買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2012年08月27日
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「初めてお近くに接したのは、新羅との戦の折でした。大王の乗られた軍船に、我も讃良皇女も乗っていたのです。」
比売朝臣はさらになにかいいたげに、紅を差した唇を僅かに開いた。声は出なかったはずなのに、白妙は朗々たる若い女の声を聴いた。

熟田津に船乗りせむと月待てば

額田の声は春の潮風に乗って、冴え冴えと響きわたった。赤みを帯びた満月が、瀬戸内の静かな海を静かに照らしている。
我は軍船の上から、高い櫓の上に立つ額田を見上げた。勝ち戦を祈る幣や五色の旗のたなびくなかに、額田と祖母、そして父が立っていた。祖母は、頭には金色の兜、上着と裳の上から朱糸で綴ったきらびやかな鎧を着て、腰には太刀を下げている。父もまた戦の身支度で寄り添っている。鉄の鎧が月の光を照り返し、その姿を鈍く輝かせている。
たっぷりと間合いを取ってから、高く結った髪に髻華を挿し、白の上衣に若苗の裳、紅色の肩巾をかけた額田がまた声を張りあげた。

潮もかなひぬ 今は漕ぎいでな

潮風にも波音にも負けないほど凛とした声だった。船に乗る者たちは、神宿りした歌の重み、強さを軀に流しこんでいる。我も、その言霊を身の隅々まで浸みわたらせる。額田の声は届かなかったはずなのに、湾に浮ぶ百余りの軍船も歌を味わうように、たゆたっていた。
(坂東真砂子さん「朱鳥の陵」P80)

このシーンはすごい・・・・・。

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Last updated  2012年08月27日 08時05分45秒
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