さすらいの若旦那の日記。

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2006.12.28
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カテゴリ: 感動して下さい。
いつもと代わり映えのない定食屋で昼食を摂った後。


つかの間のピットインといったところである。
それほどゆったりすることもなく、立て続けにカップを傾けた。

会社の近くには、それほど軒数がないので、食後は大抵ここになる。
新聞も置いてあり、テレビも流れている。

つかの間のではあるが、職場の慌ただしさから逃れることができる。
私にとってここは、ひと時パワーを充電するような場所なのである。

店の中をざっと見回してみた。


おそらく私が利用するよりもずっと以前からあったのだろう。
少し時代に取り残されたようなレトロな感じ。

今風の明るい内装ではなく、少し野暮ったい店内だが、
なぜか落ち着ける場所でもあった。

いつも利用するので、もちろん店の人とは顔なじみである。
両親と同年代くらいの老夫婦がいつも優しく迎えてくれた。

大体いつも座る場所からレジのほうを見ると、そこには
見慣れない張り紙が張ってあった。

なんだろうと思いながら少し目を細め、文字を追ってみた。
そこには今年一杯で店を廃業するということが書かれてあった。

私があんまりじっとその張り紙を見つめていたことに気付いたのか、


「いつも来てもらってすいませんでしたねぇ」
目の横のしわをさらにくしゃくしゃにして微笑みながら、彼女はゆっくりとお辞儀をした。

「もうあと、何日もないんですね」
気の聞いた言葉をかけてあげることもできず、私は問いかけた。

彼女はさらに何か話そうとしたが、数人のサラリーマンのグループが店内に入ってきたので、


年齢的にも、老夫婦二人で店を切り盛りするのは大変なことなのだろう。
少し背を丸めた後姿が、そう物語っていた。

彼女はそのグループにも店が年内一杯であることを告げ、会釈をした。
「ごくろさまでした」とか「残念ですね」という言葉が聞こえてきた。

昼休みの時間も残り少なくなり、私は最後の一口を一気に流し込んだ。
ほろ苦い味と共に、溶けきらないで底に溜まっていた砂糖がいつもより甘く感じた。

私はレジに向かい、お金を払った。
「お世話になりました」彼女が私にそう声を掛けた。

お世話なんて……。
いつもこの場所で英気を養い午後からの仕事が頑張れたことに、逆に感謝したいくらいなのに。

「いつまでもお元気で」
そう言うのが精一杯だった。

店を後にして外に出ると、重たい雲が空一面を覆っていた。
冷たい風が容赦なく頬に胸に吹きつけてきた。

前を向き、ポケットに手を突っ込んで小走りに職場に向かった。

少し歩いてから、何か忘れ物をしたような気分になった。
そして静かに店のほうを振り返った。

「お元気で」
心の中でもう一度そう呟いた。


2005-11-26 12:37:32 ←←←ぽちっとな!

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最終更新日  2006.12.28 23:42:08
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