戦国ジジイ・りりのブログ

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2015年05月24日
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カテゴリ: 旅日記(近畿)
それでは、日本浄土教の歴史に燦然と輝く名著『往生要集』の中身を
少し紹介していきましょう。

まずは地獄の記述から始まる。

「えっ、いきなり!?」

てわたくしは驚きました。
ここの記述が実に真に迫ってすごいんですが、意外に読みやすくてこれまたびっくりでした。


まず、地獄とはサンスクリットの奈落(naraka)を意訳したものをいう。
『古代日本文学にあらわれた他界観-日本霊異記における「地獄」を中心に-』
(安田夕希子)の分析によると、『往生要集』より200年ほど前に書かれた
日本最古の説話集『日本霊異記』にも地獄や浄土を思わせる記述はあるものの、

古代の他界観と仏教的他界観が融合しつつあるような過渡期の記述が多いらしい。

たとえば、「地獄」の場所。

日本神話でイザナギが変わり果てた妻から死に物狂いで逃げるエピソードでは、
この世と死者の国は歩いていける距離にあり、地上に出たイザナギが
黄泉比良坂に岩を置いて人心地つくという流れになっており、
古代日本では比較的水平な位置関係と考えられていたらしい。
それはインドにおける垂直な位置関係にある地獄観とは違っている。

源信が『往生要集』で描いた地獄とは、


八熱地獄


わたくし達が今いるこの地上から約14,400Kmの地下にあるもので、
下に行くほど受ける苦しみは重く、そしてそこでの滞在期間は長い。

「下にィ~、下に!!」



安田氏によると、斎明天皇5年(659)には盂蘭盆会の講説が行われ、
地獄についても説かれたと考えられているらしく、また奈良時代に入ると
東大寺の二月堂に地獄絵が描かれているそうな。
だからそこそこ早い段階から仏教的他界観も入っていたようではあるんだけど、
過渡期に生きた景戒は、日本古来からの「あの世」観と融合させながら書いている。

「地獄」という語は出てこないし、極楽と地獄を対比させる記述もない。

それから200年ほど経った源信の時代には、景戒の頃よりは仏教も浸透して
大寺の碩学などには仏教的他界観も理解されつつはあっただろうけど、
それまではこれほど経論からあらゆる記述をダイジェストにまとめた本はなかったので、
お経に説かれる「あの世」が勢ぞろいした『往生要集』を読んだ人達は
かなりの衝撃を受けたことだろう。


最初の章ではまず、この世界の様相を明らかにするために、
1:地獄、2:餓鬼、3:畜生、4:阿修羅、5:人間、6:天人、7:総括
に分けて説明する、として地獄の記述が最初に来る。

地獄は、上の図の通り8つ。
ご存じの通り、ここでは生前に犯した罪の償いをしなければならない。
1つ1つの地獄について、どんな罰が行われるのかということが
実に詳細にリアルに書かれているので、源信が本当に伝えたかったことよりも
『往生要集』といえばまずここの記述が話題になる。

大乗経典の暗記をやっていたり、パーリ仏典を読んでたりすると

「インド人、話くどいなあ~」

て思うことはままありますが、よくまあこれだけ考え出したもんだと
感心するぐらい、凄惨な刑罰の記述が続く。
ひとつの例として、焦熱地獄のケースを引用して紹介しましょう。

地獄の鬼は罪人を捕えて、熱い鉄の地面の上に横たえ、仰むかせたり俯(うつ)むかせ
  たりして、頭から足まで大きな熱した鉄の棒で打ったり突いたりし、肉団子のように
  してしまう。あるいはものすごく熱い大きな鉄鍋の上において、猛火で罪人をあぶり、
  左右に転がし、腹や背を焼いて薄くする。あるいは大きな鉄串で肛門から突き刺して
  頭に貫き通し、くりかえし火にあぶって、罪人のさまざまな器官や毛孔、口の中までも、
  すっかり火を吐くほどにする。あるいは熱い鉄の釜に入れ、あるいは熱い鉄の高楼
  (たかどの)に置くと、鉄の猛火が激しく燃えて骨や髄にまで染み通る。もし、
  この地獄の豆粒ほどの火でも、この地上世界に持ってきて置いたら、またたく間に
  焼き尽くしてしまうだろう。まして罪人の身体は若草のように軟らかいから、
  時間をかけて焼けば、とてもたえられるものではない。
  (『東洋文庫8』石田瑞麿訳/平凡社より)


こんなのがずっと続くんです。

すごいのは罰の内容だけじゃない。
上の図の等活地獄のところに「1689億9千5百年」と入れましたが、
これが人間の年数に換算した、等活地獄での滞在期間。
でも、最初から「1689億9千5百年」なんて書いてある訳じゃないですよ。
本文では

人間の世界の五十年をもって一昼夜とする四天王の寿命は五百歳であるが、この
  四天王の寿命もこの地獄の一昼夜にしかならないのに、この地獄の寿命がまた五百歳
  なのである。
  (前掲書より)


と書かれてます。
これを真面目に計算すると、「1689億9千5百年」なんて
とんでもない数になったんです。

かなりの年数になるだろうとは思っていたけど、一番ランクの軽い等活地獄で
地球の誕生(46億年前)をはるかにオーバーしてしまったので、
以下の地獄の年数を計算するのはやめました

下の地獄に進むにつれ、刑罰は凄惨さを増し
さらに滞在期間も途方もない長いものとなっていきます。
さらに驚くのは、それぞれの地獄へ堕ちた人間がどういう罪を犯したのか
妙に細かく書かれていることです。
具体的には

・生き物を殺した者      ・崖から人をつき落とした者
 ・よこしまな淫にふけった者  ・身を慎んでいる信者の女を犯した者
 ・嘘をついた者        ・縄で人を縛ったり、杖で人を打ったりした者
 ・盗みをした者        ・戒を守っている尼を犯した者
 ・他人の女を奪った者     ・よこしまな男色をした者
 ・岸から身を投げて自殺した者 ・人を遠いところまで追い立てた者
 ・酒を飲んだ者        ・人を縛って食べ物を奪った者
 ・杖で人を打った者      ・河を決壊させて人を飢餓に陥れ死に至らせた者    
 ・殺した生き物の肉を食べた者 ・煙をくすぶらせて人を悩ました者 
 ・人を殺した者        ・子どもを怖がらせた者


こんな感じ~。
男色もイカンのか・・・
戦国武将はほとんどがアウトだな。

『霊異記』では三宝(仏・法・僧)に対して何らかの罪を犯した者は
死後じゃなく現世でソッコー報いを受けるというパターンが多かったけど、
『往生要集』で説かれる地獄行きの罪の中でもやはり三宝に対する罪は重いです。

・仏像を焼いたり、僧坊を焼いたり、僧の寝具を焼いたりした者
 ・よこしまな考えで教えを説きすべてが偽りであった者
 ・出家の身でありながら戒を守っている婦女に酒を飲ませて誘惑し
  交わったり金品を与えたりした者 
 ・不当に信者の施しを受けてのらくらと生活していた者 
 ・仏に所属する金品を盗んで生活費にあてた者 
 ・辟支仏(びゃくしぶつ)の食べ物を盗んで食べ、人に与えなかった者


このほか、「5つの逆罪(父母・阿羅漢を殺す、仏を傷つけて血を出させる、
教団の分裂を起こさせる)を犯した者や大乗を誹謗した者も当然含まれます。

「僧のおふとんて・・・」

とついわたくしは笑ってしまいましたが、
笑ったら「大乗誹謗の罪」と判定されてしまうのだろうか

どの罪を犯したらどの地獄へ行くのか、興味(心配)のある方は
『往生要集』をご覧ください。

上に並べた罪は、『往生要集』に書かれたすべてを載せたものじゃないし、
刑罰のあれこれは実に沢山の種類がありますが、それでも源信は

まだ千分の一も説いてないが、いくら説いても説き尽くせるものではないし、
  もし誰かが説いて誰かが聞いたとしても、その人は血を吐いて死んでしまうだろう。


と言っている。

これら8つの地獄は「八熱地獄」と呼ばれ、劫火だとか煮え湯だとか
とにかくアツい世界が語られているが、この他に8つの寒地獄があり、
八熱地獄と同じく地上の下にあって八熱地獄のすぐそばで
それはそれは寒い世界を展開しているのだという。
ただし、『往生要集』では寒地獄については割愛されている。

『霊異記』では、罪を犯して一旦は地獄っぽいところへ行かされても
生前のわずかな善行のおかげで仏が助けに来てくれたり、
あるいは家族がお経を唱えるなどの行為によって助かったりと
救済の道が提示されている。
まあ、ほとんどは現世で自らが償うというパターンだけど。

ところが、『往生要集』で描かれる地獄は一旦堕ちたらもうアウト。
規定の長い時間をそこで過ごさなければならない。
ある地獄で、地獄の鬼が罪人に語りかける場面がある。

「心が一番あだをなすのだ。このあだがすべての悪をなし、閻魔王のところへ
  送らせるのだ。お前一人が地獄で焼かれ、悪事の報いで食われるが、妻子や兄弟、
  親族などの誰もお前を助けることはできない」

本来、因果応報とは自分がまいた種は自分に降りかかってくるというもの。
日本では家族から僧侶を出せば何代先まで救われるとか、
「親の因果が子に報い」なんて言葉もあるぐらいだけど、
自分の行いが誰かに影響を及ぼすというものじゃない。
自分の責任はあくまで自分で取らなきゃならんのだ。
地獄の鬼が言っているのは、そういうこと。

『往生要集』はお経や論書からさまざまな記述をダイジェストに集めたものだから、
『霊異記』よりはもっと純粋な仏教的世界が繰り広げられる。

ここの記述があまりにもすさまじいものだから、
源信が意図したものとは別の結果を生んだケースもあり、
各種地獄絵図にも大きな影響を与えた。

文章だけでもまともに読むと繊細なわたくしは貧血を起こしそうなほどなのに、
『北野天神縁起絵巻』なんか見た時にはくらくら来ましたね。
視覚効果というのは実にすごいものです。


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最終更新日  2015年05月24日 23時22分19秒


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