眠れない夜のおつまみ

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2006/07/27
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カテゴリ: 小説
午後9時。いつもよりも早い時間に仕事が終わった。
広告代理店に勤める倫子はあるプロジェクトチームに入っているのだが、最近ようやくプレゼンも終わりほっとしたところだった。けれど、また次の仕事が待っている。
今の仕事は満足している。やっと仕事に対して「これだ」と思えるものに出会えたのだと思う。
PCと切り、数人のスタッフに挨拶するとグッチのショルダーバッグを肩にかけオフィスを後にした。吉川もまだその数人のスタッフに入っていた。
エレベーターの「下がる」ボタンを押すと、38階に止まっていたエレベーターが動き出した。

38階。

今朝のあの男のことを思い出した。
もう一度会ってみたい、そう思う自分の心に戸惑いながらも淡い期待を持たずにはいられない自分がいた。何故なのか。考えても分からない。

まさか。


中には今朝の男が偶然にも乗っていたのだった。まさかが現実になった。
鼓動が早くなる。この男に聞かれてしまいそうで恥ずかしく思った。
気づかれないように平静を装おうのが精一杯だった。
「今朝も一緒でしたよね?」
意外にも男の方から声をかけてきた。
「そうでしたっけ。」
一応とぼけた振りをする。
男は少ししまったな、と言う様子だったがそれでも声をかけるのをやめなかった。
「今朝一番にエレベーターに乗り合わせる人を僕は忘れない性質なんですよ。」
にっこりと笑ったこの男に倫子は見つめられて内心はドキドキしていた。
もうすぐ1階に着こうとしていた。

「お疲れ様。また明日。」
男はそう言うと倫子とは反対の方向に歩いて行ってしまった。
拍子抜けして一気に脱力感に襲われた。
正志がいると言ってもガードが固すぎたかもしれない。
つまらない女だと思われたのだろう。





その夜また夢を見た。



あの少女だ。また水汲みをしているようだった。銀杏並木を抜けると川が流れている。
重い桶を引きずりながらゆっくりと歩いて川に近づいていく。
川の流れに逆らって桶で水を汲む。川から引き上げるのが子供の私には難しい仕事だ。
苦戦していると、ふっと桶が軽くなった。びっくりして振り返ると見知らぬ男が助けてくれていた。私は咄嗟に手を離しその場から逃げた。
「驚かなくてもよい。見ていて不憫に思ったから手伝ってやっただけだ。ほら。」
そう言って桶を私に差し出した。
私は恐る恐る近づき水の入った桶を掴むと少しだけ男に頭を下げると桶を引きずりながら家に向かった。綺麗な男だった。きっと都の人間なのだろう。男は馬に乗ると私とは反対の山道に走っていってしまった。その後ろ姿をこっそり見つめていた。



そこで目が覚めた。
朝方の夢はすぐに忘れてしまう。倫子はその男の顔をもう忘れてしまっていた。
今朝の夢はなんだか心地よい懐かしさを残した。
そして昨夜のあの男の言葉を思い出していた。

「お疲れ様。また明日。」

倫子は何故だかまたあの男に会える気がした。





                                 <つづく>



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Last updated  2006/07/28 04:35:12 AM
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