唐澤浩全資料

唐澤浩全資料

2008.04.20
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   世界観

 人間は誰しも、自分独りで己が道を探し出すものである--私は随分長い間そう考えていました。しかし、新約聖書のルカ福音書第十九章に記されてある次の物語を読んで、この考え方は些か微調整する必要があるのではないか、という事を感じております。取り敢えずはその物語をおさらいさせて下さい。
 イエスが道を通る、という事を聞きつけた徴税人ザーカイは、一目イエスの姿を見ようと思った。けれどもザーカイは彼自身の姿を逆に見られたくはなかったので、高く伸びた無花果の樹の上に攀じ登り、ひっそりと見下ろしていたのである。そこへ通り掛かったイエスは、ザーカイの姿を見出し、降りてくるように促して、自分がその晩ザーカイの家に泊りたい旨告げた。
 この物語は、何等かの負い目に自ら萎縮している不遇な人間が優れた指導者と巡り合った時、揺るぎない自助と自己解放とを遂げて行く、という一つの成長譚を暗示しております。或る<出会い>が自己解放の契機となり、出会ったその人から良い刺戟が得られれば、飛躍的な成長も可能となる。逆に、大方の人間は彼独りの力で自ら、道を拓く事は極めて困難である、という事をこの物語は示唆しているように思われます。
 ザーカイはイエスから呼ばれた事によって、ザーカイ自身を自分で見出し、イエスから一泊の宿を請われた事によって、わが存在理由を知ったのでした。有体に言えば、イエスの半ば押しつけがましい指命が切っ掛けで、揺るぎない生き甲斐を掴んだのであります。
 劣等感、罪の意識、悲観的な考え等に沈む人々の奮起はなるほど、一定の熟達した技術に基づくカウンセリングによって可能なのでしょう。けれども、これは<手間が掛かる>という難がありますね。殊に、もしかしたら将来大学進学、就職等を目標に励む事が迫られるかも知れない軽度の障害児にとって、それは話が悠長すぎる。療育を受けるわずかな時期の瞬間、瞬間に、自発的な生活の緒を逸早く見出さなくてはなりません。
 その場合、私が注目するのは、セラピストの方々の存在なのです。クライアントに対して、どちらかというと医師は全身を俯瞰する具合に、一歩引いた場所から客観視します。一方看護師さんは患者とぎりぎり一体化するその直前に踏み留まりながらも、終始共感的な温りで、接してくれます。ごく大雑把にいうと、お医者さんはお父さんで、看護師さんはお母さんとなりましょうか。セラピストの方々は、そのどちらでもない。そこから近づくかと見えて近づかず、退くかと見えて退かない、微妙な距離を保っている不思議な関係の人々です。今お話ししているテーマに即して再度言い換えれば、医師はクライアントの障害の正面像を知る人。看護師は後ろ姿を見つめる人。そして、セラピストの皆さんは、その横顔を見分けられる方々。
 こんなふうに色分けできる、と私が考えるのは、障害児者の全人像について皆さんが部分的にしか知るのみの立場にいらっしゃるからです。といえば、減点的な性質のみを殊更に論うかのように思われるかも知れません。しかし、私の論旨は逆であります。時間上も、また健康管理の上でも、一定の制限下で部分的にしか関わる事が出来ないからこそ、視線はその深部に入り込み、その障害の性質や人間像について、核心的なものを掴み取る事が出来るのだ、と思われます。横顔、つまり文字通りのプロフィールを把握する事が出来るのではないか、と考える所以です。
 ザーカイが登場するあの逸話の場合、彼のコンプレックスを瞬時に見て取ったイエスは、必ずしもザーカイの生い立ちの日々を逐一、透視した訳ではない筈です。肝心なのはその時、その場における苦悩の実体であり、且つその処し方であって、来し方行く末の全行程を見渡す事ではありません。苦しみとは、現実と自分との間に何のとっかかりも見出せずにいる状態の事ですから、そのとっかかりを探し出す事が支援であり、救いなのだ、といえましょう。故に、これは、直感が勝負の鍵となる訳で、方法論云々の問題ではない。さりとて、知識や経験は全く宛にならないかと言えば、そうでもないのであって、ここがじつに微妙なところです。






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Last updated  2008.04.20 15:32:50
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