ひーちゃんのゼミナール 名古屋産業大学(現代ビジネス学科)・大学院環境マネジメント研究科)現代の社会・経済・環境・芸能・スポーツ・宇宙

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2021.09.18
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カテゴリ: 推理小説
お断り:この推理小説は予告なしに加筆修正することがあります。あしからず。​ ​目次へ

 風吹翔馬はCMの収録を終えて、自宅への帰路を急いでいた。マネジャーの車で、近くのコンビニまで送ってもらい、夜食を買い込み、自宅のマンションへ向かった。NHK放送センターの入り口が近くにある。コロナ禍のこういうご時世、途中、道草を食わないように、マネジャーからきつく言われている。感染でもしようものなら、契約によって進められているドラマの収録も中断し、放映予定のテレビ局に迷惑をかけてしまう。
 半年連載のこのドラマには、風吹翔馬のこれからの俳優人生がかかっていると言っても過言ではない。大学在籍中から芸能界に首を突っ込み、いろんなことをやってきたが、目指すは俳優としての道だ。一時的な快楽よりも、長い人生の成功の道を選んだほうが良いに決まっている。コロナ禍に突入して1年半、中年の域に差し掛かった彼の年輪は、慎重な行動をとらせるに十分だった。
 彼はダイヤモンド・エンタテーメントに所属していたが、近く、今の倍もある企画の話が舞い込んでおり、余計に慎重な行動が求められていた。彼はフリーエージェント宣言をしており、自分で仕事を取ってくることも可能だった。
 コロナが、ワクチンの普及もあって、やや下火になってきたこともあって、近く新企画を動かすチーム会合が開かれることになっていた。苦労して手に入れたこの新企画へのチャンスを、逃すことはできなかった。中心はタレント、俳優、アーチスト総勢10数名で、毎週金曜夜のゴールデンタイムに、1時間のテレビドラマの企画が動き出す。
「新黙示録 天国から愛をこめて」というのが、企画段階の名称だった。この企画を我が物にしようと、もともとは関西のテレビ会社・大阪第一テレビ会社の企画なのだが、これを取り込もうと、地下でタレントの猛烈な売り込みが行われていた。その中に風吹翔馬がおり、強引な手口で主演の座を得るところまで食い込んでいたのだった。
 風吹はこれから『黙示録』を読まなければならなかった。目の前の角を曲がり細い道を少し進むと、風吹のマンションがある。風吹はそのマンションの5階に住んでいた。細い道に入りかけた瞬間、濃い色のセダンが彼の背後から近づき、パワーウインドーを開けたかと思うと、拳銃の鈍い発射音がした。消音ピストルの弾丸が、風吹翔馬の心臓を貫通した。彼は路上に倒れ、抱えていた食料品などがあたりに散乱した。車は音もなく走り去った。
 あたりに人影はなかったが、角の一軒家の二階の暗い窓に明かりがつき、住人が窓を開けて、鈍い音の方向を見た。街路灯の下に、人がうずくまっているのに気づいて、その住人は恐る恐る玄関を出て街路灯の下の物体に近づき、そして大声を上げた。

 渋谷道玄坂上の殺人事件は、朝刊で報じられた。蜜柑と真佐子は、新大阪駅前の、ビジネスホテルの朝食会場のテレビを見て、食事の手がとまった。
「大変な事件です。詳細は分かりませんが、芸能人が殺害されたことと、テレビの字幕に出た黙示録の意味するところは、私たちが捜査している横浜港と白兎海岸の殺人事件との関連は明らかですね」
 蜜柑は刑事の顔に戻った。仲村に会いに来たところが、素人探偵になりきり、捜査の一翼を担うことになり、真佐子は心ときめく思いがして嬉しかった。
 今日は思い切って、第一テレビに「黙示録」の進言・助言をしたという、蛍雪大学・人文学教授の鮫島研究室を訪ねる決意を固めた。もしかしたら、第一テレビから連絡が入っているかもしれない。「寝込みを襲う」のが有効なことは、父親から「捜査の常道」と教えられたことであった。
「真佐子さん、ここは一度ご自宅に戻って、また機会があったら仲村さんと一緒に横浜においでください」
 真佐子と蜜柑は朝食を切り上げ、ビジネスホテルを出る準備に取り掛かった。真佐子には大胆な算段があった。新大阪の駅には徒歩で向かった。コロナ騒動どころではない、何かが動き出したと蜜柑は直感した。

「この事件は、どうも大阪第一テレビが発案した黙示録が絡んでいて、最初にこの企画が持ち込まれた大阪のドリーム・プロダクションの社長が、白兎海岸で殺害された。どちらも神話や伝説めいた世界で、何か得体のしれないものを感じるわ。島根へ行くと鳴き砂伝説があって、平家と源氏の壇ノ浦の合戦で危うく難を逃れた平家方のお姫様が、小舟で流れ着いた鳴き砂海岸があります。白兎海岸も因幡の白兎の伝承ですが、社長を殺害した男女は、島根県から山口県の県境まで足を延ばしています。私その場所に行ってみます。中年の男女が立ち寄ったとされる道の駅には、私の知り合いがいますから、何かわかるかもしれません」
 真佐子の独り言のような言葉に、
「おひとりでは危険が伴いますね」
と、蜜柑が案じると、
「大丈夫よ。仲村私立探偵を呼ぶから。どうせあの人は、大学は夏休みだし、静岡から飛行機で出雲空港へ飛んで、私が車で待ち受けるという方法があるわ。いつももったいぶって偉そうなことを言っているけど、私がいないと何もできないんだから」

「捜査のほうは無理をなさらないでくださいね」
 引き留めてもやめるような真佐子ではないことが、だんだんわかってきた蜜柑は、新大阪の改札口で手を振った。
続く
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最終更新日  2021.09.26 06:18:58


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