さしの部屋

ミラノ

６年半住んだ街に旅人として戻る気持ちはどんなものであろう。
ちょうど一年経つ。そしてその一周年記念日をミラノで迎えるべく、
予定よりもずっと短い予定で旅立ったのでした。

初日の夜だけある友人に泊めてもらい、その後の６泊は別のより親しい友人宅に
泊めてもらう予定。まずは、荷物抱え、友人宅へ向かうのでした。
夕飯もままならないまま、睡魔に襲われ、早速床に就く。
そうだ、空港で、ケルト展の広告を見た。明日にも早速出かけてみよう。
そして、最初の晩は、気持ちがもやけたままに更けて行ったのであります。

翌日、６日間泊めてもらう友人宅に荷物ごと移動後、
昨日知ったケルト展のため、郊外のヴァレーゼと言うところに
ローカル電車で向かう。別の友人（後輩）もついてきたいと言う。

偶然に出会った展示。だけど、、満足です。
ケルトについてろくな知識がないまま、日本を抜けてきた私ですが
こんなに充実したものとは。。って驚いたのが、最初の一歩でした。
心惹かれる展示品が本当にいっぱいある。

それからは、昼、食前酒タイム、夕飯と、下手なアイドルのような
忙しいスケジュールで動く事になるのです。

翌日も、そのまた翌日も、友人に会い、展示を見るような日々が続きます。
最近、水中出産でベイビーを産んだ友人宅を訪れたり。
イタリアンママのラザニエランチ頂いたり。

そしてその数日の内のある日。週末だったせいか、母に頼まれた買い物含め、
お店が閉まっているので、訪れたかった教会へと向かう。
むこうに住んでいた頃、何度訪れた事か。何度帰宅のバスを待つ中で
長めてきた教会か。それはもう、懐かしさの粋を超えています。

ちょうど夕方のオープン時間。観光客が何人か集まり、門が開かれるのを
待っています。私もふと、旅行者の気持ちを取り戻す。

係りの人が鉄柵を開けると周りの人たちはわくわくとした様子を
隠し切れず、足を進める。でも、私は少し違う。
いつも、私がしていたように、ゆっくりと、よく見知ったものを
見返すような気持ちで、一歩遅れてアトリウムへと足を踏み入れる。
一度も、写真など撮ったことがなかった。柱頭彫刻の豊かな装飾。

機の部分はオリジナルと差し替えられてしまった、
木製扉の真ん中にいるクマさんの表情。

そして内部。ポイントポイントを1つづつ覚えている。
奥の金のモザイクの丸天井は、９７年にミラノにたどり着き、
まだホテル暮らしの時に、金でありながら、きらびやかとはまた違う
静かな美しさに、しばし時を忘れたものだ。（教会内部写真はありません）

その後のミラノでの数日も、毎日展示に明け暮れ、人と会い、
お話して、、でも、やっぱり一番安心できるのがこのサン・タンブロージョ
なんだと思った。ここから始まったものも多かった。
ロマネスクの聖堂をその後多く見ることになるのも。。。

ミラノの慌しい最終日はミラノを抜け出し、トリノ郊外の
リヴォリというところにある現代美術館を訪れた。
お城を改築したもので、お城と言えばヴェローナのスカルパの改築した美術館を
思い出すが、こちらは、現代美術を扱うと言う事で、
便が悪いながらも今まで数回訪れた事がある。

２００２年だろうか、アルテ・ポーヴェラ（イタリア版コンセプチュアルアート）の
マリオ・メルツ展がやっていたから。彼はミラノに住んでいたから、
休日ふらふらと散歩がてら、当時の我が家の近所の日曜でも開いている
エノテーッカ（ワイン屋）で買ってきた帰りらしい姿を見かけたものだ。
ネオンで文字を書いたり、大きなインスタレーションに
生の野菜なんかを使う人といえば知っている人もいるだろう。
フィボナッチ係数も彼の作品にはよく登場する。

それほど好きな作家と言うわけではなかったが、
ごくイタリアらしい美術を見てイタリア滞在を終えるのも
なかなか悪くない。常設でウィリアム・ケントリッジの新作ビデオを
見ることが出来たのも良かった。

そして、日帰り旅行で少し疲れたまま、翌日の早朝、マルペンサから
ダブリンへと向かうことになるのだ。

ジャンル別一覧