2024/01/15
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『Fantasy Earth Zero』~メルファリア大陸の物語~
第三章・第4話「ヤマト」


「へぇ…アイナちゃん頑張ったんだぁ…」

「そうよオベを頑張って守ったんだから」


いつもの閉店後の夕食はアイナの初陣の話題で盛り上がっていた


「い、いや…援護の方たちが来てくれなかったら守りきれなかったし…」


アイナは褒められるのが嬉しいのと気恥ずかしさでもじもじとする


「ううん…それでも4人相手でしょ?普通は瞬殺されてるってば」


ミズキはそう言って持っていたフォークで自分の首をかき切るマネをする


「そうそう…私の初陣なんて酷かったよ」

「あの日は悲惨だったね…僻地がいきなり襲撃されてさ…敵も味方もゴチャゴチャの混戦状態w」

「まずい逃げなきゃ!って思った時にはキープに戻されてたしさ…」

「初陣で記念すべき初デッドw」


ミズキとフネがそんな事を言い合って笑う


「確かに今日のシュアは自軍エリアだし危うい場面も無く終わったけど…敵4人相手は逃げ回るのだってしんどいぜ…誇っていいと思うよ」


そこにリアが口を挟んだ


「あ…そう言えば、開戦前に嫌な雰囲気って言ってたけど…アレはどういう意味?」

「ああ…実はさここんとこエルが変な伸ばし方してるんよ…ホル側にはほとんど行かずまっすぐ南西にね」

「南西っていうと…カセ?」

「そそ、で…一昨日かな?カセ側に1本ラインが通ったかと思ったらいきなりシュア攻めだろ?…実は今日カセ側も同じような攻め方しててさ…もしも水面下で同盟なんて事が進んでたらこのラインはちょっと嫌なラインでね…」


リアはそう言いながら自分の皿に残ったパスタのソースで地図を書きながら説明した


「同盟は無いでしょ」


ミズキはそう言って笑う


「まぁ…確かに同盟は無いと思うけど…こう長い間こう着状態が続くとさ…とりあえずどっか1つ消しておこうか?なんて話が出たって不思議じゃないぜ?むしろ今まで出なかった方がおかしいくらいさ…」


リアがそう言って椅子にふんぞり返る


「そこは私も同意ですね…自分たちの国王を疑うわけじゃないんですが…歴史を振り返る限り『この戦乱を終わらせたい』っていう感じには思えないです」


静かに食事をしていたノヴァもそう言って水を飲んだ


「まぁ…俺にさ腕力があればよ…アームレスリングで優勝してよ『そこんとこどうなの?』って聞くんだけどさw」


リアはそう言って肩をすくめる


「なるほどね…」


ミズキがそうつぶやくように言うと


「今年もヤマトなのかねぇ…」


リアはそう言いながら窓の外に目を向けた


「そうなんじゃないかなぁ…あの人はケタ外れに強いもの…」


ナプキンで口元を拭きながらノヴァが手を合わせて「ごちそう様」をした


「でもさ…俺、あいつ気に入らないんだよな…」


リアは窓の外を見ながらそうぼやく


「どうして?」


聞き返したノヴァをチラッと見たリアはまた窓の外を見る


「戦場で出会った事がねぇ…っていうか俺はあの大会以外であいつを見た事がねぇ…だからなんかさ………」


リアがそう言いかけた時突然フネがテーブルを叩く


「ヤマトは…もう戦場には出れないのよ…そういう体なの…あなたも知ってるでしょ?」

「い、いや…フネっちが怒るなよ…知ってるよ知ってるからこそさ…こういうなんて言うか不安な時こそ俺たちを導いて欲しいんだよ、それが出来るのは他の誰でもないあいつだと思うんだ…なにも前線に出て戦えって事じゃなくてキープの上に立つだけでいいんだよ!それだけで士気は上がるんだからさ…」

「だから!それが出来ないから彼も苦しんでるんでしょ!」

「怒るなよ…つうか、なんであんたが怒るんよ?」


和やかだった食卓が急に殺伐とした空気に変わった


「まぁまぁ…2人とも落着きなってば」


ミズキがそう言って2人の間に割って入る


「ミズキはどう思ってるんよ?お前だって前線に立ってりゃわかるろ?」


リアは矛先をフネからミズキへと向ける


「そうね…彼が居れば確かに前線の士気は高くなるだろうし…居なきゃダメなんだと思う」

「だろ?」


ミズキの言葉を聞いたリアがそう言って身を乗り出す


「おそらくそれは彼が一番わかってると思うよ…だけど出ない…そこにはそれなりの理由があって…わかってるからこそ苦しいんだと思うよ」

「ミズキ…」


今度はミズキの言葉にフネがそうつぶやく


「…そうだな…一番つれぇのはあいつかもな………」


殺伐とした空気は回避できたもののなんとなく重い雰囲気は減るどころかさらに増えた感じがした
その時…アイナは思わず思った言葉を口に出してしまった


「ヤマトさん?」

「え?…アイナっちヤマト知らんの?」


リアは顔を引きつらせてそう聞き返してきた


「う、うん…」

「マヂで?」


リアは苦笑いでそう口にするとノヴァと顔を見合って肩をすくめる


「ただ…うーん…どこかで聞いた事があるような………」

「そりゃ聞いた事あるだろw…この国の英雄だからなw」

「・・・・・・・」


アイナはそのまま首をかしげる


「まぁ…とにかく今度の部隊長の会議の時にリアの言った変な雰囲気の事は言っておくよ」

「ああ…頼むわ」


その後…雰囲気が和み始めお茶を飲みつつ雑談が進んだ頃


「そうだ!フネさんだ!フネさんがミズキさんにヤマトって…」


突然アイナが手をポンって叩いてそう言った
それを聞いたミズキが口に含んでいたお茶を目の前のリアに向かって噴き出す


「どわぁ!バカ!きたねぇよ!」


リアはそう言ってかかったお茶を手で払う
フネも慌ただしくタオルを持ってきてテーブルに飛び散ったお茶を拭きはじめる
リアは何度もミズキを指さしては怒鳴り散らしていた
それで何事もなく終わった…そう思った時


「で、なんでミズキがヤマトなん?」


リアが真顔でフネに質問した
するとまたミズキがお茶を噴き出した


「ちょ!お前!ワザとやってるだろ!」


リアがミズキに指を指しながら怒鳴り散らすと
ミズキはそんなリアに手を合わせて何度も頭を下げる
テーブルをフネが拭き上げ…ノヴァはリアから椅子を離して距離をとった


「なんで離れる?」


リアが何気に離れたノヴァにそう聞くと


「2度ある事は3度あるから…」


そうつぶやくように言った
次の瞬間…ミズキの口から3度目のお茶が噴き出す


「お前!お前はタイミングよくお茶含むんじゃねぇ!ちっとは我慢しろ!っていうかもうお茶飲むな!」


リアはナプキンで顔を拭きながらミズキの前から湯呑を撤去した


「で…なんでミズキがヤマトなのよ?」


改めてリアはフネにそう聞いた


「い、いや…実は………」

「実は?」

「敵兵士がね!ミズキの事をアレはまるでヤマトのようだ!って言ってるのを聞いて………たまにからかってそう呼んでたのをつい口に出しちゃっただけよ」


フネがそう答えると辺りは静まり返った


「なるほど…確かにこいつの暴れっぷりならそう言われるわなw」

「で、でしょ!笑えるでしょ!」

「女版ヤマトってか?敵兵もうまいこと言うな…そういや知ってる?ほかにもコイツ影の暴君とか破壊神とか呼ばれてるんだぜw」

「うまいこと言うね…」

「あんたらねぇ…」

「いや!俺が言ってるんじゃねってば!敵にそう言われてるんだってw」

「私も…『ミズキの歩いた後に草木1本残らない…残るのは無数の死体のみ……』と聞いたわ…」


ノヴァも静かにそう言った


「ノヴァちゃんまで…酷い…」

「言うなぁw俺もミズキが止めを刺した兵士がキープに転送される直前に『あ、あれは人じゃない…人の姿をしたネツの駆逐兵器だ…』と聞いた事あるw…いやそれを聞いた時は敵ながらアッパレ!とか思ったって…」

「うそ!聞きたかったなw」

「それによ!今朝なんて開戦前に他の部隊の奴から『今日も前線でウサ晴らしですか?』って言われててさwまじウケるって」

「うわぁ…味方からもその呼ばれ方ですか…」

「ほんでさ…アイナちゃんが1人でオベに向かうって言った時も『その子はうちの新人だから泣かしたら裸にして広場に吊るすぞ!』って…最近客少ないのってさ絶対こいつの影響だと思うぜw」

「ええ…そんなこと言ってたの?」

「なぁ、言ってたよな?」


リアはそんな会話を傍観していたアイナに振った


(「ちょっと!何でこの状況でこっちに振るかな!」)

「え、えっと…良く覚えてないんですよ…必死で…あはははは」

「お!ごまかしたなw…顔はそう言ってないぜww」

「え?えええええ?」


その時…背筋にゾクッとしたものが走る…


「いい度胸じゃない…私をネタにしてそんなに楽しい?」


ミズキはテーブルに着いた両拳を振わせてそううめくように言うと不敵な笑みで笑う
一瞬にしてその場の空気が凍りついた
全員の顔が引きつった笑顔で固まる


「なーんてね♪そろそろ寝よっか♪」


次の瞬間…そんな言葉と共にいつものミズキの笑顔に戻った
その場の全員が「そうだね」とうなずいて自室へと戻って行った
おそらく今日この場にいた者は二度とこの話題を出す事はないだろう…
アイナが布団に入ると


(「ねぇ…結局うやむやに終わったけど…絶対に何かあるよね…」)

「何が?」

(「だから…ミズキさんとヤマトって人の事よ」)

「え?だって誤解だったじゃん…」

(「えええ?アレを信じたの?ものすごく不自然だったじゃん…」)

「そう?」

(「そうよ!」)

「でも…もう私は口にしないよ…」

(「いや…間違っても口にしないで!…まだ死にたくないし…」)

「じゃあ…なんで?」

(「いや…この部隊は楽しいなぁって事よ」)

「………よくわからない…変なの」

(「いいのよw…じゃあオヤスミ」)

「うん…オヤスミなさい」


アイナはそう言って枕元の照明を消した








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Last updated  2024/01/15 12:49:02 AM
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