さしの部屋

さしの部屋

スペイン(バルセロナ2日目)

バルセロナの2日目は忙しいはずだった。バルセロナの市内観光は数年前にやったので
大体のものは見ていたので、カテドラルやサグラダ・ファミリアやガウディには
目を向けないようにしてまずはカタルーニャ博物館に向かった。

barcelona

こちらにも行ったことはあったが、ロマネスク、ゴシックと、セクションわけされた
館内には、地方の小さなロマネスク教会のフレスコ画がそのまま移築されていて、
辺鄙な所に建つロマネスク教会を訪れて、その後、はめられたレプリカを見ることに
かなりの時間と労力を費やすよりも、時間のない人間にはずっと効率的と来ている。
構えて行ったので、私は開館時間よりも少し早くついてしまったから、
日本の母と電話でお話したり、ミラノの友達と連絡したり、
丘の向こうの景色を眺めたりして過ごした。

博物館が開くと、開館一番という事もあって、監視員たちは暇をもてあましている。
一番にロマネスクのセクションに飛び込む客も少ないから、本気で監視してくる。
私が、メモを取り出して、何かを書きとめているときでも、まるで、見えていないのに(日本語も
分からないのに)私が書いていることが読めているように、したり顔をしているんだわ。

久しぶりに見たフレスコ画たちにはいろいろな発見をさせられた。去年、
ロマネスクにおける動物表現が気になってスイスのカントン・ティチーノや
グラウビュンデンの方に足を伸ばした時に考えていた造形と、類似点も見出せる。
以前、イタリアのアカデミアを卒業する時に書いた論文の内容にかぶる疑問点もある。

その後の予定もあるので、1時間半ほどで博物館を後にした。これはあの博物館のことを思えば
呆れるほどに短い時間だと思う。そう、その後の予定。バルセロナ市内の、
ロマネスク教会に行く事だ。これは本当に偶然なのだけど、リセウ劇場から遠くない
泊まったホテルの道の名前は、その、私が行きたかった教会に祭られている聖人の名前が付いている。
事実、ホテルから一本道を15分ほど歩いていった所にその教会はあった。

san-pau2

管理の人に挨拶して、中に入ると、小さい回廊がある教会には、先客は1人だった。
私が真剣なまなざしで見学していると、不可思議と言った具合でこちらを眺めつつも、
寛容な微笑を浮かべているのが十分に分かった。増築が施されているものの、
小さいながら、回廊の美しさは、都会の喧騒を忘れさせた。周辺は物騒な感じの、
外国人が多いエリア。周囲、30m以内に、バルセロナ出身の
スペイン人を探し出すなんて不可能に思えた。

san-pau

さて、午後は、2時間以上、電車に乗って、リポールに行く予定だ。
また、目的はロマネスク教会であるが、その、町が、どんな所かも知らない。
頃合のいい電車は、2時30分頃に出るが、せっかくだからその前に今日はスペイン最終日。
美味いランチを食べておきたい。スペイン人のランチタイムにはいささか早い時間ではあるが、
吟味して、1時から開くレストランに、地元の人に混じって行列してしまった。
ガイドに乗っていた店なので疑ってかかっていたが、いいんだわなぁ。
時間制限が気になったけど、てきぱきしていて十分な速さだった。
お料理の質もよかったんだけど、デザートが気に入った。直訳すると、牛乳フライ。
カスタードクリームの天ぷらにチョコを振りかけたようなシロモノだ。

それにしても、本当に気持ちいいほどてきぱきしている。てきぱきしているんだけど、
向こうの方にいる観光客のしどろもどろな注文にも、根気よく答えているし、
いかにも年金生活者である地元のおばあちゃんが、一皿目のエンサラーダをワインと
新聞を片手にゆっくり食べていれば、まるで、気にも留めないという風に、
目をやり、優しくほおって置く。
私は、電車の時間が気になったので、回転良く席を立ったのだが、お店を出るときにも、
まだ行列は続いていた。店内は綺麗で広々しているので、このお店はランチタイムだけで
100人単位の人をさばくことになるんだろう。しかもお値段もとってもリーズナブル。
クロスがきっちりかかった都会のレストランの金額とは到底思えない。
倍の額だったとしての、私は安いって感じたと思う。

ローカル線が出るまで、地下2階のホームで待っていようかとも考えた。
が、蒸し暑さは考えられないほどだった。仕方なく、切符売り場がある地下1階に上がり、
ベンチで時間を待った。ちょっと郊外に住む人たちが、毎日の当たり前と言った調子で、
扇子を振っている。電車が来て、乗り込み、私はお昼寝を始める。気がつくと、
電車はかなりすいてきていて、私の周りに座っていたイスラム教徒の2人の男の人たちが
残っていた。全く知らない言語と言うのは、とても耳障りに思うもんだ。
まあ、ちょっと、物騒な感じなので、駅に停車した時にさりげなく席を移った。が、
その後も彼らは、宗教的な音楽をかけだし、周囲のまばらだがいるスペイ人も、不満そうに
ちらちらと見ているのが分かった。電車はかなり時間的に遅れている様子だった。
だからなのか、さあ、いざ、って歩き出す雰囲気ではない感じだった。

でも、さあ、いざ。私はミシュランのサイトから検索しただけの大雑把な地図しか
持っていなかったけど、とりあえずは目指してみよう。川が流れる、路地が入り組む。
親子がこちらを見る。おじいさんが追いかけるように話しかけてくる。

目的地サンタ・マリア修道院と思われるところに近づいて、初めて、
あ、ここじゃないんだと分かる。そうか、さっきちょっと見えていたのが
目的の教会だったんだ。ちょっと遠回りをしてしまったけど、
まあいいか。町の様子が見られたというものだ。

ripoll1

ファサードがご自慢の教会のそのファサードの前はガラス張りになっていて、
ナルテクスのような場所にベンチが置かれ、ファサードの浮き彫りを見学するスペースになっている。
外からそれを発見した私は、勢い良くガラス戸をあけようとしたが、
なんだか閉まっているんだ。中に居る人が、左の方を指差すから、はっと気がつく。
左の入口からお金を払って入場するんだね。そうか。安い入場料を払って、
その先ほど見えていた内部に入る。実際には、まだ、教会の内部と言うわけではない。

ripoll2

レリーフは以前外部にあったのだろう。朽ちかけている様子が伺えるが、
繊細ながらも野生的である。ロマネスク特有のシルエットのかえるも見られる。
後輪だけが残る頭のない聖人もいる。明らかに獅子であろうと推測は付くが、
もう、それは獅子ではなくなったとようなシルエットは深浮き彫りで飛び出している。
全体的に重く、乾いている強い印象がある。

ripoll3.JPG

右手の扉を開くと回廊が広がっていた。この回廊、今まで見たロマネスクの聖堂が持つ
柱頭彫刻とは明らかに趣きが違うのだ。人物が太っているの。ロマネスクの彫刻の人物は
通常、稚拙な印象が強い素朴な3頭身ちゃんのケースが多く、ヴァリエーションはあるものの
決まった印象があるものだ。だけど、ここのものは、ボテロの絵画を思わせるほど
こっけいな丸みを帯びている。回廊について、下調べをあまりしてこなかった私は、
思わず手持ちのガイドを開く。回廊も、後世に改築されたものではなくロマネスクなんだ。へぇぇ。

ripoll4

ナルテクスもどきの場所に一度戻り、聖堂内部へと入る。

改築されている。十分な採光がとられ、ロマネスク教会とは思えない明るさが目立つ。
が、しかし、アーチや石の感じにはロマネスク的な魅力が十分に残っているのだ。

ripoll5

ロマネスク教会はいつ来ても、軽やかで重い。ロマネスクの聖堂は特に、
ゴシックのそれとは違い、上昇する軽妙な民衆性は持ち合わせておらず、
私にはただ、ギリシャ的では全くない個の哲学を思わせる。
カノネを問わないカノネ。個であって、決して個にはなりえない。

サンタ・マリアは私に距離を保って話しかけて話しかけることに長けているようだ。
なのに決して自分の情熱は隠したりしない。

帰り道、駅までの道のりは行きと比べて格段に短かった。だんだん、ひと気が増す車内で、
またもや転寝をしていると、大学生の男女が、クロスワードについて
話し合っている声で目が覚めた。バルセロナが近づいているんだ。

スペイン最終日、最後の夜。今夜こそ美味いものを食べてやると、意地でさまよった。
滞在中に散歩できなかったエリアの路地をさまよったり、大型店でお土産を物色したりした。

最終的に私が入ったレストランは、地元っぽいスペイン人で賑わっているにもかかわらず、
店員さんたちがみんな、東南アジアの女性だった。え?私、間違えて、
アジアンフードのお店に入ってしまったの?ところが、出てきたお料理は、
ちょっとオシャレな創作を加えた感じのスペイン料理なんだわなぁ。
こういうお店は新しもの好きのバルセロナ人には大いに受け入れられるんだろうなぁ。
内装は西洋人から見たアジアと言った雰囲気で、強すぎない主張が見られた。
デザートまで平らげて、ご機嫌にお店を出た。

明日はミラノへと向かう。住み慣れたミラノへと戻るんだ。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: