2007年04月18日
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テーマ: 戦争反対(1190)
カテゴリ: 世界と政治

 慰安婦問題の資料を眺めていたら、こんな文に出くわした。
 ばからしい論争が起きているようなので、手を出してみた。
 (追加変更は青  ●  印)

1938年に、慰安婦を大募集するにあたって、陸軍省からこんな通牒が発せられる。
軍慰安所従業婦等募集に関する件 (現代仮名遣いで文型的に表記した)→   原文 (リンク先の現代訳は信じるな)

起元庁(課名)兵務課    軍慰安所従業婦など募集に関する件
陸支密
副官より北支方面軍および中支派遣軍参謀長宛通牒案

 支那事変地における慰安所設置のため
 内地においてこれが(これの)従業婦等を募集するに当り

 いたずらに軍部諒解などの名儀を利用し ために軍の威信を傷つけ かつ一般民の誤解を招くおそれあるもの
 あるいは従軍記者、慰問者などを介して不統制に募集し社会問題を惹起するおそれあるもの
 あるいは募集に任ずる者の人選適切を欠き ために募集の方法、誘拐に類し警察当局に検挙取調を受けるものある
など 注意を要するもの が少なからざるについては、

 将来 これらの募集などに当っては 派遣軍において統制し 募集に任ずる人物の選定を周到適切にして
 その実施に当たっては 関係地方の憲兵および警察当局との連繋を密にし
 軍の威信保持上ならびに社会問題上遺漏なきよう配慮相成たし。

 命により通牒す。

陸支密第735号 昭和13年3月4日


( 陸軍省から揚子江流域と黄河流域の陸軍にあてた注意書きで、要約すると、「慰安婦募集については、今までにいろいろ募集業者らしき者の行動や風評の点で問題が起きているので、以後の募集について、問題が生じないように広範囲に注意してくれ」 というもの。)

 <↑このような文表示にした理由。>
A  微妙な文型解釈の自由を保つために、点の位置は最小限(1回)とし、改行が可能かも知れない部分は一文字空けて分かち書きとする。
B  文全体は、冒頭の二行を別として、「過去の事例」の前半と、「将来になすべきこと」の後半に別れる。よって、「少なからざるについては/将来」 に境界が来る。
C  冒頭の 「支那事変地における慰安所設置のため 内地においてこれが(これの)従業婦等を募集するに当り」 は、前半にだけ掛かるのか、全体にかかるのかがはっきりしないため、とりあえず前半と距離を置く。

 以上で、三部に分けられる。「冒頭」 「困った事例」 「次からのやり方」 +末尾行の「これは命令である」。
 これ以上は、さわるべきでないだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 これについては、恣意的な現代訳が使われていて、ウィキペディアでも(ウィキペディアだからか) かってな争いになっている。
 ここに、まともな訳を二つ(直訳・意訳)書いたので、このページの文全体やあとで載せる資料文とともに自由に使ってほしいと思う。(とくに、相互リンク先の管理者が今ウィキに関わっているし)

解釈

<論争内容>
1 困った事例の主語は誰か。
  吉見教授は、主語が軍であるとみる。 したがって、「あるもの」は「あること」だとする。 
  小林よしのりは、主語は問題を起こしている業者だとする。
  永井和氏は、どちらにせよ、問題なのは軍が売春婦を集めていたことがばれることだ、とする。

2 統制の内容は何か。
  吉見教授は、軍が売春婦を集めていたスキャンダルを隠すことだ、とする。
  小林よしのりは、悪い業者を介入させないようにすることだとする。
  永井和氏は、吉見的時代観を前提に、スキャンダル隠しだとする。

<僕には、こう読める。>
1’ 困った事例は、その具体性からして、起きてしまった事件を示している。主語はことがらではおかしい。
  しかも、1例目は、主語になる人物は業者しかない。
  その三つの総合としての、「など 注意を要するもの」 とは、やはり「者」だろう。
2’ 「統制」 
  前半で、「・・などを介して不統制に募集し社会問題を惹起するおそれあるもの」とあるように、 「不統制」とは、「ばらばらで全体の実態が把握しづらい様子」 に使われている。 つまり、統制しろとは、「まとまってやれ」 という意味以上のことははっきりしない。
  何を防ごうとしているのか、といえば、社会問題になって軍の信用を傷つけないように、ということだが、それは、軍の募集が不統制で悪い噂や不安を撒き散らすことが起きているからだ、と取るのがふつうだろう。
  (吉見・永井氏のいうのは、「派遣軍」が、中国の地から国内を、陸軍省を通さずにどう統制するのか、奇妙なりくつだ。そして、軍にとって売春はスキャンダルだ、とだけ語るのは、(意図的な)世間知らずのように思う。)

<背景の事情>
 これ以上は、当時の状況に関係しているだろうから、この文だけでは明確ではない。状況を調べたという永井和氏も三種の事例の一つしか上げていない。

 ただ、永井和氏の見つけた資料を読むと、―――軍が国内への連絡もなく、国内なら違法になるようなことを業者に頼んで活動させたので、警察は困った事態だと考えたようで、かなり硬化した態度のあげくに許可したらしい。 当然、陸軍省としては、今後こんな事のないように、発注者である派遣軍はしっかりしたまとめをして業者を選んだ発注をしてほしい、と指令することだろう。
しかも、3,000人という数をふれ回ったそうだから、どんな噂になるかわかったものじゃない。
また、外地とはいえ、本来内地では認められない未成年を軍が募集しているなどと、困った話でもある。おおっぴらに言う業者も、そんな条件を出した軍も困った連中だ、と思うはず。 

 事実、別の資料では、―――この通牒の前後の時期に、軍の御用達の慰安婦業者が国内の少女・女性をだまして上海で慰安婦にしたり、また、部隊単位で慰安所を計画して業者に発注し、異例のやり方として国内行政と中国の領事館とで問題になりかけたことがある。   (慰安婦達は領事館の管理下での営業となったらしい)
 (この辺は、資料を後で出そう。 )



 以上からして、 正しい本意訳 は↓こうなるだろう。

 「今回、支那事変によって慰安所を増やそうとして、慰安婦を募集したさいに、
・ ちゃんとした説明よりもやたら軍の名を出して安心させようとして、結局、軍の信用を傷つけたり、誤解を招いたりする者、
・ 人づてに話を伝える結果、偽物も本物もわからず、詳細も判らず、ただうわさになって社会問題を惹起しかねない者、
・ うさんくさい人間・無免許者を業者にしたために、誘拐と疑われて警察の取り調べを受けた者、
 など、 注意を要する者が 多かった、 これについては、

 この次は、
・ 募集のときには 部隊の思いつきでなく派遣軍として計画と発注をまとめ、募集人を選定をしっかりして、
・ その募集活動や移送のさいには、 募集する地方の憲兵や警察との連絡を密にして、

 軍の信用を保ち、社会問題が起きないように、 不注意のないように配慮してくれ。
 これは、命令である。  」

   (表向き以外の微妙な感覚がなかったとは限らないが、第一義的には、ということ。)

 なお、ここで、警察や憲兵がでてくる理由だが、当然第一に考えられるのは犯罪防止であり、女性達が途中で別に売り飛ばされる危険を防ぐことは常識だろう。1938年初めに、警察が募集人を疑って硬い態度を取ったことからして、それは自然だ。   出国してから、現地の憲兵に引き継ぐまでの間に何かが起きないように、しっかり連絡をとれと。

 ところで、公娼というのは警察の管理下にあったらしい。また、軍人が絡むと憲兵が関係するだろう。
 また、ことに、このときの慰安所は急いで設置されたので、軍の直営慰安所の可能性が高く(想像)、上海の総領事館の計画でも、女性達は上海についてすぐ慰安所に直行することが原則だったらしい。 すると、このとき(1937末~38初めの募集)には軍属に近い感覚だったかもしれない。 いずれにしろ以下のように理解するのが自然だろう
 ―――名目はなんであれ積極的に邦人女性を保護するつもりで決めた、とか、  領事警察から憲兵へと引き継ぐのは無駄な手間だし、現地では憲兵の方がにらみが効くぶん安全が高い、とか、 慰安所の警備やら長くつきあう憲兵が引率するのは当然の責任だ、とか―――。

 まあ、そのことを軍の管理下に入ることだとは言えるが、必ずしもそれが慰安婦強制の証拠にはならない。
 保護をちゃんとする、ということがこの時点では中心だったといえよう。 民間の慰安所は、軍の御用達業者の指定(予定)慰安所でさえ、そこに騙されて入ってきた慰安婦達が、軍の強制でなく旅費がないためにそのまま慰安婦をしてしまった、ということがある。 この時点では、軍の関与はむしろ保護と受け取られただろう。
 これ以後の慰安所は特殊慰安所という、兵站部の指導下の民間慰安所が設けられる予定らしく、また、曖昧だった取り締まりも一定の分担を決めている。そして、1938年7月、「要するに軍憲領事館は協力して軍及居留民の保健衛生と業者の健全なる発達を企図し居る次第なり。」  (上海総領事発信在南京総領事宛通報要旨) とされている。

 (まあ、こういう善意や責任のシステムが、戦況や治安の悪化した場所ではどうなったかは、神のみぞ知る、だろうか)

 追加。1938初期に上海に置かれた「兵站部初の直轄慰安所」というところに、軍医として招集されて赴任した人の回顧談が、従軍慰安婦問題の元々の種になっているそうだ。 この軍医は4年間いたが、当時には朝鮮女性が騙されて来たなんて知らなかった、としている。

慰安婦まとめページ






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最終更新日  2007年04月20日 19時29分36秒
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