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純文学の小説を中心に読書録を書いています。基本的にネタばれしています。
小説の構成や描写技法を中心に考察しているので、小説家を目指す人にとっては参考になる部分もあるかもしれないし、小説家を目指すつもりでない人も次に読む本を選ぶ参考程度にはなるかもしれません。
古いほう読書録はほとんどこのブログへの訪問者がいなくて日記代わりに雑感をメモしていただけなので他の人が読むほどの内容じゃないです。自分で読書録を読み返してもあらすじを思い出せない本があって、もうちょいあらすじなり特徴なりを詳しく書いておけばよかったと反省したので、最近は時間をかけてちゃんとレビューするようにしています。
いち本好きとして良いと思った小説は賞賛して悪いと思った小説は罵詈雑言を浴びせているのですが、小説の感想というのは個人の知識や価値観を反映させるので、結局のところ自分で読んでみないと意味がないのです。
ネットの中をさまよって偶然この読書録にたどりついた人は、面白いと賞賛しているのを読んでみたり、逆に罵倒している小説がそんなにつまらないはずはないと読んでみたりするのもよいでしょう。
この読書録がきっかけとなって他の人にも本が読まれることで、小説の発展にほんの少しでも貢献できればよいと思っているのです。

 ∧ ∧
(=‘ω‘ =)つお勧め本
辻原登『東京大学で世界文学を学ぶ』
辻原登『東大で文学を学ぶ ドストエフスキーから谷崎潤一郎へ』

評価基準:
★★★★★:感動したニャー
★★★★☆:技術や感性に芸術性があって面白いニャー
★★★☆☆:暇つぶし大衆小説程度ニャー
★★☆☆☆:描写技術や知識が出版に満たないレベルニャー
★☆☆☆☆:ゴミニャー

 ∧ ∧
(=‘ω‘ =)< Amazonのほしいものリスト から私にギフトを送れるよ。
2026.09.11
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最近はちいかわの映画が興行収入100億円を超える人気で、グッズの転売も盛んでくら寿司の従業員がグッズを盗んでフリマで売ったことでコラボが中止になったりしていろいろ話題である。というわけでちいかわについて考えることにした。



ちいかわとはナガノの漫画『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』のことで、2020年からXで連載されている。2017年のXの投稿の「​ こういう風になってくらしたい ​」というナガノの幼児退行願望の産物としてちいかわが産まれたようである。ナガノはイラストレーター・漫画家としてXで活動していて、週刊誌に連載する漫画家と違って出版社のバックアップや編集者の干渉もなしに個人活動で徐々に知名度を高めていって人気になった。
ちいかわ(無能コミュ障豆腐メンタル)、ハチワレ(親切な貧乏人)、うさぎ(好戦的発達障害)の三匹が物語の中心となって、地面から食料が湧いてくる変な世界で食料を見つけたり変な怪物を討伐したりする物騒な日常が描かれている。
物語の構成としては、変な怪物が襲ってきたり横暴なモモンガがあれしろこれしろと難癖をつけてきたりしてちいかわが苦境に陥って泣いて、ハチワレやラッコや鎧さんや島二郎がちいかわを助けて、うさぎがトリックスターとして変な行動をして状況を打開するようなパターンで役割分担している。

●ちいかわの成功のひみつ

・かわいさの記号化と差別化
タイトルで直接「かわいいやつ」と言及しているように、かわいさが作品の最大の特徴になっている。ちいかわのほっぺたにピンクのウインナーみたいなのが描いてあるけれど、本来は毛がある動物は頬を赤らめないのでこれはリアリズムの表現でなくてほっぺたが赤い幼児を模した記号的表現になっている。幼児的な存在だからこそちいかわたちに雄雌の区別がなくて性的な話題もない。それゆえに読者は無能で言語化能力が低くてストレス耐性が低くてすぐに泣いちゃうちいかわを幼児のような庇護する対象として見て、ラッコや鎧さんとかのちいかわを庇護するメンター的な存在もいるので子持ちの親は保護者目線でちいかわを応援しやすくなる。普通の物語では無能なキャラクターは主役になりにくいけれど、ちいかわは幼児的な無能さを体現した存在だからこそ主役になれて他の物語と差別化できている。『クレヨンしんちゃん』だとすぐに泣くまさお君は他のキャラクターを引き立てる賑やかし要員の脇役でうさぎ的な目立つ奇行をするしんのすけが主役だし、『ドラえもん』だとすぐに泣く無能なのび太はドラえもんとセットでないと主役になれなくて秘密道具なしでは見せ場をつくれないけれど、ちいかわは無能さをかわいさに転嫁してかわいく泣くこと自体が見せ場になっているので主役になれている。
うさぎは『鬼滅の刃』の嘴平伊之助みたいなもんで3人組の差別化枠としては珍しくないけれど狂人っぽい挙動不審なうさんくささをかわいさで打ち消しているし、モモンガみたいなわがままで嫌な奴にもしぐさにかわいさがあるし、酒カスのくりまんじゅうはいままでかわいい存在として描かれたことがなかった新しいかわいい酒カスキャラクターで、サンリオやアンパンマンとかのただかわいいだけの行儀がいいキャラクターと差別化できている。

・感情表現が多いッ
ちいかわはちょっとしたストレスですぐに泣くのが特徴で、幼児みたいに感情がころころ変わるので、短いエピソードでも変化が多い。子供は複雑なプロットを理解できないけれど、ちいかわが泣いた→ハチワレに慰められて泣き止んだ→うさぎの変な行動で笑ったという感情の変化を描けば子供にも理解しやすいほっこりする話のようなオチになる。「泣いちゃった」「わァ……」「イヤッ」「ヤダーッ」「ヤハ」「ハァ?」とかの感情表現に関連したセリフも多くて、絵での感情表現がセリフでさらに強調されて内容がわかりやすくなっている。
あと本来は熊や猫やウサギには眉毛がないけれど、ちいかわのキャラクターには眉毛があることで表情から感情がわかりやすくなっていて、例えば普段はハの字の眉毛がキリッとした場面だと眉毛が逆ハの字になったり、悩んでいる場面だと眉間にしわが寄ったりいて、目がまん丸で目で感情表現しにくい分を眉毛で補っている。

・無料で漫画を読める
ちいかわは作者のXアカウントで無料公開されているので単行本を買う金がない子供でも楽しめる。それに定期的に最新話がアップロードされて面白いシーンが切り抜かれてリポストされたりするのでXのアルゴリズムに乗って目にする機会が多くなってアクセス性が高くなって、単行本を持っていなくてもちいかわを読んだことがある人が増えていく。

・タイパ主義に適応
ちいかわの各エピソードは短くて週刊誌とかの漫画に比べて読むのに時間がかからないので集中力がない子供でも読みやすいし、1話1ページで完結する短いエピソードが多いので過去のエピソードを読んでいなくても物語の理解に支障がでにくい。

・嫌われる要素が少ない
ちいかわには下ネタや政治や宗教の話題やグロ描写がないので反感を呼びにくいし、炎上しにくい。変な怪物に襲われるのがホラー要素になっているけれど、怪物もデフォルメされていてなんとなくかわいくてトラウマになるほどの怖さがないので、子供が見ても安全である。
田川水泡の『のらくろ』は1931年に連載されて人気になって手塚治虫や弟子の長谷川町子に影響を与えたけれど、野良犬が猛犬総隊に志願して戦う軍国主義的な内容なので、戦後に時代遅れになったうえに左翼マスコミに嫌われたせいか現代ではほとんど話題にならない。その一方でちいかわは怪物を討伐するけれどリアリティがないせいか現実世界の政治や戦争と結びつかないので、戦いが嫌いな左翼から批判されないようである。

・ネタ切れしにくい
ちいかわの世界は地面から食べ物が湧いたり変な怪物がいたり黒い流れ星のせいでタイムループしたりして何でもありの世界なので、取材がいらないしアイデアがボツになりにくいのでネタ切れしにくい。タイムループ自体はフィクションによくあるネタだけれど、ちいかわのタイムループはちいかわならではのかわいい展開になるので差別化できる。それにちいかわにはラスボスを倒すとかの最終目標がないので、作者が物語の終わらせようと思わない限り新しいキャラクターや怪物を出して延々と話を展開できる。

・真似しやすい
ちいかわのキャラクターはデザインがシンプルなので、子供でも真似してファンアートを描きやすいし、大人もグッズを自作しやすい。「〇〇ってコト!?」とかのセリフもパロディで使いやすい。『​ ちかいわハム式 ​』というパロディのファンアートもある。

・着ぐるみが似合う
ちいかわたちに着ぐるみを着せればどの企業ともコラボできるし、形が丸っこいのでたいていの着ぐるみが似合ってかわいくなる。たぬきの着ぐるみをきて「たぬきだもん」と踊ったりして、たまに外見が変わることで読者が飽きにくくなるし、ファンは通常とは違う外見のグッズをコンプリートしたがる。

・同系統でちいかわを超える作品が出にくい
ちいかわのかわいい絵柄自体は真似しやすくても、あのこ(ちいかわ族を食べる怪物)やセイレーンのかわいい残虐さとかのナガノの感性が出ている展開は真似できないし、変な怪物がいる独自の世界設定を真似したら作風のインスパイアでなくてパクリになるので、ただかわいいだけのキャラクターの日常の出来事を描いても敵役が不在でフックとして読者の興味を引く仕掛けがなくて刺激がないのでちいかわ以上に物語を面白くするのが難しくなっている。人気作品は真似される宿命だけれど、真似したところで劣化版のパクリにしかならないのなら本家のちいかわでいいじゃんとなるので、ちいかわの連載が続いている間はインスパイア系の需要はない。ちいかわインスパイア系の『おんねこ』は作者が作品を削除したし、『​ ねこなともだち ​』もフォロワー数1800人程度で人気がないようである。ちいかわを真似してもパクリ作家として評判が落ちかねないしちいかわと比較されて負けるので、安易に真似しないほうがよい。

●私はちいかわが好きではないってコト!?

・リアリティがないってコト!?
リアリティがないがないからといってちいかわがコンテンツとして悪いわけではなくてむしろ子供向けとしては友情の大切さを伝える良いコンテンツで、私が読者層の対象外というだけである。現実世界を知らない子供にとっては変な怪物が襲ってくるようなリアリティがない奇想天外な展開のナガノワールドが面白いだろうし、現実世界を生きて生老病死を体験した大人にとってはちいかわに限らずアンパンマンやしましまとらのしまじろうやとっとこハム太郎とかの子供向けのコンテンツは面白くない。
私は登場人物の実在を感じられないようなリアリティがない物語で誰が死のうが生きようが泣こうが笑おうがどうでもいいと思って共感も感動もしない。ちいかわはキャラクターに性別がなくてどうやって生まれてきたのか不明だし、島二郎はひげがあって男性のような外見なのにきんたまがついていないのも物足りない。ちいかわの世界は日本ではないのに「青雲のうた」みたいな日本のネタが使われているし、食べ物が湧いてくる世界なのにシーサーがラーメン屋の「郎」で働いているし、どういう世界設定なのかよくわからない。私はちいかわがXのアルゴリズムに乗って表示されたら暇つぶしに読むし嫌いではないけれど、好きになるほどハマる要素がないので有料なら読まないしグッズもいらない。

・グッズの売り方が気に入らないってコト!?
ちいかわ的な変な怪物に襲われる理不尽な世界像は幼児や頭が悪い人から見た現実世界の理不尽さを表していると思うけれど、ちいかわファンの人たちが理不尽な現実世界に立ち向かう力を得るどころか、資本主義という理不尽な怪物に取り込まれて大きくてなんか醜いやつになってしまっている。ちいかわグッズを求めてくら寿司で〇万円食べたのにフィギュアが当たらないとストレスをためて、映画の特典を集めるために何度も同じ映画を見て浪費してセイレーンが当たらないとストレスをためて、他の人が持っているグッズを欲しがって無料で譲ってくれとねだる。これは仏教的に見れば物に執着する馬鹿の行動である。大勢の馬鹿から合法的に搾取するのが資本主義社会では成功と呼ばれるけれど、馬鹿でも幸福になれるように救済しようとせずにちいかわに執着させて搾取対象にする商売のやり方は気に入らない。
知育玩具なら幼児の教育に役に立つのでグッズを売るのはよいし、子供が部屋や鞄を装飾するかわいいグッズを欲しがるのはわかるけれど、大人が生活必需品でないちいかわグッズに執着するのは精神的に幼稚である。くら寿司コラボや映画の特典のように欲しいものが確実に手に入るわけではないやり方で射幸心をあおるのはよくないし、くら寿司の従業員が景品の人気のフィギュアを盗んで全種セットにしてメルカリで大量に売ったり、非売品ののぼりを盗んで売ったりするのはさらによくない。ちいかわグッズの周辺は幼稚な大人や転売屋や横領する従業員やクレクレ厨が群がって馬鹿の見本市みたいになっていて、私はそういう風にくらしたくない。子供の手本になるべき大人が物や金に執着してみっともない真似するなよと言いたくなる。

●ちいかわ的要素のビジネスへの応用

・オノマトペの視覚化と表現の記号化
「​ 挽肉と米 ​」という飲食店のサイトでは、モノクロの色調でジュウ~、ハフッという熱いものを食べるオノマトペを漫画的に表示している。通常は飲食店のサイトは湯気が立っている出来立ての料理や箸リフトとかのリアルな写真で視覚的に直接食欲に訴求するけれど、あえて抽象的・記号的表現にすることで感覚的に記憶にある美味しいものを食べた経験を思い出させて食欲を想起させる表現にしていて、保守的な企業では採用されにくい攻めたデザインで差別化できている。
表現の記号化は実在の物やサービスを扱う業種だとまだ未開拓で、例えば観光業だと海や山のリアルな写真でアピールしてもどこも似たり寄ったりで差別化しにくいけれど、波が弱い海岸ならチャプチャプという音を描いて安全性をアピールしたりして、あえて記号的表現にしたら差別化できて目を引くかもしれない。

・矛盾の容認
従来のフィクションではかわいいものは無垢で善良な存在として描かれてがちだけれど、ちいかわにでてくる怪物やモモンガはかわいさと残酷さ、かわいさと憎たらしさが両立しうることを示していて、他のフィクションとは違うキャラクター像を打ち出せている。
矛盾は刺激となって客を惹きつけるので、他のビジネスにも応用できる。例えば遊園地のアトラクションは危険な乗り物を安全に体験させることを売りにしている。日清の完全メシはカップラーメンというジャンクフードに添加物として栄養素を加えることで、健康にいいジャンクフードという矛盾した商品を成立させている。ワイヤレスイヤホンやワイヤレスヘッドホンを着用するサイレントディスコやサイレントフェスとかの静かだけどうるさい音楽イベントもある。ダサくてかっこいい服や熱々のアイスクリームとかの矛盾する概念の中にいままで誰も思いつかなかった新しい商品やサービスのアイデアがあるかもしれない。





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最終更新日  2026.09.23 20:22:46
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