不破雷導

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Apr 3, 2005
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テーマ: 小説(12)
カテゴリ: 小説
 襖一枚隔てた隣の部屋から、絹を裂く様な妻の悲鳴と、年老いた産婆の濁声が高く低く、断続的に聞こえて来る。

 私が此の家に来て三年に成る。妻と出会ったのは七年前。東京のK大学の文学部に入学した私は、教室の隅で同じ講義を受けて居た彼女に一目惚れした。

 声を掛けた。逃げられた。然し、そんな事位で諦められ無い。
 徹夜して手紙を書いた。何度も何度も書き直して、結局最初に書いた内容と大差無い、単純な内容に成った。
 手紙を渡した。彼女は、驚いた顔をして、其れでも受け取って呉れた。私は彼女に会う事が怖く成って、一週間大学に行く事が出来無かった。

 一週間の間、彼れ是れと思い悩み、決心と云うか、諦めと云うか、兎に角そう云う物が着いて、漸く大学に行けたのだった。

 其処に待って居たのは、私宛の手紙を持った、彼女だった。其れからの四年間は丸で夢の様であった。

 卒業を前にして、将来の事を話し合う様に成り、彼女から彼女の家の事情を打ち明けられた。

 彼女の家は、地方の資産家で、放って置いても生活に必要な金額以上のお金は入って来る。然し何故か、代代女の子供しか生まれ無い、女系の血統で、代代長女が婿養子を取る仕来たりに成って居るのだそうだ。彼女は其の長女で、私に婿養子に来て欲しいと言った。


 斯くて、卒業と同時に、壮大な結婚式が執り行われ、私は此の家に入ったのだった。

 そして昨年、妻が妊娠した。矢張り女の子だろうか。私は心配なので、近代的な設備の有る病院に診て貰いたかったが、此れも仕来たりで、全ては近所に住む産婆に任された。妻も、義妹達も、此の産婆に取り上げられたそうだ。

 一際高く長い妻の悲鳴に似た声がした。其れに続いて一瞬、確かに産声が聞こえた。然し、其れは直ぐに消え、続いて聞こえたのは、其れまでとは異質な妻の胸を引き裂くような悲鳴だった。只ならぬ雰囲気を感じた私は、決して開けては成らぬと言われて居た襖を開けた。其処に見たのは……。

 目と口を半開きにした儘、放心状態の妻。其の妻と未だ臍の緒が繋がって居る産まれたばかりの児は男の子だった。だが、其の児の首は、不自然に曲がって居り苦悶の表情を浮かべ、其の儘止まって仕舞って居た。産婆は産湯に使う筈だった桶の湯で手を洗い乍、何やら呟いて居た。
 「此の家は、此の家には、男の子が産まれる筈が無い……。男の子は産まれては成らんのじゃ……」


(2000年1月)





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Last updated  Apr 14, 2005 11:21:16 AM
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