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暮れから新年を旅先で過ごし駅前の喫茶店に寄った。折しも店内は琴の音がながれて厳粛な気分に浸る。それぞれに年越しの形があって、新しい年を迎えたばかりの華やいだ顔が出入りする。
読みかけの本を開いていると、自動ドアから腰を曲げた白髪の男性が入ってきた。陳列されたケーキやパンを買うでもなく店内をウロウロして、やがて外に出たようだったが、間もなくまた入ってきて同じ距離を歩き回り店内から消えた。その間店員さんは、とがめることもなくカウンターで応対にいそがしい。
斜め先のコーナーの若いカップルの声が大きくなった。諍いらしい。正月から困ったものだ。やがて二人も外へ出た。「あの、この手袋は違いますか?」妊婦さんらしい方が立ち上がって、帰りかけた毛皮の女性に声をかけた「済みません。近頃忘れっぽくなって!」知らないひと同士の会話。
「おばあちゃんからもらったプラモデル出していい?」箱の中身が気になってしかたがないらしい。「家に帰ってからね!」そんな頬笑ましい親子の会話。たった一杯のコーヒーから広がる空間のドラマ、知らない街の空間。琴の調べは何時しか「さくらさくら…」に。はたまた厳粛な気分になる。明日から始まる仕事も趣味も、日常という空間のほんの一齣なのかも知れない。
庭隅の幹に日のある二日かな 桂信子(花神コレクション)所収
