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2004年10月31日
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テーマ: タイ(3480)
カテゴリ: タイ・入院編
 本当に良かったんだろうか。ホテルの部屋に横になりながら、僕はさっき怒鳴ってしまったことを後悔していた。怒鳴られたバイクタクシーの運転手の顔は必死だった。そして、仲裁に入ってくれた上品なタイの婦人はすがるような目で、僕にこういった。「お願いだから、50でいいから払ってあげて」そして、こう続けた。「彼らを許してあげて、彼らは貧乏なの。今、タイの経済はガタガタだから、彼らも生きるのに必死なの」その言葉が僕に突き刺さった。けれども、約束は約束だ。その約束を彼が守らなかったこと、あるいは勝手に行き先を変更したことに対して、僕は怒鳴らずにはいられなかったのだ。

 旅をしているといつもこの問題に突き当たる。日本は世界の標準から考えるととてつもなく裕福な国だ。そして、そんな裕福な国から来た僕は、しかも2年間もの期間を気ままに世界中を旅している僕は彼らにとってはとても考えられない夢のようなことをしているように映って当然だ。日本では「貧乏旅行」という言葉が生まれたが、そんな言葉を使うのは僕が旅をしている国の人に対してとても失礼な言葉だ。実際僕は自分が「貧乏」な旅行をしているとは思わない。たまに「貧乏ごっこ」をしている旅人に会うことがあるが、それでも旅をしていること自体で僕らは裕福なのだ。

 だから、ある意味において開き直ってしまっている現地の人々には、僕らから金を多くとって当然だという考え方を持っている人が多い。そして僕はそんな考え方に対して、真っ向から否定はできない。否定できないが、だからといって明らかにボッタくられるのも気分が悪い。そしていつも自分がどうすれば良いのかわからなくなってしまうのだ。

だが、いったん約束をしたことに対しては、守る義務がある。そしてもし何か変更が生じた場合は必ずもう一度確認をするべきだ。彼は明らかにそれを怠った。だから僕は怒鳴ってしまった。

 事の起こりはこうだ。実は僕はまた旅に出てきている。というか、旅に出たのはもう5ヶ月以上も前のことで、今更そんな事を言われなくても分かっているという感じなのだが、バンコクを離れまたタイ国内を周りはじめたのだ。またデイパック一つの旅だ。今回は前回ミャンマー国境に行った時とは違って、行き先を決めないあての無い旅だ。昼前にバンコクの北バスターミナルに行って、適当にバスに乗った。字を読めるわけでもなく、本当に適当だった。とまっているバスをいくつか物色して、ハイデッカーで一番眺めのよさそうなバスを指差して、このバスに乗りたいと言って切符を買ったのだ。

 バスは程なく出発して北に向かう。途中空港を通過するのを確認したのと、太陽の位置から北に向かっていることがわかった。思ったとおり高いところから眺める街の景色は抜群だ。バスの料金は80バーツだった。多分終点は300~400キロ先だろう。本格的な長距離バスでは無いらしく、途中幾度も止まっては乗客を拾い、また降ろしていく。長く停車するところでは新聞や飲み物それにソーセージのようなものを売りに来た。昼食を食べそびれていた僕は、そのソーセージを買ってみた。なかなかうまかった。

 大きな街のバスターミナルに着いた。出発して3時間ほどたっている。ここが終点だろうと思って降りる準備をするが、この街で降りたのはほんのわずかで、バスは更に2時間ほど進んだ。この街からあとはほとんどローカルバス状態で、学校の終わった時刻なのか沢山の高校生達が乗り込んできて車内はにわかににぎやかになった。バス停というものは存在せず、人々は降りたいところでバスにとまってもらい降りていく。乗る時も道端に立っていて手を挙げればバスは止まってくれる。こういうフレキシブルさが良い。

 太陽が西の空に傾きかけたころ、バスはようやく終点に到着した。バミという街だった。この立派なバスの終点だからさぞかし大きな街だろうと思っていたのだが、期待が外れた。バミはとても小さい、どちらかというと村と言ってもよい程の所だった。バスターミナルというか、バス乗り場のあたりに小さい商店街があって、それで終わりというようなとこだ。どこかにゲストハウスらしきものはないかと思って探してみるが、それらしきものは全く見当たらない。

 途方に暮れて、バイクタクシーの運転手の知恵を借りることにする。「ねえ、この辺にどこか泊れるところはないかな」すると男達はなにやら相談しはじめ、代表者が「兄ちゃん、この街にはそんなものはねえよ。今話したんだがこっから20キロ程先の街にならあるみたいなんだけど、100バーツでどうだい?」そうか、あてが外れたか。終点は大きな街だと決め付けていた自分が馬鹿だった。それじゃあ、その20キロ先の街とやらまで行くしかないか。と思い商談が成立した。



 80キロで一本道を疾走しているのだから、20キロ先の街には15分で付くはずだ。そう思って、恐怖感に耐えていたが、一向にその街には着かない。結局30分ほどでバイクはロップブリー・インという高そうなホテルの前で止まった。そしてそこで騒動が起きたのだ。僕は約束通り100バーツを渡す。しかし運転手は200バーツだというのだ。そんな筈はない、最初に約束した時は100バーツと言っていたじゃないかと言うが、相手はいや200バーツだと譲らない。「最初はコモローという街に行こうと思っていたのだけど、そこには泊るところがないからロップブリーに変更したんだ。ロップブリーはとても遠いからだから200バーツなんだ」というようなことをタイ語で僕に伝えてくる。でも僕にとってみればそんな話は晴天の霹靂だ。少しのあいだ口論していたのだが、僕はだんだんと腹がたってきてそして怒鳴ってしまったのだ。

 ホテルの宿泊客の英語をしゃべれるタイ人の婦人が仲裁に入ってくれた。彼女に言わせると、それは僕が怒るのももっともだという。しばらく彼女は運転手を諭すように彼と会話をしていた。そして彼女は僕に、「お願いだから、50でいいから払ってあげて」と言ったのだ。その言葉を聞いて激情していた僕は、急に我に帰った。50バーツを受け取った時の運転手の表情が瞳に焼き付いて離れない。確かに50バーツというのは現在の為替レートに換算して150円たらずだ。けれども彼にとってこの50バーツといのは、僕にとっての1000円と同じくらいの価値があるのかもしれない。

 良く考えてみると、彼が最初に僕に要求してきた200バーツというお金だって600円である。日本で同じサービスを利用して40キロ移動したとしたら600円で済むわけが無い。それを、タイだからという理由だけで僕はそのサービスを安い価格で享受している。それだけでも僕は「ずるい」のだ。だからといって、むやみに札びらをばらまくような真似は絶対にしたくない。日本の物価感覚を引きずって行動したくない。そして、約束は約束だ。

 僕はホテルの天井を見つめながら、出口の見えない堂々巡りを繰り返していた。帰国までに答えはみつかるのだろうか。





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最終更新日  2012年04月18日 01時48分52秒
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