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Mar 10, 2015
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   (信玄、上洛を宣言する)

「大殿、何故に今年の秋とお考えにございます」  

 河野晋作が不審そうに訊ねた。

「河野、そちは春でも良いと思っておろう。信玄は越中の一向門徒衆の動き

を見る積りじゃ。彼等が蜂起致せば上杉謙信は武田に手がだせなくなる」

 信虎が河野に諭すように語り、皺深い瞼を閉じた。

「成程、それならば後顧の憂いなく上洛の軍勢を動かせますな」

「河野、心して聞くのじゃ。御屋形は信濃の高遠城から軍勢を発すると考える、

武田勢は真っ先に手強い城を落さねばならぬ」

 勘助が信虎の後を継いで口を開いた。

「山本さま、それはどの城にございます?」  

 その言葉で河野晋作の顔が引き締まった。忍び者の血が騒ぐようだ。

「二俣城じゃ。あの城は難攻不落の堅城、御屋形とて手を焼こうな」

 勘助がずばりと核心を突いた。

「二俣城にございますか、あの城を陥さねば浜松城の攻略は不可能ですな」

 河野晋作は漸く二人の考えが腑に落ちた、確かに二俣城は手強い。

 攻略が長引けば、上洛戦に支障が出る。

 二俣城は天竜川と二俣川が合流する地点の丘陵に築かれた城である。

 位置的には浜松城と掛川、高天神城の中間地点に位置する遠江の諸城の

中でも特に重要な拠点であった。

 武田勢が補給路を確保するためにも、徳川勢の連絡網を断ち切るためにも、

この城は落としておく必要がある。

 併し、二俣城を囲む急流が文字通り天然の濠を成しておる堅城であった。

 城将は中根正照で城兵の数は少なく一千二百名ほどであるが、この城の

攻め口は北東の大手口しかなかった。

 その大手口は急な坂道になっており、攻め上ろうとする武田勢の進撃を

阻止し、力攻めをすれば損害は甚大となる厄介な城塞であった。

「小十郎を連れて行け、二俣城には大殿の隠れ忍びが居る。川田弥五郎と名の

る男じゃ、彼は二俣城に籠もっておる筈じゃ。その男と接触するのじゃ」

「驚きでものが云いませぬな」  

 河野が禿げあがった勘助を見つめ仰天している。

 山本さまも山本さまじゃが、大殿も大殿じゃ。

 二人の謀略に河野晋作が驚嘆している。

「小十郎、そちがその川田弥五郎に会うのじゃ」

「山本さま、判りましたが手づるがございますか?」

 小十郎が例の抑揚のない声で訊ねた。

「城を包囲した時に生きておれば合図があろう。それを確認し忍びこむのじゃ」

 勘助が往時を偲ぶように隻眼を光らせている。

「流石は勘殿じゃ、わたしは弥五郎の顔を忘れてしまいましたぞ」

 お弓が感嘆の面持ちで懐かしそうに呟いた。

「わしも忘れた。わしの許におった頃は未だ若者であった。今は中年となって

おろう。勘助の申す通り、生きておれば必ず弥五郎から合図がある」

 信虎までが懐かしそうな顔をして断言した。

「これは全て大殿のお考えじゃ。武田の上洛が始まったら、わしも遠江に

出向く、河野、その時は頼むぞ」

 深夜となり三人がそっと信虎の棲家から去って行った。

 お弓が影法師のような勘助の後姿を見送っていた。

 今度は何時会えるか判らない、物憂い月が雲間から覗いていた。


 甲斐に異変が起こっていた。各地の豪族との年賀の儀式は済んでいたが、

恒例の重臣達との祝宴が催される気配がないままに日が経っていたのだ。

 重臣等は何事もない素振りで、任地先の城で信玄の呼び出しを待っている。

 その頃、信玄は病の床に就いていたのだ、予期はしていたが喀血と高熱が

信玄を襲ったのだ。

 近侍の者数名が知るのみで他の者には一切秘事とされた。

 信玄の寝所は武田の忍び衆で厳重に警護されていた。はからずも河野晋作

の危惧が現実となったのだ。

 信玄は高熱にうなされながら、寿命が長くはないと悟っていた。

 だが何としても上洛を果たすまでは死ねぬ、あと三年は命を永らえると

強靭な精神力で病魔をねじ伏せ起き上がった。

 恒例の年賀の式典が行われたのは、一月の十日であった。躑躅ケ崎館の主殿

には常と変わらぬ信玄の姿があった。

 彼は厚い綿入れの羽織姿で上座に腰を据えている。

 右に武田四郎勝頼を筆頭に、武田信廉、武田信豊、仁科信盛、穴山信君等の

ご親類衆が居並び、左には馬場信春、内藤昌豊、高坂弾正、山県昌景、小山田

信茂、秋山信友、甘利昌忠等の御譜代家老衆が並び、その他の武将連が連なっ

ている。庭先にも幔幕が張られ畳が敷かれ、そこにも武田家の主だった者が控え、

今年は海賊衆や百足指物衆も招かれていた。

 今年こそ上洛のお下知があろう。全ての強者達が上座を見つめている。

信玄の背後には、新羅三郎義光の鎧と武田家二流の御旗が飾られている。

「皆の者、余は訳があって年賀を遅らせた」  

 何時もの信玄の声音である。

「年内に我が武田家は上洛の軍勢を発する」  

 信玄の声が主殿に凛と轟いた。

「・・・-」  

 一座の者達から声にならないざわめきが起こった。

「その為に大勢の者達を年賀に招いた。本日は大いに飲め、堅苦しい話は抜き

じゃ。行き先は遠江の浜松城じゃ、上洛の時期はおって皆に知らせる」

 信玄が大杯を片手に一座を見廻し、満足そうな笑みを浮かべた。

 余は病魔に打ち勝った、その事が嬉しいのだ。

 するすると旗本奉行衆頭の今井信昌が信玄の傍らに寄り、何事か囁き素早く

主殿から去った。

「静まれー」  

 信玄の声で一座に静寂が支配した。

「西上野より火急の使者が参った。上杉謙信、我が属城の石倉城を陥し厩橋城

に籠もったとの知らせじゃ。北条殿も軍勢を利根川に進めておられるとの事じゃ」

「しゃっー、またしても関東に乱入いたしましたか?」

 武田逍遥軒信廉が顔を染めて吠えた。

「御屋形、我等も早速にも軍勢を進めねばなりませぬな」

 内藤修理亮である。彼は西上野郡代として箕輪(みのわ)城を任されていた。

「上洛までに手を打たねば越後勢煩くて叶いませぬな」

 武田信豊が声を荒げた。  

「信豊、余が阿呆に見えるか?」

 信玄の問いに信豊が顔を赤らめた、御屋形が手をこまねくような事はなされぬ。

 一座の重臣連が顔を見つめあい失笑を浮かべた。

 ちなみに信豊と言う若者は、川中島で討死した武田典厩信繁の嫡男である。


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Last updated  Mar 10, 2015 12:02:26 PM
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