唐澤浩全資料

唐澤浩全資料

2015.04.21
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
4月20日・伊那市有線放送農協の朗読原稿

電動車椅子ぶらり通信 百九十三話
   サクラコマ

 四月も半ば。春たけなわとなりました。
 この「たけなわ」という言葉には、二通りの漢字表記があるようですよ。まず、一つ目は、「さけへん」に、「あまい」と書く酣(たけなわ)。こちらは、その文字が表す様子そのままに、甘くて美味しい酒を酌み交わし、満座がいよいよ楽しく盛り上がる事だそうです。
 さて、二つ目の「たけなわ」という漢字は、「もんがまえ」に「柬(かん)」と書きます。早い話が橋の欄干(らんかん)という場合の「欄」は、「きへん」に「闌(たけなわ)」と書く訳で、この「きへん」と「もんがまえ」を外し、「ごんべん」をつければ「諌める(いさめる)」となる。実際、「もんがまえ」の「闌」には、「しきる」とか、「遮る(さえぎる)」「防ぐ」などという意味も含まれております。 楽しさ、美しさのクライマックスがたけなわなのに、引き締める意味の漢字が用いられるのは、何やらチグハグな話ですね。
 しかし、僕は、こう考えました。
 楽しさや美しさは一定の節度を越える時、秩序の乱れや組織の腐敗をきたしかねません。恐らく、歯止めを意味する「闌(らん)」。この「闌」という漢字が「たけなわ」の言葉に当てられたのは、まさしく、物事の本領は腐る寸前に現れる。そういう事を示そうとしたためではないか、と僕には思われます。
 なるほど、たしかに、天地万物すべてが、エネルギーを一斉に噴出させる季節の春は、生命力のアンバランスを招きかねない。ある意味でハラハラさせられる時期であります。

 桜の花は、憂いを裡(うち)に深く秘めて咲く故に、万感の感情移入を誘うのでしょう。われわれ日本人には古来、この桜の花を措(お)いて他に、春たけなわの妖精を見出す事はついぞ、できませんでした。
 ここに、さても、不可思議な事があります。
 それというのも、この桜の花は実際、土に根を張って茂った木に咲く生の花と併せて、工芸品や和食の料理、また絵画などで巧みに象られた(かたどられた)桜にも、香りとか温もり、そよ風といった瑞々しい気配を感ずる事が出来る。桜には、このような神秘が息づいているのです。
 今回のお話で話題にしたいと考えている、「サクラコマ」も、まことに微妙な桜の命を現代の郷土玩具として甦らせた逸品、といえるでしょう。「サクラコマ」とは、手捻りで回す小さな独楽で、回転するとその遠心力により桜の花びらがパァッと開くのです。この花開く時間は十秒前後で、文字どおり瞬間の麗しさ(うるわしさ)をいっぱいに放つ。まさしく、あっという間の華やぎなのですが、得も言われぬまばゆさをもって強烈な印象を残す訳ですね。   製造業ご当地お土産「サクラコマ」。これから、この「サクラコマ」に秘められている美しい物語を繙いて(ひもといて)みましょう。
 「三方(さんぽう)よし」という言葉があります。
 この「三方よし」とは、その昔の近江商人が商いの心得として代々伝えてきた経営哲学を、滋賀大学教授の小倉栄一郎さんが簡潔に言い表した言葉でした。
 すなわち、商売するに当っては、「買い手よし。売り手よし。世間よし」という円満な利益の分配とその循環をめざした、いかにも日本人らしい心得です。買って嬉しく、売って利潤を上げ、その売り買いが公共の福祉に寄与する、という幸福の経営学ですね。自由主義経済学の旗頭(はたがしら)みたいに見做されていたドイツ出身の経済学者、フリードリッヒ・ハイエックは、著作の中で「社会のハーモニー」という言葉を使い、「三方よし」と極めて似通った事を述べているらしい。しかし、「三方よし」の理念そのものをまとまった理論として提唱した学者は一人もいませんし、実践された例は、江戸時代から昭和も戦前頃までの日本だけみたいですよ。
 具体的にお話ししましょう。
 近江商人の商いは、「のこぎり商法」と呼ばれました。近江上布という麻(あさ)織物(おりもの)を日本の津々浦々に売り歩き、その商売のさきざきで仕入れた各地の産物を京、大坂で、売り捌く(うりさばく)、という遣り方です。この「のこぎり商法」のおかげで日本各地に名産品の生産技術が発達し、各地方が独自色の濃い繁栄を遂げたのでした。
 その中で、この「のこぎり商法」を見習い、わがものとしたのが山形は最上地方の紅花(べにばな)商人です。彼らは、紅花を加工した紅(べに)餅(もち)、つまり、染色やお化粧に用いる紅の原料を京、大坂で売り歩き、その商いで得た儲けで上方の豪華で優雅な文物を、山形に持ち帰ったのでした。こうした経済の豊かさが、米沢藩では凶作の飢饉から人々を救ったようですね。「三方よし」の商いが、めぐりめぐって、どれほど多くの人々に恩恵をもたらしたことか、計り知れません。
 さて、今回、話題にしている「サクラコマ」には、時代とか地域などの隔たりを伏流(ふくりゅう)して伊那に湧き出た「三方よし」という知恵の泉を見ることができます。その知恵の泉から湧き出る夢のめぐみを素手で掬(く)み上げ、様々な恩恵の真水として地域社会にあまねく注いだ方は、製品設計会社スワニーの社長、橋爪良博さんでした。では、「三方よし」の知恵と、「サクラコマ」とがどのように結びつくのか、僕の考えをこれからお話ししましょう。

 次の「世間よし」は、その連携に障害者就労施設も組み入れられたことですね。近年、営利事業に福祉活動を合体させたソーシャルビジネスというものが提唱されて来ましたが、そのモデルはなかなか現れない。その点でも、「サクラコマ」は、画期的な先駆例となる筈です。
 加えてもう一つ、特筆すべき事があるんですよ。それは、「サクラコマ」の売り上げの一部が、高遠城址公園に年(とし)古(ふ)りて茂るタカトオコヒガンザクラの保護のために寄附される、という事であります。要するに、この場合の製品開発には、はじめから、目的の一つとして社会貢献という事も含まれている。これも、「サクラコマ」が秘めている玄妙な美しさではないでしょうか。
 さて、三番目の「買い手よし」。これは、「サクラコマ」をお土産にもとめるお客さんが、以上述べた諸々のいきさつ。つまり、このコマが産まれるまでの人間味豊かな物語にも触れられる、ということではないかと僕は思うのです。
 全く前例のない発想、企画、そして、高い志が、まことに愛らしい姿となって現われた「サクラコマ」。そこに僕は、スワニー社長橋爪良博さんの秀でた総合経営力とともに、連携した各企業の社長さん達の熱い郷土愛をみる思いが致します。
 それはそれとして、わが信州上伊那地方を見た時、これまでは取り立てて注目すべき特産品がないように思われました。いささか寂しく感じていたところ、そうした悲観的固定観念をくつがえす驚きのデータが上伊那地方事務所から発表されたのです。タイトルもずばり、「平成二十二年工業統計調査」という資料であります。

 そこで、僕は、その底力の一端に触れてみたい、と考えた。幸いにも、そのチャンスに恵まれたのです。というのも、去る三月五日、六日の二日間にわたり、伊那勤労者福祉センターで、「中央アルプスビジネスフェア二〇一五」という催しが開催されました。僕は、このビジネスフェアを見学する事が出来た訳です。
 聞きしに勝る賑わいでした。数えて百二十九にものぼる企業、団体が体育館いっぱいにブースを連ねた光景をみた時には、上伊那の産業界全体の縮図をみる思いがしたものです。 産業はごく大雑把に分けて素材開発、加工、組み立て、そしてサービスと四種類あるものですが、わが上伊那地域には、この四種類が豊富に混在している。しかも、それぞれの取り組みは皆、非常に先駆的です。数々の最新技術と、沸き滾る(わきたぎる)ような情熱とがギュッと凝縮して、掌に載る小さな「サクラコマ」が生まれた背景のすごみを感じましたね。
 この会場でスワニーの社長、橋爪さんに、初めてお会いしたのです。鋭いなにかを内に深く秘めて、温かく、優しい穏やかなその風貌に僕は、文学的な詩人の素質を見て取った。そもそも、こまは、ゲームで楽しむ競技用のおもちゃなのです。それを、回転する姿を見て愛でる(めでる)玩具として開発する。これは、感受性が研ぎ澄まされて澄み切った詩人の発想なくして、まったく出来ない事であります。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2015.04.21 17:22:37
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

さんのんのん

さんのんのん

Favorite Blog

まだ登録されていません

Keyword Search

▼キーワード検索

Archives

2026.08
2026.07
2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02
2026.01
2025.12
2025.11

Freepage List


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: