灯台

灯台

2026年08月23日
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​世界がもしある日、
僕と君が手をつながなければ、
消えるようなものになったら。

トイレとか風呂どうするんだろう、
そもそも仕事できるのか、
三百六十五日二十四時間、
単純なシンプルなノータリンの、
馬鹿馬鹿しい愛を歌う。

愛していない者同士だったら、
これは拷問だ。
難中の何、未解明定理より難しいかも、
あっさりと世界は終わりを迎えるための、
カウントダウンをするんだ。

愛している者同士だったら、
何日持つんだろう。
たとえば右手をつなぎながら、
左手にスッと切り替える、
そんな実験を大真面目にやって、
げらげら笑ってるかも知れない。

浮気とか不倫する気持ちが分からない、
そういうラブストーリーの二人もいるんだ。
ストレスとか、前世とか関係ない、
もう一回勉強し直してきなよ。

だからなんだろうね、
神様はきっと呪いと祝いをブレンドした、
呪いをプレゼントしたんだ。
手を繋ぐ代わりに眠りが永遠に訪れない、
永遠に歳を取らない、
世界の何処へでも行ける足と、
どんな環境にでも適応できる身体を、
二人のためにくれたんだ。

銃に撃たれても蛇に噛まれても平気、
核実験に直撃しても大丈夫、
何かよくわからないけど大気圏突破できたし、
UFOにも乗って、
サンタクロースの家の敷地内にあるトナカイを盗んで、
見知らぬ場所まで。
さながらサイボーグだよ、化け物だよ、
橇の乗り心地はどうですか?
でもそれがもしかしたら、
人類の未来そのものなのかも。

大きな手、小さな手。
やさしい手、やわらかい手。
滑ったりしないように、
力を入れすぎないように、
優しく折り合っている。

人が人らしくあるための何十年、何百年、
もしかしたら何千年、何万年が流れて、
もうそろそろいいんじゃないかって思える時が来て、
問い掛ける、手を離そうかって。
いままで色んなことを知ってきた、
手と手同士が離れるということが、
もうどんなにかおかしいことのような気がする、
でも二人は長く生きすぎて、
そしてあまりにも特別すぎて、
本当にもう色んな段階を登り終えてしまった。

傍にいなくても心が触れあっている、
相手が心の中にいる、
目と目を通して相手が瞳の中にいる、
そういう時間が二人にはなかった、
ただ、闇雲に、何となく気が付いたら、
ここまで来てしまった二人だよ。

永遠って何なんだろう、
それが実現しえた瞬間に空っぽなものに思えた、
そんなもの神の手練手管、術中、
不即不離の妄想だったんだろうって、
そんな風にも思えた。

考えたんだ、
まだするべきことがあるんじゃないかって、
これは義務なんだ、聖なる仕事なんだ、
愛の灯火であり、それは永遠の火なんだ。
普通の感覚じゃこっ恥ずかしいことも、
中二病確定なことも、
そうとでも考えなければ成立しない時間が、
二人に自然とそういう考えを抱かせた。

二人は人類に貢献してきた、
だって二人は暴力に一切屈さなかったから。
これが本当の平和で、
これが本当の非暴力だったから。
愛する者同士が傍にいる世界、
その延長線上にすべての人々の営みがある世界。

だから悩んだ、だから傷ついた、
世界に今日生まれてきた人はどうなるだろう、
世界で明日が続くと思っていた人はどうなるだろう、
それが二人の手の行方にかかっている、
こんな馬鹿馬鹿しいほどの責任や使命、
どんな恋人や夫婦だって見出せるものじゃない。
大統領とか総理大臣ごときじゃ無理だよ、
どんなスーパースターでも無理だよ。

本当にそんなことが起こるのかって考えたよ、
そしてそんなことが起こらないことも考えたよ、
これが人間というものだろうか、
一本の葦たる由縁だろうか。

そしてその瞬間が、何度も訪れるんだ。
手を離そう、でも、やっぱり出来ない。
みんなに悪い。
手を離そう、でも、やり残したことがある、
そう思いながら、
軽く何千年は流れたかも知れない。
簡単に終われないんだよ、
終わらせるのは簡単でも、
始まりから時間が経てば経つほど。

でもついにその時が来た、
目と目が合って、キスをしながら、
名残惜しく思いながら、手が震えながら、
泣きながら、笑いながら、
いよいよクライマックスだ、
もう全米が泣いた展開だ、
そうさ、ゆっくりと手を離した、
その瞬間に、その瞬間にですよ、
すごいことをやりやかったものだ、
世界が元通りになった、
いままでのことは何だったんだろう、
これまでのことをどうしたらいいんだろう、
二人は普通の世界の何処にでもいる男女に戻った、
世界は確かに終わった、
でも、同時に世界は元に戻った。

二人は顔を見合わせて、
ちょっと待ってちょっと待ってと言ったあと、
げらげら笑い合って、
もう何度繰り返したかわからない、
キスと抱擁をして、
「また明日ね」って別れた、
その瞬間からさ、
それまで離れることができなかった二人にとって、
相手を想う時間、疑う時間、
心の弱さを見出す時間が始まる。

それは奇跡だったのか、
あるいは大きな回り道だったのかは分からない、
家族だった、兄弟だった、恋人だった、
最高の友達だった、
気の置けない異性の友人だった、
特別だった、心の真ん中だった、
でも一抹の不安や淋しさが、
もうどれぐらいぶりかも思い出せないほど長い時間を経て、
ようやく二人の胸の中に戻った。

二人はやっぱり次の日も会うんだろう、
一日一日、もう一度、
きちんと生を終わらせるための準備を始めるんだ、
死ぬためにきちんと日々を全うする仕事をするんだ、
そして今度は逆のことを言って、
手をつなごうかと言って、
げらげら笑っている。

愛しているではそれは足りないだろう、
憎んでいるといっても過言ではないだろう、
どうして一つの肉体ではなかったんだろう、
どうして一つの心ではなかったんだろう、
そんなことを、
今更のように思い出した二人がいる。

世界はありえないほど馬鹿馬鹿しくて、
二人はきっと、
世界の中心になんて戻らなかっただろうと思う。

愛は寓話じゃなくて、
得難い人生の経験だ。
何の意味もなくなるほど傍にいて、
そして何の意味を見出せないほど傍にいて、
皺くちゃになって、
色んなことが崩れて溶けだして、
最後に水のように、
相手の心を映す鏡であれたら、
世界はきっと美しい。












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最終更新日  2026年08月23日 22時44分49秒


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