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こけしと俳句‐小林輝子(光子)句集『人形笛』を読む
ただ、小生からみれば叙述的な句が多いことが気になった。現実をしっかりと詠むことも大切ではあっても、現実を超えるイメージのふくらみがもっとあってもいいように思えた。
そういう意味では< こけしにもある泣黒子女正月 >は、芭蕉のいう虚にいて実を行う句であろう。< 夫の 腁 (ひび) 妻のあかがりこけし挽く >はまさに実を極めた句でこれも胸を打つ。
膝折りてこけし商ふ三ケ日(昭和 53 年)
こけし木の井桁の傾ぐ雪解かな(昭和 54 年)
こけし描く筆先割るる雪解風
こけし描く色の器に火取虫
木食虫憎しとこけし描きをりぬ
こけし描くうしろ風吹く今日の秋
菊枯るるこけしの胴に菊描き
こけし描く紅溶きをるに雪しまく
去年今年こけしを描ける筆洗ふ(昭和 55 年)
夫の 腁 (ひび) 妻のあかがりこけし挽く
こけしにもある泣黒子女正月(昭和 56 年)
朧夜の木地師が吹ける人形笛
西日中皮をむかるるこけしの木
こけし挽く足許に置き蚊遣香
朝涼やこけしを計る鯨尺
祖母の忌の青嶺に向きてこけし描く
こけし描く一灯にむけ狐啼く
こけしの目描く息をとめ雪しづり(昭和 57 年)
こけしでない句では、なんといっても「サムトの婆」に注目した。サムトと片仮名表記であるが普通は「寒戸」である。
男薇(おとこぜんまい)サムトの婆へ摘み残す (昭和 53 年)
青大将(のろし)怖しサムトの婆よりも
男ぜんまいは摘まない。それは不味いということもあるが、胞子を放出するので繁殖のためでもある。食べるのは、女ぜんまいで、男ぜんまいは先に芽が出てくるため、硬くなるのも早く、食べられないわけではないが美味しくない。女ぜんまいも全部は採らず、繁殖のため少し残しておく。
男ぜんまい ( 胞子葉 ) の特徴は、芽の先端の巻き葉がつぶれたボール状になっていて、葉ではなく胞子の塊がびっしりとついている。女ぜんまい ( 栄養葉 ) よりも先に出ているため、背が高いのが特徴である。
寒戸の婆( さむとのばば)は、柳田國男『遠野物語』にある神隠しにまつわる伝説の中でも特に知られたものである。
各民話は 120 近くの短章として語られて、その中で「寒戸の婆」の話は 8 番目に出てくる。
八 黄昏(たそがれ)に女や子供の家の外に出ている者はよく神隠しにあうことは他の国々と同じ。松崎村の寒戸というところの民家にて、若き娘梨の樹の下に草履を脱ぎ置きたるまま行方を知らずなり、三十年あまりすぎたりしに、或(あ)る日親類知音の人々その家に集まりてありしところへ、きわめて老いさらぼいてその女帰り来たり。いかにして帰って来たかと問えば人々に逢いたかりし故帰りしなり。さらばまた行かんとて、再び跡を留めず行き失(う)せたり。その日は風の烈(はげ)しく吹く日なりき。されば遠野郷(とおのごう)の人は、今でも風の騒がしき日には、きょうはサムトの婆が帰って来そうな日なりという。(岩波文庫『遠野物語』)
盆荒れや寒戸の婆はまだ来ぬか 大場光太郎
小林光子のサムトの婆は、その実在感があって、その背景には湯田の風土があるのではないかと思った。
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