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2010.08.03
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SSS

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恋焦がれるってこういうこと?


「鬼蜘蛛丸様!」

唐突に彼女の声が聞こえて、自分はいよいよ恋しさゆえに幻聴まで聞こえるようになったのかと鬼蜘蛛丸は溜め息交じりに目の前に広がる地平線に視線を向けていた。
細波が岩を打ち、潮風が心地良さを運んでくる。船の上、もしくは水面に漂いながら眠りにつけたらそれはどんな柔らかな布団よりも安らかな眠りを与えてくれるだろう。
――例えばそこに、愛しい彼女が傍らで眠りについていたのであれば。柔らかく白磁のような肌が己に触れて、永遠を思わせるような幸福に包まれるはずだ。

「……カメ子さん……」
「はい?」

不意に零れてしまった言葉に続く、明るく鈴がなるような声。
ふ、と我に返り慌てて振り向いた時には、既に手が届く範囲に一寸前まで恋しがっていた彼女の姿があり、鬼蜘蛛丸は瞬時に顔を赤らめていた。

「ど、ど、どうなさったんですカメ子さん!?」

「あ、それは失礼しまして……」
「いいえ。お仕事中ですし、どうぞ気になさらないでください」

まさか『貴女の事を考えていて、つい呆けていた』なんてことは口が裂けても言えるはずが無く。
気付けば好奇心交じりな視線を若衆から向けられているこの状況にいつまでもカメ子を置いておける筈も無い。
こちらです、とさり気なく手を取って引けば花が咲いたような笑顔を向けられて、鬼蜘蛛丸は益々顔を赤らめていた。

「今日は、仕事でいらしたんですか?」
「ええ。ちょっとしたお使いです」
「しかし連れが見えぬようですが……」
「今日は一人で出て参りましたの」
「カメ子さん、それは少々危険過ぎるのでは」
「大丈夫です。一人と行っても、兄と乱太郎様達が迎えに来てくださいましたから」

「それに帰りは、上乗りを頼もうと思って……此処に来ましたので」
「は」
「……伺っていませんの?」

戸惑うようなカメ子の視線に、鬼蜘蛛丸は朝の顔合わせ時に兵庫第三協栄丸がやたらと機嫌が良かったことを思い出す。(そういえば明日の航路は堺の近くまで通るはずだ)
……これは、一杯食わされたとでも言うべきか。

(彼女と一緒に過ごせる訳で)

「あの……鬼蜘蛛丸様?」
「ああ、いえ……少し気が動転しまして」
「?」
「カメ子さん」
「はい」
「その上乗りの役は、自分以外にはおらぬと思っても良いでしょうか?」
「……もちろん!」

笑いかける彼女との距離が一層近くなって、仄かな梅の香に目を細める。

――抱き締めるまであと数秒。

(R.K.R.N/鬼カメ)





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Last updated  2010.09.19 14:50:05


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