ひーちゃんのゼミナール 名古屋産業大学(現代ビジネス学科)・大学院環境マネジメント研究科)現代の社会・経済・環境・芸能・スポーツ・宇宙

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2021.08.27
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カテゴリ: 推理小説
「すごいですね、真佐子さん」
「え、何が?」
「若社長、たじたじでしたね。両芸能プロダクションの間には何か関係があって、殺された社長と東京のワールドの間には、今回の企画の件では、何か争いがあった。マネジャーの澤田さんの殺害に関しても、君川社長なりの推理で、ワールドが怪しいとにらんでいた。社長が奥さんに切り抜きを作るようメールで頼んだのは、事件の確認だったのではないかしら。白兎海岸へ呼び出したのがワールドプロダクションだとして、では、なぜ君川社長を殺害しなければならなかったのか。真佐子さんの推理のように、何か法外な要求を突きつけるなり、殺されねばならない何かを仕掛けたのか、この辺が焦点になりそうですね」
 蜜柑は、真佐子の推理に肉付けをして言った。
「あら、私の推理は三文推理小説の受け売りで、思いつきですよ」
と、真佐子は照れた。
「そんなことはないですよ、真佐子さん。神奈川県警の採用試験を受けて、私たちと一緒に悪を懲らしめませんか」
と、蜜柑は笑いながら言った。
「あら年齢制限をはるかに超えてます」

と、蜜柑が言えば、
「特命刑事というのはどうでしょう」
 運転手の大阪府警の女性警察官が笑いながら言った。大阪第一テレビ局の玄関前についた。パトカーに気が付いて、受付の女性が飛び出てきた。三人は応接に通された。応対に出たのは報道局長と番組制作室担当者だ。
「確かに当時黙示録という企画があって、ドリームプロダクションに相談した経緯があります。当時私は番組制作を担当していなくて、局内で共有されていたことの範囲を出ないのですが、確か、ここ大阪のドリームへもっていったと思います」
「ドリームでは知らないということでしたが。もちろん息子さんの話です」
「そうですね、先代の社長ならよく知っていたはずですが、いまとなっては」
と、一つ一つ思い出すように言った。
「ドリームで検討する中で、この企画はなかなか重いところがあり、東京のワールド・プロダクションと共同企画になったというところまで私どもは承知しています」
当時の報道局長は言った。現在は参与の閑職にあるという。
「なぜ、東京と共同になったのでしょうか」
真佐子が訪ねると、

 番組制作担当者が言った。
「この企画は、まだ生きているのですか?」
 蜜柑が聞いた。
「警察がお見えになるというので、当時の担当のものに聞いたのですが、企画の進行にやむを得ない理由で支障が生じた場合は、両者協議のうえ中止または継続を協議するとなっており、継続扱いになっているということです」
と番組制作担当者が言った。

「その通りです。しかし、目下、東京も大阪も緊急事態宣言が出ていて、すぐにでも動かせる状態にはありません。今後の感染者数の動向次第だとは思いますが」
 担当者は慎重に言った。
「どのような企画内容なんですか?」
 真佐子が思い切って聞いてみた。
「ええ、こちらの意向としては、ヨハネの黙示録にある終末観、あるいは仏教の末世に照らして、現代日本をどのように見るかという、たいそれた企画となっておりました」
 真佐子は、仲村がいてくれればと思いため息をついた。
「お恥ずかしい話なのですが、いま申し上げた企画内容で、正直なところ突っ込んだ企画は、両プロダクションと詰めていく中で具体化しようということでした」
 番組担当者は、頭を掻きながら言った。
「この企画の発案は、前任の番組制作担当者ですが、実はある大学の文学部教授と懇意にしており、その大学教授、鮫島と言いますが、その方に聞くと何かわかるかもしれません。蛍雪大学の文学部で、まだ教授職にあると思います」
 蜜柑と真佐子が立ち上がってから、部屋を出る間際に言った。
「ありがとうございます。ワールド・プロダクションは、今、アジア・エンタテーメントに社名変更していますが、まず、ここをあたってから、鮫島ですね、教授からも話を伺います。我々のことを話しておいていただけると助かるのですが」
 蜜柑は礼を言って、二人はテレビ局を出た。

 大坂へ宿泊することは、総務課の許可を取っていた。
「もしもし、パパ、大阪第一テレビの話では、やはり黙示録の話は、最初ドリームへもっていき、話し合いでワールド・プロダクションとの共同企画になって、そのあと感染症急拡大で、企画は事態収束まで延期ということになったみたい。山城、倉橋、江島の三人は、前々から移籍の希望があり、円満移籍となったそうです。はい、それと、この企画が第一テレビで出来た時に、担当者は同席していなかったのですが、蛍雪大学文学部の鮫島教授からいろいろとアドバイスを受けたようです。ええ、調べてください。仲村先生にも聞いてみます。ええ、真佐子さんにも質問してもらって、ドリームプロダクションは大慌てでした。ええ、何かを隠していると思います。……はい、ありがとう。こんばんは息抜きさせてもらうわ。真佐子さんは新幹線の駅の近くにホテルを取ってあるので、これから送っていきます。大丈夫よ食事はお部屋でするから。パパもね。はい、また連絡します」
 蜜柑は、婦人警官にNホテルまで送ってもらうことにした。時計の針はもう6時を指していた。緊急事態宣言下とはいえ、新大阪駅前の人通りは帰宅通勤者で多かった。ワクチンを二回接種しているとはいえ、二回目から日がたつにつれて免疫力が低下することはわかっていた。また感染しても症状は重篤化しないとはいえ、他人に感染させる可能性がある。
 真佐子は、山口県の湯玉で年老いた母親と息子夫婦、それに二人の孫と同居している。孫は小学生と保育園児だ。新型コロナウイルスのアルファ株は、もうほとんどデルタ株に置き換わっており、若年者への感染率が高く、症状も重篤化しやすい。新型コロナウイルスの感染は、高齢者や基礎疾患のある人たちから、若年者のステージへと変化した。
 大坂の雑踏の中でウイルスを拾うわけにはいかない。予約したホテルでは、近所のレストランからテイクアウトの夕食を取ってくれるサービスがあり、蜜柑と真佐子は、チェックイン時に夕食を受け取って、ツインの部屋に入った。シャワーを浴びて遅い夕食をさあ、という頃はすでに午後7時半を回っていた。その頃仲村は自宅で「ヨハネの黙示録」に目を通していた。真佐子からメールが入った。
「蛍雪大学文学部の鮫島教授が、ワールド・プロダクションが大阪第一テレビから黙示録の企画を手伝うように依頼されています。この企画は、感染流行前にワールドへ委託されましたけど、ドリームと共同企画ということになって、いまは凍結状態で、感染が収まれば再開されるとのこと。山城以下三名の、ドリームプロダクションへの移籍は、合意のうえということでした。ワールド・プロダクションとドリームプロダクションは、何か悪しき関係で結ばれていたか、ドリームプロダクションの社長が、ワールド・プロダクションの弱みを握っていたかもしれないです。女二人で、成果がありましたよ。私、刑事になろうかしら。真佐子さんと、これからお食事して、事件のなぞ解きをするのよ。あなたも頑張ってね」
と、いつもの調子で、仲村を苦笑いさせる。しかし、真佐子は母親の味を知らない蜜柑を思い、また蜜柑は昔の話を聞くことで真佐子の記憶を手繰り寄せようという、やさしい思いやりがあった。一口の缶ビールは二人を母子にした。
続く 
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最終更新日  2021.09.20 07:32:51


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