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新しいブログのご報告です。読んでみたい方はこちらの記事を読んでそれに従ってください。これ以上、このブログを更新する事はありません。今まで来てくださった方、ありがとうございました。
2006/10/08
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本サイトでも書いたのですが、引越しを考えています。もうかなり前から考えていたのですが、なかなか今まで出来ずにいました。少しずつ引越しの準備をしています。ゆっくりやっているので、まだこのままになると思いますが、引越し完了時にはこのブログは畳む事になると思います。
2006/08/08
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「倫子。」肩を揺すられてハッとした。目の前には正志が座っている。日曜日のいつも通りのカフェでのデート。「何だか最近ぼーっとしてることが多いよね。」「ごめん。ごめん。」「なにかあったの?昨日だって、生返事しか返って来なくて大丈夫かな、って思ってたんだけど。」どうやら本気で心配してくれているらしい。「ちょっと仕事が忙しくって。ただそれだけ。」「ならいいけど。仕事もほどほどにしないとね。体も大事だから。」と倫子に笑顔を向けるとカフェ・ラテをすすった。そして思い出すようにもう一言付け加えた。「何でも僕に話してよね。何でも聞くからさ。」何でも溶かしそうな笑顔だった。エレベーターの男に出会ってから1ヶ月。倫子の予感は外れた。あれから一度もあの男は現れなかった。同じビルに勤めているのに会えないなんて。もしかして、あの日だけ用事があっただけだったとか、やっぱりタイミングが合わないのか、何故だろうと気づくといろいろ考えてしまっている。あの男の事が気になって仕方ない。会ってどうしたいのだろう。正志がいるのに?そんな事正志には口が裂けても言えない。正志に嫌悪感を抱くことがあっても、決定的に駄目という事ではない。それは私の我侭なのだ。現に正志はいつも私に優しい。その優しさに慣れすぎてしまったのだろうか。私は刺激を求めているのだろうか。そんな事、裏切りだわ。けれど、やはりあの男の事が頭から離れなかった。何となく今日はこれ以上正志とは一緒にいられなくて片付けないといけない仕事があると嘘を付いて別れた。正志は寂しそうだったが、本当なのか嘘なのか自分も同じく片付け仕事が残っているんだ、と笑顔で手を振ってくれた。日曜日の夕方は穏やかな空気に包まれている。倫子は地下鉄まで近道をしようと路地裏に入った。この道の先には数件のラブホテルが並んでいる。夜は女一人では歩けない道だが、まだ明るいうちは地元の人間なら地下鉄までの近道なので通る、そんな道だ。まだ、夜でもないのに、いやそんな事は関係ないのだろう。人目をはばかる様にラブホテルに入る人や出てくる人が目に付いた。カップルも様々だ。どう見ても学生のカップル、怪しいカップル・・・。仲良さげに出たり入ったりするカップルを尻目に、倫子はふと寂しくなった。これから食事でも一緒に食べに行くんだろうな。嘘付いて別れるなんて馬鹿だ。そう言えば正志としたのはいつだっけ・・・・。そんな事を考えながら通り過ぎて行くと前方からこっちにカップルが向かってきた。少し派手目だがかわいらしい女性。服装からして倫子よりも若そうだった。その隣で女性に腕を絡まれているのは、あの男だった。倫子と視線が合ったが気づいた様子も無く手前のホテルに楽しげに入っていったのだった。倫子は全身の力が抜ける思いだった。こんな所で会うなんて。そうか。そうだよね。彼女くらいいるよね。一人で小娘みたいに思い上がってほんと馬鹿だった。ショックだったがモヤモヤしたものが吹き飛ばされたようで、幾分心も軽くなり小走りで地下鉄に向かった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/31
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午後9時。いつもよりも早い時間に仕事が終わった。広告代理店に勤める倫子はあるプロジェクトチームに入っているのだが、最近ようやくプレゼンも終わりほっとしたところだった。けれど、また次の仕事が待っている。今の仕事は満足している。やっと仕事に対して「これだ」と思えるものに出会えたのだと思う。PCと切り、数人のスタッフに挨拶するとグッチのショルダーバッグを肩にかけオフィスを後にした。吉川もまだその数人のスタッフに入っていた。エレベーターの「下がる」ボタンを押すと、38階に止まっていたエレベーターが動き出した。38階。今朝のあの男のことを思い出した。もう一度会ってみたい、そう思う自分の心に戸惑いながらも淡い期待を持たずにはいられない自分がいた。何故なのか。考えても分からない。まさか。エレベーターの扉が開いた。中には今朝の男が偶然にも乗っていたのだった。まさかが現実になった。鼓動が早くなる。この男に聞かれてしまいそうで恥ずかしく思った。気づかれないように平静を装おうのが精一杯だった。「今朝も一緒でしたよね?」意外にも男の方から声をかけてきた。「そうでしたっけ。」一応とぼけた振りをする。男は少ししまったな、と言う様子だったがそれでも声をかけるのをやめなかった。「今朝一番にエレベーターに乗り合わせる人を僕は忘れない性質なんですよ。」にっこりと笑ったこの男に倫子は見つめられて内心はドキドキしていた。もうすぐ1階に着こうとしていた。沈黙が続いた。扉が開く。「お疲れ様。また明日。」男はそう言うと倫子とは反対の方向に歩いて行ってしまった。拍子抜けして一気に脱力感に襲われた。正志がいると言ってもガードが固すぎたかもしれない。つまらない女だと思われたのだろう。少し後ろ髪を惹かれる思いで地下鉄の3番口の階段を下りていった。その夜また夢を見た。あの少女だ。また水汲みをしているようだった。銀杏並木を抜けると川が流れている。重い桶を引きずりながらゆっくりと歩いて川に近づいていく。川の流れに逆らって桶で水を汲む。川から引き上げるのが子供の私には難しい仕事だ。苦戦していると、ふっと桶が軽くなった。びっくりして振り返ると見知らぬ男が助けてくれていた。私は咄嗟に手を離しその場から逃げた。「驚かなくてもよい。見ていて不憫に思ったから手伝ってやっただけだ。ほら。」そう言って桶を私に差し出した。私は恐る恐る近づき水の入った桶を掴むと少しだけ男に頭を下げると桶を引きずりながら家に向かった。綺麗な男だった。きっと都の人間なのだろう。男は馬に乗ると私とは反対の山道に走っていってしまった。その後ろ姿をこっそり見つめていた。そこで目が覚めた。朝方の夢はすぐに忘れてしまう。倫子はその男の顔をもう忘れてしまっていた。今朝の夢はなんだか心地よい懐かしさを残した。そして昨夜のあの男の言葉を思い出していた。「お疲れ様。また明日。」倫子は何故だかまたあの男に会える気がした。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/27
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山奥の小さな集落に家族4人で住んでいた。父と母と私と弟。まだ5歳の私ではあったが毎日の仕事は家から30分歩いた先にある川へ水汲みをしに行くことだった。生きていく為には食べることをまず最優先しなければならない。水も重要なもの。幼い私でもそれは分かっていた。私は木で出来た水汲み用の取っ手の付いた桶を両手で持って半分引きずるような感じで歩いていった。季節は秋で、途中に銀杏の並木道があり、風に吹かれるたびにハラハラと黄色い葉っぱが舞い降りてきて私の行く手を黄色い絨毯に染めていった。厳しい冬に入る前のこの風景が私は大好きだった。暫く見入ってしまうこともあり家族を心配させたこともあった。でも、この風景は美しかった。倫子は黄色い夢の途中で目が覚めた。最近色彩の豊かな夢を見るらしい。この前は赤い夢。今度は黄色。今朝の夢のあの銀杏並木の美しさは少し不思議な余韻を残した。でも、夢は夢だ。何かしらメッセージがあるとしても倫子は夢占いなど好んでする性質ではない。それに週明けの朝は何かと忙しい。休みモードの頭を素早く切り替えなければならないし、休みでだれた体も仕事の体制に持っていかなくてはならない。とっくに冷房の切れた真夏の部屋の空気は体にいやらしくまとわりついてそれだけでも気分が悪いというのに・・・。まだ生理も終わっていないのに・・・。しかしスーツに着替えた倫子はすっかり仕事の体制に入っていた。地下鉄まで徒歩で10分。朝と言っても真夏の日差しは体に応える。細胞が悲鳴をあげて泣いてるように背中から、胸元から汗が吹き出ているのを感じながら地下鉄の6番口に入っていく。地下鉄のホームに入ると冷房もきいていてさっきまで悲鳴をあげて泣いていた汗も引っ込んでいった。朝の地下鉄は混んでいる。倫子の嫌いな時間だ。この嫌いな時間は20分続く。地下鉄から勢いよく吐き出されるように人々が降りてゆく。その中に倫子もいる。3番出口の方面に向かって足早に歩き、改札に定期券を入れる。右に曲がると3番出口だ。どうして地下鉄の通路は長いのだろう。毎朝思うことだ。そんなことを思いながら階段を昇っていくとまた真夏の太陽に照り付けられる。「おはようございます。」後ろから声をかけてきたのは後輩の吉川だ。吉川徹次は倫子よりも6歳年下だが、倫子は中途採用の為1年後輩に当たる。屈託の無い笑顔の吉川はとびきりのいい男ではないが、憎めない愛らしさを持っておりそんな親しみやすさから女子社員の中では密かな人気がある。それを吉川は気づいているのかいないのか。多分気づいていないのだろう。「おはよう。」「今日も暑いですね。」「そうね。」2人一緒に会社のオフィスのあるビルのエレベーターに乗った。オフィスはこのビルの26階にある。2人がエレベーターに乗り込むと一人の男が滑り込んできた。エレベーターボタンの前に立っていた倫子に「失礼。」と一言言うとその男は38階のボタンを押した。その手首からはブルガリの腕時計が顔を覗かせ、ckbeが軽く香った。同じくらいか少し年上に見えるその男はナチュラルパーマのかかった少し明るめの清潔感のある髪型に、俳優といってもおかしくない様な整った精悍な顔立ちをしていた。倫子の視線に気づいたのか男は少し微笑んだ。どきりとして倫子は視線をそらした。3人を乗せたエレベーターは沈黙のまま26階へと向かった。倫子達がエレベーターを降りると当たり前のようにエレベーターは無言で上に向かって行ってしまった。「先輩、ああいう男の人好みですか?」と吉川は半分からかう様に聞いてきた。「あはは。そうね。ちょっと素敵な人だと思ったわ。」ちょっとした朝の出来事はオフィスに入ると、たちまちいつも通りの仕事の忙しさに立ち消えてしまった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/23
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正志はTシャツにジーンズに着替えてアパートから歩いて数十メートルのローソンに向かった。ローソンは大通りに面しているが、正志のアパートは一本路地裏に入った所で案外夜は静かである。大通りまで出てくると、午前3時なのにも関わらず車が行き来している。昼間よりも空いている為かスピードを上げているように思える。ローソンに入るとまだ原田は来ていないようだった。正志は道路に面した雑誌コーナーで今日発売されたばかりの情報誌を立ち読みして待つことにした。待つこと10分。まだ原田は現れない。あの電話は本当に原田だったのだろうか?少し不安になってきた。30分待って来なかったらアパートに帰ろう。そう心の中でつぶやいて、また情報誌の続きを読み始めた。それから5分経ってローソンの前に1台のタクシーが止まった。正志は雑誌の後ろからタクシーから降りる人影を盗み見していた。原田だった。原田は見られている事に気づかず、こっちに向かって来た。正志は原田に声をかけられるまでは何となく、気づいていない振りをする事を決めた。「正志。久しぶり。」原田は正志の肩を後ろからポンと叩いた。正志は大げさに驚いた振りをした。「あ、ああ。久しぶり。」「こんな時間に本当にすまなかった。ありがとう。」原田は学生の頃とあまり変わっていなかった。神妙な顔つきで詫びる原田を見て、今まで正志の変に緊張していた気持ちが一気に溶けて行った。「いや。本当に久しぶりだね。」2人は何も言わずにローソンを後にした。無言のままアパートに着く。正志が206号室の鍵を開けると「まあ、汚いけど入れよ。」と原田を誘い入れた。原田は部屋に入ると少し落ち着きの無いような素振りで胡坐をかいた両足はガタガタと貧乏ゆすりをし始めていた。「飲む?」ととりあえず缶ビールを差し出した。「乾杯。」と一応、8年ぶりの再会に乾杯をしビールをのどに流し込んだ。暫くすると原田も落ち着いたのか口を開けた。「今日は本当にすまなかった。突然押しかけてしまって。」「いや。驚いたけど久しぶりに会えてよかったよ。あまり変わりないようだし。」原田は学生の頃と変わらず男から見てもいい男だった。学生の頃からよくモテていた。今でもそうなのだろう、と勝手に想像してしまう。「実は、情けない話なんだが、今晩同棲している女に追い出された。そのまま出てきちまったもんだから持ち金も少なくて、携帯の電源も切れちまってさ。出てきてからどうしようかと思っていたら昔買ったテレカがまだ財布の中に入っていてさ。裏に正志の携帯番号がマジックで書いてあったんだ。」そう言うとポケットからD&Gの財布を取り出して中なら1枚のテレカを取り出し正志に差し出した。北海道の雪景色のテレカを裏返すとそこには確かに正志の携帯番号が書いてあった。しかも、この字は正志のものだった。「大学の時、1回みんなで北海道に行ったことあっただろう。その時のやつだよ。」原田の言葉で思い出した。大学4年の冬、卒論が終わってみんなで北海道に旅行に行った。その時すでに携帯電話を持っていた正志は得意になって名刺代わりとテレカの裏に携帯番号を書いた気がする。「ずっと俺持ったたの気づかなくて、急に懐かしくなってかけてみたんだ。まさか出るとは思いもしなかったけど。」「ああ。変えていないんだよ、番号。なんか面倒で。」「正志らしいな。」原田はふふっと笑った。「彼女と上手く行っていないのか?」そっちの方が心配になって聞いてみる。「結婚の話になるといつもこじれる。正志はまだ結婚はしないのか?もうてっきりしているかと思っていたけど。」原田の母親は幼い頃男と駆け落ちして姿を消した。学生の頃から結婚なんて馬鹿らしい、とよく言っていたことを思い出した。「彼女はいるんだけど。結婚はもう少し先かな。」「そうか。」いろいろもっと話したかったが、午前4時を回ってしまったので眠ることにした。正志は今朝見た奇妙な夢のことなど、もう忘れてしまっていた。翌朝、原田は正志のアパートを後にした。もう一度彼女の元に帰って話し合ってみると言っていたがどうなのだろう・・・。「じゃ、また。」とお互い手を振って別れた。急に訪れた懐かしい友は足早に去って行った。正志の元には原田の携帯番号のメモが握り締められていた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/21
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僕は彼女をぐっと力を込めて抱きしめると、今まで抑えていた感情を一気に吐き出し泣き崩れた。こんなことになるだなんて少しも思っていなかった。ゆっくり抱きしめた腕を緩めて引き離していくと、すっぽりと腕の中におさまってしまう彼女の小さな体全体が視界に入ってくる。血の気を失った真っ青な顔色。ぐったりと閉じられた瞳。小さな胸は真っ赤に染まっている。そう。真っ赤に。僕の体は彼女の体からしみ出た真っ赤な液体に染められていた。悲しみ、怒り、絶望、憎悪。僕はつぶやいた。「絶対に娘を殺った奴を見つけ出して同じめにあわせてやる。」僕の眼はギラギラと光っていた。霧の立ち込める森を僕はまだ幼い娘を大事そうに抱えて歩いて消えて行った。森の匂いが残っているようだった。正志は一瞬何のことか分からなかった。目の覚めた今でも、あの感情や情景が生々しく残っているからだ。愛する娘を何者かによって殺されてしまった父親の心情がまるで正志の心に移植されてしまったような悪い心地だった。優しい性格の正志にとって、あれほどの強い感情は今まで持った事が無い。夢であるにもかかわらず、小さな女の子の胸から吹き出た血の跡はあまりにもリアルでなかなか頭から出て行ってくれない。残酷な殺され方だった。何度も刺されたのだろう。まるでコマ送りのようにその映像が何度もフラッシュバックしている。そんな夢を見る自分の心理状態が恐ろしく感じた。なぜこんな夢を突然見たのだろう。昨日の出来事を辿ってみた。倫子はあれから機嫌もよくなり落ち着いて普通の楽しいデートをした。ショッピングに付き合い、適当なカフェでお茶。正志が本屋に寄りたいといい、買いそびれていた小説の下巻を買った。ブラブラ街を歩いてイタリアンレストランで食事をとって倫子の体調を気遣って昨日は早めの帰宅をした。アパートに着くとシャワーを浴び、冷蔵庫から缶ビールを取り出してTVを見た。ニュースでは、最近起こった幼女誘拐殺人事件の事が伝えられていた。そこまで思い出すと正志はほっとした。きっとニュースのことが頭に残っていたんだろう。強引にそう結びつけることで、あの生々しい夢の記憶を早く忘れれると思ったのだった。ほっとしていると携帯が鳴った。時計を見るとまだ午前3時である。こんな時間に誰なのだろう。倫子か?着信は公衆電話からだった。いたずらか?でも、何か急用なのかもしれない。こんな時間だし。と、正志は思い電話に出た。「もしもし。どなたですか?」「もしもし正志か?俺だよ。俺。原田。」「原田?!」正志は懐かしさがこみ上げてきて大きな声で言った。「こんな時間に悪いんだけど。今晩泊めてもらえないかな。」原田とは正志の大学時代の友人である。だが、卒業以来連絡もなく実に8年ぶりなのだ。携帯の番号を今まで一度も変えたことの無い正志だから、こんな懐かしい再会も可能だったのだ。「別に、いいけど。でも、一体どうしたんだよ。」「すまん。後で詳しく話すよ。」正志は原田に住んでいるアパートの近くの目印のコンビニを教え待ち合わせることにした。突然の再会に少し胸が躍ったが、どこか不安でもあった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/17
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バスルームから倫子は気分も幾分かサッパリして出てくると、留守電のメッセージを聞いた。再生ボタンを押すと正志の落ち着いた声が聞こえて来る。「もしもし。じゃ、お昼頃にそっちに迎えに行くから。それまでゆっくり待ってなよ。」その優しい声を聞いて、最近の刺々しい心も丸くなっていくようだった。正志は優しい。それは分かっているのに。刺激が欲しくなるのだろうか?安らぎに満ちた関係を求めていたはずなのに・・・。いざ手に入れてしまうと不満に思う自分が嫌になりそうだった。嫌いではないのに・・・。何か足りない?いや、我侭なの?・・・。どうしてなのか分からない気持ちをくだくだと考えながら上の空でボサノバを聴きながらボーっとしながらハーブティーを飲んでいるとチャイムが鳴った。倫子はとっさに正志だと思い、ドアスコープで確認もせずにドアを開けた。そこには、思った通り正志が立っていた。「ちょっと早かったかな?」と照れ笑いをしながらポリポリと右手で頭を掻くのは正志の癖の一つで倫子はよく見慣れている愛着を感じる仕草だ。自然と倫子にも笑みがこぼれた。「さっきはごめんね。入って。」「いいよ。慣れてるから。」そう笑いながら正志は言った。正志はいつものように玄関から真っ直ぐ進んでリビングに入った。「倫子の部屋っていつもきれいだよね。」「あはは。正志のところに比べればね。」倫子は正志にコーヒーを出す。「さんきゅ。」大学時代から倫子は親元を離れて一人暮らしをしている。今のマンションは就職してから引っ越してきた1LDK。一人暮らしには丁度いい広さだ。2人掛けのベージュのソファーに木製のシンプルなテーブル。テーブルの上にはファッション誌が数冊積んである。下にはホワイトの肌触りの良い綿のカーペットが敷いてあり、窓にはパステルブルーのカーテンが掛けられている。21インチの薄型TV。TVボードの中にはお気に入りのDVD。薄型の白い隠し扉の付いた収納棚にはお気に入りのCDがぎっしり入っており、その棚の中央の開いた部分には黒いパナソニックのミニコンポが置かれている。そして、部屋の隅にはさりげなく観葉植物のパキラが置かれている。どちらかと言えばナチュラルだがシンプルで無駄の無い部屋という印象を初めて入った人は受けるだろう。正志はソファーの窓側に近い位置に座ってコーヒーを啜った。3階から窓の外を眺めると、隣の3軒の建売住宅が見える。その向こうには公園が、ずっと視線を伸ばしていくと高層マンションが立ち並び、視界はそこで途切れてしまう。「あんなにマンション建ってなかったのにな。」正志は独り言のようにつぶやいた。そして、ゆっくり立ち上がると「さて、今日はどこに出かけましょうか?どこへでもお供いたしますよ、お姫様。」と満面の笑みで倫子に向かって言った。正志という男は倫子がどんなにわがままを言っても許してくれる。だから倫子も言いたい事が言えるし、十分に甘えることが出来るのだろう。今朝の態度を改めて反省した倫子だった。「今朝はごめんなさい。最近ちょっとおかしいのかもしれない。」倫子が素直に謝ると正志はうつむいた倫子をそっと抱きしめた。「らしくないよ。僕は倫子の我侭なんて何とも思っちゃいない。全部受け止めれる自信がある。だから大丈夫だよ。」そんな優しい正志の腕の中で懐かしい心地よさを感じながら倫子は幸せを感じていた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング
2006/07/05
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ー2000年夏ー赤。そう、真っ赤だ。インクの赤色。いや、あれは血の色だ。しかも、動脈の鮮血。そんな色だった。土曜日の今朝の夢は真っ赤な足跡を残して、倫子を不機嫌にさせた。赤色の夢を見る時は今までの経験上、生理になることが多い。笑い事ではなく、この確率は高い。そう言えば何となく股間がぬめぬめとして不快な感じがする。やっぱり?そう思ったとたんシーツが汚れていないか心配になり、急いでシーツの汚れを探し始めた。どうやら無いようだ。シーツが汚れると何かと不便だ。そこまで汚れていなくて良かった、とほっと胸を撫で下ろす。次に恐る恐るパンティを調べてみる。すると、やはりパンティは薄っすら赤く染まっていた。予定よりも少し早い生理がさらに倫子をを憂鬱にさせる。「ああ。もう!」と、長いストレートの黒髪を無造作にかき上げて苛々する気持ちをそのままぶち撒いた。そんな不機嫌な朝を迎えたとも知らずに、恋人の正志からの電話がかかって来て、倫子の苛々はさらに増した。最近、倫子は正志との関係に苛立ちを感じているのだ。こう言うのを「まんねり」と言うのか、「倦怠期」と言うのか・・・・。正志との付き合いはもうすぐ2年になろうとしている。倫子は大学卒業後、大手企業に勤めたもののいろいろと相性が合わず、3年で辞め派遣の仕事をしていた時に正志と知り合った。正志は派遣先の会社の営業マンだった。こういうのも社内恋愛の内に入るのだろうか。ごくごく自然の成り行きで始まった恋だった。何となく昔から知っているような錯覚をしてしまうくらいお互いがぴったりと引き寄せられて行くような不思議な感覚もあり運命さえも感じていた。けれど、付き合いが長くなるにつれて時々見せる正志の父親のような態度に反発を覚えてしまうのが、倫子の最近の悩みの種になっているのだ。「もしもし。おはよう。」正志の声は倫子の気持ちを察することも無く能天気だった。そんな正志の声が癇に障り倫子はぶっきらぼうに答えた。「何?」「何だか、機嫌悪いんだね。何かあったの?」「来た。」「は?何が?NHKの集金?」「生理。」「で、機嫌悪いの?」正志は電話の向こう笑い始めた。「女の子って大変だよね。」「今日、デートするの辞める。」「え?何で?」「何でも。気が乗らなくなったから。」と言って強引に倫子は電話を一方的に切ってしまった。するとすぐに正志から電話がかかってきた。倫子はそのままにして、シャワーを浴びに行ってしまった。留守電には正志の声が残っていた。「もしもし。じゃ、お昼頃にそっちに迎えに行くから。それまでゆっくり待ってなよ。」そんなメッセージも聞かずに、さっさとバスルームでシャワーを浴び始めていた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****久しぶりに新しい話を始めてみました。さて、また思いつきで始めたので辻褄が合うように(笑)ちゃんと終えられるかが心配です。がんばろーっと。でも、ゆっくり。(笑)
2006/07/03
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私はまた家に帰って来た記憶が無かった。妻に揺さぶられて目が覚める。「最近、どうされたのですか?お仕事忙しいのですか?」ああ、またか。妻の顔を見て状況が把握出来た。「あぁ。少し難しい患者がいてね・・・。」と適当な嘘を付くと妻は納得したようだった。「お風呂で体を温めて寝たほうがいいですよ。」妻はそう言うと「お先に」と寝室へ向かって行った。私は何か忘れている気がして頭の中がもやもやした感じで気持ちが悪かった。何だったのだろう?何か約束をした気がするのだが・・・。記憶を辿ってみる。クラブであの女性と話をし、最後に何か約束をしたような気がするのだが・・・。クラブのカードを取り出そうと財布を開けると1枚のメモ用紙が入っている事に気が付いた。「木曜 グランドホテル 1009号 20時」それを見て全て思い出した。あの女性と約束をしたのだ。仮面抜きで今度会いたいと彼女に言われて約束をしたのだ。私は興奮した。妻の事はここの所頭の片隅に追いやってしまっている。嘘まで付いてあの女性に会うのはどうかしている。今までの私ではこんなこと無かったはずだ。あのクラブに行って狂ってしまったのだ。止められないのを私は知っている。1週間後、約束の日はやって来た。妻には今日は遅くなると電話を夕方に入れておいた。木曜日は循環器のカンファレンスで7時まで病院にいる事になるだろう。この日は当番も無い。普段だったらクラブに行く所なのだが、今日はグランドホテルに向かっている。向かう私の胸はクラブに行く時よりも高鳴っている事がわかる。彼女が部屋を取っておく事になっていたので、もう先にいるはずだ。どんな顔をしているのだろうか?美人か?いやそれとも期待しない方のがいいのか・・・。私は俗物に成り下がってしまった気分でいろいろ想像をめぐらせていた。ホテルのロビーからエレベーターに乗って10階まで上がる。何となく落ちつかない。エレベーターを降りて1009号室に向かった。1009号室を目の前にして一度深呼吸をする。先に私の顔を見られるのだ。きっとこのドアスコープから。もし落胆されてドアを開けてくれなかったら速やかに立ち去らなくてはならないのだろうか。情けない。そんなネガティブな結末を想像してチャイムを鳴らした。するとガチャッと鍵が開く音がした。私はごくりと生唾を飲み込んでゆっくりドアを開けて中に入っていった。彼女はドアに背を向けてベッドに座っていた。クリーム色のスーツにショートカットのすらりとした女性であった。私達は名前すら知らない事にこの時気付いた。「あの・・・。先週お約束しましたよね?あなたの名前を私は知らないので。」そう言うと女性はゆっくりこちらを向いた。私は彼女の顔を見た瞬間、腰が抜けそうなくらい衝撃が走った。「お、お前?!な、何で?え?どうして?どういうことだ?」ふふっと笑ったその女性は「妻」だった。ストレートのセミロングだった妻の髪型はナチュラルなパーマのかかったショートカットに変わっており、化粧も今までに見たことのない気合の入れようで、洋服だって私と出かける時とは全く違った雰囲気のものであることも更に驚かせた。「あなたって本当に馬鹿ね。あんな仮面つけているくらいで自分の妻さえも分からないだなんて。」「どうして?知っていたのか?全部。」私の前で勝気そうに腕組みをしながら妻は立っている。これほど恐ろしいものはないかもしれない。「そうよ。全部。今までのこと全部よ。」「違うんだ。」「何も違わないわ。あんな所でコソコソと。浮気相手でも見つけていたんでしょ?」「違う。私は、私から誘ったんじゃない。全部、全部違う。」ああ、違う。違うのだ。妻はバッグから何かを取り出して私の目の前に叩き付けた。「これは。」「離婚してください。もう、我慢ならないんです。もう、うんざりです。あなたとの生活。あなた、仮面をずっとかぶって外さないんですもの。」悪かった。悪かった。お前の事をもっと大事にするべきだった。もっと話をするべきだった。今からではやり直せないのだろうか?私はあのクラブに通ってしまった事、ここに来てしまった事を後悔した。妻がかざした離婚届がだんだん真っ白になっていく気がした。いや、私が気を失ったのか?目の前が真っ白になった。「・・・た。・・なた。あなた。」私は体を揺さぶられて目が覚めた。妻はいつもの妻だった。髪型はストレートのセミロングだし、化粧もいつもどおりナチュラルだし、服装だってあんなスーツではない。「いや、違うんだ。あれは黒田にストレス解消方で連れて行かされて。私の意志で行ったのではないんだ。だから、もう一度話し合おう。」私は訳が分からず弁解し始めた。そんな私を見た妻は変な顔をして「いやだわ。何言っているのかサッパリ分からないわ。それに黒田さん、去年交通事故でお亡くなりになったじゃない。お通夜もお葬式にも行きましたよね。」と言ったのだった。そして続けて「あなた、変な夢でも見たんですわ。」と言った。夢だったのか?本当に?半信半疑で財布をポケットから取り出してあのクラブのカードを探した。しかし、無かった。本当に夢だったのか?そうだ、妻の言ったとおり黒田は去年突然亡くなったのだった。ほっと胸を撫で下ろすと私は柄にも無い言葉を妻に返した。「今度、連休取ってどこか旅行にでも行こう。家族全員で。」妻はにっこりと嬉しそうに「旅行なんて何年ぶりでしょうね。」と思いがけない言葉に喜んでいるようだった。私はそんな妻を満足げに見つめていた。 <終わり>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****終わってちょっと一言*****めでてし。めでたしデス。本当はテレクラ通いのエロ医師が最後に痛い目に合う(この話もまた書こうかな)、って言うストーリーにしようと思ったのですが、書いているうちになんか変わっちゃいました。でも、最後のあの女は妻だった、と言うのは気付かれちゃうかな・・・と思いながら書いていました。(汗)このお話にそんなにすごいメッセージ性はないのですが、夫婦の間に「秘密」や「嘘」はやっぱり溝になるよね・・・と思いながら書いていました。人間誰でもPTOに合わせた自分ってあると思いますが、仮面の使い分けには注意ですな。いや、そんな器用にいくつも持ってないってばって?あ、私は猫飼ってるんだっけ?って。(笑)
2006/04/22
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私はフワフワと漂っているような心地でぼぅと過ごしていた気がするのだが、体を揺さぶられて目が覚めると、隣には妻がいて驚いた。「なにそんなに驚いてらっしゃるの?」と妻は怪訝そうな顔をした。「いや・・・。何でもない。」「あなた帰宅するなりリビングのソファーでグーグー鼾をかいて寝ちゃうんですもの。困った人だわ。ちゃんとベッドに入って寝てくださいよ。」そう言われて混乱する。今夜の事は夢だったのか?妻が寝室へ入っていくのを確認すると急いで財布をポケットから取り出してあのクラブのカードを取り出した。プラスチックで出来た真っ白なカードに赤い装飾文字で「Maskell club」と書かれている。その端っこに来店すると数字が印刷されるようになっている仕組みなので私はその部分に視線を落とした。2そう刻まれている。やはり今夜私はあそこに行っていたのだ。軽いショックを受けたがやってしまった事は仕方ない。それに、私はどちらかと言えば強引に誘われたのだ。私は無理やり自分を正当化して罪の意識を遠くに追いやってしまった。そうさ。妻は知らない。私はその後も時間があればこっそりとあのクラブに足を運んだ。いろいろな女が自ら近づいてきた。相手をする事もあれば、気が合わずそのまま別れることもあった。しかし、何度行っても最初に言葉を交わした女性には会えなかった。別に彼女に固執しているわけではない。ただ何となく気になる、それだけである。しかし、不思議な事に何度言っても帰り道のはっきりとした記憶が無い。何故なのだろう?そこがとても気がかりだった。しかし、カードには行った回数だけ数字が増えているのだ。だから行った事は間違いない。黒田に聞いてみようか。いや。やっぱりそれは止めておいた方のがいいのだろう。私がこんな所にはまってしまっただなんて、あいつには言えない。黒田の事を思い出すと羞恥心で一杯になってしまう。私はただ自分ひとりの「秘密」を持ってしまったのだと痛感した。しかし、クラブ通いはやめられなかった。どうしてかって?誰もそんな所に私が入れ込んで通っているなどと知られていないからである。私は黒田に連れてこられた3ヶ月前の日の事を思い出しながら、また今日も時間を見つけて「Maskell club」に足を運んでいる。こんな所に通うようになってしまったのは、あいつのせいだ。麻薬のようにやめられない自分自身への怒りは、こんな所に連れてきた黒田に向けられていた。その日も同じように仮面を選びマントを羽織、15階で店員に「いってらっしゃいませ」と頭を深々と下げられホールの扉を開いて中に入っていった。何度も通った私は声をかけるのも慣れ、目ぼしそうな女性に近づきトークに持ち込んだ。ところが、この日は驚くことが起こった。3度目に声を掛けた女性はなんと初めて言葉を交わしたあの女性だったのだ。女性は私の事を覚えていた様子で声を掛けたとたん私であると気付いてくれた。「あら、あなたは以前お話した方ですよね?少ししかあの日はお話しませんでしたけど・・・。」「え、ええ。ええ。そうですとも。」「あちらでお話しません?」と初めて話した壁際の椅子を指して彼女は言った。私は彼女の言うとおりに移動した。「あなた、もうここへは何度もいらしたんですか?」「恥ずかしながら何度も来ました。」「別に悪い事ではありませんよ。秘密の1つや2つ夫婦でも持っているものです。私でも夫には秘密なんですよ。」「私は、こんな事を言うと信じてもらえないかもしれませんが、あなたを探していたのです。」そう言うとおほほほほと声高に彼女は笑った。「冗談ではありません。」私は彼女に笑われたのがショックで顔を伏せた。「あら、気分を害してしまいましたわね。ごめんなさい。あなたは繊細な方なんですね。きっと。」「あなたも何度かいらしてるんですか?私とは今日まで会いませんでしたけど。」「ええ。」「そうなんですか。いついらしてたんです?」「昼間です。」ああ、そうか。昼間なら旦那にばれる事も無いのだ。「お話し相手は見つかりましたか?」そう聞くと彼女は顔を伏せて首を振った。「見つからなかったんですか?」「ええ。ここに来る方は私とは目的が違うのです。」「そんな事はないでしょう。話をするだけでも満足する男だっていますよ。」「そうかもしれませんが、大抵はやはり肉体を求めてここに彷徨うようにやってくるんです。それは昼間も変わりありませんよ。私はこんな所に来るのはやはり間違っているのかもしれません。大抵の方は仮面が付いているから開放的になって羽目を外してらっしゃる。でも私は、仮面を付けていればもしかして自分の思うことを話す事ができて聞いてくれる人もいるんじゃないかと・・・。そんな期待をしてしまうんです。」彼女のような人は確かに目面しい。大抵の女はすぐに交わりたがる。まるでそれに飢えているかのように大胆で奔放に振舞いながら。私はその強引な誘いに何度か応じてしまったが、どこかしっくり来ないものがいつもあった。それは、ただその行為だけの関係だからなのだろう。私は実は仮面を脱いで本音を言い合える人を求めているのかもしれない。仕事では医師の仮面、家庭では父の仮面、夫の仮面、友達の前でもそれないに仮面が付いている。人間ならば誰でもそんな事やっている事だし、そうでなければ円滑な関係も作れない。だが、私達は家庭でもいつからか仮面を付けてしまった。妻とも本音で話さなくなってしまった。目の前の仮面を被った彼女の言う事は私の事でもあるのだ。だから気になったのだろう。私達は時間を忘れてお互いの家庭の事などを話し合った。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****次で終わりかな。普通の話になってきました。(笑)今日はメインブログでも書いたとおり、子供が熱出しました。熱が下がらずに結局0時に座薬を入れて、1時間後汗びたになっていたので着替えさせ、でもまだ結構高いのでもう一度お熱をはかってから私も寝ます。何度になってるかな~・・・・。下がってくれよ。
2006/04/20
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時々、登録しているブログランキングを覗きに行くのですが、夜になるとランキングが上がっています。きっと、このブログタイトルが眠れない夜のおつまみだからでしょうね。(笑)エロい事思って来るんだろうか?そう言えば、エロTBがめちゃめちゃかかっていた時がありました。削除するのがとても面倒でした。ランキングもどうかとは思うけど、多少書いていて参考になったりします。単純に上がってくると嬉しいってのもありますけどねぇ。でも、最近文章が幼稚だなぁ、と思って凹んでいます。語彙力が乏しいし、文章の流れが単純でなんか動きが無いような・・・・。やっぱりもっと読書しないと駄目かな~。最近ご無沙汰だからな。と、いろいろ思ってしましました。どうぞ、聞き流してください。ちょっとつぶやきたかったんです。
2006/04/18
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彼女が去っていくのを見届けると、急に空しくなって私も出ることにした。しかし、その帰り道彼女の事がずっと気がかりで頭から離れなかった。家に着くと丁度妻は風呂上りでバスルームからドライヤーの音が聞こえてきた。暫くするとリビングに現れ「あら、案外早いお帰りだったんですね。」と意外そうに妻は言った。時計を見ると9時である。確かに早い。しかし、あの空間にいた時は時間の感覚が麻痺していたようでとても長い時間いた気がしたのだが・・・。その晩、私は黒田に連れられて行ったとはいえ、あんな所に行ってしまった後ろめたさから妻を抱いた。それから数日が経ったが、時々ふとあのクラブの事が頭に浮かんだ。男とは何と馬鹿な生き物なのだろう。ほんの数十分しかいなかったのに、何かを期待できそうなあの雰囲気をもう一度味わいたいと思っている。それに、あの女性ともう少し話がしたかった、と思う気持ちもあった。何故そんなに気になるのだろう。分からないが、人間そんなものなのかもしれないと曖昧な答えを自分に出して落ち着かせようとしていた。私はやはりもう一度あのクラブに行きたいと思うようになり、黒田抜きで一人で行く事を決心したのは1ヶ月経ってからのことだった。あの看板の無い古びたビルの前に立った時、「看板が無いからいいんじゃないか。いかがわしい看板が掲げてあったら入りづらいだろう?」と言った黒田の言葉を思い出した。確かにそうかもしれない。誰かに見られやしないかとビクビクする必要もない。前回には気付かなかったのだが、このビルの中には1階から4階までは他の店舗も入っているようだった。しかも、エレベーターは5階直通ではなかった。この前は酔っていたのだろうか?それにしては、おかしい。どこか違和感を感じつつも私はエレベータに乗って5階のボタンを押した。おかしいと思うことはもう一つある。なぜ誰一人すれ違う事が無いのか、という事である。エレベーターは5階に着き、扉が開いた。すると、目の前には重そうな黒い鉄の扉が現れた。その扉の前に立つとシュッと軽い音を立てて滑らかに開いた。今度は驚かない。フロントは私の名前を覚えていた。同じように小部屋に案内され今日のマスケルを選んだ。そして15階にエレベーターで向かった。「では、いってらっしゃいませ。」とフロントの男はマニュアル通りに深々と頭を下げた。シュルシュルとマントの擦れる音をさせながら扉を開いて中に入った。一瞬眩しさに目が眩んだが、すぐに慣れて私はゆっくりと周りを見渡した。私は無意識に「彼女」を探していた。キョロキョロしていると背後から声をかけられた。が、その声は探していた相手のものでは無いと瞬時に分かりがっかりした。振り向くと赤い羽根で目の周りを装飾されたマスケルが「誰かお探しですか?」と首を少しかしげているのが目に映った。「あ、いえ。」その女はクスリと笑って「あなた、キョロキョロしてらっしゃるから。」と言った。「はぁ。お恥ずかしい。私は実は今日ここに来るのが2回目なんですよ。」「そうでしたの。」「まだ、よく分からないので。」女は今度は逆に首をかしげて「じゃ、今夜は私の相手をしてくださらないかしら。」と少し甘ったるい声を出して言った。女はマントの中から細くて白い手を出して私を呼んだ。「ここでは欲望のままに。」と女は私の手をマントから引きずり出すと自分のマントに誘い込んで胸に当てた。私はその感触で女が全裸である事が分かりぎょっとした。慌てて手を戻そうとすると、白いマスケルの奥の女の目は楽しむように笑っているように見えた。「あちらに行きましょう。」と私は女の言うなりに連れて行かれた。このホールの奥にはカーテンで仕切られている照明の暗いフロアがもう一つあり、いくつも置かれたソファーには何組かのカップルが重なり合っていたのだ。所々で漏れるあえぎ声と、重なり合ったマントの隙間から覗く肌はチラリズムを刺激して次第に興奮へと変わって行く。私はソファーに座らされた。女は私のズボンのベルトを緩めチャックを下げて出てきた私のものを何の躊躇いも無く口に含んだ。そして女は私の上に乗り手をまた自分の胸へと連れて行く。「今夜は楽しみましょう」そう言って女は私の右手を下半身へと誘導した。誘導された場所を探る度に女はため息のような微かな声をあげ、湧き出る泉のように潤って行った。私の愚かなただの欲望は抑えられずに、その日私もいくつかのマスケルが重なるように、その女と重なった。女は全てが終わると何も言わずに呆気なく去って行ってしまった。私はソファーに一人残され夢と現実の狭間で暫く揺らいでいた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****エロな展開になりました。(笑)かなり最初の展開とはかけ離れてきました。あと、2、3回で終わらせる予定です。どうなることやら・・・。
2006/04/18
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中に私は黒田の後を恐る恐る入っていくとフロントが見えてきた。室内の照明はかなり暗い。その中でマスケルを被った店員の目が光って見える。無表情な真っ白な顔の中の目だけは表情があった。「いらっしゃいませ。今夜はこちらのお方はお連れ様でしょうか?黒田様。」店員に聞かれると黒田は「そうです。」と手続きを取った。「ではこちらに。」と店員に案内され個室に入っていく。やはりSMクラブではないか。冷静になってきた私は黒田に憤りを覚えた。が、ここまで来てしまった以上は流れに巻かれるしか他は無い。そう思って半ば観念した。個室には深い赤色の絨毯が敷かれ、ヨーロッパ調の革張りのソファが中心に置かれていた。そして、もう一つドアがあることに気付いた。店員はそのドアを開けて「お好きなものをお選びください。」と言い私達を中へ促した。すると中にはたくさんのマスケルが並べられていた。それはなかなかの迫力で一瞬圧倒されるほどだ。「さあ、好きな仮面を選ぶんだ。」黒田はそう言うとさっさと自分の物を選んでいた。銀の装飾がされたマスケルを被るとまるで別人に見える。私も適当なものを選んだ。目のふちに蝶の様な金の装飾がされているものだった。そして、次に体のラインが分からないフード付の黒いマントを渡され着るように促された。これがここの規則らしい。準備が出来るとまた店員に誘導されるまま歩いて行った。しかしその道順はマスケルをしていて視界が多少悪くなった事やマントが歩く度に擦れる音など非現実的な要素が加わって、その日はよく覚えていなかった。だから突然エレベーターが現れたときにはびっくりしたのだった。私達がエレベーターの中に入ったのを確認してから「では、いってらっしゃいませ。」と店員は深々と頭を下げた。ゆっくりとドアが閉まると最上階の15階にエレベーターは向かって行った。「黒田。ここはどういう所なんだ?私にはさっぱり訳が分からない。」「ここは会員制のマスククラブさ。全て秘密に出来るから羽目を少しくらい外したって構わない。」「別に、そんなつもりは無いのだが。」羽目を外す、と言う言葉を聞いて妻と子供の顔が浮かんだ。「いや、別にそういうことだけじゃない。」早とちりをした私は、ははっと思わず声が漏れた。「パートナーを見つけたりする事も確かに自由だが、相手も素性を知られたくないと思っているのがほとんどだからな。とにかく会話を楽しむのが最初にすることさ。テレクラよりも刺激的で面白い。」こんな格好をして、ベネチアンカーニバルが頭を過ぎる。そうこうしていると15階に着いてドアが開いた。目の前には結婚式場のようなホールの扉が現れ私は黒田が開けた後に続いて入った。入った瞬間、仮面の中の瞳が私達に集中して不気味に思えた。しかし、すぐに注目の視線は消え、がやがやと元通りの雰囲気となった。中はなかなかの広さのホールになっており、まさに思ったとおりのベネチアンカーニバルのように、数十人のマスケルを付けた人々がうごめいている。ゆっくりと見渡すと上には大きなシャンデリア、壁には椅子が数十脚置いてあり座って休んでいる穂とも見受けられる。「じゃ、ここからは別行動だ。帰りたくなったら先にかえってもいいからな。」と言って人の群れに紛れていってしまった。「と、言っても・・・。どうすればいいのだ?」と私は壁際の椅子に腰掛けた。ぼぅっとどこに視線を合わせるでもなく眺めていると一人の女性が声をかけて来た。「初めまして。こちらよろしいかしら?」どこかで聞いた事があるような気がする声のように感じたが、マスケルで声が多少篭ることも考えると気のせいかもしれない。「ええ。どうぞ。」「ここは初めてで?」「ええ。まあ。そうです。」何をしに来たのかよく分からなくなり空しい気持ちが私を襲って来た。「あなたはよく来られるのですか?」「たまにです。」「どうしてこんな所に?」「話し相手が欲しいんです。」「それだけの為に?」私は半信半疑で彼女の話を聞いた。「いけませんか?」「いえ。そんな事は。・・・しかし、言ってみればこれも風俗でしょう。私はこう言う所には来ない性分なんですよ。妻も子供もいますし。」「お幸せなんですね。」と彼女は顔を伏せてしまった。「あなたは不幸なのですか?」「私も実は既婚者で子供もいます。けれど、結婚生活って何なのでしょうね。空しく感じるばかりです。夫も子供も私には無関心ですから。」私は妻の事を頭に浮べていた。私も妻に対して無関心だろうか。しかし、仕方ないじゃないか。仕事を放り出す事は出来ないのだから。と、そんな思いを打ち消した。「今日はもう帰らなければならないのです。もし、またお会いできたらお話しましょう。」と言って彼女はホールの扉を開けて去って行った。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****書き始め当初の設定がかなり変わりました・・・・。行き当たりばったりってこうなるのよね。
2006/04/17
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こんな所に通うようになってしまったのは、あいつのせいだ。そう思いながら繁華街の雑居ビルを掻き分けるように目的地に向かっていた。古びたビルの5階にそれはある。今から3ヶ月前のこと。MR(医薬品情報担当者のこと。以前はプロパーと呼ばれていた製薬会社の営業マンのこと。)の黒田から電話がかかってきたのだ。黒田とは同級生で、直接仕事とは関係ない。もちろん、その電話もプライベートでの事であり私にも何のやましい気持ちも無かった。黒田は私を飲みに誘い、偶然にもその日は休日で待機も無かった為その誘いにすぐに乗ったのだった。今でこそかなりの規制がされるようになったが、かつてプロパーと呼ばれていた頃の黒田はやり手で私達医師の間でもその接待の仕方は有名だった。そのやり手の接待は私としては絶対に受けたくない、と内心軽蔑もしており同級生として複雑な気持ちでもあったのは事実だ。久しぶりに会うと、よく黒田は「これは内緒なんだが、」と言ってはSMクラブにはまった医師を小馬鹿にして笑いながら私に話した。私は黒田が実は医者になりたくてもなれなかったのを知っている数少ない一人で、いつも偉そうにしている医者をSMクラブに連れて行き、どっぷりと奴隷にはまらせるのは黒田にとって唯一の楽しみのようなものであることも何となく知っていたのだ。いつも黒田は言っていた。「お堅い職業のお偉い先生方はストレスが溜まってるのさ。抜いてやらなきゃかわいそうだろう?」そんな言葉を頭に浮かべながら待ち合わせの店には私のほうのが先に着いたようだ。黒田の姿は見当たらない。暫くすると「よう。元気か?」とひょうひょうと黒田が現れた。「久しぶりだな。」「外科部長の菱沼、元気か?」「ああ。」私の頭に菱沼教授がドMで女王様通いをしている、と言う噂が過ぎった。その切欠の接待をしたのも黒田だった。「相変わらず、お前ストレス溜めてるな。」「そうか?」「ああ。そういう顔してるぞ。仕事大変なのか?今日は大丈夫なんだろ。お前の所、珍しくきっちり主治医制じゃないからな。」私の部署の循環器では完全な主治医制ではなく、当番制になっている。私の患者が急変しても滅多な事では私に連絡は来ない。今日の当番のDrに連絡が行く仕組みになっているのだ。「今日は飲もう。」と、黒田は私に酒を勧めた。いつしか私達は酒を飲みながらお互いの近況から、仕事の話などをし、ほろ酔いのいい気分になっていた。「だいぶ解れてきたみたいだな。たまには息抜きしなきゃな。」と黒田に言われてやはり私にはストレスがかなり溜まっているのだろうと改めて感じた。「黒田、お前もいつも下げたくも無い頭をペコペコ下げてストレス溜まるだろう。どうやって抜いているんだ?私はどうもそう言う事が下手なのだろうか。ストレス解消になるものが思い当たらないんだ。」「う~ん・・・。そうだな。最近俺がよく行くのは・・・。そうだ!今夜一緒に行ってみるか?」「いや・・・。どこなんだよ。私はSMクラブとかそういうのは駄目だよ。」「そんなんじゃないさ。ま、1回行ってみなよ。」そう言われるがままに連れ出され、古びたビルの前に着いた。「ここの5階だ。」ネオンで煌く繁華街の中に何の看板もないビルが不気味に思えた。「何も看板もないが。大丈夫なのか?」「看板が無いからいいんじゃないか。いかがわしい看板が掲げてあったら入りづらいだろう?」「やっぱり、そういうところなのか?私はそんな所にはいかないぞ。」「お前が思っているほどのいかがわしい所じゃないさ。」と、黒田は私の手を取ってそのビルに半ば強制的に連れて行かされた。エレベーターに乗ると奇妙な事に5階までの直通になっており黒田と一言も交わせずにすぐに着いた。エレベーターを降りると黒い鉄の扉が私達を今まで待っていたかのように迎えていた。その扉は自動ドアで思ったよりも軽がると開いたことに私は一瞬驚いた。そして私は黒田に引きずられる様に中に入っていった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****暫く短か目のお話を書きます。へたれ中休みです。(^^;A
2006/04/16
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私はシャネルのトートバッグを右肩に掛け、地下鉄の5番出口の階段を昇っていた。天気予報では今夜半から雨と言っていたから持ってきた折りたたみ傘は必要ない事が最後の階段を踏みしめた時に分かった。腕時計で時間を確認するともうすぐ零時になろうとしていた。今日はコンパでかなり盛り上がって3次会まで行ってしまったのだ。横断歩道の信号が青になり、向こう側から大学生風の男5人組が歩いてくるのが見えた。通り過ぎた時、同じ高校の生徒のような気がしたが名前も思い出せなかったのでそのまま駐車場へ向かう近道の細い脇道を右に入った。近道の為もう少し時間が早いと利用する人も多い脇道だが、流石に深夜となると人気も無くやや薄気味悪い。電信柱の街灯が私をスポットライトのように照らした時、私の影は真っ黒に地面に映った。駐車場でも、所々に設置されている蛍光灯の光に照らされる度に真っ黒な影は私に離れずついて来る。少し離れた先からいつものようにキーでドアロックを解除すると、ハザードランプが2回点灯した。運転席側のドアを開けてシートに座ろうとした時、私は背後から何者かに肩を捕まれ羽交い絞めにされてしまった。駐車場には車は何台か停まっているが人は私と、この背後の何者かの2人しかいない。「お、おとなしくしろよ。」と背後の男は震える声で私の頬にナイフを突きつけた。私はそのナイフの冷たさを頬で感じると気を失ってしまいそうになった。いや、実は気を失ったのかもしれない。その後の記憶が曖昧になっているからだ。その時、私の真っ黒な影がざわめいていたような気がし、目の前は真っ暗になった。私は一瞬の隙をみて素早く男の手首を掴んでナイフを地面に落とし、体制を整えて背負い投げをしていた。その動作には無駄が無く鮮やかだった。「ふざけんな!この変態こそ泥野郎!出直して来な!」と私は伸されたその男に向かって腕組みをして仁王立ちした。「ったく。隙がありすぎなんだよ。あたしが居ないとあんたはいつまでたっても危ないね~。あんたは気付いてないかもしれないけど、あたしとあんたは本当に一緒になっちまったみたいなんだよ。って言ってもあたしは1回死んでるから、あんたの守護霊みたいにいっつも後ろに付いてるけどね。よかったね、あたし柔道初段でよかったね~。じゃ、今度こそ気をつけて帰りなよ。」と独り言のように自分に言うと、私ははっと目が覚めた。目の前には投げ飛ばされて気を失っている情けない男の姿があった。「あ・・・。またやっちゃったみたい。」と、私は舌を出すと何事も無かったかのように運転席に乗り込んだ。その時にさっきのコンパでメール交換した中の一人からメールが入った。もう家に無事着いたかな?今度は2人で会いたいね。龍次私はそれを見てニヤッと笑うと返事も返さずに車を発進させ家路を急いだ。真っ暗な車内では私の影も夜の闇と同化してやっと眠りについたようだった。 <終わり>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****終わって一言*****読んでくれた方、まずありがとうございました。このお話は書き始めたときとかなり違った方向に行ってしまって、書きながら迷って書いていくうちに恥ずかしくなってきたのですが、とりあえず完結させました。続きがありそうな感じですが、一応これで終わりにします。もう少しじっくり考えたら面白そうだなぁ~と思ったのですが、今の私の脳みそでは限界でした。(自爆)毎度ながら、細かい枠組みや伏線などもあまり考えていないので殴り書きみたいで荒くてすみません。もっと上手に書けるようになりたいな~と思います。もう一人の私、という事は考えた事がある方、結構いるんじゃないかしら?って思うのですが、私も中学生くらいまではよく暇な時「もし、あの時こうだったら。」ともう一人の自分を想像していましたよ。たいてい自分とは正反対の人物になっているのですけど、それを想像するのは面白かったですね~。自分の願望そのものだったから面白かったのでしょうね。今、もう一人の自分を想像するなら素敵なセレブマダムでしょうね。(爆)そんな事考えるとため息が出ます・・・・。(涙)ほんとにパラレルワールドってあるのかしら・・・・。そうなら、全ての私自身に会ってみたいわ~。
2006/04/14
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うわ~!スガシカオの新曲出るんだ~!4月26日「19才」だって~こりゃ、買わなきゃいかんな~初回版はDVD付だから、速攻買わなきゃ楽しみジャケットかっこいいアニメの「xxxHOLiC」の主題歌になるそうで、こんなジャケットもあるのね。「サナギ」は劇場版「xxxHOLiC」の主題歌でしたよね。この曲も良いんです。映画は観てないけど・・・・。
2006/04/12
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走って走って、こんなに必死で走ったことがあっただろうか?自分にそう問いかけても思い出せないのだから、きっと今私は一番必死で走っているのだ。もう一人の私はしっかりと繋いだ手をぐいぐいと引き寄せるように力を貸してくれている。すると光の柱に群がる小さな虫のようなものが見えてきたのだった。私達は足を止めて目を細めてそれに見入った。「あれ、なんだろう?」「う~ん・・・虫みたいに見えるけど。もっと近くに行かなきゃ分からないかもしれないね。」彼女はそう言って、私の手を取りまた走り出した。私達はだんだん近づいている事を感じていた。そして、ようやくあの虫のようなものの実態をはっきりと目に捉える事が出来た時、2人は驚いて足を完全に止めた。「あれって・・・。」「人間じゃねーか・・・。」あの虫のような小さな無数の点は人間だったのだ。光に次から次へと吸い込まれるように見えた。しかし、暫くするとそれは吸い込まれているのではなく、自発的に飛び込んでいるのだと言う事が分かった。一体どこからこんなにたくさんの人が現れたのか分からないが、きっと私達と同じように時空の歪みに迷い込み、元の世界に戻る事で必死な人間達がこんなにもいたと言う事なのだろう。私達はもっと近づく為にまた走った。遠くで光の柱に見えたそれは、実は地面に大きな穴が開いていて、その下から強烈な光が差し込んでいたことが分かった。眩しくてなかなか目を開けられない。しかし、徐々に慣れてきて目を開けられるようになった。穴の壁には無数の画面が貼り廻られていて、その中で人が笑っていたり、泣いていたり、怒っていたり様々な表情や動作をしていた。そして、次から次に人がこの穴に飛び込み続けている。そんな光景に私達は圧倒されていた。呆然とその光景を見詰めている私に、彼女は背中を叩いて言った。「ほら、ぼやぼやしてられないよ。あんたも飛び込むんだよ。」その言葉に我に返った。「あなたはどうするのよ。」「あたしは・・・。」いつも強いくせに肝心な所で弱気になる。私にもそんなところがある。だけど、それじゃ駄目なんじゃないかって、ずっと思ってた。きっと、彼女も同じように思ってるんじゃないだろうか。「あなたも一緒に行くのよ。行ってみなきゃどうなるかなんて分からないじゃない。どうして怖がるの?」「怖がってなんか、ない。」彼女は私の視線を外して言った。「嘘。私の事ばっかり気にして、でも、本当は戻るのが怖いのよ。」「違う。」と、下を向いたまま頭を左右に振った。「違わない。本当は戻りたいんでしょ?だったら、あなたも行くべきよ。そうじゃないと、本当に後悔するわよ。だから、一緒に、行こう。」「一緒に・・・。」「そうよ。私とあなたは自分自身なんだから。」そう言うと今度は私が彼女の手をぐいっと強く握った。彼女の手はここまで連れてきてくれた強い手ではなく、おどおどしているのが分かった。私は彼女の手が離れてしまえわないようにぐっときつく握った。すると、彼女も決心したようにぐっと握り返してきた。そして、私に向かってこう言ったんだ。「ありがとう」って。その言葉が耳元で微かに聞こえると私達は光の中に飛び込んでいった。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****ちょっと文字数が少ないかな。(汗)でも、キリがいいから、ここでつづきにしました。(笑)
2006/04/12
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悲しそうな顔の金髪のヤンキー姿の私を、普通の大学生の私は見つめていた。私とは別の人生を歩いて死んでしまった、もう一人の私。それが彼女だ。私だって、両親のいざこざに何度道を反れようと思ったことか。けれど、いつも考え直して自分を抑えていた。自分の人生は物足りなくて不満ばかり抱いていたけれど、彼女を見ていると私のマイナス面ばかり引き受けてしまったようで哀れに見えた。胡坐をかいて座っていた彼女が突然「歩かないか?」と私を誘って立ち上がった。私は頷いて彼女の差し出す手を握って立ち上がった。どこに行く当てもないのだか、じっとしていると言うのも難しいのだ。2人は当ての無い旅にでも出たかのように、彷徨うように歩き始めた。「あたしの人生は後悔してる。あんたは満足してる?」その言葉にドキッとして一瞬足が止まった。「私だって、全部満足している人生じゃないわ。」彼女は私をじっと見て「あたし、あんたみたいになりたかったよ。もう少し勉強もしてさ、大学生になってさ・・・。でも、こんな事生きてる時はつっぱってたからさ、ちっとも思わなかった。」とぽつりと言った。考えると奇妙である。自分が自分を羨ましがったり、哀れんだりしているのだから。一体、いつになったら向こうの世界と繋がるのだろう。しかし、本当にここに来る前の世界に戻れるのだろうか?「ねぇ。本当に向こうに戻れるのかな?」「あんたは心配しなくてもいいさ。絶対戻れるよ。」私は彼女のどこから湧いてくるのか知れない、その自信あり気な言葉が信じれずにもやもやした気分でいた。「どうしてそう思う?」「あんたは、まだ死んでないからさ。チャンスが来たら絶対戻れるさ。でも、以前と全く同じ世界に戻れるかは保障は出来ないけどね。」「やっぱり、以前と全く同じには無理なのかな・・・。」不安げになる私に「大丈夫さ。戻った時には、きっとここでの出来事なんて忘れちまってるだろうからさ。」と彼女は笑顔で元気付けてくれた。「ありがとう。」そう私が言うとまた彼女は優しく笑った。姿からでは分からない彼女の優しい面を見れた気がした。私達はいくら歩いても地平線がはるか向こうに見えるだけで、何も変わらなかった。彼女には、どう見えているのだろう?果てしない宇宙の中に私達2人だけが浮かんでいるように見えているのだろうか?頭の中にいろんなことが浮かんでは消えていくが、歩く足を2人とも止めようとはしなかった。何となく先に進めば何かがありそうだと、淡い期待感だけを頼りにしていたのだと思う。それに、かなり歩いたはずなのに全く疲労感がないのだから不思議である。「全然疲れないけど、あなたも大丈夫なの?」「大丈夫さ。ここの空間では疲労感は無いらしい。だって、あたしはあんたをこっちに引き寄せた時、かなり飛ばされちまって、あんたの所に辿りつくまでかなり歩いたんだ。」「飛ばされたの?」私が聞くとコクリと彼女は頷いた。「かなり強くフ吹っ飛ばされたけど、この通り大丈夫さ。あたしは死んでるから大丈夫なんだろうか?」「でも、よく私の場所が分かったのね。」「なんでだろ?よく分からないけど。歩いていったらあんたに会えた。」「そんなもんなのかなぁ・・・。」「あたし達、見た目は違うけど一応同じ人間なんだし。引き寄せられたりするんじゃないの?」そんな話をしていた時に、急に突風が私達を襲った。立っているのもやっとで、前も見れないほどの強い風だったがそれは一瞬で終わった。咄嗟に体中に入った力をゆっくり抜きながら目を開けると、遠くに光の柱のようなものが現れていた。「あれ、何?」私が聞くと彼女は「あれって、向こうに繋がってる入り口だよ!」と走り出したので、私も後を追って走った。私達は力の限り走った。走って、走って、走り続けた。でも、なかなかあの光の柱には近づかない。早く行かないと帰れないんじゃないか、と思うとなかなか近づけない事が悔しくて泣けてきて涙が止まらなくなってしまった。「何泣いてるんだよ!馬鹿!」彼女が振り返って私を罵倒する。そして2度目の手を差し出してくれた。私は、その強さに満ちた手に自分の手を重ねた。彼女はしっかりと私の手を掴み力強く私を引っ張って連れて行ってくれる。私には無いものを彼女は持っていた。無我夢中で走って、今まで感じなかった疲労感がどっと押し寄せてきた。息は切れ切れに、足はもうガクガクである。でも、走るのをやめるわけにはいかない。チャンスを逃がすわけにはいかないのだ。いつまでも、ここにいる訳にはいかないのだ。2人は手をしっかり繋いで光の柱に向かって走り続けた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****文章がいつもに増して荒いですね・・・。(汗)もっと上手く書きたいです。あは。
2006/04/11
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首にロープが食い込んでくるのを感じながら、私は恐怖と、悔しさの狭間で震えていた。だんだん苦しくなって意識が遠のいて、あっちの世界に行きそうだというのはこういうことなのか?、と冷静な私がもう一人頭の中にいるのが分かった。もう駄目だと思った時、急にスッと手足のロープが解け、口に貼られていたガムテープもはらりと剥がて、びっくりして私はゆっくりと手をまだロープで締められる生々しい感触が残る首に手を当てた。更に驚いたことに、殴られて出来た顔の腫れは無くなっており、視界も鮮明になっていたのだった。「ど、どういうことっ?!」そして、あたりを見渡すとなんと私はサルバドール・ダリの記憶の固執の中にいたのだった。私は地面にぺたりと座り、木にかかっているへにょへにょの時計はユラユラと揺れるのをただ呆然と眺めていた。すると、後ろから私の肩を叩く何者かが現れた。振り返ると、それは紛れも無く「私自身」だった。金髪に染めた髪のどう見てもヤンキー姿の私だった。「あなたは私なの?」そんなこと聞いたら、頭のおかしな人と思われることだろう。しかし、咄嗟に出てしまう言葉もあるのだ。その人物は落ち着いた声で「そうよ。あんたはあたしよ。あたしはあんたなのよ。」とすんなりと答えたのだった。「ここはどこなの?」本当にさぱり分からない。なぜ、学生の頃に教科書で見たダリの絵の中に自分がいるのか・・・。もう一人の私ならその疑問に答えてくれると直感した。「ここは、時空の歪みよ。」と言ってヤンキーの私はふっと笑った。「時空の歪み?」「そうよ。ここは時空の歪み。あんたがトロイからあたしがここに引っ張ってきたのよ。」「じゃ、私を助けてくれたのはあなたなの?」「自分自身とも言うけどね。」「ここは絵画の中のようだけど、私はこれからどうすればいいの?」ヤンキーの私は驚いたようだった。「あんたには、ここが絵の中に見えるのかい?」「ええ。ダリの記憶の固執って言う絵の中にいるようだわ。」「あたしにはココは宇宙空間に見えるんだ。と、言う事はやっぱり同じ自分でも全く違うんだ・・・。おばさんが言っていた通りだ。」とぶつくさ言い始めた。「分かりやすく教えてよ。」私はヤンキーの私にすがる様に言った。「ここは、時空と時空を繋ぐ中間地点のような場所らしいんだ。あたしは、あんたが選ばなかったもう一つの人生を歩んでいるあんたなんだよ。あたしは、死んでここに何故だかきちまったんだ。」ヤンキーの私はふっと表情が暗くなった。私は彼女の言っている事の半分も分からずにただ聞いていた。「死んだって。どういうこと?」「あたしは両親が離婚してから、やりきれなくなって、道にそれていったのさ。」そう言えば、私が中学生の頃、両親はよくケンカをしていて母が一人泣く姿を何度か見た事があった。私もあの頃は心中穏やかではなかった事を思い出した。でも、夫婦間で問題を解決して今は嘘のように穏やかな関係になっている。「あんたの首を絞めていた連中とあたしはつるんでて、あの雨の日やる事が無くてみんなで廃墟に行こう、って事になったんだ。」もう一人の私は遠くを眺めながら話を続けた。「そしたら、龍次がどこから手に入れたのか薬を持っててさ、みんなでハイになろーじゃんとか言って粉を鼻からみんなで吸ったんだ。それからの事はよく覚えていないけど、みんなハイになったみたい。でも、龍次だけが暴れだして突然あたしの首を絞め始めたみたいなんだよね。あたし、そん時笑ってた気がする。目が覚めたとき、首に生暖かい手の感触が残ってたんだ。あたしはだんだん上に体が浮いて、ぐったりと倒れている自分の亡骸を見下ろしながら何かの力に引き寄せられるようにここに辿り着いたんだ。」彼女は私の方を見て続きを話し始めた。「ここに着いた時、ここがどこなのかサッパリ分からなかった。暫くするとぽつぽつと人が現れて、自殺したって言う中年のおばさんが声をかけてきたから話をしたんだ。そのおばさんは自殺した事をすごく後悔していたよ。あたしと同じくらいの娘がいたんだってさ。後悔の気持ちが強すぎてここにいるんだ、って言ってた。そのおばさんに分かっている事を教えてもらったんだ。」私はごくりと唾を飲んだ。その音が彼女まで聞こえたようだったが気にもせず、また話を始めた。「自分が思っている人生は一つだけじゃなくて、無数に存在するって言ってた。例えば、あの時別の選択をしていたらな~、って思うことがあるだろう?けど実際には時間が戻るわけは無いし、自分が選択した道を歩かないといけないって思うんだけど、自分が選択しなかった世界は存在しているんだそうだ。」「パラレルワールドね。」「そうそう。おばさん、そう言ってた。おばさんにあたしの話もしたんだけど、多分あの廃墟がここと繋がってるんじゃないか、って言ってた。あたしもあんな死に方、ここに来て後悔し始めてさ。おばさんと同じような気持ちだったんだよね・・・・。」私は何となく話が分かって、彼女に静かに頷いていた。「そしたら、おばさんがさ、もし今度その廃墟と繋がった時に向こうの世界に戻れるかもしれないよ、って言ったんだ。おばさんも、もう一度向こうの世界と繋がる時を待っているんだ、って言ってた。」「じゃ、私も帰れるのかな?」すると彼女は「あんたは帰れるかもしれない。けど。」「けど?」「あたしは一度死んでるんだから、本当に戻れるのか分からないんだよね。」と、また悲しそうな顔をした。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****なんか、間延びしちゃいましたが、続きです。最初、前編後編の短いものにしようと思ったのですが、もう少しだけ長くしてみようと思いました。書いていて、微妙な感じで危険です。(笑)
2006/04/11
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*****お断り*****ちょっと怖い話になっているので(初めだけ)、怖い話が嫌いな人は読まないで下さいね。*****本編はここからです*****その日は雨が降っていた。午前零時になろうとする頃、私は地下鉄の5番出口の階段を地上に向かって昇っていた。出口には小さな屋根が付いているだけで、最後の一段を踏んだ時には雨が靴を濡らした。エルメスのトートバッグから折りたたみ傘を出して歩き始める。駐車場までの近道の細い道を右に入った時から私の記憶は途絶えていた。事の発端は午後11時半まで遡る。「かったりーなぁ・・・。」亮二が呟いた。「なんか、楽しい事ないっすかね。」隼人が亮二の言葉に乗って言った。龍次は黙ったまま降り続く雨をただぼぅっと見ていた。そこに、雅史と隆志がやっと合流して来た。「わりぃ。遅れて。」雅史はそう言って空いている席に座った。隆志はニヤニヤ笑っているだけで雅史の隣に座った。ここは地下鉄の5番出口から横断歩道を渡った先にあるファミレスで、隼人を除いて高校を卒業しているのだが、進学も定職にもつかず2年を過ぎてもプラプラと毎日を過ごしているのだ。今日は週末で、高校時代からの仲間である隼人も加わっていた。この5人は、札付きの悪、と言う訳ではないが、万引きなどのそこそこの悪事は働いていた。そんな5人だった。「今日は雨まで降ってるしよ~。かったりーよな。」「街にナンパ、って気にもならねーしな・・・。」「金もあと少ししか残ってねーしよ。」口々にぶつくさと言い合っていた。今まで黙っていた龍次が口を開いた。「やるか。」その一言に4人の視線は龍次に集中した。隼人が聞く。「やるって、どうやってやるんっすか?」すると龍次は人差し指でこっちに寄れと皆に合図した。4人は龍次に寄って小さな円になった。「駅から出てきた奴がターゲットだ。」と5番出口にチラリと視線を送った。「俺が車で待っているから、駅から出てきた奴で目ぼしいのの後を追って、後ろからバッグだけひったくるんだ。顔を見られるな。」4人はごくりと唾を飲み込んだ。「失敗したらとにかく逃げろ。成功したらその金で今夜は遊ぼう。」こんな単純な計画から5人はファミレスを後にした。龍次は道路の脇に黒のシーマに乗って待っている。助手席には亮二が、改札口には隼人、5番出口には雅史と隆志がスタンバイしていた。目ぼしそうなターゲットの後を隼人がつけ、出口で雅史と隆志に合流し、機会を伺って引ったくり、龍次と亮二の待つ車までダッシュし逃げる、と言う設定だった。財布なんて開けてみないと当たりはずれは分からない。引ったくりは今まで3度しかしたことはないが、金持ちそうな身なりのおやじでも1万も入ってなかったことがある。5人はそう思っていた。最終電車がやってきた。隼人はまばらに改札口を出て5番出口に向かう人達を一瞬でターゲットを絞った。自分達とたいして年も変わらないくらいのエルメスのトートバックを持ったOL風の女の後をつける。5番出口まで階段を昇ると女はバッグから折りたたみ傘を取り出してさして歩き始めた。3人は気付かれないように女を囲んでチャンスを伺った。目配せするとバッグ側にいた雅史が女のバッグをひったくった。ところが、しっかりと肩にかかっていたせいか揉み合って女は転んだ。転んだ女と雅史はしっかりと目が合った。雅史は心臓が止まる思いでバッグを引ったくり、隼人と隆志も顔を見られたと思って無我夢中で女も車に乗せこんだのだった。私はぶつぶつと話し合う複数の声で意識が戻るのが分かった。「・・・・どーするんだよ。」「やっちまおうか?」「・・・そんなこと。」「やばいぜ・・・だけど・・」その声は次第にはっきりしてきた。そして、顔面に痛みも感じ、視界がはっきりしないと言うのも分かってきた。「顔見られたんだろう?見られるなって言っただろう。しかも、こいつ同級生じゃねーかよ!」「分かんなかったのかよ?」「あ、雨で傘さしてたし。顔も最初は分からなくて。」「免許書見るまでは俺もわからなかった。」「俺も、先輩達の同級生だなんて分からなくて・・・。」どうやら私はこの人達と同級生らしい。でも、こんな人達は私は知らない。そう思っていた。「雅史、お前がしくじったんだからお前がどうにかしろ。」雅史?「そうだ、お前の責任だろ。」「ま、待てよ。龍次。やろうって言い始めたのはお前じゃないか。亮二だって、車で待ってるだけでたいして何もしてないくせによ。俺だけに責任押し付けんのかよ。」龍次・・・亮二・・・。ああ、そう言えば柄の悪いないそんな名前の生徒がいた気がする。私はぼんやりとする頭で、顔面の痛みを堪えながら考えていた。「でも、このままじゃこいつ警察に行ったらやばいぜ。」「隆志。そんな事はさっきから分かってる。」「口封じの為に、みんなで犯っちましましょうか?」5人は隼人の言葉に黙り込んだ。手足はロープで縛られており、口にはガムテープが貼り付けられて声も出せず身動きできなかったので、私は逃げ出したい気持ちで殴られて腫れあがった痛い顔と血の味のする口でぐっと歯を食いしばった。どうすればいいのだろう・・・。自分の状況がだんだん飲み込めてきた。出口を出て、こいつ達にバッグをひったくられそうになって揉み合いになった。その後、顔面を殴られて無理やり車に乗せられたのだ。私はその時に気を失ったのだろう。そして、ここはよく夏になると肝試しに行こう、と話に出るあの有名な廃墟である事も分かった。以前は病院だったと言う噂だ。話に出るだけで、本当に幽霊が出ると噂されているこの廃墟は近くを通るだけで実際に中に入る人は少ない。しかし、今は幽霊の事よりも自分の身の危険の方のが恐ろしかった。そんな事が頭を駆け巡っていると沈黙を破る声が聞こえた。「駄目だ。」「り、龍次、何が駄目なんだよ。」「この女、逃がしたら俺たちのことしゃべるだろう。」「じゃ、どうすればいいんだよ。口封じすれば大丈夫だろうよ。」「逃がして口封じになんてなるかよ。」「龍次、お前何考えてるんだよ。」「殺るしかないんじゃねーの?」私はその言葉を聞いて体が硬くなった。「り、龍次。それもやばくねーか?」「何びびってんだよ、亮二。お前だってさっきまで俺と一緒になって雅史を攻めただろうが。雅史、責任とって殺れ。」「何言ってんだよ。そんなの出きる訳ねーよ!」「そ、そうだよ龍次。」「じゃ、隆志お前が代わりに殺れ。それとも隼人か?」「落ち着けよ。本当に殺っちまったら俺たち務所行きだぜ。」一瞬の沈黙を破るように龍次の怒鳴り声が聞こえた。「うるせーな!腰抜け野郎!どけ。」そう言うと足音がだんだん私に近づいてきた。私は叫ぶ事も逃げ出す事も出来ず、体をくねらせるだけだった。「お前も、さっきから聞こえてるんだろ?」と龍次は私の頭を足でぐりぐりと踏んだ。「こんな廃墟、誰も来やしねーんだよ。ロープで首絞めて、あそこの鉄筋に首吊り自殺みたいにしておいたって発見される頃には白骨死体で身元不明なんだよ。どいつも、こいつもびびりやがって。お前等がへまするからこんな事になったんだろーが!」ロープが地面をする音がする。私は恐怖で狂いそうだった。私はこんな事で、こんな奴等に殺されて死ぬのだろうか?仲間達が止めているにもかかわらず、龍次は振り払い私に近づきロープを首に巻いた。私は、精一杯もがいたが身動きも出来ず、声さえ出せずにただ恐怖におののいていた。 <つづく>続きが気になると思ったらランキングにあなたの1票をよろしくお願いします。励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****以前ショートストーリーでこのシリーズやっていたのですが、黒も前々から書きたいな~と思っていて書いてみました。ちょっとやばい展開ですが、興味のある方はつづきも読んでみてください。
2006/03/20
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長いこと続いていたお話、やっと終わりました。(^^;;もっと早く終える予定だったのですが、ダラダラとやっていて時間かかりました。途中放置ブログ化もしたし、さんざんだな。(笑)ラストが「え~?」って言われそうですが、自分でも「え~?」です。でも、シリーズ的に出会いから別れ、その後、って流れなので、こんなん出ちゃいました!と言う感じなのですが・・・。でも、誤解の無いように言っておきますが、別に病気を持っているからと言ってこのお話のようになってしまう訳ではありません。世の中には、どんな強い縁なのか困難を乗り越えて結ばれる方、そして今も支えあって過ごしている方々もいらっしゃるのですよね。あくまで想像の世界のお話なので、その点はよろしくお願いします・・・。自分だったら、どうなのかな~、と言う素朴な考えから書いていたのですが、みなさんだったらこんな状況だったらどうするのでしょうね?■惹かれ始て、肉体関係も持った時に相手に不治の病であると告げられる。見た目は普通の人とは変わらないがかなり重症で、最悪な結果も想像できる。■相手は口にはしないが、自分の事を心から思ってくれていることが分かる。簡単にあげるとこの2点かな~。私は多分かおるみたいに、お互いの気持ちを言わないまま続けて終わることは無いと思うのですが・・・。これが、女性が病気だったら男の人も押して、めでたくゴールインだろうな~などと思ったりしました。男性が病気だと、なかなか積極的になれないだろうし、恋愛においても中々進展しぬくいのでは?と思うのですが、何故かと言うと、やはり女はどこかで男にリードして欲しいと思う人が多いと思うからです。言葉やちゃんとした態度を好む女は、いくら相手の気持ちが分かっていても時間が経てば曇って見失ってしまうのではないか、と思うわけです・・・。別に病気でなくても何か大きな障害で良いのですが、直接命にかかわる「病気」の方のがピンときそうだったので、よく病気を使ってしまいます・・・。ただ単に他の障害が思いつかなかったとも言いますが・・・。それは反省・・・。あと、かおるの気持ちについては、読む人のご想像にお任せします。ただ、種明かしを一つすると、土曜のコンパですが、それは一番最初のコンパではありません。第一話では28歳で、第4話では25歳ですよ~。本当にコンパに行ったのか、行かなかったのか、他の男に交際を申し込まれているのか、そうでないのか、それは貴方のご自由にしてくださいませ☆てな、訳でやっと終わってやれやれです。(^o^)では、また。ごきげんよう!
2006/03/10
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俺は、かおるからリモコンを取り上げてすぐにチャンネルを変えた。咳払いをして、「今日のかおるは少し変だよ。ここは、もう出よう。」と言った。「私、いつもと同じだよ。変なのはそっちのほうじゃない。」ドキッとした。「お、俺だっていつもと同じだよ。」「嘘。」俺は頭を掻きながらうつむいた。「ねぇ。こっち向いて。」と、かおるは俺の顔を両手で優しく持って上に引き上げた。そして、唇まで俺を引き寄せ久しぶりのキスをした。かおるの柔らかく薄い皮膚に、俺の栄養状態の悪いガサガサした唇を合わせるのが申し訳なく思った。しかし、そんな雑念も次第に溶けて無くなっていった。今まで抑えていたものが全て崩れて行く様だった。ここまで来てもう後戻りは出来なかった。俺は次の瞬間かおるをベッドに押し倒していた。柔らかい感触に俺は溺れて行った。シャワーを浴びて無言のまま服をかおるは着ていた。その横顔は何も無かった様に冷静に見えた。ホテルを出ると以前と同じように日は暮れていた。自然に振舞うかおるを見ていると、ホテルでの出来事も何でもなかったように思えたりした。だんだん俺も冷静になり、何故かおるは俺に抱かれたがったのだろうか、と考え始めた。好きでも無い奴にわざわざ抱かれるはずは無い。そう思うのだが、また以前のようにただ楽しいだけの時間はもう過ごせないと感じていた。都合のいい時だけお互いに会えればいい関係にはなりたくなかった。それだけかおるの事を大切に思っていた。だが、あの時の俺は自分が思うよりも臆病だった。助手席でゆったりと寛いでいるかおるに、思い出したように自然に一番聞きたかった土曜の事を聞くことにした。これを聞かなければ俺の心は晴れない。「そういえば、土曜はどうだったの?」さり気無く聞くとかおるは「何のこと?」と言う様な顔をして俺を見た。「いい奴いたの?」かおるはぐっと両手を握って膝の上に置いた。その仕草が不自然に思えた。ほとんど車の止まっていない本屋の駐車場に着いた。入り口から一番遠い場所に車を止めた。かおるは何か考えているようにも見えたが、ずっと黙っていたので俺はこの2週間でやはり俺ではない他の男に惹かれているのだろうと思った。「いいよ。正直に言って。いい奴いたんだろ?」俺はかおるの反応を見て、今日の彼女の振る舞いに腹が立ってきた。かおるはうつむいて小さく頷いた。「付き合って欲しいって言われてる。」ハッキリ言われるとやはりショックだった。俺は気を取り直して「よかったじゃないか。」と言うのが精一杯だった。一瞬かおるの肩がピクンと動いて今度は俺をしっかりと見た。「彼と付き合うことになると思う。」そう言われて俺の胸は張り裂けそうだった。けれど、俺は何も言えずに、ただその事実を受け止める事しか出来なかった。かおるは俺をしっかり見つめたままでポロポロ涙を流しながら笑って「だから、今日でもう会うのは最後ね。」と言った。俺は言葉も出せずに頷くだけだった。そして助手席のドアをゆっくり開けて顔を歪めて無理した笑顔を最後に残して俺の元から去って行った。かおるの車が駐車場から消えて、俺は一人っきりになった。かおるが去ってから俺は一人で泣いた。子供の頃、かくれんぼをしていて、ずっと見つからなかった事があった。あの時も一人で狭い茂みの中で泣いていた。腹の減った鬼の俺は見つけたはずだったのに、なぜ泣いているのだろう?ふと、そんな事が頭に過ぎった。--------------------------------------------------最近、かおるの事を思い出す事が多い。かおると出会った季節だからだろうか?もう、1年経ってしまったのだ。俺達はあの日を境にぷっつりと連絡を取り合わなくなった。俺は、まだかおるの電話番号を消せずにいる。何度かけようと思ったことだろう。しかし、今更連絡を取ったところでどうなるというのか、と言い聞かせて過ごしてきた。今日は、3ヶ月の入院生活から開放される日だ。かおると過ごしていた頃は、不思議なくらい症状が軽かったのだが、やはり俺の病気はしっかりと巣くっていた。症状が悪化して入院せざる得なくなった。点滴だけの生活はやはり辛い。絶食なのに、入院中何度かナースに食事はどれだけとったのかと間違えて聞かれるのは辛いものだ。入院慣れした俺はナースステーションに寄って礼を言い病院の玄関を出た。外はむっと来る暑さで、暫くすると汗がじんわりと額から出てきた。真っ青な空に、勢いよく入道雲が浮かんでいる。病院の花壇には膝丈ほどのヒマワリが元気よく咲いており、セミ達は短い夏を精一杯生きる為に鳴いている。入院中によくかおると最後にあった日の事を考えていた。どうして彼女があんな行動を取ったのか。もしかしたら、あれは彼女の最後の賭けだったのかもしれない。あの時、俺の本当の気持ちを彼女にぶつけていたら・・・・。そんな考えがぐるぐる頭の中を廻っていたが、もう遅いのだろう。かおるは今どうしているのかは全く分からない。消せずに残っている電話番号ももう繋がらないかもしれないのだ。そう思い、俺はバッグの中から携帯電話を取り出してかおるの番号を躊躇わず削除した。それは、今までの自分との決別でもあり、今までの湿っていた心に新しい風が吹で気持ちが良かった。 <おわり>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一息******やっと終わりました!
2006/03/10
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土曜の朝、仕事が休みでやる事の無い俺は、何となくイライラしていた。ぷらぷら街へ出かける気も出ずに、だらだらと家で過ごしていた。しかし、時計ばかり気になっていた。夕方になって、イライラはピークに達した。かおるに電話して今から会おう、と言いたい気持ちだった。それも出来ないから一人でイライラしていた。何となく腹もチクチク痛みを感じる気がした。そんな土曜を過ごして2週間過ぎた。俺から連絡するのもいやらしい気がしてかおるに電話出来ずにいた。でも、どうして彼女からの連絡が無いのかよく分からなかった。もしかして・・・と考えるのが嫌だった。そんな事を考えていた、その日の夜携帯が鳴った。かおるからだった。「もしもし。久しぶりだね。もう、かかって来ないかと思ったよ。」電話に出るなり、少しばかりの皮肉を込めて言った。「うん。ちょっと最近忙しかったから。」もしかして、が、やっぱりそうなのか?に変わる。「明日ね、私休みなの。久しぶりに会いたいと思って電話したんだけど。」一体どういうことなのだろう?今まであまりかおるの方から「会いたい」と言う様な言葉は少なかった。「いいよ。俺も久しぶりに会いたいと思ってたし。」電話は手短に用件を済ませる程度で、明日の約束をして切った。気になって睡眠不足の瞼をこすりながら、いつもの本屋の駐車場に着いた。約束の時間の2時よりも少し早い。本屋に入る気も起こらず車の中で待つことにした。2時丁度になった時、携帯が鳴った。かおるからだった。時間通りに来るのも珍しいな、と思った。その時、いつもと違う空気を感じて緊張してきて乾いた声で言った。「もしもし。」「もしもし。着いたよ。」「俺、今日は駐車場にいるよ。」「うん。分かった。」携帯を切って数十秒でかおるが現れた。かおるはいつものように助手席に乗り込んできた。「今日はどのくらい待った?」「待ってないよ。今日は時間通りに来てくれたから。」そう言うと、あはははと笑っていた。久しぶりに会ったので、かおるは機関銃のように話した。主に職場の話で、最近ずっと忙しかったとの事だった。でも、俺が聞きたい話ではなかった。かおるの様子も核心部分を避けているような感じだった。しびれを切らしたのは俺の方で、話し続けるかおるを制して今までずっと聞きたかった事を決心して聞こうとした。ところが、その前にかおるは屈託の無い笑顔でこう言ったのだ。「ね、ホテル行こう。」聞くチャンスを俺は失った。それとも、かおるが俺に与えなかったのか。しかも、意外な言葉を聞いて混乱さえした。「かおる、ホテルはよそう。」何とか俺は振り切ったつもりだった。しかし、今日のかおるは少し違っていた。「どうして駄目なの?友達だから?そう言う所は行っちゃいけないの?」強気なかおるにびっくりした。本来なら、女性からの誘いを断るなんて失礼な事だ。けれど、これ以上お互いに傷つきたくなかった。いや、お互いにと言うよりも、後々考えてみると俺自身傷つくのを過敏に恐れていたのかもしれない。流させるままに俺は車を走らせホテルに入っていった。駐車場のINのビニールシートのカーテンがフロントガラスに少し当たった。日曜の昼間だが、結構車が入っていて駐車するのに時間がかかった。階段を昇ってフロントに行くと2部屋空きがあり、かおるは迷わず安い部屋のボタンを押した。以前と変わらない行動に少し笑ってしまった。部屋のドアを開けると「ただいま~」と言うのも以前と変わらない。変わらないかおるを見て何だかほっとする俺がいた。「カラオケ歌いたかったの。」部屋に入るとマイクをセットしてペラペラとページをめくりながら選曲し始めていた。かおるは流行の曲を歌いたいだけ歌って冷蔵庫の中からスポーツドリンクを出してゴクゴクと飲み干した。「あ~、すっきりした!ごめんね。私ばっかり歌っちゃって。」「別に構わないよ。」そう言うと俺はリモコンを取ってTVのチャンネルを適当に変えた。かおるとは、もうsexはしないと決めていた心がこんな密室に2人きりになって揺らいでいたのを何とか誤魔化そうとして視線をTVにやった。「今日は土曜だしね。こんな時間にやってるって言えば再放送のサスペンスくらいじゃない?」と言って背中から覆いかぶさるようにかおるは俺の右手のリモコンを取ろうとした。背中に当たる柔らかい感触が俺をますます狂わせる。リモコンをかおるが取り上げた瞬間、俺の指はチャンネルボタンを滑るように押すとケーブルテレビのアダルトチャンネルに画面が変わり、お互い一緒に「あっ。」と小さく呟くと、ますます俺は気まずくなった。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****やっと終われそうと言いながら、前編だとぉ~?!
2006/03/10
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時が止まってしまったかと思うくらい見つめ合った気がした。「そんなこと、本当に出来ると思うの?」かおるにそう言われてはっとした。「そうした方のが、かおるの為にいいと思う。」「なんで、なんでそんな事言うのよ。」俺は本当はかおると一緒にいたい。けれど、きっとそれでは不幸だ。本当は、俺の子供を産んで育てて欲しいと思う。そう思うが、今は病状が安定しているが、この先病状が悪化して仕事にも行けなくなったら、かおるに頼らなければならなくなるだろうし、自分自身どこまで生きられるのか分からないし・・・。かおるも判っていると思うが、この先根治治療が確立されない限りいつまでも病気と付き合わなければならない。傍からは病気と上手く付き合えているように見えても、心の中はいつまでも葛藤して苦しいのだ。病状が悪化して入院するときなどは最悪だ。世の中にはいろいろな病気があるが、何ヶ月も絶食する苦しさは当の本人でなければ分からない。その苦しみを全て取り除く事は無理だ。支えになって欲しいと思うが、かおるのような人が傍にいたら、俺はまるっきり甘えきって、お互いに駄目になってしまうのではないか、などとも思ったりするのだ。考えすぎかもしれないが、慎重にならざる得ないのはやもえない事だ。もっと早く出会えていたら良かったのに・・・と思う。病気になる前に、そうだな近所の幼なじみとかだったら良かったのにな、等と思った。俺は、そんな気持ちを心の中でぐっと堪えて言った。「俺よりも、もっといい男のがいいと思う。かおるに幸せになってもらいたい。」かおるは泣いた。もともと小さい体をきゅっと丸めて、もっと小さく見えた。あの日、かおるはやはり何も言わずに歪んだ笑顔を残して去って行った。俺は、その日から、もう絶対にかおるに連絡しないと自分に誓った。ところが、翌日から毎朝かおるからメールが届くようになった。「おはよう。元気?」そんな一言のメールだったが、心が温かくなった。暫く、そんなメールのやり取りが続いた。そして、どちらからとも無くまた会う事になった。あんな事を言ってしまったのに、そう言ったさり気無いかおるの接し方にはとても感謝した。いつものように、俺達の中間地点の本屋で待ち合わせをした。しかしホテルには入らず、車の中でいろいろ話した。たわいも無い日々の出来事を報告しあっているだけだったが、楽しい時間だった。そんな事が続いたある日、「今度ね、友達にコンパに誘われたの。」とやや困惑気味にかおるが言った。俺は動揺を隠せなかった。「そ、そうなん?いいじゃん。行って来ればさ。」心にもない事を言うのは辛かった。「うん。そう言うなら行ってこようかな。」「行ってきたら、報告しろよ。」そう言うとかおるは笑っていた。でも、少し悲しそうだった。あの時、俺は自分の事ばかりで、かおるのそんな些細な表情に気付いていなかった。かおるは今週の土曜日に行って来るね、と言ってバイバイと手を振って去っていった。俺は、取り残されたようで胸にぽっかり穴が開いてしまったような気がした。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング*****ちょっと一言*****次が最終話になります。やっと終われそう・・・。(汗)
2006/03/06
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俺は、あの日を境にバランスを失っていた。かおるはあまり以前と変わった様子はなかった。穏やかで、聞き上手で、どこまでも甘えさせてくれるような錯覚させしてしまうほどなのだ。かおるの幸せを考えると、俺みたいな奴とはもう会わないほうのがいいと思う気持ちと裏腹に、すぐに声が聞きたくなった。以前は誰でもよかったのが、今はかおるじゃなきゃ駄目だった。ただの、鼻たれ小僧の甘え虫になっているようで、またジレンマに陥って、でも最終的に携帯を右手に持っていた。コールが3回鳴った所でかおるに繋がった。「もしもし。仕事終わった?お疲れ。」「どうしたの?」と、少し驚いた声でかおるは言った。「声が聞きたかったから。」こんな言葉がするりと出てしまう自分に驚いたりする。「明日、休みなんだよね?何するの?」「明日は、ジムでも行こうかと思ってる。哲哉さんはお仕事でしょ?」「そうなんだけど・・・・なんか。なんかさ。話してたら会いたくなっちゃった。」「え?今から?」全く唐突な話だ。「今から会いたいけど、無理だよね。」「う~ん・・・。」かおるを悩ませている。やはり急になんて無理だ。「いいよ。ごめん。」「少しだけならいいよ。」思いもよらなかった言葉が返って来た。「え?ほんとに?いいの?大丈夫?」「うん。大丈夫。いつもの所でいい?」「ああ。」いつもの所とは名古屋と安城の中間地点にあるラブホテルの事だ。何となく、会う=ラブホ、と言う事になってしまっていた。普通の恋人達からすれば、とても妙な事なのだろうが、ただsexだけの目的ではないし、現にsexなしで出てくることもある。お互い自宅の俺達には気楽な場所なのだ。しかし、お互いの自宅に招かないのはやはり躊躇いがあるからなのだろう。約束の7時、ホテルの近くの本屋で待ち合わせをしていたので中に入って待つことにした。音楽や映画の雑誌のコーナーで立ち読みをしていると、後ろから背中をつんつんとされて、かおるが来た事に気付いた。だいたい、かおるは後ろからつんつんと指で背中をつつくのだ。「何時に着いた?待ってた?」少し遅れたのを気にしているのか、かおるが聞いた。「7時。」「遅れたこと無いよね。」と、かおるが言うと心の中で「早く会いたいからね」と俺はつぶやいた。本屋の駐車場を出て、俺の車に乗るとすぐ近くのラブホに入っていった。俺達は、まるで自分達の部屋のようにTVを見たり、映画を観たり、カラオケしたり、くつろいだ。かおるは時々今井美樹の歌を歌うのだが、それを聞くのが一番好きだ。かおるの声と合っている。でも、リクエストした事は無い。たまに聞けるのがラッキーなことに思えたりするからだ。こんな何でもないことが続けばいいのに、と思った。右にいる、かおるは今井美樹のプライドを歌っていたのだが、急に愛しく思えてぎゅっと引き寄せた。「最近なんでも突然なのね。」とマイクを持ったまま少しエコーがかかったかおるの声が部屋に響いた。まだ曲は終わっていなかったが、ソファーにかおるを押し倒してキスをした。お互いに優しく触れ合って俺はだんだん張り詰めていった。かおるの中に入る前にゴムを付ける。かおるに対しても絶対忘れてはならない行為だと俺は思った。薄い皮が被さった俺は、少し違和感を感じながらもぬるぬると快楽にはまっていく。けれど、その薄い膜が俺達の境界線のように思えて、頭のどこかは常に冷静だった。イク時はやはり以前と同じように痛かった。膀胱ろうのせいだろうか?たまに痛いと声を漏らしてかおるはびっくりする。かおるは両手を顔に当てて泣いているようだった。「かおる。ごめん。嫌だだった?」両手をそのままに首を振っていた。「じゃ、どうしたんだよ。」かおるは震える声で「時々、苦しくなるの。あなたは苦しくないの?」と言った。かおるも俺と同じように苦しんでいるのだと、その言葉を聞いて初めて思った。いつも、穏やかで何でも許してもらえそうな雰囲気のかおる。そんな彼女を不思議に思いながらも俺はやはり甘えすぎていたのだろう。「かおる。もう今日で恋人同士は最後にしよう。」「どういう事?」「次からは友達同士になろう。」まだ彼女に会いたい気持ちが「次からは友達」だなんて卑怯な言葉を口にしてしまった。そんな事が出来るのだろうか?とお互いの顔を見つめあった。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング
2006/03/05
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かなり、放置していました。ブログ自体、最近放置ぎみなのですが、このブログはその中でも酷いですね。(笑)お話専用ブログなので、時間と気分が乗らないとこのブログにログインできません。いや、ほんとに。大してストーリーを練っているわけでもないのですが・・・・。趣味は気分がいい程度にしなきゃね☆ま、こんなスペースも無いとストレス発散も出来ないわけです。って事で、つづきを読みに来てくれている方、本当にありがとうございます。ラビュラビュです☆このブログに来てくれる人は、本当に貴重に思ってます。では、また暫く放置ブログになると思うので、よろしくです。(爆)
2006/03/02
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俺の横にはかおるが横たわっている。病気の事を告白してからも、かおるは俺の側から離れなかった。時々、夢なんじゃないかと思ったりする。けれど、こうして今日も会いに来てくれた事は夢じゃない。病気の事を告白してから1ヶ月が経とうとしている。不思議と症状はあれ以来出ずに治まっている。そう言えば、結婚したり、恋人が出来たり精神的に安定している時は、症状が出なかったり、出ても軽かったりすると言う記事をどこかで読んだことがある。そういうことなのだろうか?かおるを見つめて思った。すると、むっくりとかおるが起きて俺の方を向いた。彼女は今日夜勤明けなのだ。会うなり、そのままフリータイムでホテルに入ってしまった訳である。「今何時?」かおるはまだ眠そうな顔で聞いた。「1時だよ。」それを聞くなり、かおるはまた再び枕に顔を埋めた。「もうちょっと寝る。」暫くすると、寝息がまた聞こえてきた。俺はそんなかおるを微笑ましく思い、髪をしばらくなでていた。こんなデートのパターンが多いのだが、かおるは満足しているのだろうかといつも不安に思ってしまう。もっと、いろいろな所に遊びに行きたいのではないのだろうか?もっと、美味しいものを食べたいのではないのだろうか?口にはしないが、かおるは明らかに俺に合わせてくれている事が、俺には分かる。こうなる事は分かっていた。ずっと、引け目に感じる事が嫌だった。だから、どこにも納まらずに眠れない夜を彷徨っていたのだと思う。かおるには甘えられる。けれど、こんな風に続いたら負担になるのではないだろうか?もっと、彼女にとって幸せな道があるのではないだろうか?そんな事を思わずにはいられなくなる。やはり、あの時もう会わずに別れた方のが良かったと思う日が来るのだろうか・・・。俺の内心は喜びと戸惑いがミックスされて実は不安定に揺れている事を何となく察知していた。でも、今はかおると一緒にいたいと言う気持ちが全てのマイナス思考を打ち消していた。それから2時間後、かおるは目を覚まし、俺達は普通の恋人達のように抱き合った。シャワーを浴びて、身なりを整えホテルから出ると、もう日が暮れそうになっていた。車に乗ってエンジンをかけながら「腹減ってない?」とかおるに聞く。俺の病気の事を気にしてか、食事の話はかおるからは一切してこないからだ。きっと空腹に違いない。「うん。ちょっと空いてる。」とかおるは照れくさそうに言った。俺はそういった些細な事を何も聞かなかった。食事の話を何故しないのか、こんなデートでも何故不満を言わないのか、こんな俺に何故会いにくるのか・・・お互いに同じ気持ちなのだろう、と思いたいし、正直な話聞くのが怖かった。ただ、今は一緒にいられればそれでいい。その言葉でまた小さな不安を打ち消していった。その後も俺の休みに合わせてかおるは会いに来てくれた。休みの前の夜から、俺は待ち遠しくて電話をかけては長電話をした。ところが、日に日に恋愛による安定感と不安定な気持ちは大きく反比例して行った。嬉しいと思えば思うほど、その後に一人で地の底に落ちるくらいの勢いで落ち込んだりした。そんなある日、栄でデート中、ブライダルショップのビルに視線を向けているかおるに気が付いた。6階建ての小さなビルであるが、ウエディングのもの全てが揃うようになっており、2階にはウエディングドレスがディスプレイされている。その為、この通りを通る年頃の女性は視線が上向きになるのだ。かおるもそうだった。25歳だし、結婚を考えてもおかしくないよな。俺には、その時現実を叩きつけられた気がしたのだ。そこから、調子がおかしくなった。適当なところでカフェに入った。「かおるさ、結婚、したいの?」唐突な質問に「えっ?!」とびっくりしたようだった。言葉も出ないようだったので続けて言った。「さっき、ビルのウエディングドレス見てただろ?だから聞いてみただけ。びっくりした?」と言うとかおるはコクンと頷いた。その後かおるは何か言いたそうな顔をして黙り込んでしまった。駐車場までのろのろと黙ったまま俺達は歩いて運転して数分たって言葉が上手く言えない俺は言った。「結婚とか、選ぶ権利があるのはかおるだから。」俺はそんな事を言っておきながら、かおるの顔を見れなかった。かおるは終始何か言いたげだったが、何も言わず別れ際顔を歪めた笑顔で去って行った。そんな姿を見て、俺はあんな事を言ったのを後悔した。でも、もう取り返しが付かない。汗臭い青春ドラマか昼メロのように、今から追いかけて行ってかおるにプロポーズする事なんて出来ないのだ。そうなのだ。かおるとは結婚できない。この先、俺の方のが必ず先に衰えるだろう。遅かれ早かれ、誰かに面倒をかける事になると思っている。それを思うと彼女の人生を犠牲にしてまで、一緒になる事を考えると辛いのだ。そこまで、彼女を奪えないと、かおるがウエディングドレスに視線を向けていた時に悟ってしまった。もっと別の男と一緒になった方のが彼女の幸せのためだと思ってしまった。この病気を持った人間全てが結婚できないわけではない。俺は青春時代をこの病気と過ごした。その時に多くのものを失ったのだと思う。その一つに結婚も含まれていたのだと思う。情けないが、相手に強く望まれない限り俺にとって結婚はありえない事だと思っていた。俺は自分自身の思考回路と病気が憎くて車の中で一人泣いた。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング
2006/03/02
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俺は目が覚めてから、ずっとかおるの事を考えていた。この先どうすればいいのか、と。このまま自然消滅か、それとも本当の事を言うか。このまま嘘を突き通すことは絶対に出来ない。かおるはそろそろ仕事が終わって車に乗っている頃だろうか・・・。「またね」と言ったかおるの言葉が木霊する。また会いたい・・・。しかし今度、またいつ痛みが来るか分からない。今度来たら暫く入院は間逃れないだろう。そうすれば、かおるにはもう会えなくなる。急に連絡が取れなくなった男の事なんてすぐ忘れられてしまうだろう。そう思ってしまう自分がとてつもなく嫌だった。嫌でもそう思えずにはいられないし、多分それが事実だ。どんどん心の温度が下がっていくのを感じていた。さぁ、どうする?急に何だか笑いが込み上げてきた。窮地に追い込まれている自分を、冷静に客観的に見ているもう一人の俺の存在が笑わせたのだ。あれこれ考えて慌てふためいている自分が急に滑稽に思えてきたのだ。どう誤魔化すことも最初から出来ないと分かっていたんじゃないか。ただ少しだけの期待と、少しだけの安らぎが欲しい。それだけだったんだろう?また別の場所からもう一人の自分が現れて、そう俺に問いかけると今度は涙が出てきた。そうだ。何度も最初から分かっていた事なのだ。俺には障害が多すぎる、と。俺はかおるに本当の事を言う事を決心した。本当なら実際に会って話したいのだが、なるべく早い方がいい。仕方なく電話で告げる事にした。けれど、なかなかかおるの携帯番号のリダイアルボタンを押せずに時間が経ってしまった。いつに無く俺は緊張していた。やっとの思いでボタンを押すとコール9回、留守電ギリギリの所でかおると繋がった。「もしもし」最初に言葉を発したのはかおるの方だった。「哲哉さん、今日の仕事疲れなかった?」と、2人だけの秘密を共有しているのを思わせるような含み笑いがこもった口調だった。「うん。」「何だか疲れちゃったわ。でもね、今日は急変や即入も無くて落ち着いた日だったから良かったわ。」「実はね、今日俺仕事を休んだんだ。」「どうして?体調悪いの?まさか寝坊しちゃったとか?」かおるの声は冗談半分に聞いている様なおどけた声に俺は聞こえた。俺は咳払いをして改めて決心した。「俺、病気なんだよ。」「・・・・。」かおるの返事は無かった。そして沈黙が2人の間を流れていった。頭の中で気持ちと状況の整理をしたのか、かおるが沈黙を破った。「病気って、どんな?癌?白血病?」「違うよ。でも治らない病気なんだ。」「だから、どんな病気なの?」かおるは、なかなか病名を言わない俺にイラついているようだ。「当ててみてよ。」俺は病名なんて言いたくなかった。「からかわないで。」「じゃ、ヒントは最初は盲腸かと思った。でも、違ってた。潰瘍性大腸炎とも間違われる事もある。そういう病気だよ。多分かおるの勤めている病院には俺みたいな患者は来ないよ。」「・・・・まさか、それってクローン病?」いとも簡単に当てられてしまってびっくりしたのは俺の方だった。「な、なんで分かった?」俺の言った言葉を聞いた瞬間「わっ」と言う泣き声が聞こえてきた。「ごめん。」俺はかおるにそう言うしかなかった。「そう言われて今までの靄がかかっていた事が全部晴れたわ。どこか病気じゃないかと感じていたけど分からなかった。」かおるは泣きながら途切れ途切れにそう言った。やはり、どこか変だと思われていたのだ。「どこがそう思った?」「食事よ。ドライブした時、ほとんど残してた。それから、肌が少し乾燥してた。でも、夏だから食欲無いんだって思ったし、肌の乾燥も少し日焼けしていたからそのせいだ、って思った。痩せ過ぎに見えたけど、もともと痩せ気味なんだって・・・・・。でも、病気だったんだね。」泣きながらかおるは言ったが、嘘を付いていた俺をなじる様な言葉は一言も無かった。「かおる・・・もう俺達会わない方のがいいと思う。」するとかおるは即答した。「どうして?」「その方のがきっとお互いにいいと思うから。」すると思いもよらなかった言葉がかおるから浴びせられた。「逃げるの?」俺は暫く固まってしまった。「哲哉さん、あなたもしかしていつもそうやって逃げてるの?」そんな強い口調でかおるがこんな言葉を言うなんて思いもよらなかった。「相手に先に逃げられるのが怖くて、いつも先に逃げてるの?」「そんなことは、ないさ。」そう言ってみたものの、俺の心の奥底に自分自身追いやってしまった気持ちをズバリ言い当てられたようで鼓動が速まっているのを感じた。かおるは続けてこう言った。「私は逃げずにここにいるわよ。」そう言われて俺の心の温度が上がっていくのを感じた。まるで、それは氷が溶ける様で心地が良かった。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング
2006/01/24
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俺達はお互いを惜しむようにホテルをでて別れた。「またね。」とかおるが言った言葉がいつまでも俺の中で木霊している。「またね。」車を運転しながらつぶやいた。家族が寝静まっている家に着いた。疲れたが俺は充実感に満ちていた。今夜は夢の中でもかおるに会いたい。ベッドにもぐりこむとすぐに眠る事が出来た。どれだけ眠ったのか分からないが、痛みで目が覚めた。今回は酷い痛みだ。額に脂汗が浮き出てきた。俺は痛みで動けなくなってベッドにうずくまった。鎮痛剤を飲みたい。でも、動けない。そうだ。鎮痛剤なんて即効性は無い。気休めでもいいから飲みたい。そして冷蔵庫の中の座薬を使いたい。あぁ・・・一体こんな夜にどれだけの人が痛みで苦しんでいるというのだろう。駄目なのか?入院の事が頭をかすめる。かおるの微笑む顔が頭に浮かんだ。いや、これは罰なのか?あぁ、そうか。罰なら受けなくてはならないな。痛みの中でこんな事を考えるなんて。余裕なんて無いはずなのに。そんな事を考える俺自身が笑える存在のように思った。俺は痛みで勝手にこぼれてくる涙を頬に感じながら、顔を歪ませて声を出さずに笑った。何分たったのか分からないが、少しだけ痛みが落ち着いてきた。この隙に鎮痛剤と座薬を入れる為にキッチンへ向かった。生ぬるい水をコップに汲み薬を飲んで冷蔵庫から座薬を取り出して素早く肛門に入れた。これで収まらなかったら救急車で病院に行くしかない。両親の眠っている寝室まで行く気力ももうない。救急車は慣れているから大丈夫だ。今まで何度も痛みで救急外来に行った。初期の頃はあまりにも頻繁に救急外来に来る俺にDrも苦笑いだった。あの頃よりも、対処する思考回路も強化されて落ち着いている。電話の子機を両手で握り締めてリビングのソファに前かがみで座った。子機を握り締めたまま朝がやって来た。朝食を作る為に起きてきた母親が俺に気付いてびっくりしたようだ。「腹痛?母さんを起こしてくれればいいのに。」いつも言う言葉だ。「病院に行く?母さんなら仕事なんて休んでもいいんだから。」「自分で何とかなりそう。」必死でそう答えると「馬鹿な子。病院に行くわよ。ちょと待ってって。支度するから。」とまた2階に上がっていった。今度は親父と一緒にリビングまで降りてきて2人は俺を囲んだ。「哲哉、母さんに病院に連れて行ってもらうんだ。いいな。」と親父がいつに無く心配そうに言うので「わ、分かった・・・。」とだけ答えた。母は後ろで病院へ電話をかけていた。「哲哉、症状はどうなの?」母親が俺に聞く。「深夜に右の脇腹に激痛。3時頃だと思うけど鎮痛薬と座薬を使ったけど効かなくて5時にも同じものを使った。」と途切れ途切れに言うと俺の言ったように受話器に向かって言っていた。母に連れられて病院に着いた。動くとまた脂汗が浮き上がってくるのを感じた。病院の玄関で車椅子に乗せられてまだ一般診療時間ではないので救急外来に向かった。救急外来には救急車から搬送された患者が丁度俺たちの目の前を通り過ぎて行った所だった。暫くすると俺の名前が呼ばれた。中に入ると俺の主治医の長谷川Drが椅子に座って俺を迎えた。今日は当直だったらしい。「腹痛がやってきましたか。」「はい。」「どうしよう。注射して様子見るか、入院って言う手もあるけど。」かおるの顔が頭を過ぎって迷わず注射を選んだ。「すぐには効かんだろうけど・・・。」と言ってナースから薬のアンプルを受け取ると、ポキっといい音を立てて割り、注射器の針で薬液を吸うと右手をゴムで縛り浮き出た血管注射をした。「効くか少し様子を見てから帰りなさい。効かなかったら、入院だな。」と言って長谷川Drはゴムをほどくと血管から薬を入れ終えた注射を引き抜いた。母と俺は病院の廊下の椅子に腰掛けて暫く様子を見た。薬は効いた様だった。スッと嫌な汗も引いて行くのが分かった。母の運転での帰り道、有り難いとは思うが情けないとも思った。こんな年になってまで、親に面倒になって・・・。車の中は冷房で涼しかったが、外の景色は徐々に暑さが増していくのが見るだけでわかった。思ったよりも早く終わったので仕事へも間に合わなくなかったが、結局一睡も出来なかった為、仕事は休む事にした。母は少し遅れて仕事に出かけた。俺は誰も居ない家で一人過ごす事になった。しかし、すぐにたまらない眠気が襲ってきて深い深い底に落ちて行くように眠っていった。目が覚めると夕方近かった。頭がハッキリしてくると、かおるの事が頭に浮かんできた。もしかしたら、また入院する事になるかもしれないな。かおるにはもう嘘は付けないだろう。何とかごまかせて来てはいるが、もう限界だ。相手はナースだし、病名をぴったり当てる事は出来ないかもしれないが、どこか変だともう思われているかもしれない。そういえば、奈良の帰りにしきりに体調を心配していた。いっそ、この時点で終わりにしてしまった方のが、後々お互いに苦しまなくても済むのかも知れない・・・。初めからずっと上手く行くなんて思ってやしないさ。強がる俺の気持ちとは裏腹に、心は真冬の北風が通り抜けたように冷たくなっていた。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング18話かぁ・・・。長くなってきたなぁ・・・・。今年中に終わらせたいのだけど、この話・・・。
2005/12/26
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****** ちょっとR指定です。良い子は読んじゃ駄目かも・・・ ******俺が電話を一方的に切ったのは、かおるが絶対来てくれると言う自信があったからだ。しかし、名古屋と安城は少し距離がある。着くまでの時間、本当に来てくれるのかまた不安になった。そして、また馬鹿な事をしている自分を後悔した。俺はかおるに出会ってから後悔ばかりしている。病気になって、ナースの彼女と分かれて以来、今までそんな事無かった。後悔なんていう言葉を俺は殺していた。本当は後悔なんて生きていればいくらでもあるはずなのに、それを真っ直ぐ見ずに、あたかもはじめから存在すらしなかったかのように思い込ませていた。そうなんだ。偽ってばかりいたんだ。そんな自分にも本当は気付いていた。でも、気付かせてくれるような人に出会わなかった。ただそれだけだと思う。俺は今のかおるへ向かっているこの瞬間、本当に生きていると感じた。そして、この事は病気の事を一時的に忘れさせてくれた。三河安城駅は新幹線もこだまではあるが止まる割かしこの地区では大きな駅だ。1号線を走って行くと標識が現れた。標識通りに交差点を右折する。もう少しで駅に着く。次第に期待感と不安が入り乱れた言葉では言えないほどの興奮が身体の芯から湧き上がってきた。タクシー乗り場に車を止めてかおるに電話する。ーもしもしー電話はすぐ繋がった。「本当に来たの?」「来た。今着いた所。」「どこにいるの?」「結婚式場の前のタクシー乗り場に車止めてる。」「分かったわ。」と言って今度はかおるに電話を切られた。リダイアルしようと思っていたところでクラクションを鳴らされて、その車をよく見るとかおるだった。俺の顔の筋肉は緩んだ。車を降りてかおるの車へ歩いていった。近づくとかおるは窓を下げて「こんばんは。」と笑顔で言った。「来てくれたんだ。」「いきなり行くって電話切ったのはそっちよ。」俺達は顔を見合って笑った。俺達は昨日実現できなかった事をしようとしている。駅の目の前にやや控えめではあるがラブホテルのネオンに引き込まれるように車を滑らせて行った。俺達は部屋に入るとお互いに求め合うようなキスをした。どちらからとでもない自然な、そして情熱的なキスだ。ベッドに倒れこみお互いの唇や身体を確認しあうように抱き合いながら長い長いキスをした。気付けば互いの肌は露にされていた。それ以上俺が踏み込もうとするとかおるに制された。「シャワーを浴びたいわ。」そう言ってシャワーを浴びに行ってしまった。俺はぽつんとベッドに取り残された。「ねぇ~。一緒に入ってもいい?」俺が甘えると「駄目!絶対駄目!」と返事が帰って来たので、仕方ない今日は大人しくしていることに決めた。こんなワクワクする気持ちも最近は全く無かった。街で拾った女とはとても口には出来ないような事もした事があるのだが、それとは全く違う。乾いた心に水が染み込んで急速に潤っているのを感じた。それが、いつまで続くかなんて今は考えれないし、いや、永遠に続くとでも思っていたのだと思う。シャワーを浴びたかおるがバスタオルを巻いて出てきた。俺は興奮してすぐにでもベッドに押し倒したいと妄想したが、おとなしくバスルームへ向かった。淡々と恋人達の順序通りに進んでいるようだが、俺の内面では興奮のマグマが爆発し続けていた。腰にタオルを巻いてバスルームから出ると、TVを見ているかおるに抱きつた。そのまま俺達は何一つ纏わない生まれたての姿になった。昨日、こうなるはずだったのだ。飢えた俺は隅々までむしゃぶるようにかおるを愛撫した。いつ出会うかも分からない、俺を立たせてくれるこんな女性はたまにしか食べられないご馳走に似ている。食べ残しが無いように、そして味わうようにゆっくりゆっくり愛撫した。かおるのあえぎ声が一層刺激して、俺はますます硬くなっていく。かおるは、そんな俺を甘い蜜で誘惑している。その甘い誘惑に俺は素直に従うだけだった。一緒になれてお互いの吐息を頬で感じあう。もう離れられないと思った。このまま、ずっと一緒にいられたらと心底願った。俺達はお互いの全てを見せあって、悦びを共有し一緒に絶頂に向かっている。もっと激しいバイブを欲しがって、お互いせがむように抱き合ってうねらせる。もう駄目だ。これ以上の快感はない。俺は絶頂を迎えた。それと同時に、一瞬激痛が走った。まるで電流が背筋を走るような凄まじい痛みだった。快感と不快がいっぺんに来た妙な感覚を体験した。しかし、その痛みはその一瞬で消えた。かおるもどうやら同時に達したようで、俺の横でぐったりとしたいた。息を整えて腕枕したかおるに聞く。「どうして来てくれたの?」「来ないかと思った?」かおるの顔は少し意地悪に見えた。「正直、来ないかと思った。ここまで来る時思ってたんだ。なんて俺って馬鹿なんだろう、って。すごくかっこ悪いことしたな、って。」「そうね。ちょっとカッコ悪かったわよね。」と言ってクスクス笑っていた。「だけど、そのカッコ悪い男の元に来たのはかおるだよ。」「だって、言ったでしょ。私も好きだって。」かおるはそう言うと俺の頬にキスをした。俺は暫く味わった事の無い温かい気持ちになった。神様がいるなら、今だけ、このままでいいだろう?病気の事、嘘を付いていたっていいだろう?もし罰を受けるなら全て受けるから。だた、今はこのままでいさせて欲しい・・・。そう心の中で一人願っていた。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキングどうなんだろう?こんなん出ましたけど。(笑)
2005/12/25
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午後8時、携帯の振動を暫く右手に感じていた。一体どんな用なのだろう・・・。俺はどんな展開になるのか少し怖い、と言うのが正直な気持ちだった。深呼吸を1回してから通話ボタンを押した。ーもしもしーかおるの声がした。「もしもし。」俺はそれしか言えなかった。ぶっきらぼうに聞こえる声だったかもしれないが、実はただ単に緊張して強張っているだけの事だった。「あの、今はお時間、大丈夫ですか?」「大丈夫だよ。」かおるの声もあまり元気は無かった。「あの・・・今日は大丈夫でした?」「何が?」何となく刺々しくなってしまった自分に、言ってから反省した。「疲れたでしょう?」「あなたも疲れたでしょう。」かおるは明らかに本題にまだ入っていないと感じた。何かもっと言いたいことがあるようだった。俺は聞いてみることにした。「何か話したい事でもあるの?俺でよかったら聞くけど。」俺は柔らかい声で聞いた。「・・・・。あのね。」「うん。」「昨日、気にしてないですか?」あんな別れ方をして、かおるも気にしていたのだ。「どうして?気にしてなんか無いよ。」今まで動揺していたくせに・・・。俺は嘘八百だ。と心の中で自分に舌を出した。「本当に?」「ああ。本当に。俺こそ何だか思い出すと恥ずかしい。」恥ずかしいと言うのは本音だ。「何だかガツガツした男みたいでさ。」こうなったら、もう本音トークだな、と観念した。「俺こそ、本当は気にしていたんだよ。もう嫌われたに違いないって。」あ~あ。どうにでもなれ。「でも、キスしたいと思ったからキスしたし、抱きしめたいと思ったから抱きしめた。それは嘘じゃない。」そうだ。嘘じゃない。「かおるの事が好きだと思ったから自然にそうなったんだよ。それだけは誤解しないで欲しと思っていたけど、でも、そんな思いも届かないと思ってた。」かおるはずっと聞いている様子だった。聞くつもりが告白までしてしまった。どう思われても、まぁ、いいや。俺の方こそ言いたい事を言い尽くして満足してしまった。「信じてもいいのかな?」かおるは小さい声で聞いた。「俺の気持ちに嘘は無いよ。」暫くの沈黙。かおるは悩んでいるのだろうか?「信じれない?」ずっと黙っているので俺も考えた。「ちょっと外に出るから待ってって。1回電話切るね。」「は、はい。」かおるはよく分かっていない様子だったが俺は一度電話を切った。Tシャツとハーフパンツ姿で真夏の夜に飛び出した。すぐ近くに公園がある。俺は早歩きでそこを目指した。少し高台にあるこの公園は夜中になるとカップルがやってくるが、まだそんな時間には早く、人気も無かった。シャワーを浴びて冷房の入った部屋ではサラサラだった素肌も夜とはいえ真夏の熱気で汗ばんできた。俺はかおるに電話した。すぐ繋がった。「もしもし。聞こえるか?」「聞こえます。」俺は「んんっ」、と咳払いをし「じゃ、信じれるまで聞いてろ。」と言い深呼吸をし「かおるの事が好きだ! かおるが好きだ。 お前が好きになっちまった!」と繰り返して叫んだ。なんて歳に不釣合いな事をしているのだろう、と思ったのは後になってからだった。「も、もう分かった。分かったから。」かおるが止めにかかった。「何が始まるかと思ったら。」と言って笑い出した。「何で笑うんだよ。信じてくれないから、信じてもらう為にやったのにさ。」不貞腐れて言うと「笑っちゃってごめんなさい。でも、嬉しかった。私ね、最近人を信じれなくなってたの。急性人間不信。だけど、今治ったわ。ありがとう。」と真面目な声でかおるは言った。「あ、かおるの気持ち聞いてないけど。聞かせてくれる?俺、あれだけ言ったんだぜ。」電話の向こうで咳払いするかおるの声を聴いた。「私も好きよ。」胸に込み上げる熱いものを俺は感じていた。「かおる。昨日の夜をやり直さない?」「え?どういう事?」「俺、今からそっちに行くよ。」俺はかおるの返事を聞かないうちに携帯を切った。そして、このままの格好で昨日別れた安城駅に向かった。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング展開的には自分ではかなり予想外のやばい方向にいってしまいました。さぁ、何とか書ききるぞ!(笑)
2005/12/19
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安城駅に着いた。着いてしまえばあっと言う間のような気もする。けれど、そうではないと身体の疲労が講義するように訴えてきてやはり長かった、と改めて思った。俺はこれからまた名古屋に帰らなければならない。多分、今すぐ。独りで、だ。そんな予感とは裏腹に駅の目の前にやや控えめではあるがラブホテルのネオンがチカチカと目に染みている。俺の視線の先が分かったのか「じゃ、本当にありがとうございました。」と言ってドアに手が伸びていた。俺はとっさにかおるの手を取っていた。俺達はほんの数秒もない時間見つめ合ったが、それはとても長い時間のように思えた。「あの・・・ちょっと痛いです。」とかおるが細い声で言った。「もう少しだけ、一緒にいれないかな。」俺の声も懇願するようなか細い声だった。狭い車内でかおるの肩を寄せて抱きしめた。かおるは身を任せるように拒まなかった。俺の鼓動は速まった。そしてまだ迷っていた言葉を口にした。「朝まで一緒にいられないだろうか?」沈黙が流れ、かおるの身体に力が入った。俺には拒否の合図だと分かった。「ダメなのか?」こんな事まで言葉にしなければならない俺は間抜けだ。しかし、女に駄目だと言われるよりはマシだと思っている。「ごめん。じゃ、おやすみ。」と言ってかおるをゆっくり離した。かおるはそそくさと少し乱れた服を直して車から出て行った。「今日は、本当にありがとう。気をつけて帰ってね。おやすみなさい。」そう言っていたが、俺はただ少し口角を上げる事だけで精一杯だった。物分りのいい間抜けな男に成り下がった気分だ。予感はあったものの、期待通りに行かないと、本当に虚しいものだ。自分勝手なゲーム感覚を楽しんでいたつもりが、結果的には振り回されている。馬鹿みたいだ。何をやっているんだろう・・・。今の俺には本当に行き場が無いと感じた。かおるの姿はだんだん小さくなって立体駐車場に消えていった。俺もエンジンをかけてとぼとぼと帰ることにした。これで終わりだな・・・間違いないと俺は確信さえした。メールも電話ももう俺からはしない。ゲームは終わり。俺の負けだ。打ちのめされたような最悪の気分で車を走らせた。翌朝、疲れた身体に鞭打つように出勤する為に車に乗り込んだ。すると、かおるからもらった沖縄の写真がCDケースに挟まれているのに気付いた。暫く写真を見つめていると、なんだかかおるの事は憎めないな、と思えてきた。スーツのポケットに写真を入れてエンジンをつけた。会社に着くと俺は写真をデスクの引き出しにそっとしまった。昼休みに引き出しから写真を出して眺めていると、後ろから女子社員が声をかけてきた。「きれいな写真ですね。どこですか?」びっくりして振り返ると一つ後輩のの田口だった。時々彼女の方から話しかけてくる。「んん。沖縄。」「行ったんですか?いいな~。沖縄好きなんですよ。」と本当に羨ましそうな言い方をする。「いや、これ貰ったの。」「そうなんですか。きれいですね。ここに貼っておいたら?」と写真をPCの画面の端っこにペープで止められてしまった。「いつでも眺められますよ~。また見に来させてくださいね。」と言って田口は去っていってしまった。まったく・・・と思っているとポケットの中の物の振動を感じた。もう一つの携帯にメールが来たのだ。ーかおるからだー咄嗟にそう思って携帯を取り出した。送信者はやはりかおるだった。昨日の夜景は本当に素敵でした。でも、ちょっと遠かったですね。今度はもう少し近いところに連れて行ってくださいね。今日はお仕事?身体は大丈夫ですか?正直、私はちょっと辛いです。(笑)また電話します。 かおるメールが来たことが信じられなかった。しかし、女ってものは昨日の出来事をどう考えているのだろうな。男の気持ちを知ってか、知らずか・・・。しかし、俺からの連絡はせずに待っていよう、そう再度心に決めた。そして、その夜かおるから電話がかかってきたのだった。 <つづく>続きが読みたい・面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!↓人気blogランキング時々、もの書きってSが多いんじゃないかしら?と思ってしまう。(笑)何となく言っている事わかりますか?このシリーズダラダラと続いてしまっています。これ、いつになったら終われるんだろうか・・・。このお話が終わったら中休みで違う短いお話にしようと思ってます。
2005/12/18
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車の中と言う密室で2人は無言のままでいた。俺は暫く進んだ先で、どうしても歯止めが利かずに車を道の脇に止める。そして、シートごとかおるを押し倒す。彼女がもがこうと、どうしようと俺は止まらない。先へ先へとどんどん進む。最初は嫌がっていても、女はそのうち受け入れる。無言の間、俺は危険な妄想を膨らませていた。軽く頭を振ったのがおかしく映ったのか、「どうかしたの?」とかおるに聞かれた。「ちょっと疲れたみたいだ。」「大丈夫?ちょっと休憩する?」そう言われて大通りの脇のコンビニの駐車場に車をとめた。さすがに夏だからか喉が渇く。ペットボトルのスポーツ飲料を半分くらいまで一気に飲み干した。かおるもかなり勢いよくお茶を飲みながら大通りを流れていく車達を見ていた。そろそろ行こう、と手招きすると助手席にかおるは乗り込んだ。さっきの妄想が頭を過ぎる。手を伸ばせば触れることが出来る。しかし妄想を打ち消してエンジンをかけた。かおるは案外ポーカーフェイスで掴み所が無い。だから、それ以上踏み込む事が出来ない。お互いに受け入れてもよいと言う雰囲気があれば、とっくに迷わず押し倒してキスをしているだろう。そして、何も言わずにラブホに車を入れても、そんな雰囲気があれば大丈夫なのだ。深夜の街で拾う女はその点が楽だ。だが、かおるはそんな女とは違う。調子が狂う・・・。道のりはまだ長い。とにかく帰らなければ。ギアに手を置いた瞬間、かおるの柔らかい手のひらの感触を感じた。「顔色悪いよ。本当に大丈夫?」と心配そうな瞳で俺を覗き込んでいた。心配してくれるかおるが無性に愛しく感じて2度目のキスをした。かおるは、最初はそんなつもりは無い、と言うように軽く抵抗したが、次第に身体の力も解け俺に応じるように積極的になってくれた。今度は長いキスだった。だが、ここが駐車場と言う事を忘れてはならない。妄想のようにシートは倒さなかった。「キスしたから、疲れも吹き飛んだ。」俺はそう言って車を走らせた。通りに何軒かラブホが見えた。突っ込んでやろうかと思ったが、まだ奈良を抜けていないここでは遠すぎる。一応、明日の事なども頭にはしっかりあった。俺もかおるも明日は仕事だ。基本的に真面目な性格が何だか恨めしく思えて仕方が無かった。そして、「あぁ・・・やはり無謀な事をした」、とここで本当に後悔した。唯一、腹痛が起こらないのがせめての救いだ。このまま起こらなければいい。俺達はあれからずっと黙って奈良を抜け、もうすぐ三重も抜けようとしていた。夜の道は思ったよりも空いていた。それに、この沈黙にも慣れてしまった。かおるは窓の外を眺めていて、何を考えているのかはサッパリ見当が付かないが、少なくとも俺の事は嫌いでないことが分かった。明日はホテルから出勤なんて事もあり得るかもしれない。などと、ぐちゃぐちゃと色々な事が頭の中を駆け巡っていた。名古屋と言う標識が現れてやっと帰って来たとほっとする気持ちになった。「やっと、帰って来たって感じだね。」思ったとおりの言葉を出してみた。かおるもほっとしたのか「奈良はやっぱり遠いね。」と言った。長く無謀なドライブが終わろうとしていた。名古屋市内に入ると、もう11時を回っていた。何となく晩飯のタイミングも掴めず、名古屋まで何も食べずに来てしまった。「何か食べに行く?」と一応聞いてみると「ううん。もうこんな時間だし。何故かあんまりお腹すいてないから。このまま帰るわ。」かおるの頭の中ではあくまでも帰る事の様だった。ホテルはどうも残念な事に行けないようだ。「やっぱり、顔色悪いわ。早く帰って身体を休ませた方のがいいと思うわ。」心配そうにまじまじと俺の顔を見つめてそう言った。「そんなに心配なら、もう一回キスして。」とおどけて言うと「馬鹿!」と大声をあげて怒った。かおるは真剣に思っていたらしい。「ごめん。でも、本当に大丈夫なんだ。きっといつも顔色悪いんだよ、俺。でも、どこも悪い所なんて無いから。」どこまで騙せるのか分からない嘘を付く。「安城まで送っていくよ。」「本当に大丈夫なの?」「大丈夫。」そこまで言うと納得したのか「じゃ、悪いけど送ってもらいます。」と言った。「どうして、どこか悪いのかと思うの?」ちょっと怖かったが探るように聞いてみた。「患者さんの顔色と似てたから。こんな日でもそんな事思っちゃうなんてね。」と、かおるは舌を出した。「俺は今まで一度も入院なんてした事無いよ。」また嘘をついた。どうせ、俺の病気なんて一目では分からないんだ。これくらいの嘘をついたって、多分大丈夫さ。いくら何でも俺がクローン病だなんて思わないだろう。そう、自分に言い聞かせる為の嘘でもあった。夜の道はさすがに空いている。もうすぐ三河安城の駅に着きそうだ。このまま本当に一人で帰らなければならないのだろうか?そんな言葉が頭の中でぐるぐる回り始めた。 <つづく>面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキングちょっと話がグダグダになってきました。なかなか思うように進まないです・・・・・。
2005/12/08
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みなさん、 でしょうか?そんな風に毎日過ごせていたら幸せです。最近、子供に関する事件が多いですね。物騒な世の中です。今書いているお話以外にも、いろいろ頭の中にあるのですが、平行して書くのは出来ないみたいです。そんなことやったら、気が狂うね・・・。多分。プロの物書きじゃないし、そんな追い詰めなくたっていいしね。で、最近とっても怖いお話を思いつきました。どうしても書きたい描写がエグイ。こんなの書いてもいいんかなぁ・・・と思っています。いつか書くかもしれません。とりあえず温めておきます☆
2005/12/06
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途中、給油したり、膝よりも少し高いくらいのひまわり畑を見つけて休憩したりで、目的地の生駒山の入り口に着いた時には薄暗くなっていた。長いドライブだったが、お互いに飽きる事も無く、沈黙さえも心地よいと少なくとも俺は思っていた。「何て読むのかしら?」看板に「ようこそ生駒へ!」と書いてあるのがかおるには読めないらしい。本当に来た事が無いと分かる。「いこま、って読むんだよ。」「ふーん・・・。」と言ってかおるは通り過ぎていく看板を見ていた。生駒山には「スカイランドいこま」と言うちょっとした遊園地がある。もう少し明るかったら、そこで少し遊んでもよかったのだが予想以上にここまで来るのに時間がかかった。夜はこの辺では夜景スポットとして有名だ。「今まで夜景で一番綺麗だった所ってどこ?」やっとここで俺は聞いてみた。「夜景かぁ・・・。」とかおるは暫く考えて「多度山かな。三重県のね。」「多度か。あそこも綺麗だよね。だけど、ここの夜景のがすごいと思うよ。」そんな俺の態度がかおるには自信あり気に写ったようだった。「自信満々ね。」夜景を見るにはまだ少し早いので頂上まで行って車を止めて外の空気を吸う事にした。駐車場には誰もいなかった。「気持ちいいね。」そこにはちょっとしたジャングルジムのような遊具があり、かおるはするするとその頂上に登って言った。俺も登ってかおるの隣に座った。「ここからはね、大阪と京都、ぐるっと向きを変えると奈良の夜景が見渡せるんだよ。凄く綺麗な夜景で、君に見せたかったんだ。」俺の右側にいるかおるは腕に頭を寄せて「ありがとう」と言った。暫く俺は動けなかった。2人で黙って灯かりが燈りつつある街を見つめていた。「そろそろ場所変わろうか。」最初に声を出したのは俺だった。かおるはコクンと首を小さく立てに振るだけの返事をした。少し下った所に京都・大阪方面が見れる場所があったはずだ。おぼろげな記憶を頼りに車を走らせると、車2台がやっと停めれるくらいのスペースを見つけ車を止めた。あたりは暗くなり、そろそろ車の数も増えてきた。いい場所は早い者勝ちだ。早く停めなければ、ここまで来た意味が無い。のろのろしていると、週末のラブホのようにいつ空くか分からない場所を待っていなければならなくなってしまう。車を止めた瞬間、眼下に息を呑むような光景が広がっていた。まるで、宝石のように眩い光を放っている。まさに光の海だった。何度見ても綺麗だ。初めて見るかおるは言葉にならないようで暫く見入っていた。「すごく、綺麗。初めてこんな夜景見たわ。」「多度よりもすごいだろ?」「今日からここが夜景No.1だわ。」かおるの頬は宝石箱を開けたお姫様のように微かな光を浴びて輝いているように見えた。俺は反射的にかおるにキスをした。後々思うと反射的にと言う言葉が一番ぴったりだ。何も考えていなかった。ただ、その横顔が愛しくてキスしたかったのだ。軽く触れた唇なのに、長いこと唇を重ねていたような錯覚がした。唇を離した後、かおるは下を向いてしまった。きごちない空気を感じて「そ、外に出てみる?」と促すとかおるは頷いてドアを開けた。車の前の柵に両手をついて俺は無言のまま夜景を眺めていた。かおるの反応が気になるが、俺は変に謝ったりしない。そんな事を考えていると。左手にそっとかおるが手を置いてきた。俺はかおるの顔を見て手を握った。そしてお互い何も言わずに光の海を長いこと眺めた。今度はかおるが口を開いた。「そろそろ車に戻りましょう。」車に戻るとかおるは腕時計を見て時間を気にしていた。「今日は帰らなくちゃ。」そう言って俺の顔を真正面からじっと見て言った。俺の下心を見透かされているような透き通った瞳だった。「そうだね。」車のエンジンをつけた。また、ここへ来られるだろうか?一瞬センチな気持ちが俺の身体を駆け巡った。来た道を戻る。「遅くなるけど、大丈夫?」「大丈夫。」かおるの態度には困惑するばかりだ。O.K.なのか、OUTなのか判断しかねる。寄り添ってきたかと思えば、拒絶されているような気もしてくるし。何だかこんな事を思っている自分が情けなくなって来た。それに、さっきキスをしてしまってから、どこかで歯止めがきかなくなりそうな気がして、そんな場面を想像すると恥ずかしく思ったりする。そして、俺ははっとした。俺はかおるに恋しているんだ。俺は本当にくだらないひとりよがりのゲームにこの時負けたのだ、と気付いたのだった。 <つづく>面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/12/06
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☆材料☆クレーム・ド・キョホウ 30mlカンパリ 20mlレモンジュース 10mlトニックウォーター 適量サントリー カクテルアワード 2004 ロング・カクテル部門 最優秀賞受賞なんだって。
2005/12/06
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車で走り出して数分、かおるは窓の外を見ていた。「座ってて疲れない?」かおるがこっちを向いた。「運転してる方のが疲れるでしょ。私は乗ってるだけだから。」「いや、長いドライブは座ってるだけの方のが疲れるんだよ。」と言うと大丈夫、とでも言うようにかおるはニッコっと笑った。「切ない胸に風が吹いていた」が流れてきた。この曲は聴いているとまるで俺の事の様に思える。明るい曲調なのに一人で聴いて泣いた事もあったりする。しかし、そんな事誰も知らない。鎮静剤が効いたのか、思い過ごしだったのかあの嫌な感じは出てこず、調子もまずますだ。しかし、ここまで来て生駒に行こうと思った事を少し後悔した。やはり遠い。まだ三重を出ていないし、行って帰って来るにしても夜中になってしまうだろう。かおると長くいられるのは嬉しいが、俺自身、体力的にきつくなりそうだ。そんな事を思うとだんだん気が重くなってきた。「ねぇ、哲也さん。一番行きたい場所ってどこかある?」唐突な質問だった。一番行きたい場所・・・・。「俺、あんまり遠くまで旅行とかしたこと無いんだよ。日本だって北海道も沖縄も行った事ない。」病気で入退院を繰り返しているのだから仕方ない。心の中で独りつぶやく。「そうなんだ。」かおるはそんな事は知らず何の詮索もない短い返事をした。「行きたい場所はいろいろあるけど、沖縄に行ってみたいかな。なんか、みんな長生きで健康そうじゃん。」「ほんと?」また、かおるの顔が輝き始めた。「今、すっと頭に浮かんだのはね。かおるさんは、どこか行きたい所あるの?」「私も、私もなの。沖縄行きたいんです。」「どうして?」かおるはふふっと笑って「今までも数回、行った事あるんだけどね、すごく海が綺麗で浅瀬でも綺麗な熱帯魚が足元にやってくるんですよ。以前行った時は、今日みたいな暑い夏で、地図で調べて穴場の海岸へ行ったら恋人同士なのかは分からないけど、男の人と女の人が2人でダイビングしていて、だんだん海水に沈んでいくのをずっと見てた。その姿が何故か印象に残ってって、私も沖縄の海の中を見てみたいな、って思うようになったんです。」「へ~。」ダイビングか・・・。俺の身体じゃ無理だなぁ。「それから、夕焼けがすごく綺麗だった。オレンジからピンクに変わるグラデーションで今までに見たことのある中で一番綺麗だった。笑っちゃうのが、その写真フィルムを現像に出す前に失くしちゃって最近見つかったんです。実は今朝取りに行って電車の中で見てたんです。サザンの曲聴いてたらまた思い出して、沖縄行きたいなぁ・・・って思いました。」「そうなんだ。俺もその写真見たいなぁ。」素直な気持ちで言った。「いいですよ。」かおるは言った。適当な場所で少しずつ休憩を取りながら目的地へ向かう。コンビ二の看板が目に入ってきたので、かおるにお茶でも飲もうと言って右折してコンビ二の駐車場へ入る。さっきの食事をおごってもらったから、とかおるが飲み物を買ってくると言ってコンビニに入っていった。かおるは俺が頼んだお茶を2本買って出てきた。お礼を言ってゴクゴクと喉に流し込むように飲んだ。一息ついてかおるがバッグから写真の袋を取り出して中から1枚を俺に渡した。俺の目は一瞬でその写真に釘付けになった。果てしなく続くような水平線。夕日で染まったピンク色の空は水平線に近づくにしたがってオレンジ色に変わっている。よく見ると水平線の少し上には小さな面白い形の雲がいくつも並んでいてアクセントになっていた。こんなきれいな夕焼けは実際に見たことが無かった。1枚の写真でこんな感動するとは思ってもいなかった。予想外の展開だった。「とても綺麗だね。本当に綺麗だ。」「でしょ。写真ってすごいよね。見ただけで、シャッター押した時の気持ちや、あの時の空気や、風や、温度なんか思い出したわ。でもね、この写真見るまでこんな綺麗な風景だったのに忘れてたの。そんな自分がちょっと悲しかったわ。」俺はこの写真に嫉妬した。いや、写真ではなくかおると一緒にこの景色を見た男にだ。かおるのバッグの中の残りの写真にはきっと元なのか、現なのかは分からないが恋人と一緒に写っている写真が入っているのだろう。なんて心の狭い奴なんだろうと思われようと仕方ない。暫く写真に見入っていたのでか、「この写真あげようか。」とかおるが言ってきた。「でも、大切な写真なんだろ?」「焼き増しすればいい事だし。あげる。」そう言われたので「ありがとう」と言ってもらうことにした。やっぱり、かおるとあの夜景を見たい、と言う気持ちが急に強くなってきた。今までの弱気な考えはどこかに行ってしまった。俺はこの時、かおるの記憶に残して欲しいと思った。俺が勝手に思っていた馬鹿馬鹿しいゲームもどうでもいい。ただ、この人に俺の存在をこの沖縄の夕焼けの写真のように残して欲しいと思った。いつか忘れてもいい。だけど、かおるのどこかに俺を住ませて欲しいと思った。また新たな気持ちでエンジンをかけた。 <つづく>面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/12/01
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☆材料☆ドライシェリー 45mlスイート・ベルモット 15mlオレンジビター 1 dash アドニスとは「ギリシア神話に登場している美少年の名前」なんだそうです。
2005/11/30
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ブログの雰囲気に合わせてカクテルレシピを始めました。少しづつUPしていきます。小説ももちろんUPしていきますよぉ♪
2005/11/29
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☆材料☆ドライ・ジン 30mlドライ・ベルモット 15mlグレープフルーツジュース 15mlマラスキーノ 3dash 口当たりの良いさわやかなカクテルです♪Barで注文してみてね。
2005/11/29
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日曜の朝を迎えた。体調は悪くない。あの後かおるに、遠出とはどこに行くのか?と聞かれたが内緒と言って行き先は伝えなかった。俺自身、本当に行けるのか分からなかったし、当日の体調次第で行き先を変えればいいだろうと思っていた。これなら行けるだろうか?自分に問いかけてみても結果は分からない。朝はすこぶる快調だと思っていたのに、急に激痛にやられた事も過去にはあった。そんな事を考えると、伊勢にしようか、生駒にしようか決めかねた。最悪、内海くらいでもいいと思っっているのも確かだ。もし途中で症状が出たらどう言えばいいのだろう。誤魔化せれるのだろうか?見破られるのだろうか?その時はそんなことどうでも良くなっているかもしれない。行き先の決まらぬまま、待ち合わせの名古屋駅へ向かった。タクシー乗り場のロータリーに入るとすぐかおるが見つかった。かおるはまだ気付いていないようだったのでクラクションを鳴らして手を振ると、俺の車まで小走りに寄って「おはよう」と言うと素早く助手席に乗った。「おはよう」俺も言葉を返した。「どこに連れて行ってくれるのかしら?」かおるの瞳は期待に満ちていたが、赤く充血していた。やはり昨日何かあって泣いていたのだろう。しかし、それ以上追求する事は止めた。誰にだって踏み込まれたくない領域を持っている。そんなかおるを目の前にして俺は生駒に行く事に決めた。「俺のお勧めの場所に連れて行くよ。」そう言うと「まだ内緒なの?」とやや不貞腐れたようにかおるは言った。「じゃ、ヒント。鹿。」「鹿?」「そう。鹿って言ったら?」「な、奈良?」「そうそう。」かおるはじっと俺を見て「大仏?」と言ったので笑いながら「違うよ。」と俺は言った。「奈良って修学旅行くらいでしか行った事ないわ。吉野の桜は一度見に行きたいと思っているけれど、今は夏だし・・・。よく行くの?」「たまにね。」「でも、遠いよね。奈良って。」「ちょっと遠いかな。行けるかどうかわからないかも。」と言うとかおるは不安げな顔になった。「数年前に行ったきりだから、道ちゃんと覚えてないんだよ。途中で地図を見るかも。」と付け足すと納得したようだった。「この曲サザンだね。夏っぽい。」そう言えば車の中にはサザンしか入れてなかった。「かおるさんはどんなの聴くの?」「私?・・・どっちかって言うと洋楽派なんですよ。哲哉さんは洋楽は聴きますか?」「聴かない事ないけど、あんまり詳しくないよ。FMにする?」「ううん。このままでいい。」ずっとサザンの曲をBGMにいろいろ話は続いていった。三重県に入った所で適当な店で昼食をとることを提案するとかおるも賛成した。店も分からないのでファミレスに入ることにした。かおるはカルボナーラを、俺は冷やしうどんを注文した。健康な人は羨ましいと思う。カルボナーラもご無沙汰だった。普段なら自分が食べたくても食べれないものを食べているのを見ていると、とても苦痛に思うのだが、かおるは美味しそうに食べていたので、見ているだけ満足してしまった。俺もゆっくりとうどんを食べた。少し残したのをかおるが見て「哲哉さんって少食なんですね。」と言うのに少しビクっとなったが、「最近、夏ばてしててね。」と言い返すとかおるは「私、夏ばてってしたこと無いんですよ。だから太っちゃうんだぁ。」と悔しそうに言った。「夏ばてなんてしない方がいい。健康なのが一番だよ。それに、かおるさんは太ってなんかないしね。」と俺が言うと少し顔を赤らませて「ありがとう。」と言ったのがかわいかった。トイレに行くから先に車に行っていて、と言って車のキーをかおるに渡した。食後からどうも腹の調子が変なのだ。シクシクとする痛みを感じる。今ここで症状が出たらやばいな・・・。暫く席を立たずにポケットの鎮痛剤を右手で確かめて、まだ早いかもしれないけど飲む事にした。かおるは行儀よく助手席にちょこんと座っていた。「待たせてごめん。じゃ、行こうか。」とエンジンをかけた。 面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/11/29
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料理もデザートが出て腹も満足した。デザートをかおるにあげると、もう食べれない、と言いつつ嬉しそうだった。時計はまだ7時半を指していた。夏の夜はこれからと言う感じだ。いい雰囲気だから、恋人同士だったら行く場所は決まっているだろう。だが、まだだ。誘ったらきっとかおるは断るはずだ。今週末にも会う約束をしているし、その時に落とせるなら落ちるだろう。俺はいやらしい計画で頭が一杯になっていた。「7時半ですね。まだ早いですよね。この後どこか行きます?」かおるがぽつりと言った。一瞬俺は耳を疑った。この言葉はどう捉えればいいのだろうか。誘ってO.K.なのか?いや、そんな簡単な女じゃないだろう。しかし、大抵の女は・・・。いや、よそう。そうだ、馬鹿馬鹿しい。思い違いだ。「まだ時間は大丈夫だけど。じゃ、カラオケとか、ボーリングとか・・・。どこか行きたい所ある?」なるべく当たり障りないように聞いてみた。すると「やっぱり・・・帰ります。」とかおるは言った。女心はやはり分からないものだ。店を出て名駅に向かった。セブン前のナナちゃん人形を通り過ぎ、名鉄を通り過ぎた所でかおるが口を開いた。何となく無言のままここまで歩いていたのだった。「今日は楽しかったです。」「俺も。」そのまま2人はじわじわと額に浮き出る汗を感じながら歩いた。かおるはJRなので、いいと言われたが改札口まで送った。「今度の日曜日楽しみにしています。今日はありがとう。」別れ際にそう言うと言葉は無かったが笑顔で手を振るかおるの目が輝いたように見えた。そして俺も地下鉄の入り口へと向かった。今日の名古屋駅に寂しさは感じなかった。家に帰ると今日は両親の方が早く帰っていた。「おかえり。哲哉。ご飯は?」と母に聞かれると「食べてきた。」と言って自分の部屋に直行した。俺は今日の出来事を考えていた。かおるはもっと俺と一緒に居たかったんだろうか。普通に考えてやはり・・・。ミスったのだろうか、俺は。でもいいじゃないか、日曜日がある。日曜日の計画を立てなければ・・・。「山にドライブ」だったよな。最近体調もさほど悪くはないし、ちょっと遠出も出来るかもしれない。伊勢方面へ行くのもいいかもしれない。パールロードや伊勢志摩スカイラインなんか走るのもいいかもな。本当は一番好きな場所は奈良県の生駒山だ。特に夜景が綺麗だ。京都、大阪、奈良の夜景がぐるっと見渡せる。意外にも今までに女と行った事は無い。別に自分にとって大切な場所と言うわけでもない。ただ、どうしようもなく気持ちがむしゃくしゃする時、あの夜景を見るとスッとするのだ。だが、体調の良い時でなければ俺にとっては遠くて行けない。今のこの調子なら行けない事も無いかも・・・と頭に過ぎった。もしも、行けるなら行ってもいいだろう。そう頭にインプットして土曜の夜を迎える事になった。数日開いてかおるに電話する事に、俺は少し緊張しているようだった。その間、お互いに電話もメールも無しだ。かおるからメールぐらい来るだろう、と思っていたのだが、実はあまり脈が無いのかもしれない。と、何だかがっかりした。どうした事だ。最近ナイーブじゃないか。かおるにイカレちまったのか?もう一人の俺がせせら笑うように現れて、ゆっくり消えていった。馬鹿馬鹿しい。そんなに俺はすぐ熱くはならないんだ。なんとも無かったように携帯からかおるを探してコールする。5回コールでも出ない。ほんの数秒なのにイライラする。7回目で繋がる。「も・・・しもし。」かおるの声が震えていた。「もしもし。かおるさん?」「こんばんは。」すごい鼻声だ。「どうしたの?今、大丈夫?」「ごめんなさい。大丈夫。」もしかして「泣いてた?」一瞬の沈黙があってかおるが答える。「何でもない。大丈夫。鼻炎症なの。」何だか強がりに聞こえた。「ねぇ。もう一度聞くけど、泣いてた?俺でよかったら聞くけど。」「ううん。違うの、ほんと。」そう押し切られてそれ以上は聞けなかった。「明日、大丈夫?」「うん。」俺は一瞬考えて「明日、ちょっと遠くまでドライブしよう。」そうかおるに言っていた。 面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/11/27
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う~とっても久しぶり・・・。書いてる本人もどこまで書いたか忘れていました。って事で久しぶりに続きを書いてみました。ヨロシク☆~本編はここからです~もうすぐ5時になろうとしている。昨日感じた嫌な腹痛は出現せず、普段通りに仕事を終えれそうだ。5時まであと5分。時計を見る回数が増える。昨日かおると会う約束をしたのだ。彼女はもう名古屋に来ているんだろうか。5時きっかりにソワソワと身支度をし、席を立ってエレベーターへ向かう。俺の職場は名古屋駅から5分ほど北へ歩いた所のビルの8階にある。地元ではそこそこ名の知れた建築関係の会社の事務をしている。ここの会社の人事担当の山田さんとは父親と知り合いで、病気の俺を心配した親父の計らいで入社出来たようなものだ。俺も自分の力だけではどうにもならないだろうと、父の力を素直に借りた。山田さんは入社し間もない頃は時折気遣って様子を見に来てくれたりした。とても人間味があり、優しさに溢れた人だ。エレベーターを待っていると後ろから肩を叩かれ、無防備だった俺はびっくりした。振り向くと山田さんだった。「お、お疲れ様です。」反射的に俺は言った。「お疲れ様。元気にやっているかね?」元気にとは遠まわしに俺の体調の事を言っているのだろう。会社で俺の病気を知っている人はそう多くは無い。「お陰様で。何とか持ってます。」2人は世間話をしながら名古屋駅に向かった。山田さんはJRで俺は地下鉄なのでタクシー乗り場のターミナルの真ん中で別れた。別れ間際に「今日は何かいいことでもあるのかい?」と山田さんに言われてドキッとした。「顔に書いてあるぞ。」と言うとふふふと笑いながら去っていってしまった。不意打ちの言葉に俺はろくに挨拶もせず山田さんの背中を見つめて暫く突っ立っていた。さて・・・・。ポケットから携帯を取り出した。かおるに電話する。5回コールしても出ず、なんだかモヤモヤした気分になった。6回目のコールで繋がる。「もしもし。哲哉ですけど。かおるさん、今どこにいますか?」「実はまだ栄なんです。すぐそちらに向かいますね。」「いや、俺がそっちに行きますよ。」「いえ、私が行きます。本当に直ぐ行きます。」と言って電話が切れた。何なんだ?と思っていると右肩をトントンと叩かれてびっくりした。振り返ると2重に驚いた。「こんばんは。」とあっけらかんとした顔でかおるが立っていたのだ。「あれ?栄じゃなかったっけ?」一瞬パニックになった。「実は名駅にいたんです。確か職場が名駅の近くって言ってたな~と思って。で、ふらふらしてたら、哲哉さんを見つけたからちょっと驚かせてやろうと思ったんです。」と言って舌をぺロッと出した。やっと状況が飲み込めて脱力したが、かおるを憎めず、お互いの顔を見合わせて笑った。「何か食べたいものある?」と早速聞いてみた。「う~ん・・・。パスタもいいけど。洋食のレストランもいいな。」パスタに洋食か・・・。ちょっと簡便だな。もっとお腹にマイルドなものが俺はいい。「でも、やっぱりサッパリとした和食が一番好きかな。」得意分野だ。それ行こう。「意外だね。和食なんて。」かおるはにっこりして「ヘルシーでいいんですよ。」と言った。「じゃ、和食系に行こう。お酒は飲める?」ううんと頭を振っている。「じゃ、食事メインで行こうか。俺も飲めないから。」と言うと「え~意外ですね。」と驚いていた。本当の事だ。かおるは本当はどうかは分からないけど。名古屋のお店は詳しくない、と言うので俺のナビで駅から歩いて数分の豆腐料理専門店に入った。座個室の座敷があって落ち着いた雰囲気だし、値段もそう高くは無い。店に入るとまだ時間が早い為か客はまだまばらだった。奥の個室に案内されようやく落ち着いた気分になった。2人とも同じコースの料理を注文した。「今日は急な約束だったのに、来てくれて嬉しいですよ。」「実は暇な女だと思われていたりして・・・。」とかおるは言ったが声に影は無かった。「こんな俺に付き合ってくれて寛大で暇な人だと思っていますよ。」と言うと2人でクスクス笑った。「こんな俺だなんて思っていませんよ。」「そうですか?俺こそ胡散臭い奴だと思われているかと。」「思っていませんよ。」そんなやり取りで楽しく時間が過ぎて行った。たわいのない事なのだろうが、何故かかおると話していると笑いが絶えなかった。久しぶりの感覚なのかもしれない。しかし、心の奥底では冷めている俺をまだ感じている。これがゲームだと言う事を俺は忘れてはいなかった。 面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/11/24
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俺は目が覚めると、点滴や心電図モニターに繋がれて病院のベッドに横たわっているのに気づいた。尻は、何だか変な感触がする。手探りで触ってみると紙オムツを履かされているのが分かった。俺は、一体どうしたんだ?死んでなかったのか。一気に安堵する気持ちが湧き上がった。病室の端に簡素なポータブルベッドで眠っているユリコが目に入った。俺はベッドから降りてユリコの頭に手を添えた。すると、慌しく看護師がバタバタとやって来てユリコは目が覚めた。「せ、先生呼んで来て。」一人の看護師がそう言うと後ろの看護師はバタバタとナースステーションに走っていった。「あなた。意識が戻ったの?」ユリコは瞳に涙を浮かべて夢でも見ているような顔で言った。「凄く、気分がいい。」俺がそう言うとユリコは笑った。退院してから1ヶ月が経った。俺は、2ヶ月前、断末魔の悲鳴をあげて書斎で倒れていたのだそうだ。倒れた日は、俺にあの現象が起きて丁度1年目の日だった。目は白目を向いて、脈拍も弱く、とても危険だったそうだ。それから1ヶ月俺の意識は戻らずに、このまま植物状態が続くのだろうかとユリコは不安で仕方なかった、と退院してから何度も聞かされた。俺は、あの時死んだのだと思った。でも、生きている。出版社との1年契約は切れたが、本の売れ行きがあまりにもいいので、もう1年契約をしないか、と何度か誘われた。だが、あれ以来俺に文字は降らなくなってしまった。まるで魔法が解けたように、さっぱり、きっぱりと、だ。担当だったあの男も何度も見舞いに来てくれたそうだ。退院してからも、何度も来てくれた。そして、何度も小説を書いてください、と俺に言った。俺は、暫く作家活動はしない、と言って断り続けた。最後に「先生。私はあなたのファンです。処女作からずっと、全部読んできました。いつまでも先生の書いた話を読みたいのです。私は活字中毒なのです。いつか、また書いてくださいね。」と、言って笑って去っていった。俺は、今頃になって自分が書いた小説を読んでいる。読書など興味の無かった俺だが、読み始めるとぐいぐい引き寄せられる。読みたい、と言う気持ちが分かった。だなんていうと可笑しいが、本当の事だから仕方ない。俺はたった1年のうちに信じられないほどの小説を書き上げていた。そして、どれも売れて今や印税生活だ。もうあくせく家族のために働かなくてもいい。あんな思いはもう二度と嫌だけど、こんな生活が出来るのだから良かったかもしれない。「あなた~。ごはんよ~。」下からユリコが呼ぶ声が聞こえる。俺は幸せだと思う。あの占い師の占いは当たっていたのかな、などどぼぅっと思ってしまう。そして、俺は今みんなには秘密にしている事がある。俺は、今、俺の言葉で小説を書き始めている。俺の力で書いてみたいと思った。内容は?って?そんなの秘密さ。すごく面白い話が浮かんでいるんだからな。誰かに教えたらまずいだろ。もし、店頭に並んでいたら是非読んでみてくれよ。いつになるか分からないけど。俺も、本当の活字中毒患者になっちまったようだ。 <おわり>面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/11/21
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俺に文字は天から降り続けた。パソコンの画面から飛び出るように、ある時は頭の上から2重螺旋が解ける様に、雨のように、ホログラムが浮かび上がるように、慣れればその現象は美しいとさえ思えるのだ。ゲームに熱中するように俺は文字を来る日も来る日も拾い続けた。そして、本を出し続けた。出して出して出しまくった。こんな短期間にこんな数の本を出した人間などいないだろう。1冊目からのファンはついて行くのに大変だと言う。それでも、この異例の速さでの出版は話題になり、次々と興味を持った人が読んでくれるのだ。こんな噂も流れ始めた。あの作家はゴーストライターを何人も雇っている、とか、授賞式に来た人物はダミーで実は複数の作家が裏で共同して作り上げた作家だ、とか。これだけ注目されれば妬み、僻みは当たり前だ。だけど、俺は一人しかいない。俺はこの世でただ一人。文字を拾う作家だ。作家とは言えないかもしれないが、俺にしか出来ない事をしているのだ。そんな優越感を持ち始めていた。「あなた、食事よ。」ユリコが晩御飯を書斎に運んできてくれた。「ありがとう。」「また今夜も降ってくるのかしらね。」ユリコは心配そうな顔で言う。「何、心配しているんだよ。俺は、この状況を楽しんでいるんだぜ。大丈夫だ。」「身体だけはしっかり休ませてね。顔色悪いから。」そう言うと子供達の居るリビングへ行ってしまった。鏡を見てみると確かに顔色が悪い。でも、常に興奮状態にあるような俺の精神は身体の疲れなど気にしてはいなかった。そして、深夜がやってきた。やはり、予感がした。俺はパソコンを開いて待つ。画面から大きな渦のように文字が現れた。思わずその渦に飲み込まれてしまいそうな感じがした。いつもと違う、そんな嫌な予感がした。その文字の渦は俺を飲み込むように広がった。見たことは無いがブラックホールのようだ。どこか違う次元に引きずり込まれそうだ。助けを求めたい情動に駆られるが、目を反らそうにも金縛りにあったように身動きが取れない。あぁ、このままでは大変な事になる。けれど、どうにもならない。助けてくれ。俺を、解放してくれ。声に出ない心の叫びは誰にも届かない。俺の目は意思に反して文字を捉え指でキャッチする。果てしなく続く行為。朝方になっても、昼になっても止め処なく続いた。ユリコが俺の異変に気づいたのは午後2時。いつまで経っても起きて来ないのを変に思い書斎にやって来たのだ。「ねぇ、あなた。まだ終わらないの?」俺の肩をさすって言う。顔を覗き込むとユリコは悲鳴を上げて遠のいた。「あなた、どうしたのよ?一体どうしたのよ。パソコンから離れて。もうやめて、やめて!」無理やり放そうとするが俺は石のように重く固かった。俺の指はひび割れ、キーボードは血が滲んでいる。俺の充血した目からは涙が流れ、悲痛な表情をしているに違いなかった。「分かったわ。私が変わりにタイプするから。」ユリコがそう言うと俺は力が抜けぐったりとキーボードの前に倒れこんだ。俺は両親に事情を話し子供を預かってもらった。両親は怪訝そうな表情でベッドに寝ている俺を見ると子供を連れて行った。ユリコがパソコンの前に座ると俺は眠りながら寝言を言うように物語の続きを話し始めた。それをユリコはタイプしていった。5時間が過ぎた。俺は目が覚めるとのどがカラカラだった。何か飲みたいが、口から次々に言葉が出て何も出来ない。ユリコにアイコンタクトで俺と変わるように合図する。椅子に座ると小さな文字の渦が現れた。もしかして、もうすぐ終わるのか?そんな期待をしてしまう。「ごめん。なにか冷たい飲み物持ってきてくれないか?」フラフラになりながらユリコは「分かったわ。」と言ってスポーツ飲料を大きなコップにストローを差して持ってきてくれた。多少は体力も回復した。また俺はキーボードを叩き始めた。「ユリコ。小型のテープレコーダーを買ってきてくれないか。」「わ、分かったわ。」そう言ってユリコは家を飛び出した。30分程でユリコは帰ってきた。そして小さなレコーダーを俺の前に置いた。どうやら手を休めると声になって文字が出てくるらしい。ならば録音すればいいのだ。そして、2日録音したり、キーボードを叩いたり繰り返し続いて、やっと最後の読点が飛んできて終わった。今回の事で、俺とユリコは危機感を感じていた。「ねぇ、あなた。あの占いの館にもう一度行ってみましょうよ。」「そうだな。あの占い師にもう一度会いたい。」レコーダーをポケットに入れて俺達は3年前に行った占いの館に向かった。3年前と変わっていない入り口はゲーセンの音で相変わらずうるさかった。そしてエレベーターで地下へ下りる。受付で水晶占いのあの占い師に占って欲しいと言うと、意外な答えが返ってきた。「あの、もうあの先生はお辞めになられまして・・・。」「えっ?!」俺達は同時に叫んだ。「そんな・・・。じゃ、今はどこに行けば占ってもらえるのですか?」ユリコが必死な感じで受付の女に聞く。「さぁ・・・。辞められてからの連絡先は分からないんです。」と困った顔で受付の女は答えるだけだった。無駄足を踏んだだけだった。もう一度あの占い師に会って、俺はどうなってしまうのか聞いてみたかった。あの占い師なら答えを知っていると思った。俺は、何だか見放された惨めな気持ちになった。あの日から、俺に起こる現象は日に日にエスカレートしていった。そのお陰で睡眠もほとんど取れず俺の体力は消耗され、酷い隈はでき、体重もぐんと減ってしまった。俺が視線を合わせる所に文字が現れて、もう狂ってしまいそうだ。文字は蛆虫のように一文字一文字俺に向かって這って来て、俺の耳から、鼻から、口から、目から、と身体全体を蝕んでいくように向かってくる。まるでアル中患者のようだ。いや、俺は違う。活字中毒患者なのかもしれない。いつまで経っても文字を拾う、この作業から開放されない。何か見えない意思に従わされる、と言うのはこんなにも苦しい事だったのだ。一度たりとも、この状況を楽しんでいた自分自身が信じられない。ユリコも心配して手伝ってくれるが、他人の手は間に合わない。残念な事に俺でなければ、このスピードについていけないのだ。俺は打ち続けた。ひび割れた指先を保護して手袋をはめても、いつの間にかじんわりと血が滲んでいた。そして、喉を潤す為に側に置かれたドリンクをストローで口に含むと、急に口からも、俺の意思に反して言葉が漏れ始めた。どういうことだ?!俺は焦った。同時に、こんな事が起こるなんて。とてつもない恐怖が俺を襲った。まるで、口からこぼれる言葉は、嘔吐のように苦しい。もう、俺を解放してくれ。なぜ、俺なんだ?!そんな俺の思考もいつしか閉ざされ、頭が真横に2つに割れる感じがした。俺の視界は、文字で埋め尽くされて、他の何も見えなくなった。俺は俺なのか?俺はどこにいるのか?俺は狂っちゃいない。俺を取り戻せ。俺を返せ。俺は狂っちゃいない。狂っちゃいない。狂っちゃいない・・・・。そして、どれだけの時間が過ぎ去ったのかは知らないが、俺の前に大きな読点が5つ現れて、頭から一つずつ身体をすっぽりと包むと一斉に急に縮んで俺を締め付けた。そして、映画の「キューブ」みたいに、または「人体の不思議展」の輪切りの人体標本のように、すっぱりと5つに切り離されて、どこからか心電図モニターの「ピー」と言う音が聞こえて、乱れていた心電図はフラットになった。 面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/11/20
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俺は、周囲の無言のプレッシャーに押し通されそうだった。会社での視線、担当からコンスタントにかかってくる電話、そして道行く見知らぬ人の視線までも俺に何か言っているようで狂いそうな気持ちだった。不眠が続き、体調は最悪だ。こんなに打たれ弱い男だったのか?自答自問する。あぁ、そうかもしれない。ユリコは何も言わずに、遠くから見守っていてくれた。安らぐ場があって良かった。そんな日々が続いて、ある日突然また頭に激痛が走った。それは夜中だった。眠れずにリビングで深夜番組を一人で見ていたのだ。息も出来ないくらいに激しい痛みが頭を駆け巡る。声も出ない。苦しんでいるのに、「助けてくれ!」とも叫べないのか。きっと死ぬ時はこんな感じなんだろうか。そして俺は気絶してしまったようだった。目が覚めて時計を見ると2時間経過していた。2時だ。TVはいつの間にか切れており画面は黒く光っていた。あぁ、また何か予感がする。降って来る。そう思って、ノートパソコンを目の前に開いた。予感は的中した。文字がパソコンの画面から飛び出てくる。また、これが小説になるのか。拾わなくては。俺は必死でキーボートを叩いた。叩いても叩いても次から次に文字は飛び出してくる。なんで俺はこんなことしているのだろう?小説になるからだ。拾わなければ。拾えば小説になる。1冊目は飛ぶように売れ続けている。その作業は、やはり朝まで続いた。5時間休みなしでキーボードを叩き続けた。その速さは、俺ではないくらいに打つのが速かった。そして最後の読点が飛び出すと、もう次は何も飛び出てこなくなった。あぁ・・・終わった。もう8時だ。でも、こんな状態では出勤など無理だ。眠りたい。深い深い海の底で静かに眠りたい。ユリコが起きてきた。俺を見るなり、ぎょっとして「あなた、大丈夫?」と駆け寄ってきた。「ね、眠い。」そう言うと俺は鼾を書いて寝始めたらしい。目が覚めるとユリコはノートパソコンをじっと見つめていた。「会社へは連絡してお休み頂いておいたわ。あなた、また前みたいに書いたのね。」「面白いか?」俺はまだ眠い目をこすりながら聞いた。「ええ。読んでいると、すごく切なくて哀しくて、でも心が温かくなるわ。」ユリコは読むのが速い。一通り読み終わると俺の顔を見つめて「あなた、私、3年前の事思い出したの。」と思いつめたように言った。「3年前。まだ結婚して無かったよな、俺達。」「そう。私が行きたいって、占いの館に行ったの覚えてない?」俺は少し考えて「あったっけ?」と言うと「あの時ね、あの占い師こう言ったのよ。”3年後あなたに転機が来ます。少したりともこぼさずに受け止めるようにしてください。それは、天から降ってきます。”って。」俺は、その言葉を思い出した。そうだ、あの占い師にそんな事言われた。丁度、3年経ったのだ。天から降ってくるもの、それは文字だった。そういう事なのか。この事だったのか。謎が解けたような気持ちになった。「これって転機なのかしら・・・。」不安げな顔をしてユリコが言うと電話が鳴った。出版社の担当からだった。何と言うタイミングの良さ。盗撮でもされているのかと思ってしまう。2ヶ月に1回の割合で、この現象は「きている」。じゃ、次はまた2ヵ月後なのか?そう思うと、何だか俺は、自分に起きているこの出来事が面白くなってきた。2ヵ月後、と言う俺の予想は外れていた。1週間後、職場であの強烈な頭痛が起きて早退した。病院で処方された鎮痛剤を飲んで何とか家に辿り着くとリビングのソファーにユリコに支えられながらも倒れ込んだ。また来るのか?そう思いながら記憶が飛んだ。3時間後、目が覚めた。テーブルにはノートパソコンが置いてあった。ユリコが準備したのだろう。俺は、またとり憑かれたようにキーボードを叩き始めた。6時間続いて12時間眠る。たびたびこのような事が起きるようになって会社を辞めざる得なくなった。会社側も、俺の本が次々と店頭に並んで、何故かどれもベストセラーになっているので、あっさりと俺の退職願は認められた。大して会社からも必要とされていなかった、だけなのかもしれない。そう思うと背筋が寒かった。作家とはこんな生活をしているのだろうか。最近は頭痛は起こらず、深夜2時から3時の間に予感がするのだ。その予感は何とも表現できない感覚で、俺の第六感で感じる、と言う感じだ。この数ヶ月の間に20冊もの本が出版され、どれも話題となり売れ続けている。俺は、一度も自分の書いたとされている本を読んだ事が無い。おかしな話だ、と思うだろうが本当の話だ。ただ、飛んでくる文字を拾えば小説になって金になる。この時俺は愉快で仕方なかった。 <つづく>面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/11/20
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俺は深く短い眠りから目が覚めて、気分が良かった。熟睡とは質だと初めて思った。リビングへ行くと2人の子供は昼寝をしており、ユリコが真剣な顔をして、あの紙の山を一枚づつ読んでいた。俺が隣に座るまで気づかないくらいユリコは熱中して読んでいた。「あ・・・あなた。起きたのね。何か食べる?」と聞くので「ああ。」とだけ答えた。ユリコは続きが読みたそうに未練いっぱいな様子で立ち上がるとキッチンへ向かった。5分も経たないうちに俺の目の前にご飯と味噌汁、玉子焼きに肉じゃがが並べられた。「残り物だけど。」少しだけ悲しげにユリコは言った。「いいよ。なんでも。」と言い俺は食べ始めるとユリコはまた読み始めた。「なぁ・・・。何が書いてあるんだ?」「これ、小説よ。」小説?俺は今までそんなもの一度だって書いたことない。しかも、読書は苦手な部類だ。どちらかと言えばユリコの方がよく本を読んでいる。「面白いのか?」「面白いわ。とても。すごいわ。」それから1時間後、一気に読み終えたユリコは背伸びをすると俺にこう言った。「これ、投稿してみない?」「はぁ?!」俺はそう答えるしかなかった。「賞取れるかもよ。」嘘だろ。そんな簡単に取れやしないだろう。呆れた顔でユリコを見ていると「いいわ。私が清書して投稿しておいてあげる。」と嬉しそうに言った。投稿なんてしていた事などすっかり忘れて1ヶ月が過ぎた。俺は職場復帰もし、また以前のようにバリバリ働いていた。そう、俺が働かなきゃ誰が働く。時折、呪文のように頭の中に湧いてくる言葉だ。身体の調子もいい。あの時の変な体験も頭の片隅に追いやられてしまっていた。残業して帰宅するとユリコが玄関にすっ飛んできた。「ただいま。」と、俺は少し驚いて間抜けな声で言った。「あなた、これ。」とユリコが差し出したのは1通の封筒だった。差出人は出版社からだった。しかも誰でも知っている大手の出版社だ。何で?「読んでみて。」とユリコは急かす様に言う。俺は疲れた頭でしぶしぶ目を通し始めた。このたびは、当社の 第12回 新人大賞 に投稿有難うございました。今回、厳密な審査の結果、あなたの作品が最優秀賞に決定いたしました。よって、授賞式のご連絡です。え?何?サイユウシュウショウって?ぽかんとして空を見つめていると「あなた、退院した日に書いた小説、私が投稿したの。思い出してよ。ねぇ。」と興奮してユリコは俺の身体を揺さぶりながら言った。ああ。ああ。思い出した。あの出来事。だからと言って、あれは俺の力でもなんでもない。ただ、降って来る文字を拾っただけなのだ。なのに、こんなことになるなんて。俺は動揺した。「あなた、凄い!作家よ。」ユリコは浮かれて俺の動揺に気づきもしない。だんだん、そんなユリコの姿に苛立って「あれは、俺が書いたんじゃない。勝手に降って来たんだ。作家デビューしたって次の作品なんて書けやしない。」と声を荒げて言葉を吐き切るように言った。「あなた・・・。」はしゃいでいたユリコは一転して悲しげな顔になった。授賞式は日曜日だった為、会社は休まなくて済んでほっとしていた。馬鹿な俺は何も考えていなかった。そう、自分で書いた小説すら読んでいなかった。内容なんて知らない。もともと読書なんてあまりしない。最優秀賞にはガラスで出来たトロフィーと賞金100万が授与された。賞金がもらえるとは思わなかった。そして、これがニュースで流れる事も全く知らなかった。俺はコメントも何も考えていなかった。「受賞して今のお気持ちは?」「はぁ、うれしいです。」「想像もつかないストーリー展開ですが、構想にかなり時間はかかりましたか?」「・・・・・。あの、降って来るんです。」「降って来るとは?天からですか?」記者達に笑いが漏れる。「そうです。」聞かれるがままに俺はひょうひょうと答えていた。そんな態度が今思えば悪かったのか、作家達からは冷ややかな目で見られた。マスコミには「前世はモーツアルトか?天才作家の誕生」などと面白おかしく書き立てられた。会社では一躍有名人になり、休憩時間に俺の部署に知らない人が俺の本を持ってサインをねだりに来るほどだ。出版会社とは、1年契約が自動的に交わされ、この1年は他社との契約はしない、という条件が付いていた。早速、俺に担当というものが付いて、次作の話になったが、本当にいつ出来るかわからない、とごり押しして納得してもらった。この態度も生意気だと思うが、仕方ないのだ。多分、半泣き状態になっていたと思う。情けない。だけど、仕方ないじゃないか。本当のことなのだから。俺は、なるべく今までのように仕事に没頭しようとした。 <つづく>面白いと思ったらクリックしてね!励みになります!→人気blogランキング
2005/11/20
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以前、フリーページでしか書いていなかった「活字中毒の男」をフリーページ整理の為に日記欄に移動しています。フリーページはまた別のものを置こうと考えているので、全部消すつもりです。読んだ方もいらっしゃるので、驚いたかとは思いますが、そういう事ですのでヨロシクです。
2005/11/20
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3年前のことだ。俺はユリコに無理やりに近い状態で「占いの館」に連れて来られた。俺は占いなんて信じない方だ。馬鹿馬鹿しいじゃないか。ユリコはきっと恋愛運や結婚運でも聞くんだろう。俺はユリコと結婚する気なのに。俺だって、もう30なんだからちゃんと考えているさ。女というものは何故占いなんて好きなんだろう、とユリコに手を引かれながらブツクサ考えていた。アミューズメントが集まったビルの入り口を入るとゲームの音でうるさかった。「ここよ。すごく当たるんだって。」ユリコは楽しそうにエレベーターの下がるのボタンを押した。エレベーターから降りるとゲーセンのうるささとは正反対の神秘的なと言うのか、胡散臭いと言うのか、そんな雰囲気の部屋になっていた。俺がどちらかを選ぶとすれば「胡散臭い」だ。俺は正直こんなところ早く出ててしまいたかった。まだユリコのウインドウショッピングに付き合っているほうがマシだとさえ思えてきた。ユリコが受付を済ますと、ロビーで順番を待った。俺達は最後で、俺の思ったよりもたくさんの人が並んでいた。奥の部屋は紫色のカーテンで仕切られていて5人の占い師がいるらしい。その部屋から出てくるのは今の所全て女だ。うつむいて出てくる者もいれば、晴れやかな顔で笑顔を浮かべて出てくる者もいる。待つ事30分、やっと俺達の番が来た。紫色のカーテンをめくると大きな水晶の向こうに目だけ出して黒い布で全身を覆った占い師がいた。アイメイクがしっかりされており、一度観たらしばらくうなされそうな目だ。「どうぞ。」占い師が言ったので俺達は椅子に座った。「2人の今後の運勢ですね。」念を押すように低くしゃがれた声で聞いた。ユリコが受付でメニューを勝手に決めたのだろう。やっぱり結婚か、と思った。よく占い師がやるように水晶にしばらく手をかざしてから、もったいぶる様に話し始めた。「では・・・結果から言いましょう。あなた達の相性は・・・とてもいい。お互いにこの相手を逃してはならない。彼女はそろそろ結婚を望んでいる。しかし、焦る事は無い。彼は結婚を心に決めている。」な、なんだ?俺はびっくりした。「ユリコさん。あなたは、とても幸せになるでしょう。トシオさん。・・・・これから言う事を忘れないで下さい。3年後あなたに転機が来ます。少したりともこぼさずに受け止めるようにしてください。それは、天から降ってきます。いいですね。」変な予言めいた言葉を聞いて一瞬びくりとしたが、サッパリ何の事かその時は全く分からなかった。そして占いの部屋を俺達は後にした。ユリコは嬉しそうにしていた。俺は占い師の言う事を暫くの間は覚えていたが忙しさに忙殺されて頭の片隅へと消えていった。俺達は、あの占い師のところに行ってから半年後結婚した。その一年後男の子が産まれ、そのまた翌年に女の子が産まれた。家族は4人になり俺はますます仕事に力を入れていた。そう、3年が過ぎていた。そんなことは忘れて俺は残業の毎日だった。そりゃそうだろう?ユリコは結婚を機に退職して専業主婦だ。育児に追われているが専業主婦が性に合っているみたいだけど・・・。子どもは2人。俺が頑張るしかない。夫として父としての義務だと思う。「あなた、最近顔色悪いけど大丈夫?」ユリコが心配そうな顔で覗き込んだ。「なに、大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけさ。」玄関で靴を履きながら鞄を受け取ろうとした。そう、受け取ろうとしていた。目が覚めると俺は病院にいた。「あなた・・・。」ユリコが側にいた。「俺、どうしたんだ?」「倒れたのよ。」今朝出掛け際に俺は頭を抱えながらうめき声をあげて倒れこんだ、と聞かされた。医師からは過労と告げられた。ここんとこ詰めてたからなぁ・・・。俺は少し反省した。念のための頭部のCTとMRI行い、結果は異常なしとのことで退院できた。しかし、1週間の診断書が出た。明日から1週間、骨休みをしろ、と言うのである。退院して自宅に戻った時の夜、眠りにつこうとベッドに入ったがなかなか眠れず家族が眠りについた中俺はトイレやリビングをウロウロしていた。深夜TVでも見よう。リモコンで電源を入れると最近人気の出てきたお笑い芸人がくだらない番組の司会をしていた。こんな事が療養になるのか・・・と疑問に思うのだが寝付けない物は寝付けないのである。ぼーと画面を見ているとお笑い芸人の顔が歪んだ。あれ?歪んだかと思うと画面が渦を巻いたようになり何かが飛んでくるように見え始めた。一つ一つ相当な速さで飛んでくるのだが、よく見るとそれは文字だった。TVを消した。すると今度はまるでDNAの二重らせん構造が解けるように頭の上に次々と文字が降って来るのである。これは幻覚なのか?俺はおかしくなってしまったのか?どうすればいいのだ?俺は咄嗟にボールペンとその辺にあった紙を手に取って頭から降ってくる文字を書き拾った。広告はすぐ無くなってしまったのでプリンターの用紙を袋ごと持って来てそれを使った。一度、ペンと紙を揃えると俺の右手は俺の物ではないように文字を書き殴って行った。その作業は朝方まで続いた。俺はそのままリビングのソファーで眠ってしまった。ユリコが起きてリビングに来るとソファーで横になっている俺にびっくりして、俺の肩を揺すって俺は起こされた。ついさっき深い眠りに入った為、瞼に錘が付いているように重くて仕方なかった。「あなた、あなた、あなた・・・。」「うぅ・・・ん・・・。」ユリコの目には涙が溜まっていた。俺が目を覚ました事に本当に安心していたようだった。「また、あなたがどうにかなってしまったのかと思って・・・。」「大丈夫だよ。」「良かったわ・・・。」ユリコが目を擦りながらテーブルの紙の山に気づいた。「これ、なに?」俺はユリコに昨夜の出来事を話した。「それで、あなた、書くだけ書いて眠ってしまったのね。」納得した表情で俺の説明を自分なりに噛み砕いているようだった。「これ、読んでみましょうよ。」「そのつもりだ。でも、俺は寝る。もう、眠たくて仕方ないんだ。」「じゃ、私が先に読んでいい?」「あぁ。」あくびをしながら俺は寝室に向かった。 続きが読みたいと思ったらクリックしてね!励みになります! → 人気blogランキング
2005/11/20
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