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三角猫の巣窟
小説の技術について
・鑑賞者にも技術への理解が求められる
作者は何を書くか、どう書くかを考えるものの、どう読まれるか、という点はあまり考慮していない。小説の解釈は読者の自由だからである。しかし読者の解釈の自由度が高すぎるゆえに、小説は過大評価、過小評価されがちで、評価しにくい芸術といえる。
他の芸術鑑賞だと、例えばクラシック音楽の場合、楽譜から演奏家が作曲家の意図や技法を解釈して、聴衆は訓練をつんだ演奏家の演奏を聞くという段階的構造になっている。ゆえに聴衆は直接楽譜を見なくても演奏家を通じて優れた解釈と美しい音楽を聴くことができるし、また耳を肥やすことができる。
一方で小説は技法と内容が同時にテキスト上に提示される。これは音楽だと楽譜を見るようなもので、読者は演奏家と聴衆の両方の役割を負わなければならない。つまりはただ物語の内容を理解するだけでなく、用いられた技法に対する知識と、なぜ作者がその技法を用いたのかという作者の意図の解釈が必要となる。技法と内容が同時に提示されるというのは絵画の鑑賞と似ている。
・鑑賞者の教育が不十分
小説はそのビジネスの性質上、他の芸術よりも誤解の危険に多くさらされることになる。音楽はコンサート、絵画は展示会で、それぞれ限定された客に対して活動していて、客もまたある程度鑑賞眼を持っているので、前衛作品でない限りは作品に対する評価が極端に食い違うことがない。音楽や絵画は鑑賞する側の知識が問われるのに比べて、小説は誰もが日本語を読み書きできるがゆえに、読者はただ小説を読めるというだけで小説を批評できると錯覚してしまう。小説は芸術とエンターテイメントとゴミが一緒くたにされて本屋に並べられ、大半の読者は技法に対する知識がなく、内容を主観的に評価して面白い、つまらないという印象批評になって、技術の良し悪しの議論にならない。これが過大評価、過小評価の原因となっている。
新聞に評論家の書評が載るけれど、これは本を売るための宣伝なのでおのずと過大評価ぎみになる。評論家や小説家が生きている小説家をきちんと批評すると作家に喧嘩を売ることになって業界から干されるのであまりやりたがらず、死んだ作家しか批評の対象にならない。ゆえにろくでもない小説家が過大評価されて大御所として残り続け、大衆小説の内容の過大評価、純文学的技法の過小評価はいつまでも放置されたままになっている。
手の込んだ難しい技法を使ったところであまり理解されず、むしろつまらないと敬遠される。逆に複雑な技術を用いない、単純でわかりやすいエンタメがもてはやされるようになると、小説家も小説を売るために、読者に合わせて軽薄になっていくという悪循環にならざるをえない。しかしそれでは芸術家としての小説家の存在意義はない。
訓練をつんだ演奏家によって解釈されたクラシック音楽が聴衆の耳を肥やすのに対して、小説は読んだからといって正しい解釈がされるわけでもなく、濫読が必ずしも読者の読解力を向上させるわけではない。また批評家も文壇へのお世辞に熱心で批評の役目を果たしていないので、読者はいつまでも未熟な読者として取り残されることになる。
・技法への無理解が表現力の低下につながる
印象派の画家が野外にキャンバスを置いたのが必然であるように、内容と技法は不可分である。技法が用いられなくなれば、それに相応して内容も単純になり、パターン化して劣化するのは避けられない。劣化の最終形態が素人が書いて素人が読む中身スカスカのケータイ小説やなろう小説である。ケータイ小説は小説か否かといった議論が起きたのは、作者が文学の素養がない素人ということに由来する技法の欠如によるものだろう。テンプレ化したパターンをなぞるだけで文章表現の技術が用いられなければ、それは芸でも術でもないのでもはや芸術ではない。
現代の出版社は唯一無二の芸術を出版することを諦めて、開き直って芸術性以外の付加価値をつけた「商品」を売るようになった。芸術性以外の付加価値というのは作者の若さと性別であり、つまり若い女性がセックスを書く小説を乱造するようになった。若いだけが売りのロリコン商法といっても過言ではない。もはや商品が小説である必然性もなく、女子高生使用済み下着と同レベルとなっている。ライトノベルは初めからビジネスとして割り切っているから潔いが、純文学が技法を捨ててビジネスになったらそれはもはや何も残らない自己否定でしかない。
アスリートの場合は技術と成績が目に見えて関連しているので例えば体操のE難度みたいに素人でもすごい技のすごさがわかりやすいけれど、文学の場合は技術の良し悪しを評価できる人があまりいないので、表現技術が劣化していてもたいして問題視されていない。大きな文学賞の選考ですら文学理論や哲学などのアカデミックな知識がない選考委員がよく本を読まずに印象批評して、あとは選考委員の力関係で政治的に受賞者が決まってしまう。外国は大学にクリエイティブライティングコースがあって文学理論を教えているので批評家が技術を見る目があるだろうけれど、日本だと文学部でも文学理論や批評理論を教える大学はあまりない。日本文学が凋落し続けているのは、理解者不足による小説の技法の欠如と、それに伴う表現力の低下が原因だろう。
では日本文学復興の解決策はというと、批評を評論家に任せずに、訓練をつんだ読者が小説をふるいにかけて、技法と内容を評価しなおしてゴミの中から良書を掬い上げる作業をする必要がある。技法を正しく評価する人が増えれば、小説家もいずれそれに応えるようになっていくかもしれない。あるいはそのように訓練を積んだ読者が小説家になればよい。
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(*‘ω‘ *)ニャー
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