男の羅生門 ‐ Guitar&Bike Life ‐

男の羅生門 ‐ Guitar&Bike Life ‐

July 9, 2026
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予兆は、確かにあった。
数日前、愛馬であるジムニーの心臓から、いつもより高いタービンの咆哮が響いた気がしたのだ。ボンネットを開け、目を凝らす。タービンへと繋がるゴムパイプの一部が、経年劣化で欠損しているのを見つけた。

「これか……」

応急処置を施し、再びパイプを繋ぎ直す。異音は消え、何事もなかったかのように滑らかな走りが戻った。だが、それは破滅へのカウントダウンを一時的に止めたに過ぎなかったのだ。その時すでに、過給機の深部は致命的な傷を負っていたのだろう。
本来の力を発揮できぬまま、過酷な負荷に耐え続けていた鋼鉄の心臓。
運命の日は、高速道路の上で訪れた。
アクセルを踏み込み、ブーストをかけたまま高速巡航に入った、その時だった。


「ドババババババ!!!」


突如として車体が激しく震え、バックミラーが文字通り「真っ白」に染まった。信じられない分量の白煙が、もの凄い勢いで後方へと噴き出していく。しかも運悪く、そこは逃げ場のない高速道路のトンネル内だった。


一瞬にして視界はゼロへと陥り、暗闇のトンネルは文字通り白煙の迷宮と化した。

「嘘だろ……!?」

タコメーターの針が、意志を失ったかのように力なく落ちていく。いくらアクセルを踏み込んでも、過給圧(ブースト)が立ち上がる気配は微塵もない。代わりにボンネットの奥から響いてくるのは、「ガシャガシャ」という不吉極まりない金属の悲鳴。


内燃機関としての命を終えようとしている水冷エンジンは、まるで狂った蒸気機関へと変貌を遂げたかのように不規則に喘ぎ、白煙を吐き散らす。




執念でトンネルを抜け、最寄りのインターチェンジへ。滑り込むように車を停止させた瞬間、ジムニーは完全に沈黙した。
その後待っていたのは、無情にも呼び出されたレッカー車に牽引され、ドナドナと運ばれていく相棒の後ろ姿だった。




下された診断は、非情だった。
「エンジンダメージ甚大。ご臨終です」



大切に、我が子のように手をかけて乗ってきたのに……なんてこった。押し寄せる絶望感の中で、一時は「いっそ、別の車に乗り換えようか」という考えが頭をよぎった。しかし、近年の軽自動車の価格高騰は凄まじい。それに何より、このままコイツを諦めることなど、自分にできるはずがなかった。



「生き返らせる。それも、前より強く」




数週間後。
再び火が入ったジムニーの心臓は、以前よりも力強く、完璧なビートを刻んでいた。




九死に一生を得て、文字通り「新生」した相棒へ、ささやかな御祝いを贈ることにした。
新調されたフロントには、流れる光が美しいシーケンシャルマーカーランプを奢り、泥にまみれるはずのボディには、鏡のようなガラスコーティングを深く施工してやった。

災い転じて福となす。地獄のトンネルをくぐり抜けたジムニーは、以前にも増して眩い輝きを放ちながら、再び僕の前に立っている。さあ、第二章の始まりだ。今度はどこへ行こうか、相棒。





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Last updated  July 11, 2026 09:50:12 AM
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