綴

綴

2007年01月03日
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カテゴリ: side story [紅の邂逅]
 雨風に晒され続け色づいた木でできた、立派な門が緋深の目に飛び込んできた。有に高さは3、4間はあるが、重たい雪に押し潰されることない、どっしりとした佇まいから職人芸が見て取れ、見る者が見れば思わず感嘆の息が漏れてしまうであろう代物である。
 ここまできたならば、もういいか。
 そう言わんばかりの態度で手を離した朱鷺風が、あ~疲れた、と呟きながら緋深を置き去りにし、先に門に向かって歩き出した。
「あれが…………」
「ああ、僕らの村だ……ようこそ、『禁足地』へ。客人を、僕らは歓迎しよう」
 涼はにこやかに緋深に笑みを向け、門へ向かい足を促すが、緋深は半分聞き流していた。
 不思議な感覚である。白く雪に染められた門からは、威圧感と和むような優しい雰囲気を緋深は感じていた。いや、違う。門の中からは暖かな光に包まれるような優しさを感じる。だがその周囲、門を取り巻く雰囲気は重苦しく、押し潰されそうな息苦しさを覚えた。
(これが………『禁足地』)
 神殺しの舞台。神の墓場。神が死の間際、呪詛をかけた、呪われた地。

 曰く付きの、どう考えても明るい印象を受けない代名詞を受ける土地なのに、どうして門の中からは、村からはまるで幸せそうな家庭の窓から零れてくる光のような暖かさを感じるのだろう。なまじ門の外が毒素を散りばめたような息苦しい印象を受けるだけに、尚更そう感じて困惑してしまう。
 緋深の足が縫い止められたように動けないのは、この先に待ち受けている‘何か’が恐いからではない。確かに村の住人全てが、緋深の出会った4人のような常人離れした力を有している者であるならば、確かに脅威を感じざるえない。獰猛な獣の檻に放り込まれた獲物になりかねないからだ。
 だが、緋深には‘そんなこと’よりも恐れるものがある。
(朔夜……)
 不安だった。朔夜と引き離されたことにもちろん恐怖に似た不安を感じていた。だが、それよりも懸念することがある。
 もしも、朔夜の腕か足が、治療の為とは言え切り落とされなどしていたら……。
『何より先に治療を施したい。町のほうに戻ってもいいが、ちゃんと医学を修めた医者はいないだろう。あな
た方の状態を見れば、温かい湯に放り込んだ後瀉血しようとするだろうが、駄目だ。あんな治療法では身体が弱まるだけだ。それより【禁足地】に連れて行ってセッカに診てもらった方が良い』
『だろうな。骨折だけでも足をのこぎり引きで切り落とす医者と汚れた包帯を使って傷口を化膿させる医者しか町にはいないからな』
 つい先ほど聞いた、獅吼と女性の会話が脳裏から離れない。
 女性は、獅吼はまるで『セッカ』という者に任せれば、大丈夫なのに、と言わんばかりだった。だが、もしも手が尽くせず、それこそ彼らが酷評していた方法を採ったとしたならば……。

 怒り狂わない自信がない。そのようなことになっていたならば、緋深はその『セッカ』という人物を殺しかねない。後先を考えず、破壊行動をするだろう。朔夜の立場が危うくなると知りつつ、だ。そして、自身を許すことなどできなくなる。
 朔夜が生きてさえいてくれたらいい、と思えない我が儘な、傲慢な自分が恐い。朔夜が笑ってられるためならば、と言う大義名分を掲げ、影を落としかねない要素を徹底的に、容赦なく消滅させかねない自分を、押さえ込められなくなりつつある。
 早く会いたい。だが同時に、とても恐い。相反する気持ちに足が竦む。
(…………変わった、よな。俺)
 少し昔ではあり得ない気持ちだった。誰かを想い、それ故に恐怖を感じるなど。それが自身が傷つくことよりも、死に直面することよりも上回るなど、決してなかった。

 腹を括って、飛び込めばいいと分かっていても、最悪の未来予想図が過ぎり、どうしようもなくなる。
「ほら、いくぜ?」
「どわっ!!」
 急に、緋深より一回りは大きな手が後頭部を覆うように掴み、力任せに前進させた。何をするんだ、と獅吼を睨み上げても、当然のごとく無視をされる。
 苛立たしい。だが、どこかで無理矢理連行されて良かった、とも思う。だが決してこれが『獅吼の気遣い』かもしれない、とは思わない緋深であったが。
 ぐいぐい、と強い力で押されながら緋深はだんだんと門に近づいていく。それに伴い威圧感が増していくのに眉を顰めていると、獅吼が小さく笑いながら声をかけてきた。
「心配すんな。最初はきついかもしれねぇが、直に慣れる」
 驚いたように見上げる緋深に、獅吼は言葉を続けた。
「ま、一番ここが広かったんだ。毒素が蔓延していたが、な。村の中に入れば、きちんと結界が張ってあるから呼吸は楽になるぜ。それに、こういった場所はここだけだ。他の場所にはきちんと清浄な地もある」
「だからすぐに慣れるよ、大丈夫………でも、君は流石というか感覚が鋭い。守人の血かな?」
 涼が感心したように呟く。守人の、と言われると腹が立つ緋深が、感情が逆立たない、水の流れるような静かな口調だった。守人、という単語に特別な、それこそ畏怖のような意味を込めてないことも、一因だろう。
 圧迫感は増すばかりだが、2人の言葉を‘一応’聞き入れ、全身に感じる重みに耐えながら、獅吼に押されるだけでなく、自身でも緋深は歩き出した。
 雪が溶け、その上からまた雪が降り注ぐことで門が凍り付いている様が見えるほど近づいた時だ。  
「何だ………あれ」
 思わず口に出して、緋深は呟いた。
 白い石像があった。門の傍に緋深より一回りも二回りも大きそうな、立派な像が突っ立っている。
 はじめ緋深は、白色とは珍しいが仁王像の一種か、と思った。門の傍にある像ならば、護身像であろう、と推定したからだ。なのですぐに興味を無くし、視線を逸らした。
 だが横を通りすぎる時、緋深は目を瞠った。
「なっ…………な、な………に、人間っ?!」
 精巧な石像ではない。人を模して作るにしては、人間ができる技術を大幅に上回っていすぎる。
 体温で溶けた水になっては、新たに被さる雪で凍り付いている。透明な氷で包まれた顔は、精悍でまさしく‘もののふ’といった容貌だ。だが大きく目を瞠り、何か悲痛なことでもあったような表情なので魅力は半減されているが。もしくは、頭の上に、柔らかな帽子のように降り積もった雪のせいかもしれない。
 服が白く雪に包まれて、重たそうだ。体格がかなり良いだけに、雪で増幅した体積はかなりの存在感を示している。
「……おいっ。あれっ……あれは?!」
 涼と獅吼は‘雪だるま’に目もくべず、まるで視野に入っていないような態度で悠々と門を通り抜けようとするので、緋深は慌てて注意を促す。
 だが反応は素っ気のないものだった。
「あぁ~……ほぉっとけ、ほっとけ」
「そうだね。今、酉門【ゆうもん】は誰の声も聞かなくて、無駄だから。そのうち、まあ死ぬ前にでも復活して戻ってくるよ」
 酷い言われようだ。
 思わずまったく面識のない緋深が、本当にいいのか、と思うほど、知人への対応にしては素っ気ない。
「何で……あの人」
 氷漬けの像になりかけるほど、長時間立ち続けていたのだろう。だが常人なら、冷気による火傷の痛みによりはたと正気に戻っていそうなものを、それすらも忘れているとは。
「いつものことだ。どうせ‘先生’に気付いて貰えず、無視されたんだろうよ」
「忠犬根性は認めるけど。でもねぇ」
 肩を竦める両名は、何ともないように、ごくごく自然な口調である。そこに侮蔑のような意思はない。むしろ呆れ果ててはいるが、どこか優しげな声音すら混じっている。とすれば、少なくとも親愛の情はある、と判断して良いのだろうか。
(いつものこと……)
 緋深は‘雪だるま’を見送りつつ、思った。
 やはり『禁足地』のことも、この村の住人のこともよく分からない。まだ、理解できない。時間をまだ少しも時間を費やしていないから、当然のことだ。
 だが、一つだけわかることはある。
(やっぱり………『禁足地』って、変な奴らばっかで、変なところだ)
 偏見が多少混じっているかもしれないし、あながち間違いではないことであった。



……何だかこの頃絶好調です。不気味なほどです。
首を傾げるぐらい、スラスラと。筆がのってます
うぅん…やはりここは、いつまで続くかわからないので
今のうちに書ける書こうと思います
ノリとイキオイで書き上げているので、後日多少修正があるかもしれません
ご了承頂ければ、と
しっかし……暇だから?
ポケポケできるほどの暇が続くと、絶好調になるのかなぁ??
まあ、理由はともあれ、この調子で1年、続くと良いなぁ…





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最終更新日  2007年01月03日 20時52分05秒
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