ゲームの法則は難し過ぎて,あまりリアリティは無いなあ。「Q2 密室などない」:田舎の一軒家で発見された死体は,それまでは完全なる密室に置かれていた。・・・前作でもおなじみの偶数章は脱力系という趣向だ。〈伴道全教授〉が出題する。「Q3 切り裂きジャック三十分の孤独」:ビルの地下でオーナーのバラバラ死体が発見された。だがそこまでの扉は死体によって内部からロックされていた。犯人はどこに消えたのか?そして密室の構築方法は?・・・〈ザンギャ君〉による捨て身の殺人計画が披露される。第3章になって,今回も前作同様にリアル殺人ゲームだったのだと納得させられた。それにしても強烈だ。「Q4 相当な悪魔」:大阪に帰ったはずの女子大生は,翌朝関東で死体で発見された。事件の中継を送った〈頭狂人〉も大阪には行けないはずだった。関東と大阪をつなぐ秘密とは?・・・ちょっとアンフェアのようなトリックだが,この事件の肝は,出題者〈頭狂人〉の鬼畜さだろう。それと同時に,「あれ?この〈頭狂人〉って誰?」という疑問が生じてくる。「Q5 三つの閂」:雪景色の真ん中に置かれ,厳重な閂で施錠された箱には,女子高生の死体が置かれていた。芸術的な密室の真相とは?・・・〈aXe〉の機械的ミステリーだ。前章が真面目だったので,1個飛ばして5章が脱力系?と思わせて,なかなか強引な正解が語られている。強引だけれど,考えてみるとなかなか芸術的だ。「Q6 密室よ、さらば」:マンションで女性が殺害された。さらに見ず知らずの男の死体があった。様々な憶測が流れる中,唯一説明できる方法とは?・・・大活躍の〈044APD〉がついに出題者側に回る。これまでで一番長い章で,メンバーは回答にかなり苦労する。真相はロジックとしてはしっかりしているが,それ以外が全く描写されないので,ぽかーんとしてしまう。「Q? そして扉が開かれた」:密室殺人ゲームの再起動が語られる。・・・この見事な文体。ふつーの女子高生がゲームに参加しようとしているのだ。実に恐ろしい。
2015.08.25
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三浦しをんの恋愛をテーマにした短編集を読んだ。○ストーリー8才だった〈私〉は,文蔵が西へと運転する車で一晩を過ごす。目的地で目が覚めた〈私〉と文蔵は,冬の夜空に広がる星座を見上げる。そうして文蔵は去って行ったが,〈私〉は今でも・・・--------------三浦しをんの作品を読むと,大学生だった頃を思い出す。僕は自宅から通学していたが,大学の近くや○○線沿線に下宿をしている上級生,同級生も多く,時々課題製作のために泊まりに行ったりした。あの頃の空気と同じ物を,この人の作品から感じることが多い。今回の短編集は11編が収録されており,1つ1つは短い。恋愛,というテーマがあるものの,登場人物は老若男女,夫婦恋人不倫とバラエティに富んでいる。貧乏なカップルのコミカルな姿もあれば,男同士の友情以上恋愛未満,女子校から続く女性同士の深い相互理解もある。面白いのは,男性視点の作品は,のほほんとした空気が漂っているのに対して,女性を主人公にした作品では,相手の言動から様々なことを読み取り,けれども察したことは必ずしも分からないように振舞う,という深い心理状態が描かれていることだ。よく言われるように,三浦しをんは「まだ若いのに」なかなか人間観察が鋭い。それでも男性に対してはだいぶ甘いところがある気がする。願望が入っているんだろうけど。--------------様々な場所に発表した作品をまとめて本にしているので,執筆した時期も幅があるようだ。なので読んでいると,「あの作品に似ている」「こっちの作品に似ている」と感じることがあった。最近の作品のように,あらゆる読者層に受け入れられるものではないが,三浦しをんの違う側面として読むのも良いかも知れない。--------------各編の感想を簡単に述べる。「永遠に完成しない二通の手紙」:岡田のアパートを幼馴染の寺島が訪れる。岡田は億劫そうにしながらも,ラブレターを書くという寺島を手伝うが・・・三浦しをんの趣味的な短編。短いけれども,明確な存在感がある。「裏切らないこと」:生まれたばかりの息子との生活が始まった〈俺〉は,かすかな疎外感を感じる。そうして幼い頃,隣に住んでいた老夫婦のことを思い出す。・・・ところどころセンショーナルな内容を含みつつ,全体は静か,という不思議な短編。「私たちがしたこと」:親友の美紀子のウェディングドレスにビーズを縫い付けながら,〈私〉は高校生の頃に起きた事件のことを思い出す。恋人の家からの帰り道で・・・平和そうな日常の裏に,という怖い物語。「夜にあふれるもの」:同じ学校で育った真理子が急に〈私〉の部屋を訪れる。彼女の運転する車に乗って,〈私〉たちはイエスの墓のあるという東北の田舎を目指すのだが・・・男性の僕には決して感じ取れない女性同士の友情が描かれている。やはり怖い。「骨片」:大学を出たものの実家に戻って家業を手伝っている〈私〉の手元には,急死した恩師の形見が残っている。傲慢な祖母と話をしながら〈私〉が決意をしたこととは・・・急に文豪の書いたような作風になっていて,しかもそれが少しも違和感の感じられない完成度で驚く。「ペーパークラフト」:里子は夫に高校時代の後輩・勇二を紹介される。徐々に勇二に惹かれる里子だったが,彼には別の目的があった。2人は共犯なのか?それとも恋敵なのか?・・・ひどく陰湿な印象の短編だ。しかもこの終わり方。「森を歩く」:出版社に勤める〈私〉は仕事先のパーティーで,謎の男・捨松と出会う。2人は付き合い始めるが,数年経っても捨松は謎の存在だった。・・・これはさすがに女性の願望が入り過ぎだろう。自分にも相手にも。「優雅な生活」:〈ロハス生活〉を決意した〈私〉は,同居人の俊明にも協力を求める。だがその生活にはまってしまったのは俊明の方だった。・・・これも安っぽいなあ。薄い。「春太の毎日」:麻子と〈俺〉の生活に,米倉という男が割り込んでくる。・・・叙述トリック,じゃないよね?「冬の一等星」:〈私〉は今でも車の後部座席で夜明かしをすることがある。それは・・・「きみはポラリス」という題名の元となった短編だ。冬の夜空を感じさせる切ない傑作短編だ。「永遠につづく手紙の最後の一文」:岡田と寺島は,間違って体育館の倉庫に閉じ込められてしまう。・・・分かるけど,それをハッキリと言葉にするのはイキじゃないなあ。
2014.03.19
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交通事故をテーマにした東野圭吾の連作短編集を読んだ。〇ストーリー直線道路でトラックが急ブレーキを踏み,中央分離帯に突っ込んだ。安全運転を続けいた運転手は死亡し,事故は彼の過失で片付けられそうになっていた。だが,事故の近くにはコンビニがあり,道路沿いに違法駐車があったことが判明する。果たしてその晩に駐車をしていた車を特定することは出来るのか?そしてその運転手を罪に問うことは出来るのか?----------連作短編集と表示されていたのだけれど,2つ目の短編を読み始めてもピンと来ない,と思いつつ読み進めたら交通事故が起き,なるほど〈交通警察〉と〈交通事故〉が連作のテーマだと気付いた。なにしろかつては「交通警察の夜」という題名がついていた作品だ。「天使の耳」はいくらなんでもキレイ過ぎる題名で,あまり内容を表していないのであまり良いとは思えない。一方で「交通警察の夜」もテレビレポート番組のタイトルみたいだし,変えたくなるのも分かる。良くも悪くも,デビュー後の拙さをギリギリ背負っている東野圭吾の作品だ。----------共通するテーマは〈交通事故〉だ。主人公たちは,加害者であることもあれば,被害者であることもある。決して”車は社会の敵”みたいな極端な主張なのではなく車は必要だとした上で,事故により人生が狂ってしまう人々の悲哀や逆上を描いている。ただし交通事故の判例や前例主義については異議があるらしく,法的な決着についてはほとんどの短編で不十分というスタンスを取っている。今となっては封印したくなるような極端な決着の短編もあるのが面白い。とは言え読んでいて,車の運転をするのが怖くなったのは,作者の術中にはまっているのだと思う。かつての東野圭吾を知るには,読みやすくて良いかも知れない。----------各編について簡単に感想を述べる。「天使の耳」:交差点事故を起こした2台は,外車と軽自動車だった。外車の男女には怪我がなかったが,軽自動車を運転していた男性は死亡してしまった。どちら側の信号が赤だったのか意見が分かれたが,それを決定付けたのは,軽自動車に同乗していた盲目の女性だった。彼女の天才的な耳のの能力とは?・・・最初の短編なのに,驚くほどの熱量で迫る。不運をなんとか覆すという結末かと思ったら?その衝撃が良い。「分離帯」:安全運転を続けてきたトラック運転手が事故を起こし死亡した。交通警察の世良は,その直前にあったコンビニの前に駐車をしていたアウディを探そうとする。だがそれは・・・刑事とかつてのクラスメートの再会という展開があり,作品としての密度はなかなか高い。このまま長編にすることも出来そうだ。この短編でも交通事故をめぐる捜査や決着の限界が語られる。ヒロインはどうなるんだろう?「危険な青葉」:後続車に煽られ,ハイビームで惑わされた末にガードレールに突っ込んでしまった福原映子は,自分は命を狙われていたと主張する。逮捕された森本恒夫は,映子との事故だけでなく,他の事件の罪も追及されるのだった・・・因果応報で読んでいてスッキリする部分もあるのだが,ちょっとお灸の据え方がきつ過ぎる。「通りゃんせ」:佐原雄二の車は駐車中に当て逃げをされて傷がついた。全く期待していなかったのに,その相手・前村から連絡が来て,彼は必要以上の部分まで修理をする。だが前村は,その後も雄二の前に現れ・・・設定上はリアルな世界にとどまっているが,これは完全にホラーサスペンスの世界だ。主人公に同情は出来ないけれど,誰にでも起こりそうな状況で怖い。「捨てないで」:前の車から捨てられた空き缶で,深沢のフィアンセの真知子は片目を失ってしまう。なんとか彼女の無念を果たそうとする深沢だが・・・2つの物語が並行して進むが,大きくは因果応報の物語だ。でも空き缶が飛んできて助手席の人の顔に当たるって,あるのだろうか?「鏡の中で」:深夜の交差点で,車とバイクが接触した。バイクの青年は死亡し,車を運転していた男性は罪を認めた。単純に終わったはずの事件だが,警察の織田は違和感を覚える。そして・・・最初の短編に戻ったような落ち着いた展開だ。だが結末はこれで良いのだろうか?いろいろ悩みが見え隠れするエンドだ。
2017.08.08
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